非密封の 3H , 32P , 125I , 237Np を使用する実験施設での安全取り扱いに関する記述
Ⅰ
3H は最大エネルギー 18.6 keV のβ線を放出する。スミア法による汚染検査では、検査ろ紙を液体シンチレーション計数装置で測定することがしばしば行われる。高感度であり、エネルギースペクトルの測定による核種同定も可能なためである。液体の 3H 標識化合物は、その蒸気圧に依存して一部が気体となるため、吸入による内部被ばくにも注意する必要がある。また、化学反応によって 3H を含む放射性気体が発生する場合がある。3H で標識されたエタノール(CH3-CH2-OH)は、それ自体も揮発性であるが、 金属ナトリウムと反応すると水素ガスが発生する。もとのエタノール中で 3H が OH の部分に存在している場合、発生気体は放射性となる。
補足
3H の半減期は 12.33 年で β- 放出体(最大エネルギー 0.0186 MeV)。実用の β- 放出体のうちβ線のエネルギーは最も低く、ガスフローカウンタでは概略の測定になるが、液体シンチレーションカウンタを使うと正確に定量できる。したがって、間接的な汚染検出法であるスミア法で拭き取り、液体シンチレーションで測定する。また 3H は蒸発したり、空気中の水分と同位体交換したりして作業中に飛散し、吸入摂取する恐れがある。
○ アルコールと金属ナトリウムの反応
アルコールのヒドロキシル基(OH)は強い塩基のもとでは酸として働く。例えば、Na とアルコールと反応して水素を発生する。
2CH3-CH2O[3H] + Na → 2CH3-CH2-O-Na + [3H]2 ↑
Ⅱ
32P は最大エネルギー 1.71 MeV のβ線を放出する。取り扱いの際に 10 mm 厚のアクリル板製のついたてを用いることで、β線を遮蔽し、制動放射線の発生を抑えることができる。しかし、手指などの局所被ばくが全身被ばくに対して著しく高くなることがあるのでリングバッチによる局所被ばく線量のモニタリングは重要とされる。スミア法による汚染検査におけるろ紙の放射能測定では、チェレンコフ光の検出も利用できる。しかし、この検出法は 3H では利用できない。 32P で標識されたリン酸はカルシウムなどの金属イオンと反応して沈殿を生成する。このようなリンの化学的性質は実験操作時の 32P の挙動の予測に有用である。
補足
32P:半減期は 14.26 日で β- 壊変して 32S(安定) となる。β線 の最大エネルギーは 1.711 MeV と高いので、遮蔽のときは、原子番号の低いガラス、プラスチック(10 mm 程度)、アルミニウムなどで遮蔽し、さらに外側を鉄、鉛などで覆って、制動放射線を遮蔽する必要がある。このとき、手指の被ばく線量を測定するためにプラスチックの指輪に TLD をはめ込んだリングバッチを使用することもできる。
32P の表面汚染の時、直接測定では GM 計数管を使用する。間接測定(スミア法)では GM 計数管または液体シンチレーションカウンタを使用する。ここで、32P のようなエネルギーの高い β- 核種はチェレンコフ光を放出するので、シンチレータなしでも測定できる。
Ⅲ
125I はラジオイムノアッセイに利用される。この測定には井戸型シンチレーション検出器が利用される。125I を含む水溶液は酸性で飛散率が著しく増大するので、取り扱いには注意を要する。131I もラジオイムノアッセイに利用できるが、125I に比べて半減期が短いため、使用例も少ない。ヨウ素の放射性同位体で標識された有機化合物の中には揮発性のものが多く知られているので、吸入に対する防護も必要となる。放射性ヨウ化メチルの取り扱いの際には、グローブボックス 等を使用し、さらに、有機アミン添着活性炭を吸着剤として含むマスクの着用が有効である。
補足
125Iについて:半減期 59.4 日、電子軌道(EC)、ついでγ線放射する。γ線のエネルギーは、 0.0355 MeV で非常に低い。揮散して吸入の恐れがあるので注意する。特に揮発性の高い酸性にしないように注意する。診断、ラジオイムノアッセイなどに用いる。
131I について:半減期 8.021 日、β- 壊変し、そのエネルギーは、0.606、0.334、0.248 MeV でγ線放射(主に0.364 MeV)を伴う。131I 及びその化合物は、甲状腺の診断及び治療に用いられる。131I は 125I と比較して半減期が短いので、ラジオイムノアッセイにはあまり使用されない。
続いて、空気中に揮散したヨウ素化合物は、活性炭フィルターを通して捕集する。活性炭に有機アミン類を添加すると有機ヨウ素を捕集できる。すなわち、有機アミン添着炭でヨウ化メチルなど有機ヨウ素が吸着される。
Ⅳ
237Np の半減期は 2.1 × 10^6(6.6 × 10^13 秒)なので、1.0 × 10^(-3) mol/l の水溶液の放射能濃度は 10 MBq/l 以下である。α線を放出するので試料水溶液に乳化シンチレータを加えて液体シンチレーション測定で放射能濃度を求めることもできる。また、このような長半減期核種については紫外・可視光の吸収を測定して濃度を求めることも可能である。Np や Am などのアクチノイドは加水分解しやすいので、これを防ぐために、水溶系ではできる限り pH を低く保つ などの実験操作上の工夫も求められる。また、これらのα放射体の高濃度溶液では、α粒子は溶液中で停止するので、自己放射線分解を十分に考慮して実験設計が求められる。
解説
237Np は天然ウランを原子炉で中性子照射して簡単に生じ、これを分離精製することで、トレーサーとしても使用できる。半減期は 2.1 × 10^6 年のα放射体であり、化学研究によく用いられる。また、Np の溶液は紫外・可視吸光光度法により定量することも可能である。
水溶液 1 l に 1.0 × 10^(-3) × 6.02 × 10^23 = 6.0 × 10^20
また、半減期 6.6 × 10^13 秒より、
λ = 0.693/T = 0.693/(6.6 × 10^13) ≒ 1.0 × 10^(-14)
よって -dN/dt = λN = 1.0 × 10^(-14) × 6.0 × 10^20 = 6.0 × 10^6 [Bq] = 6.0 [MBq] となり、水溶液 1 l 中なので、6.0 [MBq/l] となる。
また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。