井戸型 NaI シンチレーション検出器に関する記述

井戸型 NaI(Tl) シンチレーション検出器は、線源を井戸の中に入れると、線源が検出器に対して張る立体角を 4π に近い条件で測定することができるため、幾何学的効率がおおよそ 1 となり、γ線放出核種に対する検出感度が高く、放射能測定や放射線管理測定に有用である。しかしながら、1 壊変当たり、幾つかの光子を同時に放出する核種の測定に際しては、サム効果の影響が顕著となり、その出力パルスの波高分布は複雑となることがあるので、 得られたデータの解釈に留意が必要である。その一例として、22Na の測定の場合について見てみよう。22Na は図1に示すように、90% の場合で、陽電子壊変し、残りの 10% は電子捕獲壊変をするが、いずれの壊変をした場合も、1.27 MeV のγ線を放出する。この 22Na を小型のプラスチック製の容器に密封した線源を、井戸型 NaI(Tl) 検出器の井戸の中に入れて波高分布を測定した結果の例を図2の曲線Ⅰに示す。ここでは、5 本のピークが明確に認められる。
ピーク① は 22Na から放出された陽電子が消滅するときに放出されるエネルギー 0.511 MeV の消滅放射線のうち片方が NaI(Tl) 結晶中で、光電効果による全吸収を起こした時に生成されるものである。
ピーク② は消滅放射線の双方が NaI(Tl) 結晶中で全吸収を起こし、そのサム効果により生じたもので、そのチャネル位置は、1.02 MeV に相当する。
ピーク③ は 1.27 MeV γ線の全吸収ピークであり、この際、同時に放出される消滅放射線が NaI(Tl) 結晶と光電効果やコンプトン効果などの相互作用を起こさない必要がある。
ピーク④ は消滅放射線の片方と、1.27 MeV γ線とが NaI(Tl) 結晶中で全吸収された結果生じたもので、チャネル位置は 1.78 MeV に相当する。また、強度はかなり低くなるが、2.29 MeV に相当するチャネルにもピーク⑤が認められる。これは、消滅放射線の双方と、1.27 MeV γ線のすべてが NaI(Tl) 結晶でそれぞれ全吸収を起こした場合に形成される 3重 のサムピークである。この 22Na 線源を井戸の外に出して測定すると状況は一変し、 波高分布は、図2 の曲線 Ⅱ に示すようになり、ピーク②とピーク⑤は、ほとんど観測されない。これは、陽電子の消滅位置を起点にして、2 個の消滅放射線が互いに正反対の方向に放出されるため、密封線源を井戸の外に出した場合に、2 個の消滅放射線が同時に NaI(Tl) 結晶に直接入射する可能性がほとんどなくなるからである。井戸型でない通常の NaI(Tl) 検出器の使用に際しても、同じ理由により、ピーク②とピーク⑤は観測されない。以上述べた 5 本のピークの他に、チャネル番号 200 付近に、なだらかなピーク状の 分布が曲線 Ⅰ にも曲線 Ⅱ にも認められる。これは、光子の後方散乱によるものである。散乱角 180 ° の散乱光子のエネルギーは、0.51 MeV 消滅放射線に対して 0.17 MeV であり、1.27 MeV γ線に対して0.21 MeV である。さらに入射光子エネルギーが増加すると、この値は 0.25 MeV に近づく。この様に、散乱角 180° の散乱光子のエネルギーは入射光子のエネルギーにそれほど依存しない。そのため、このようなピーク状のスペクトルが観測される。井戸型 NaI(Tl) 検出器の場合には、種々の散乱角の散乱光子も結晶中に入射するので、この様なピークはなだらかな分布となるのに対して、線源を井戸の外に出した場合には、検出器位置で散乱角が 180° の散乱線成分の割合が多くなるので、ピークの形がシャープになる。

 

解説

入射光子エネルギーを E MeV、180度方向にコンプトン散乱される光子エネルギーを E’ MeV とすると、m を電子の質量、c を光速として
E’ = E/[1 + (E/mc^2)(1-cos180°)] = E/[1+(2/0.51)E]
E’ = 0.51 MeV では E’ = 0.17 MeV、E = 1.27 MeV では E’ = 0.21 MeV、E が十分大きい場合は分母の 1 は無視でき、E’ ≒ E/(2E/0.51) = 0.26 MeV に近づく。

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です