半導体検出器について
半導体を用いた放射線検出器は、種々の放射線のエネルギー測定や放射能測定に広く使用されている極めて重要な検出器の一つである。この検出器に使用される半導体物質では、絶縁物に比べてそのエネルギーバンド構造における禁止帯の幅が狭く代表的な半導体物質のシリコンやゲルマニウムでは約 1 ev である。また、電子ー 正孔対の形成に必要な平均エネルギー(ε値)はゲルマニウムで約 3 eV である。この結果、同じ放射線が入射しても気体より電荷キャリアが多く生成されることから、気体検出器に比べてエネルギー分解能に優れた検出器となる。純度が極めて高い半導体物質に微量の不純物原子を添加して電荷キャリアに寄与する新たなエネルギー準位を与えることができる。 この添加した原子がホウ素、アルミニウムなどの場合、電子のアクセプトとして働き。p型半導体となる。またリン、ヒ素などの場合には電子のドナーとなり、n型半導体となる。このn型とp型の半導体を用いてダイオード構造を形成し、逆 方向に電圧を引火すると電荷キャリアが存在しない。空乏層が生じ、この部分に放射線が入射すると電荷が生成し、電離電流を取り出すことができる。
γ線スペクトロメトリに用いられる半導体検出器は、半導体物質の原子番号や密度が高いことに加え、その有感領域が十分に大きいことが必要である。このためp型のゲルマニウムにリチウムを拡散させ有感領域を大きくした検出器や高純度のゲルマニウムを用いた検出器が使用されてきた。しかし前者はリチウムが常温において拡散するため液体窒素 温度に常時冷却する必要があり、維持管理の観点からほとんど使用されなくなっている。Ge検出器のエネルギー分解能は一般的に全吸収ピークの半値幅で与えられる。一方全吸収ピークの形状をガウス分布とするとこのピークの半値幅は標準偏差の 2√2ln2 倍で与えられる。このためエネルギー E[eV] のγ線に対するエネルギー分解能[eV]は、電荷 キャリア数の統計的変動のみに起因するとゲルマニウムのε値をε[eV]、ファノ因子をFとして、2√2ln2 × √F・√ε・√E と表すことができる。(ここでGe検出器のエネルギー分解能σR = √F・√ε・√E)となる。
Ge検出器の特徴
ゲルマニウム結晶中で電子ー正孔対に必要なエネルギーは約 3 eV である。気体の場合で電子ー陽イオン対の生成に必要なエネルギーの約 30 eV に対して十分小さい。このためGe検出器では、通常 1 MeV のγ線を測定すると全吸収ピークで約 0.2 % 程度のよい分解能が得られる。測定に際しては、半導体中で生じる熱雑音を減らす ために冷却する必要がある。これに対して常温で使用できるHgI2 などの化合物半導体を用いた検出器があるが、エネルギー分解能は劣っている。
Ge検出器の遮蔽体について
通常Ge検出器は鉛遮蔽体の中に置く。遮蔽体の鉛には 210Pb(半減期22年)が含まれていることがある。この場合、その娘核種である 210Bi のβ線がバックグラウンドに影響を与えることがある。又、試料からγ線により生じる鉛の特性X線や後方散乱、γ線を吸収するために鉛の内側にカドミウム板とさらに内側に銅 板を又は銅板だけを内張りにする。(外側から内側に向かって原子番号の小さくなる順番になるようにする。)さらに内側には試料からのβ線による制動放射線の発生を抑えるためにアクリルなどの合成樹脂の板を加える。
Ge半導体検出器の動作原理
半導体検出器は X線、γ線 を電気的なパルス信号に変換して計測します。その過程は次のようになります。① X線、γ線が半導体結晶中にて光電吸収やコンプトン散乱を起こすことにより、二次電子や散乱X線を生成。② 生成された電子は、電離作用によって多数の電子正孔対を生成。③ 電子・正孔は、結晶にかけられた電場によって電極へ移動し、パルスシグナルを発生する。この電子正孔対が生成されることで電荷信号ができ、この電荷信号を波高分析することでエネルギーの測定が可能となる。
Ge検出器によるγ線エネルギースペクトル測定
γ線のエネルギースペクトルを測定する場合、制度の高い測定器としてGe検出器が用いられる。この検出器は半導体の結晶中で電離現象により生じた電子と正孔を直接収集してγ線を検出し、そのパルス波高からエネルギーを測定するので、一種の固体電離箱とみなすことができる。このため気体検出器である比例計数管と同様に検出器で失われた エネルギーの情報は得られるが比例計数管と異なり検出器自体による増幅作用は期待できない。
Ge検出器によるγ線エネルギースペクトル測定②
γ線放出核種を含む試料を測定するとき、試料自体から放出されたγ線が遮蔽体などでコンプトン散乱を起こしたのち再び検出器に入射すると、結果としてγ線エネルギースペクトル上で連続的に広がるバックグラウンドが増加する。この増加が顕著に現れるスペクトル部分のエネルギー[MeV]は試料から放出されたγ線のエネルギー Eγ を MeV 単位で与えると、Eγ/(4Eγ + 1)式を用いてほぼ推定できる。鉄製遮蔽体の場合、この増加を抑えるために 鉛の内張りが有効であるが、その一方で光電効果により鉛原子の軌道電子が原子の外に放出されることに伴い 75 keV 近傍に特性X線のピークが生じる。この特性X線の影響を効果的に低減するためには、遮蔽体内面から検出器に向けさらに カドミウム、銅の薄い板を順に重ね張りすると良い。γ線エネルギースペクトルの連続スペクトル部分は、これと重なる他の全吸収ピークの正味計数率を求める際にバックグラウンドとなる。この連続スペクトル部分を低減するためには、Ge検出器とその周りを取り囲む形に配置した検出器(ガード検出器)で構成される検出器システムの使用が有効である。この検出器において、Ge検出器またはガード検出器のいずれか一方でコンプトン散乱 を起こしたγ線が他方で検出された場合、両者の検出信号は同時事象であるため、それらの信号を反同時計数回路を用いて除去することができる。この方法により、Ge検出器の検出部においてコンプトン散乱で生じた反跳電子の信号を取り除き、γ線スペクトロメータの性能指標の一つであるピーク対コンプトン比を効果的に改善することができる。 一般にガード検出器には、検出部の実効原子番号が高い NaI(Tl)シンチレータ検出器、BGO検出器が適しているが、低い実効原子番号でも検出器の容積が大きい検出器の作成が可能なプラスチックシンチレーション検出器なども用いられる。
Ge検出器を用いたγ線スペクトロメトリー法
Ge検出器を用いたγ線スペクトロメトリー法は、試料中の放射性核種の決定とその放射能の定量が同時にできるため放射線管理において重要である。核種の決定にはパルス波高の測定に用いるマルチチャネルアナライザーのチャネル番号とγ線エネルギーとの関係を与えるエネルギー校正曲線を、また放射能定量にはγ線エネルギーに対する計数効率 は標準線源を用いて測定された全吸収ピークの計数率を、対応するγ線の放出率で除することで求められる。測定試料の放射能の算出において分岐比に基づいて、γ線の1壊変当たりの発生数を知る必要があり、 137Cs の例では、その発生数は 0.85 となる。またγ線がカスケードの放出される 24Na の ような核種の測定ではサム効果による全吸収ピークの計数率の減少にも注意する必要がある。
γ線スペクトロメトリー②
γ線スペクトロメトリにおいては、スペクトロメータのγ線検出部の物質とγ線がどのように相互作用するかによって色々なパルス波高スペクトルが得られる。γ線が検出部に入射すると、電子、陽電子、コンプトン散乱γ線、あるいは陽電子消滅に伴う光子などが放出される。γ線の全エネルギーが検出部に付与されると、パルス波高スペクトル上に全吸収ピークとして計数される。生成された高エネルギーの荷電粒子や、その 制動放射で生じた光子が検出部外に逃れた場合にはコンプトン効果の場合に限らず全吸収ピークから低いエネルギー側にずれて計数されることがある。光電効果が起きると原子の電子軌道に空席が生じるが、この空席が電子で埋められる際にオージエ電子又は特性X線が放出される。これらのうち、 前者は直接電離により検出部にエネルギーを付与する。一方後者は前者に比べて検出部の外に逃れやすいため、スペクトル上にエスケープピークが生じる場合がある。この現象は検出器の物質に原子番号が高く、検出部の厚みが薄い場合に生じやすい。コンプトン効果ではパルス波高スペクトルは連続分布となる。しかし、コンプトン散乱γ線が検出部内で再度コンプトン効果 を起こした後、光電効果により検出部にエネルギーを与えると全吸収ピークが形成される。電子対生成では、この相互作用が起きるために必要なしきいエネルギーを差し引いた後、残りのエネルギーを電子と陽電子が分け合う。この際陽電子消滅が要因となり、放出される光子の検出過程により2つのエスケープピークが生じる。以上の要因の他、核種の壊変において複数の γ線が短時間に引き続いて放出される場合には、それらのγ線の相互に組み合わせに対応したサムピークが形成されることがある。
放射性核種 46Sc の点線源(壊変率:n0)をGe検出器の近傍に置き、γ線のパルス波高スペクトルを測定した。この 46Sc は次のように壊変する。0.889 MeV のエネルギー準位の半減期は 4ps であり、十分短く放出される2つのγ線(γ1線とγ2線)の放出は同時事象とみなすことができる。このためγ1線とγ2線について
γ1線のピーク効率を ε1
γ2線のピーク効率を ε2
γ1線の全計数効率を εT1
γ2線の全計数効率を εT2
また、γ1線の正味のピーク計数率を n1
γ2線の正味のピーク計数率を n2
サムピークの全計数効率を n12 で表すと、
n1 = n0(1-εT2)ε1
n2 = n0(1-εT1)ε2
n12 = n0ε1ε2
さらにγ1線とγ2線を合わせた全スペクトルの正味の計数率(nT)は、nT = n0(εT1 + εT2 – εT1εT2)で与えられるので、この線源の壊変率(n0)は n0 = nT + (n1n2)/n12 で求めることができる。この方法はγ線のパルス波高スペクトルに着目した比較的簡便な放射能測定でありサムピーク法と呼ばれる。
Ge半導体検出器に関する記述
Ⅰ
Ge半導体検出器によるγ線の測定によって放射性同位元素の種類・数量を求める場合、まず、既知数量の 152Eu などの標準線源を用いる検出器のエネルギーの校正及び計数効率のエネルギー依存性の測定が必要となる。ただし、サムピークの生成を最小限にとどめるために、距離を大きく取ることがある。 放射性同位元素を含む試料の放射能定量に、この計数効率を適用するには、標準線源と幾何学的配置を同一にする。
Ⅰ 解説
Ge半導体検出器はγ線用の検出器である。通常のGe半導体検出器で測定できるγ線のエネルギーの下限は 50keV 程度、広領域では数keV 程度の低エネルギーX線までである。核種の決定にはパルス波高の測定に用いるマルチチャネルアナライザーのチャネル番号とγ線のエネルギーとの関係を与えるエネルギー校正曲線を、また放射能の定量にはγ線エネルギーに対する計数効率曲線をあらかじめ作成しておく必要がある。 この場合の標準線源として、22Na , 54Mn , 57Co , 60Co , 88Y , 137Cs のように、半減期が長くかつγ線放出割合がよくわかった核種が選ばれる。
55Fe:半減期 2.73年、EC壊変・X線(低エネルギー)
99Tc:半減期 2.14×10^5年、β-線
152Eu:半減期 13.5年、γ線(多数)
210Po:半減期 138.4日、α線
※ 152Eu はγ線検出器の校正に用いられる。
また、測定において、線源の測定位置はGe検出器から距離を離し、カスケードγ線によるサム効果が無視できるようにするのが望ましい。一度ピーク計数効率曲線を作成しておけば、幾何学的配置(線源・検出器間距離や線源の形状)を変えない限り以後も活用可能である。
Ⅱ
液体でも、沸点の低い物質や分解しやすい物質では、放射性の気体が発生する場合があるので、放射性同位元素の科学形や反応性についても注意する。放射性ヨウ素の化学形が I2 の場合には揮発性が高くなるので、こうした化学形になることを避ける。例えば、125I で標識されたヨウ化ナトリウム水溶液の使用に際しては、H2O2 等の酸化剤の混入の可能性等を事前に検討する必要がある。 混合による急激な化学反応の進行により、特に、発熱反応である場合、放射性同位元素の飛散を招く可能性があるので、実験計画の段階から注意する。溶媒にエーテル類を用いる場合などは、特有の揮発性・引火性に注意が必要である。
Ⅱ 解説
トレーサ実験には、半減期の長い 125I や 131I が用いられる。放射性ヨウ素には、 I2、I-、IO3(-)、IO4(-) などの化学種がある。I2 は揮発しやすく放射性汚染を起こしやすい。更に、酸性にすると揮発しやすいため、酸性溶液にしたり、酸化剤を加えたりしないようにする。
放射性物質取扱作業:取扱行為は、一般的操作、機械加工、化学反応などの操作、加熱操作、静置に分けてみると、加熱操作が最も飛散を起こす可能性がある。加熱及び発熱を伴う操作には注意が必要である。また、溶媒としてエーテル類を用いる場合には、その揮発性と引火性にも注意が必要である。
Ⅲ
放射性の金属イオンの相互分離には、陽イオン交換樹脂による方法があるが、塩酸形でクロロ錯体を形成する場合には陰イオン交換樹脂による分離も可能である。陰イオン交換樹脂に吸着された放射性同位元素について、クロロ錯体の安定度定数が大きく異なると、溶離液の 酸濃度を順次変えることで、それらの元素を少量の溶離液で分離することができる。
Ⅲ 解説
(強塩基性)陰イオン交換樹脂の吸着能
Fe3+、Co2+、Zn2+は、塩化物イオンが存在すると、FeCl-、CoCl4(2-)、ZnCl4(2-)などのクロロ錯体を形成するので、強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着するようになる。陽イオンと塩化物イオンのクロロ錯体の形成が強いものほど、塩酸溶液の濃度は、薄いものを使用しなければならない。この時に、Zn2+ が最も強い クロロ錯体を形成している。この性質を用いて溶離液の HCl 濃度を変えることで、以下のように重金属イオンを分別分離することが可能である。
塩酸濃度と陰イオン交換樹脂からの重金属の溶出順:Ni3+(12M) > Mn2+(6M) > Co2+(4M) > Cu2+(2.5M) > Fe3+(0.5M) > Zn2+(0.05M)
ここで Co2+、Fe3+、Zn2+ はクロロ錯体である。
Ⅳ
実験室の床面が 14C によりスポット状に汚染された場合、サーベイ法による汚染位置の特定にはGM管式サーベイメータが用いられる。汚染の固着性の程度により、汚染の拡大の可能性や除染の方針などが変わるため、スミア法による放射能測定も行われる。この場合には、液体シンチレーション計数装置を用いて測定するのが最も検出効率が高い。汚染核種が 32P の場合には 液体シンチレーション計数装置によるチェレンコフ光計測も利用できる。いずれの核種にも、固着性の汚染の場合には、スミア法で検出できない。遊離性の汚染の除去には、一般に、水、中性洗剤、酸、可溶性錯塩形成剤などが用いられる。可溶性錯塩形成剤としてはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などが用いられる。ただし、14C が炭酸イオン として存在している場合には、酸を用いると 14CO2 の発生により汚染が拡大する可能性がある。
Ⅳ 解説
14C 及び 32P を使用する実験室において使用中に生じる表面汚染に対して測定のために適当な機器は以下の通りである。
14C:直接測定では薄窓のGM管式サーベイメータ、間接測定(スミア法)では薄窓のGM計数管または液体シンチレーション計数装置を使用する。特に液体シンチレーション計数装置は 14C のような低エネルギーβ線放出体測定のときは自己吸収がほとんどない優れた方法である。
32P:直接測定ではGMサーベイメータを使用する。間接測定(スミア法)ではGM計数管または液体シンチレーション計数装置を使用する。特に 32P エネルギーが高いため、液体シンチレータを用いず液体シンチレーション計数装置によるチェレンコフ光計測が可能である。
汚染の種類
固着性:表面に固着し、遊離しない汚染で体外被ばくだけを問題にすれば良い。
遊離性汚染:舞い上がり、室内の空気を汚染し、体内被ばくをもたらす。遊離性汚染の方が、危険性が高い。
直接法はサーベイメータにより表面を直接測定する方法で、固着性汚染と遊離性汚染の両方に適用できる。一方、間接法(スミア法)は、汚染表面をろ紙で拭き取り、そのろ紙を測定する方法となる。
遊離性の汚染の除去
RIによる汚染は、種々の状況が考えられるが、汚染の状況に応じて最も適切な除去法をとらなければならない。除染剤は、初めはなるべく温和なものを用い、除染できなければ順次化学的活性度の大きいものに移るようにする。化学的活性度の大きい除染剤の除染効果は大きいが、表面が侵食され再汚染のとき、除染が非常に困難になるからである。また除染剤の中には、、気体のRIを発生するものがあるので、(例として 14C の炭酸塩の場合、塩酸などの酸を加えると、分離して、14CO2 が発生する) 除染剤の選択には注意が必要である。一般に除染剤としては水、中性洗剤、酸、キレート形成剤などが用いられる。キレート形成剤としては Na-EDTA等がある。
Ge検出器を用いたγ線スペクトロメータに関する記述
Ⅰ 測定する線源と同じ核種、形状の放射能標準線源があれば、次の手順により比較的簡単に被測定線源の放射能を決定することができる。まず、標準線源を Ge 検出器の入社窓前方一定位置におき、その出力パルスの波高分布スペクトルをマルチチャネルアナライザで記録する。得られたスペクトルの全九州ピークに着目し、このピークが存在するチャネル領域の計数の総和 N(gs) を求める。この N(gs) からピークの下側に横たわる連続部分を直線分布で近似して差し引き、ピーク計数 N(gs) を求める。j チャネルの計数を n(j) と記述し、ピーク下限チャネルを H とすれば、ピーク計数 N(ns) は 次式で計算できる。
連続部分の計算誤差を小さくするため、例えば両側の3点の平均をそれぞれとり、次式で計算することもある。
この N(ns) を測定時間 T で割ればピーク計数率 m(s) = N(ns)/T が得られる。この場合マルチチャネルアナライザの時間設定を ライブタイムモードにしておけば、デッドタイムを除外した時間がタイマーに記録されるため、デッドタイムに起因した数え落としの補正を行う必要がない。次に、被測定線源を同一位置に置き、同様の測定を行い、そのピーク計数率 m(X) = N(nX)/T を求める。被測定線源の放射能 A(x)(Bq) は、A(x)(Bq) は、A(x) = m(x)/m(s)・A(s) として決定する。ここに A(s) は標準線源の放射能(Bq)である。
解説
Ⅱ
被測定線源と異なる核種の標準線源を用いる場合には、通常、次のような方式により被測定線源の放射能を決定する。まず、ピーク計数効率 ε をγ線エネルギーの関数として決定する。ここでいうピーク計数効率とは、標準線源のピーク計数率 m(s) をγ線放出率で除したものである。この場合の標準線源として、22Na、54Mn、57Co、60Co、88Y、137Cs のように、半減期が長く、かつγ線放出割合がよくわかった核種が選ばれる。ここで、γ線放出割合とは着目するγ線放出率と壊変率(放射能)との比である。標準線源の放射能は別の方法により正確に決定されているものとする。これらの標準線源のスペクトル をそれぞれ記録し、前述 Ⅰ で示した手順によりピーク計数率 n(si) をそれぞれ求める。1つの核種がエネルギーの異なる複数本のγ線を放出する場合にはそれぞれのピークについて同様の計算を行う。それぞれのピーク計数効率 ε は ε = m(s)/γ線放出率 = m(s)/(放射能×γ線放出割合) となる。放射能の単位は Bq である。このようにして求めたいくつかのピーク計数効率をγ線エネルギーの関数としてグラフ用紙にプロットし、各プロットを滑らかな曲線で結ぶ。これをピーク計数効率構成曲線と呼ぶ。この場合、両対数グラフを用いると、150 keV 以上のエネルギー領域でおおよそ直線となるので便利である。 なお、これらの測定は個別の標準線源によって行ってもよいが、混合核種標準線源により一度に行うことも可能である。次に、被測定線源について同様の測定、計算を行い、ピーク計数率 m(x) を求める。当該ピークのγ線エネルギーにおけるピーク計数効率 ε(x) はピーク計数効率校正曲線から読み取る。そうすると、被測定線源の放射能 A(x) は、A(x) = m(x)/(ε(x)×γ線放出割合) として決定できる。なお、これらの測定において、線源の設定位置は Ge 検出器から離し、カスケードγ線によるサム効果が無視できるようにするのが望ましい。線源・検出器間距離が短い場合は、サム効果の影響が無視できなく なる場合があるが、その影響の補正は簡単ではない。これら一連の操作は最初に手間がかかるが、一度ピーク計数効率校正曲線を作成しておけば、線源・検出器間距離や線源の形状を変えない限り、この曲線は以後も活用可能であり、日常的には特定の核種、例えば 137Cs 標準線源でその一定性を確認するだけでよい。
補足
例えば 60Co では、1.17 MeV と 1.33 MeV の2本のγ線が、検出器が区別できない非常に短い時間内に放出される。このように複数のγ線が実質的に同時に放出される場合をカスケードγ線という。γ線がカスケード放出されると、1つのγ線が全吸収されても、他のγ線が何らかの相互作用を起こすと、パルス波高は全吸収ピークからずれてしまう。これをサム効果という。60Co のγ線を測定すると、2.5 MeV の位置にピークが生じるのはこのためである。サム効果を防ぐには、個々のγ線の検出効率を小さくすればよく、線源と検出器間の距離を大きくするとよい。 ただし、検出効率が低下するため、線源強度が小さかったり、測定時間が十分に取れない場合は計数が少なくなり、統計誤差が大きくなる。
試料中の放射性核種を調べる場合に用いられるGe検出器に関する記述
試料中の放射性核種を調べる場合、Ge 検出器を用いたγ線スペクトロメトリ法により行うことが一般的である。この理由の一つとしては、ゲルマニウム結晶中で電子と正孔の対が生成されるのに必要なエネルギーが約 3 eV と小さく、エネルギー 1MeV の光子に対し 2 keV 程度の良好なエネルギー分解能が得られることがあげられる。核種の決定において着目すべきピークは、通常 全吸収ピークであるが、これ以外にも種々のピークが形成されるため、個々のピークの成因を十分理解する必要がある。1壊変当たり複数のγ線がカスケードに放出される場合にはサムピークが形成される。また、γ線エネルギーが高い場合には、電子対生成により生じた陽電子が電子と結合して 消滅光子が放出されるため、この光子が相互作用を起こさず Ge 検出器の有効体積外に出ると、エスケープピークが形成される。
解説
例えば 60Co のように壊変に伴い複数の励起レベルをたどり、複数のγ線が放出される様子をカスケード(階段状に連続した滝のこと)という。
Ⅱ
純β線放出核種の場合では、プラスチックシンチレーション検出器や Si(Li) 半導体検出器などを用いてエネルギースペクトルを測定する。この場合、β線の最大飛程が有効検出領域を超えないことに注意するとともに、β線が有効検出領域へ入射する前に生じる吸収などにも注意する必要がある。エネルギーの指標としては、0.5 MeV 以上では 137Cs 線源などから放出される内部転換電子のピークが利用される。β線のエネルギーは連続分布のため、測定されたエネルギースペクトルの形状や最大エネルギーに基づいて核種を決定する。この方法の他、アルミニウムの吸収板と端窓型GM計数管などを用いて吸収曲線を作成し、フェザー法と呼ばれる方法でβ線最大飛程を決定して核種を推定することもできる。32P のβ線に対し、アルミニウム 中の最大飛程 R[g・cm^(-2)] とβ線最大エネルギー E[MeV] との関係は、R = 0.542E – 0.133 の実験式で表される。これにより、32P の最大飛程は約 0.8 g・cm^(-2) となる。
解説
吸収板には後方散乱などが起こりにくい低原子番号を有し、均一な厚さの板が得やすいアルミニウムがよく用いられる。吸収板を次第に厚くして最大飛程を求めようとすると、最大飛程に近くにつれて計数率が低下するため困難である。そこで吸収曲線を求め、標準試料のそれと比較することによって最大飛程を求める方法がよく利用され、フェザー法と呼ぶ。0.542E – 0.122 の式をフェザーの式という。
Ge検出器に関する記述はたくさん出ているので、いろんな記述を覚えておくのに越したことはないと思います。
また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。