確定的影響
確定的影響にはしきい値がある。しきい値は影響が現れる最低の線量をいうが、放射線防護上は被ばくを受けた人の 1 ~ 5 % に影響が現れるとしている。しきい線量を超えて被ばくした場合には影響の重篤度が 増大する。確定的影響は、臓器・組織を構成する細胞が細胞死を起こすことに基づく影響であり、臓器・組織のある割合の細胞に細胞死が起きたところで影響が現れ、、さらに大きな線量を被ばくすると、細胞死を起こす 細胞数が増加して症状は重くなる。発がんと遺伝的影響の確率的影響を除いた全ての影響が分類される。
しきい線量とは、この線量を被ばくすると約 1 % の人に障害が発生する線量をいう。
確率的影響
確率的影響にはしきい線量はないと仮定されている。線量の増加に伴って変化するものは、影響の発生頻度である。確率的影響は突然変異に基づく影響であり、線量が増加すると突然変異が起こる確率が増加し、 確率的影響の発生頻度が増加する。一方、影響の重篤度は線量の大きさによらず一定である。確率的影響に分類される影響は、発がんと遺伝的影響である。
確率的影響と確定的影響の違い
種類 | しきい値 | 線量増加により変化するもの | 例 |
---|---|---|---|
確率的影響 | 存在しない | 発生頻度 | がん、遺伝的影響 |
確定的影響 | 存在する | 症状の重篤度 | 白内障、脱毛、不妊など確率的影響以外の全ての影響 |
身体的影響と遺伝的影響
放射線影響が誰に現れるかという観点から、放射線影響は身体的影響と遺伝的影響に分類される。
[身体的影響] 被ばくした本人に現れるものが身体的影響である。これには被ばくしてから影響が現れるまでの期間(潜伏期)により、早期影響と晩発影響に分類される。被ばくの形式にもよるが、 被ばく後数週間以内に現れるものを早期影響といい、被ばく後何ヶ月あるいは何年も経過したのちにはじめて現れるものを晩発影響という。
[遺伝的影響] 被ばくした本人ではなく子孫に及ぶものが遺伝的影響である。これは遺伝子に起こった変化が子孫に伝えられて引き起こされるものである。したがって、将来子供を産む可能性のある人が生殖腺に被ばくを 受けた場合にのみ遺伝的影響が発生する可能性が生じる。妊娠中に被ばくを受けた胎児に、その被ばくが原因で放射線影響が認められた場合は、遺伝的影響ではなく胎児自身の身体的影響 ということになる。また、変化が起こった遺伝子を受け継いでも、子の代で影響が現れず、孫の代に遺伝的影響が現れることもある。
分子レベルの影響(直接作用と間接作用)
放射線の生物作用の標的は DNA であり、分子レベルの影響としては DNA 損傷を考えれば良い。DNA 損傷の起こり方には次の二通りがある。
直接作用:DNA を構成する原子に起きた電離、励起が直接 DNA 損傷を引き起こす。・・・生体高分子のエネルギー吸収である。
① 直接作用により不活化される酵素の数は濃度に比例する。② 直接作用により不活化される比率は濃度には依存しない。
間接作用:生体の水分子が電離・励起され、その結果生じたフリーラジカル(遊離期)が間接的に DNA 損傷を引き起こす。低LET放射線の場合、DNA 損傷の多くは間接作用によって引き起こされる。・・・ 水分子のエネルギー吸収である。① 乾燥系では水の放射線分解による間接効果の寄与は小さい。
フリーラジカルの生成
励起・・H2O → H*(還元性) + OH*(酸化性)
電離・・H2O → H2O+ + e- 、H2O+ → H+ + OH* もしくは H2O+ + H2O → H3O+ + OH*
H3O+ + e- → H* + H2O
電子の周りには水分子が集まり水和電子が生成される。e- + nH2O → e(aq)- [還元性]
e(aq)- + H2O → OH- + H* もしくは、e(aq)- + H+ → H*、e(aq)- + O2 → O2*-(スーパーオキシドラジカル)
H* + OH* → H2O となり、H*は生体分子の水素を引き抜いて反応を起こし、10^(-10)秒の寿命をもつ。
還元性を示す分子・・・H*、e(aq)-、H2
酸化性を示す分子・・・OH*、H2O2
ラジカルの再結合
生成されたH*やOH*といったラジカルは拡散し広がっていくが、その過程でラジカル同士再結合するのもある。ラジカルの再結合はラジカル同士の距離が近いと起きやすい。ラジカルの生成密度は、低LET放射線では 疎で高LET放射線では密であることから、低LET放射線では間接作用の寄与が大きいが、高LET放射線では間接作用の寄与が小さくなる。
間接作用の修飾要因
① 希釈効果
希釈効果とは、溶液を照射する場合に溶質の濃度が低い方が高い時よりも溶質に対する放射線の影響の割合が大きくなることをいう。主に酵素濃度が減少する。 ① 溶質として存在する酵素などの生体高分子数の不活化を指揮とした場合吸収線量が一定であれば不活性化した分子数は濃度によらず一定 → 同じ条件での不活性化率は濃度の増加に伴い低下する。
② 酸素効果
組織内の酸素分圧が放射線効果に影響を与えることを酸素効果という。酸素存在下での放射線効果は、無酸素下での放射線効果に比べて大きい。これは酸素分子が電子親和性が大きく、 電子を取り込んでスーパーオキシドという反応性に富むラジカルを産生するためである。また、照射後に酸素濃度を高めたとしても酸素効果は見られない。同じ生物学的効果を 得るのに必要な無酸素下での線量と酸素存在下での線量の比を酸素増感比(OER)という。
OER = (無酸素下である効果を得るのに必要な線量)/(酸素存在下で同じ効果を得るのに必要な線量)
OERは酸素分圧の上昇につれて大きくなるが、酸素分圧が 20 mmHg を越えるとほぼ一定となる。低LET(線エネルギー付与)放射線ではOERは 2.5 ~ 3 程度であるが、 高LET放射線では酸素効果は小さい。
③ 保護効果
ラジカルと反応しやすい物質が照射野に存在すれば、生じたラジカルは除去されるので放射線の効果は減少する。これを保護効果といい、このような働きを持つ物質を放射線防護剤あるいは単に防護剤という。 SH化合物などのラジカルスカベンジャーはその一例である。SH基にはシステイン、システアミン、グルタチオン、シスタミンがある。またOH基も還元作用があることから、 アルコール、グリセリン、ポリエチレングリコールなども同様に保護効果を持つ。
④ 温度効果
温度が低下した状態では放射線効果は減少する。これを温度効果という。ラジカルの拡散が低温により妨げられるためだと考えられている。
また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。