放射性同位元素使用時の被ばく・汚染防止に関する記述

密封されていない放射性同位元素を用いた実験の際には、対象核種や化合物の物理的・化学的性質に応じた被ばく・汚染防止対策をあらかじめ立てておくことが必要である。液体を扱う実験操作では、放射性の気体発生や液体の飛散に注意する。例えば、 NaH(14CO3) 水溶液に希硫酸を加えると化学反応によって放射性の気体が発生する。また、 Na(3H)SO4 を蒸留水に溶解すると、水との同位体交換により放射性同位元素が揮散する可能性がある。有機溶剤は 可燃性であったり、揮発性であったりすることから、それぞれの性質に応じて温度、火気、換気等に十分注意する。有機溶剤と水溶液を混合する際に発熱することもあるため、溶媒抽出のような操作は、容器内の圧力に注意する。無機廃液は、酸性、アルカリ性をチェックし、中和を行う。汚染発生時に速やかにかつ効率的に除染できるような対処法を事前に検討しておくことも必要である。例えば、液体の放射性同位元素による 床の汚染が発生した場合には、汚染の範囲と量を調べ、拭き取ることによって汚染の拡大を防ぐ。更に、水や中性洗剤、必要に応じて EDTA(エチレンジアミン四酢酸 )のようなキレート剤成剤を用いて除染を行う。密封されていない放射性同位元素を扱う実験は、二人以上で行うことを原則とし、実験操作に伴う危険性をあらかじめチェックし、操作に習熟して作業時間を短縮するためにコールドランを行うことが有用である。

 

解説

放射性気体の発生 → NaH(14CO3) + H2SO4 → NaHSO4 + H2O + 14CO2 ↑
同位体交換反応とは同じ元素の同位体の間に起こる交換反応をいう。ここでは、水の同位体交換反応なので Na(3H)SO4 が考えられる。飛散率は、取り扱う放射性物質の化学的性質、物理的形態および作業形態で異なってくる。化学的性質では扱う物質の揮発性について知っておく必要がある。取扱行為は一般的操作、機械加工、化学反応などの操作、加熱操作、静置にわけると加熱操作が最も飛散を起こす可能性がある。また、有機溶媒を用いる場合は、その揮発性と引火性により加熱及び発熱を伴う操作には注意が必要である。
溶媒抽出:いくつかの放射性核種(溶質)を含む水溶液(塩酸、硝酸、硫酸、緩衝液等)を分液漏斗に移し、これらの水溶液と混じり合わない有機溶媒(ベンゼン、トルエン、四塩化炭素、ジイソプロピルエーテル等)を加えて振り混ぜたのち、静止して二層に分離させ、放射性核種を水相と有機相に分配する操作である。

汚染に対して取るべき措置
(1) 汚染発見を告げ、立ち入りを制限するとともに除染を行う。除染は次のように行う。①吸湿紙で拭き取る。②吸湿紙に水、中性洗剤、亜硫酸ナトリウム溶液の順に染み込ませて拭き取る。③乾いた吸湿紙で拭き取る。④酸性にすると揮発の恐れがあるので、酸性にならないようにする。
(2) 除染の結果を調べ、なお除染できない部分があるときは、ビニールシートで覆い、固定して減衰を待つ。
キレート剤:Na-EDTA、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどがある。
酸化チタンペースト:酸化チタン 100g を0.1N HCl 60 ml で練ったもの。
密封されていない放射性同位元素を扱う実験の注意
(1) 作業は原則として2人以上で行い、RI の操作をする人と非汚染の操作をする人にわける。
(2) コールドランを行い、所用時間をチェックして被ばく線量の推定を行う。線量限度に照らして作業内容を検討し、薬品、器具などを正しく揃える。

 

管理区域の汚染検査にしばしば用いられる液体シンチレーション計数装置の特徴として、放射線源がシンチレータ溶液中に溶解していることから、検出の幾何効率が高く、自己吸収の補正が不要であり、 3H などの低エネルギーβ線放出核種や 210Po のようなα線放出核種の測定に適していることがあげられる。この特徴を生かすためには、シンチレータからの蛍光を吸収する色クエンチング を起こすような物質の溶液への混入を避ける必要がある。また、シンチレータ溶液へのクロロホルムの混入は、化学クエンチングを起こしてシンチレータの発光効率を低下させる。色クエンチングや化学クエンチングの影響は 137Cs のような外部線源を用いて補正することができる。液体シンチレーション計数装置では、蛍光の検出に一対の 光電子増倍管と同時計数回路を用いてノイズを低減し、低エネルギーβ線によるシンチレータの微弱な発光を測定することが可能である。

 

補足

液体シンチレーション計数装置の主な測定対象は、3H、14C、35S、32P、38Cl、45Ca、59Fe、63Ni、89Sr、90Sr、90Y、99Tc、144Ce、147Pm、210Pb、210Bi、210Po、22Rn、232Th、234Th、241Pu、241Am などである。トルエン、混合キシレン、ジオキサンは溶媒として用いられる。ここでは、クロロホルムが非常に強いクエンチャーとなる。

 

10 MBq の 59Fe を使用してトレーサー実験を行い、45 日後に実験を終了した。この時点で、貯留槽中の水量は 5 m3 であり、59Fe 濃度は 2 × 10^(-1) Bq/cm3 であった。同施設では他に 59Fe は使用されていないので、実験に使用したトレーサーの 20 % もが貯留槽に流入したと推定されたため、実験者に実験手順の改善を指示した。また同貯留槽にはこの時点で 0.9 MBq の 32P も流入していたため、貯留槽中の排液は、排水中濃度限度との比の和が 1.1 であり、希釈槽に移送して希釈し、放射能濃度限度以下であることを確認した後に放流した。ただし、同施設では 59Fe と 32P 以外の放射性同位元素は使用されておらず、59Fe の半減期は 45 日、32P の半減期は 14 日とし、告示別表第六欄に定められた排水中の濃度限度は 59Fe が 4 × 10^(-1) Bq/cm3、32P が 3 × 10^(-1) Bq/cm3 である。

 

解説

45 日後の 59Fe 放射能を半減期により算出すると、
A = 10 × (1/2^(45/45)) = 5 MBq
同施設では他に 59Fe は使用されていないので、全て貯留槽に流入した場合、
5 m3 = 5 × 10^6 cm3 より、59Fe 濃度は 1 Bq/cm3 となる。
実際の貯留槽の 59Fe の濃度は 2 × 10^(-1) Bq/cm3 であり、(2 × 10^(-1))/1 × 100 = 20 % が流入したと推定される。
また、同時に流入した 32P の濃度は 0.9 MBq/(5 × 10^6 cm3) = 0.18 Bq cm3 となる。
したがって、2核種の濃度と濃度限度の比を足し合わせると、
(2 × 10^(-1))/(4 × 10^(-1)) + (1.8 × 10^(-1))/(2 × 10^(-1)) = 1.1 > 1
よって 1 より大きくなる。

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

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