放射性同位元素 18F に関する記述

放射性同位元素 18F を製造、使用する施設がある。この施設の利用に際しては、放射線発生装置特有の事項や取り扱う放射性同位元素の物理的性質、化学的性質を知って奥必要がある。18F などのPET診断用の放射性同位元素を製造する放射線発生装置として、サイクロトロンが最も多く利用されている。18F は主に酸素の濃縮同位体を含む水をターゲットとして用い、 陽子照射で製造されている。また、幾つかの施設ではネオンをガスターゲットとして用い、重陽子照射によって 18F を製造する方法も利用されている。放射線発生装置使用室内には、運転中立ち入ることはできず、みだりに立ち入ろうとすると、インターロック機構により発生装置は自動的に 停止するようになっている。運転停止直後は室内の線量率が高いため、入室する際には、放射線モニタで室内での空間線量率の減衰を確認する。また、発生装置周辺には高線量率の場所があるため、数 mSv/h まで測定可能な電離箱式サーベイメータを携行するのが望ましい。18F は半減期が 110 分の β+ 壊変核種である。陽電子の消滅時にエネルギーがおよそ 0.5 MeV の2本の消滅放射線が同時に反対方向に放出されるため、測定にはこの消滅放射線を同時計数する方法が利用されている。また、フッ素はハロゲン元素の中で最も原子番号の小さい元素であり、化学反応性に富む。照射された水を陰イオン交換樹脂に通して 18F を捕集できる。

 

次に、18F を取扱う際の外部被ばく線量を推定しておくことにした。10 GBq の 18F を含む溶液 0.1ml がバイアルに入っている場合に、0.5m 離れた位置で 10 分間作業すると、被ばく線量は0.93 mSv となる。ただし、18F の実効線量率定数は 0.140 μSv・m^2・MBq^(-1)・h^(-1) とし、作業中の放射能の減衰は考慮しないこととする。また、このバイアルを厚さ 1.5 cm の円筒状の鉛容器の中に入れて 取り扱えば、線源から 0.5m 離れた位置で 10 分間作業する際の被ばく線量は 120 μSv となる。そこで、線源を入れた鉛容器の外側を、更に厚さ 5cm の円筒状の鉛遮蔽体で囲むようにすると、作業者の体幹部での被ばくは鉛容器のみの時に比べ、更に 1000 分の1 以下に低減できる。ただし、消滅放射線に対する鉛の半価層hが 0.5cm とする。

 

被ばく線量 0.93 mSv となる計算式 E = (0.14 × 10 × 10^3)/0.5^2 = 5.6[mSv/h] となり、作業時間 10 分より 5.6 × (10/60) = 0.93[mSv]

遮蔽後の作業による被ばく線量 120 μSv となる計算式 鉛の厚さが 1.5cm、半価層が 0.5cmであるので、線量は 1/8 にまで減少する。したがって 5.6 × (1/8) = 0.7 [mSv/h] となり、

0.7 × (10/60) ≒ 0.12[mSv] = 120[μSv] となる。

更に厚さ 5cmの円筒状の鉛容器で遮蔽した時の計算式 更に 5cm の鉛を入れたので減弱は (1/2)^(5/0.5) となり、1/1024 まで減少する。

 

18F の飛散についても検討した。
10 GBq の 18F をフード内で取扱う時、10分の1 の 18F が飛散したと仮定して、排気中濃度を 8 時間平均濃度として求めてみると 2.5 ×10^(-3) Bq/cm3 となる。ただし、18F の減衰は考慮しないものとする。ここで排気能力は毎時 500m3、排気フィルターによる 18F の捕集効率は 99% とする。次に、換気が停止した状態でフードから 10 MBq の 18F が作業室全体(5m×5m×2m)に均一に飛散したとすると、 室内の空気中濃度は 0.2 Bq/cm3 となる。作業者がそこで 10 分間作業した場合、作業者の受ける内部被ばく線量は 2.2 μSv と見積もられる。ただし、成人の呼吸量を毎分 20l とする。飛散した 18F の化学形はフッ化水素とし、告示別表2の第2欄に定められた吸入摂取した場合の実効線量係数は 5.4×10^(-8) mSv/Bq である。これらの排気中濃度及び作業室内での 空気中濃度の計算結果をそれぞれ告示別表2の第5欄の排気中濃度限度 4×10^(-3) Bq/cm3 及び告示別表2の第4欄の空気中濃度限度 4×10^(-1) Bq/cm3 と比べると、排気中濃度限度、空気中濃度限度ともに越えなかったことになる。

 

Ⅲ 解説
空気中放射性核種の濃度測定:放射性物質の吸入量を推定し、体内摂取の危険性を評価する目的と、空気汚染を起こす恐れのある作業をする時、換気など室内空気の管理、排気の管理のチェック目的で測定する。
排気濃度のの計算
排気中濃度 x は、Q[Bq]の 18F をフード内で扱う時、飛散率 ω、フィルタの透過率 φ (1-捕集率)、1時間あたりの排気量 V、排気時間 t とすると、
x = Q・ω・φ/(V・t)・・・①
x = 10[GBq]×(1/10)× (1-0.99)/(500×10^6[cm3/h]×8[h]) = 2.5×10^(-12)[GBq/cm3] = 2.5×10^(-3)[Bq/cm3]

 

換気停止時の空気中濃度の計算
10 MBq の 18F が作業室内全体(5m×5m×2m)に均一に飛散したとすると、10[MBq]/(500×500×200)[cm3] = 2.0×10^(-7)[MBq/cm3] = 0.20[Bq/cm3]
空気中濃度より、内部被ばく線量 E[mSv] を計算する。
e を実効線量係数[mSv/Bq](告示別表2の第2欄)、I を摂取量[Bq]とすると、
E = e × I・・・②
ここで、空気中濃度は 0.20[Bq/cm3]、呼吸量は 20[l/分](=20000)[cm3/分]、作業時間 10 分であるから、
I = 0.20 × 20000 × 10 = 4.0 × 10^4[Bq]
したがって②式より
E = 5.4 × 10^(-8)[mSv/Bq] × 4.0 × 10^4[Bq] = 21.6×10^(-4)[mSv] ≒ 2.2[μSv]

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

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