非密封放射線源を用いた時の汚染状況の確認作業の記述
Ⅰ
密封されていない 32P、51Cr、及び 241Am を使用する実験施設がある。これらの放射性同位元素を取り扱う上で、汚染検査に適切な方法を知っておく必要がある。直接法により汚染の検査を行うこととした。32P を検出するには端窓型GM管式サーベイメータが適している。51Cr は EC 壊変核種であり、 320 keV のγ線を放出する。51Cr を検出するには端窓型GM管式 サーベイメータでも検出できるが、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータの方が適している。241Am は α 壊変核種であり、 59.5 keV のγ線も放出するが、241Am を選択的に検出するにはZnS(Ag)シンチレーションサーベイメータが適している。
間接法による表面汚染密度の測定では、一定面積を拭き取った試料を測定する。一方、汚染箇所の放射能分布を測定するためにイメージングプレート(IP)が用いられる。IPはプラスチックフィルムにBaFBr:Eu2+ を塗布したもので、汚染箇所にIPを重ねて曝露させる。そのIPを読取機にセットし、He-Ne レーザーで照射すると、汚染箇所に対応するIPの位置から、汚染核種の放射能に比例した煇尽性発光が検出され、汚染の分布を知ることができる。
補足
密封されていない 32P、51Cr、及び 241Am を使用する実験施設において、汚染検査に適切な方法は以下の通りである。
直接法
32P:半減期は 14.26 日でβ線の最大エネルギーは 1.711 MeV と高い。β線を放出する核種では広窓型の GM 管が付いたサーベイメータが便利である。
51Cr:半減期は 27.7 日、軌道電子捕獲(100%)と低いエネルギー(0.32MeV)のγ線放射(9.92%)によって 51V(安定)となる。直接測定では、GMサーベイメータまたはNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータを利用する。NaI(Tl)シンチレータは、電離箱、GM計数管に比較して、非常に高い検出効率を持つγ線用サーベイメータを作ることが可能であり、γ線放出核種の検出に適している。
241Am:半減期は 432.2 年、アルファ壊変して 237Np となる。α線のエネルギーは 5.388 MeV、γ線のエネルギーは非常に低くわずか 59.5 keV である。α線を放出する核種は ZnS シンチレーション式または半導体サーベイメータが良い。
間接法
拭き取ったろ紙は核種に合わせて GM 管式、ガスフロー薄窓型比例計数管式、Znsシンチレーション式、半導体式のサーベイメータで測定できる。
イメージングプレート(IP):IP は最大数十cm 四方の大きさが販売されており、広い面積の2次元放射能分布を直接コンピュータに取り込むことが可能である。使用方法は、IP への暴露後にレーザーで IP 面上をスキャンし、光電子増倍管の信号強度をデジタル化することによって、2次元放射線強度分布が直接コンピュータに取り込まれる。
BaFBr:Eu2+:輝尽性蛍光体をプラスチックフィルムに塗布したイメージングプレートは、医療用のX線フィルムにかわるX線検出・記憶媒体として実用化された。IP はX線に感度があるだけでなく、3H、14C、32P などのβ線源、125I、99mTc などのγ線源やα線源に対して高い感度を有する。
Ⅱ
トレーサー実験に 51Cr を使用するため、K2CrO4 の熱中性子照射を計画した。0.01 モルの K2CrO4 を熱中性子フルエンス率 1 × 10^13 cm^(-3)・s^(-1) で1時間照射すると 40 MBq の 51Cr が生成すると見積もられる。ただし、標的核 50Cr の同位体存在度は 4.3%、中性子捕獲断面積は 16 バーン、51Cr の半減期は 28 日とする。ここで、照射時間 t が半減期 T に比べ非常に短い場合には、飽和係数は ln2/T × t で近似でき、 10^(-3) となる。また、この照射によって、試料からは同時に 42K が生成するが、この核種の半減期は 12 時間であるため、10日後には生成時の 10^(-6) になる。
解説
試料とする元素を t 時間照射して照射終了後得られる生成核の放射能(の強さ)A[Bq]は次の式より算出できる。
A = Nfσ[1 – e^(-λt)] = Nfσ[1 – (1/2)^(t/T)]・・・①
(f:照射粒子束密度[n/cm2 s]、σ:放射化断面積[barn]、N:試料元素の原子数、λ:生成核の壊変定数、T:生成核の半減期)
ここで式中の[1 – (1/2^(t/T))]を飽和係数 S という。
試料元素の質量を W グラム、その原子量を M 、その同位体存在度を θ とした時、原子数 N は次の式から算出できる。
N = [(θ W)/M] × 6.02 × 10^(23)・・・・②
K2Cr04 の熱中性子照射により以下の核反応が考えられる。
50Cr (n,γ) 51Cr、40K (n,γ) 41K
ホットアトム効果による K2CrO2 をターゲットにして高比放射能の 51Cr が (n,γ) 反応で作られる。K2CrO2 を原子炉で中性子照射すると、41K (n,γ) 42K、50Cr (n,γ) 51Cr によって 42K、51Cr が生成する。生成した 51Cr は反跳して結晶から外れ、K2CrO4 では Cr(Ⅵ) として存在していたが、Cr(Ⅲ)となり、陽イオンであるので、陰イオン交換樹脂に通すと陽イオンであるため吸着されず、流出液に 42K と 51Cr が認められる。42K は半減期 12.36 時間であり、中性子放射化分析法では 1525 keV のγ線が用いられる。
(1) K2CrO4 → 51Cr の放射線の計算
式②より 0.01 mol のK2CrO4 中の Cr の原子数 N は、
N = 0.01 × 6.02 × 10^(23) = 6.02 × 10^(21)
また、σ = 16 × 10^(-24) × 0.043 cm2 (同位体断面積を原子断面積に換算、1 バーン = 10^(-24)cm2)
f = 1 × 10^13 cm^(-2)s^(-1)
T = 28 日 = 672 時間
t = 1 時間
ここで、式①は、照射時間 t が半減期 T に比べ非常に短い場合には、飽和係数 S は (ln2/T)t で近似でき、
A = Nfσ × (ln2t/T)・・・③
S = (ln2/672) × 1 = 1.03 × 10^(-3) ≒ 10^(-3)
51Cr の放射能 A[Bq] は、式③より、
A = 1 × 10^(13) × 6.02 × 10^(21) × 16 × 10^(-24) × 0.043 × 10^(-3) = 4.3 × 10^7 Bq = 43 MBq
(2) 照射終了後 10 日後の 42K の放射能
A を終了直後の放射能、T を半減期とすると、照射終了 d 時間後の放射能 Ad は、
Ad = A × (1/2)^(d/T) = A × (1/2)^(240/12) = A × (1/2)^(20) = 1.05 × 10^(-6)A ≒ 10^(-6)
Ⅲ
原子炉で熱中性子照射した K2CrO4 が1辺 20 cm の立方体の運搬容器に入れて送られてきた。放射性核種は 51Cr のみであり、受取時の放射能は 400 MBq であった。K2CrO4 はガラス容器に封入され、厚さ 1 cm の鉛で囲まれ、運搬容器の中心に置かれていた。運搬容器の表面線量は最大で 3.4 μSv/h と見積もららえる。ただし、51Cr の 1 cm 線量当量率定数は 0,00547 μSv・m2・MBq^(-1)・h^(-1)、鉛の半価層は 0.165 cm とし、ガラスや運搬容器による吸収は考慮しない。 K2CrO4 の入ったガラス容器を取り出して、フード内に置いたとき、50 cm 離れた場所では、被ばく線量が 7.3 μSv/h となることから、作業時間も顧慮して取り扱うことにした。ただし、51Cr の実効線量率定数は 0.00458 μSv・m2・MBq^(-1)・h^(-1) とする。
この K2CrO4 を水に溶解し、陰イオン交換樹脂のカラムに通したところ、流出液にも放射能が検出された。流出した放射能は、照射中にホットアトム反応で生成した Cr3+ によるものであると考えられ、その比放射能はカラムに吸着した CrO4(2-) に比べ高い。
解説
容器によるγ線の遮蔽 → I = I0 × e^(-μx) = 400 × (1/2)^(1/0.165) ≒ 400 × (1/2)^6 = 6.25 MBq
運搬容器の表面線量 → D = ς・Q/r^2 = 0.00547 × 6.25/(10×10^(-2))^2 ≒ 3.4 μSv/h
使用の際の線量計算 → D = ς・Q/r^2 = 0.00458 × 400/(50×10^(-2))^2 ≒ 7.3 μSv/h
また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。