問1
4.0 pg の質量に相当するエネルギー[J]として最も近い値は。次のうちどれか。
1 1.5 × 10^1
2 3.6 × 10^1
3 1.5 × 10^2
4 3.6 × 10^2
5 1.5 × 10^3
解答 4
E = m・c^2 = 4.0 × 10^(-12)[g] × 10^(-3) × (3.0×10^8)^2 = 3.6 × 10^2 [J] となる。
問2
次の現象のうち、ニュートリノが放出されるものの組み合わせはどれか。
A α壊変
B β+ 壊変
C 電子捕獲壊変
D 内部転換
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 3
A 誤
B 正 p → n + ν + e という反応である。
C 正 p + e- → n + ν という反応である。
D 誤
問3
次の現象のうち、軌道電子が関係しないものはどれか
1 ラザフォード散乱
2 電子捕獲壊変
3 内部転換
4 オージエ効果
5 光電効果
解答 1
1 関係なし
ラザフォード散乱・・・α線または加速された陽イオンが、原子核近傍の強い電場によって散乱される現象。ラザフォードはα線の金の原子によって大角度に散乱されることを観測し、原子の構造は、中心に小さな原子核があり、その周り電子が飛び回っていることを発見した。
2 関係あり
電子捕獲壊変・・・軌道電子が原子核に取り込まれる壊変形式。
3 関係あり
内部転換・・・原子核の励起エネルギーが軌道電子に与えられ、内部転換電子が放出される壊変形式。
4 関係あり
オージエ効果・・・光電効果、軌道電子捕獲、内部転換等の現象で原子の軌道に空席が生じたとき、外側の軌道のエネルギー準位の高い電子がそこへ飛び込み、そのエネルギー差が特性X線として放出される際、この特性X線の エネルギーを別の軌道電子に与えて、一定のエネルギーを持つ電子を放出することがある。この時出てくる電子をオージエ電子、この現象をオージエ効果という。オージエ電子は線スペクトルである。 原子番号の大きい物質ほど特性X線の発生量が多く、オージエ電子の発生量が少なくなる。
5 関係あり
光電効果・・・光子が物質に入射すると、その原子の軌道電子に全エネルギーを与えて外へ追い出してしまう現象をいう。光子自身は原子に吸収されて消滅したことになる。その代わり電子を飛び出させる。飛び出る電子を 光電子という。入射光子エネルギーをhνとし、軌道電子の原子核との結合エネルギーをIとすると、電子のもらう運動エネルギー = 1/2(mv2) = hν – I である。光電効果は1 MeV 以下の光子で特によく起こり、 同じエネルギーの光子では、原子番号が大きいほどよく起こる。K軌道で最もよく起こり、 次いでL軌道が起こりやすい。光電効果の後に特性X線かオージエ電子が放出される。特性X線の発生する割合ωは蛍光収率といい、 オージエ効果によるオージエ電子放出は(1 – ω)となる。原子番号が大きいほど蛍光収率の割合が高くなり、エネルギーも高くなる。またKオージエ電子はLオージエ電子よりもエネルギーは高い。 特性X線もK > Lである。主に粒子性を示す。光電効果に対する原子あたりの断面積はZ^(4~5)である。
問4
K-X線に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A K 殻の内部転換が K-X 線の放出原因となり得る。
B K-X 線の放出は L-X 線の放出には関係しない。
C K-X 線のエネルギーは原子番号が大きいほど高くなる。
D 同じ原子番号の場合、K-X 線のエネルギーは L-X 線のエネルギーより高い。
1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて
解答 3
A:正 内部転換などによって K 殻電子が放出された空席を、L 殻などの軌道電子が遷移したときに放出される特性 X 線が K-X 線である。
B:誤 L 殻の電子が K 殻に遷移して K-X 線が放出された場合、L 殻に空席が生じるため、L-X 線の放出が起こりえる。
C:正 K 殻と L 殻の結合エネルギーの差は、原子番号が大きいほど大きい。
D:正 K 殻と L 殻の結合エネルギーの差は、L 殻と M 殻の結合エネルギーの差より大きい。
問5
56Fe の原子核の核子 1 個当たりの結合エネルギーは、水素原子における電子の結合エネルギーの何倍か。次のうち、最も近い値はどれか。
1 10^2
2 10^4
3 10^6
4 10^8
5 10^12
解答 3
56Fe の核子あたりの結合エネルギーは、約 8.8 MeV である。一方水素の K 殻電子の結合エネルギーは 約 13 eV であるから 8.8×10^6/13 = 6.8 × 10^5 倍となる。
問6
質量 m、電荷 q の重荷電粒子が、磁束密度 B の一様な磁場中を速度 v で磁場に垂直な面内を円運動している。このとき粒子が円運動を一周するのに要する時間は、次のうちどれか。
1 (2πm)/(qB)
2 (2πB)/(qm)
3 (2πmB)/(q)
4 (2πqm)/(B)
5 (2πmB)/(qv)
解答 1
速度 v の荷電粒子が速度が強度 B の磁場中を運動するときに受けるローレンツ力 F(B) は、F(B) = qvB である。一方、その荷電粒子(質量を m とする)が半径 r で円運動をするときに受ける遠心力 F(c) は F(c) = mv^2/r である。定常的に円運動をしているといううことは、F(B) = F(c) であるから、qvB = mv^2/r、すなわち v = rqB/m である。円周の長さは 2πr であるから、1 周に要する時間 T は、T = 2πr/v = 2πrm/rqB = 2πm/qB となる。
問7
次の加速器のうち、電子並びにイオンのいずれの加速にも適用できるものの組み合わせはどれか。
A コッククロフト・ワルトン型加速装置
B ファン・デ・グラーフ型加速装置
C サイクロトロン
D ベータトロン
E シンクロトロン
1 ABCのみ 2 ABEのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 CDEのみ
解答 2 それぞれの加速器の記述を下記に示す。
コッククロフト・ワルトン加速器
コンデンサーと整流器を組み合わせた倍圧整流回路を利用して、コンデンサーに高電圧を貯めて、コンデンサーから加速管に高電圧を印加する事で荷電粒子を加速する。
直流高電圧、静電場を使っているため、イオン・電子共に加速可能である。
バン・デ・グラーフ型加速器
超高圧タンク内に絶縁ベルトを回転させ、電荷を帯電球に貯めて、超高電圧を抵抗によって分圧し、加速管に電圧を加えて加速する。帯電球に電荷が貯まると、ベルト上の電荷と 斥力が作用し、ベルトの回転数が低下したり放電を発生する。超高圧ガスはは放電防止用窒素ガスである。
直流高電圧、静電場を使っているため、イオン・電子共に加速可能である。
ベータトロン
ベータトロンは交流励磁によって作られる磁界により、電子に一定の円運動させ、その磁場により生じる電場で電子を加速する。交流電場で行い、電子だけを加速させる。 また磁場の変化で誘起される電場で加速される。
マイクロトロン
一様な直線磁界で円軌道上を回転させ、マグネトロン又はクライストロンに夜3000MHzのマイクロ波の電場で電子を加速する。電子エネルギーが増大すると回転半径も大きくなる。
サイクロトロン
D電極の上下に磁石を設置し、D電極に+、ーの高周波を掛けると、荷電粒子は回転運動を始め、ギャップで加速され、回転半径は大きくなり、ビームとして取り出される。D電極上下の磁界は直流磁界(直流電磁石)で 高周波は一定周波数を用いギャップ間で加速する。高周波静磁場を用いてイオンのみを加速させる。現在は粒子線治療とPET薬剤生成加速器に用いられる。
シンクロトロン
シンクロトロンは増大する磁場を用いて荷電粒子を偏向電磁石で曲げて行う事で一定軌道に回転させ、その途中に高周波を掛けて加速する装置である。また電子軌道を収束電磁石で強制的に変える事で X線が発生する。シンクロトロンは電子とイオンの両方加速可能である。磁場は加速に伴って変化する。
問8
中性子を発生させる手法として、正しいものの組み合わせはどれか。
A Be に 2.8 MeV のγ線を照射する。
B Be に 5.3 MeV のα線を照射する。
C 3H ターゲットに 200keV の 2H ビームを照射する。
D 2H ターゲットに 2 MeV の 2H ビームを照射する。
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 5
中性子を発生させる方法を下記に示す。
中性子を発生させる方法
① 9Be(γ , n)8Be という反応で、約 1.7 MeV 以上のγ線があればこの反応を起こせる。
② 9Be(α , n)12C という反応で、5.3 MeV のα線を照射した場合、最大 10 MeV を超える中性子が発生する。
③ 3H(2H , n)4He という反応で、200 keV の2Hビームを照射した場合は、平均約14 MeV の中性子が放出される。この反応は中性子線源、核融合発電にも利用される。
④ 2H(2H , n)3He という反応で、2 MeV の2Hビームを照射した場合は、前方に約 5 MeV の中性子が放出される。
問9
235U が熱中性子を吸収して、95Sr、139Xe 及び中性子に分裂する反応において、1.0 g の 235U がすべてこの反応を起こすと、この反応により発生するエネルギー[kWh]はいくらか。最も近いものを選べ。ただし、95Sr、139Xe、235U の各原子核 1 個の質量[kg]を、それぞれ、151.61×10^(-27)、230.67×10^(-27)、390.29×10^(-27) とする。また、中性子 1 個の質量[kg]は 1.67×10^(-27) とする。
1 2.2 × 10^4
2 4.2 × 10^4
3 6.4 × 10^4
4 9.2 × 10^4
5 1.2 × 10^5
解答 1
核分裂で起こる質量差は次のようになる。質量差 = [235U] + [n] – ([95Sr] + [139Xe] + 2n) = [235U] – ([95Sr] + [139Xe] + [n]) = 0.34 × 10^(-27) kg となる。したがって一つの核分裂によって発生するエネルギー(E)は、c を光の速度として、E = mc^2 = 0.34 × 10^(-27) × (3.0×10^8)^2 = 3.06 × 10^(-11) J である。一方 1 g の 235U に含まれる原子数 N は、N = (1.0×10^(-3))/(390.29×10^(-27)) = 2.6 × 10^21 個 である。したがってすべての 235U が核分裂したときに得られるエネルギーは、 3.06 × 10^(-11) × 2.6 × 10^21 = 8.0 × 10^10 J である。1 kWh は、1 × 10^3 × 60 × 60 = 3.6 × 10^6 J であるから、エネルギーを kWh 単位に換算すれば (8.0×10^10)/(3.6×10^6) = 2.2 × 10^4 kWh となる。
問10
制動放射線に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 荷電粒子と軌道電子とのとの弾性散乱に起因する。
B オージエ電子と競合して放出される。
C エネルギー分布は線スペクトルとなる。
D 制動放射線の強度は標的物質の原子番号が大きいほど高い。
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 4
A 誤 制動放射線は、荷電粒子が原子核の近くを通過する際、原子核の持つ強い電場によって進行方向が大きく曲げられて生成する。
B 誤 オージエ電子と競合して放出されるのは特性X線である。
C 誤 エネルギー分布は連続スペクトルである。
D 正 原子番号の大きい原子核ほど周辺の電場は強いため、制動の強度は大きい。
問11
電子線に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 線衝突阻止能は入射した物質の原子番号に比例して大きくなる。
B 強度は、透過する物質の厚さに関して指数関数に減弱する。
C 同じエネルギーの陽子線に比べて制動放射によるエネルギー損失が大きい。
D 同じエネルギーの陽子線に比べて後方散乱の割合が大きい。
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 1
A 線衝突阻止能は、電子との衝突によるエネルギー損失であり、したがって線衝突阻止能は単位体積に含まれる電子数に比例する。よって単位体積あたりの原子数が同じと仮定すれば、線衝突阻止能は原子番号に比例する。
B β線は 0 から最大エネルギーまで連続的に分布するため、物質を通過するにつれてエネルギーまで連続的に分布するため、物質を通過するにつれてエネルギーの小さなβ線から停止し、最大飛程までの厚さの範囲では擬似的に指数関数に従って減衰する。一方、単一エネルギーの電子線では、最大飛程以下の厚さの物質の場合、散乱によってのみ様相は異なる。
C 電子は陽子に比べて質量が約 1/2000 と小さいため、原子核の電場によって進行方向が急激に曲げられる確率が高く、制動放射線によるエネルギー損失は無視できない。一方陽子線については、制動放射線の生成は多くの場合無視できる。
D 電子線は原子核だけでなく、軌道電子との衝突によって比較的大きく散乱されるため、後方散乱の確率は大きい。
問12
α粒子と重粒子が同じ速度の場合に、α粒子の阻止能(S(α))と重陽子の阻止能(S(d))の比(S(α)/S(d))として最も近い値はどれか。
1 1
2 2
3 4
4 8
5 16
解答 3
質量衝突阻止能 ∝ [(z^2 × e^4)/v^2] × [(n × Z)/ρ] ∝ [(z^2 × e^4)/v^2] × [(A × Z) × Na] z : 有効電荷 e : 電子。荷電粒子の速度が同じ場合、粒子の電荷の 2 乗に比例するため阻止能比は 2^2/1^2 = 4 となる。
問13
W 値に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 入射放射線のエネルギーにほとんど依存しない。
B 気体の電離エネルギーの 2 倍程度である。
C ヘリウムとヘリウムーアルゴン(0.13%)混合気体の W 値を比較すると、ヘリウムの方が大きい。
D アルゴンと空気の W 値を比較すると、アルゴンの方が大きい。
E 二次電子によって生じたイオン対は含めない。
1 ABCのみ 2 ABEのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 CDEのみ
解答 1
W 値に関する記述を下記に示す。
W値
イオン対または正孔対を1個生成するのに必要なエネルギーのことで、すべての荷電粒子に対して用いることができる。He:43 eV 空気:34 eV Ar:26eV C:18 eV Xe:22 eV Si:3.6 eV
A 正 α粒子と電子に対しても W 値の差は小さい。
B 正 電離エネルギーは、最も結合エネルギーの小さい最外殻の電子が原子から引き離されるのに必要なエネルギーである。一方 W 値は、荷電粒子が停止するまでの間に生成した電子ーイオン対数を電離電流によって測定し、荷電粒子の初期エネルギーを電子ーイオン対数で割った値である。したがって、W 値は電子とイオンの再結合、原子から飛び出した電子のエネルギーなどの損失を受けるため、電離エネルギーよりも大きい。
C 正 それぞれの W 値は He:43 eV 空気:34 eV Ar:26eV C:18 eV Xe:22 eV Si:3.6 eV
D 誤 それぞれの W 値は He:43 eV 空気:34 eV Ar:26eV C:18 eV Xe:22 eV Si:3.6 eV
E 誤 2 次電子のうち、それがさらに電離を生じさせるエネルギーを有する電子を δ(デルタ)線という。δ線による 2 次電離によるイオン対も、W 値の算定に含まれている。
問14
光電効果に関連する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 光電子のエネルギーは入射光子のエネルギーに比例する。
B 光電効果に伴って必ず特性X線が放出される。
C 光電効果の起こる確率(断面積)は入射光子のエネルギーとともに単調に変化する。
D 蛍光収率は原子番号によって決まる。
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 4
光電効果に関する記述を下記に示す。
光電効果
光子が物質に入射すると、その原子の軌道電子に全エネルギーを与えて外へ追い出してしまう現象をいう。光子自身は原子に吸収されて消滅したことになる。その代わり電子を飛び出させる。飛び出る電子を光電子という。入射光子エネルギーをhνとし、軌道電子の原子核との結合エネルギーをIとすると、電子のもらう運動エネルギー = 1/2(mv2) = hν – I である。光電効果は1 MeV 以下の光子で特によく起こり、同じエネルギーの光子では、原子番号が大きいほどよく起こる。K軌道で最もよく起こり、次いでL軌道が起こりやすい。光電効果の後に特性X線かオージエ電子が放出される。 特性X線の発生する割合ωは蛍光収率といい、オージエ効果によるオージエ電子放出は(1 – ω)となる。原子番号が大きいほど蛍光収率の割合が高くなり、エネルギーも高くなる。またKオージエ電子はLオージエ電子よりもエネルギーは高い。特性X線もK > Lである。主に粒子性を示す。
光電効果に対する原子あたりの断面積はZ^(4~5)である。
A 誤 光電子のエネルギー E(e) は、光子のエネルギーを E(γ)、軌道電子の結合エネルギーを E(b) とすれば、E(e) = E(γ) – E(b) である。
B 誤 特性X線ではなく、競合する過程であるオージエ効果によってオージエ電子が放出されることがある。
C 誤 例えば軌道電子の結合エネルギーの影響である K 吸収端、L 吸収端(断面積)は不連続に増加する。
D 正 何らかの相互作用によって生じた軌道電子の空席あたりに放出される特性X線の割合を蛍光収率と呼ぶ。蛍光収率は核外電子の軌道の性質のみに依存するため、原子番号によって決まる。
問15
コンプトン効果に関連する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 入射光子の波長と 90 度方向に散乱された光子の波長との差は、入射光子エネルギーや散乱物質によらず一定である。
B 物質の単位体積あたりに起こる確率は物質の電子密度に比例する。
C 入射光子エネルギーが高いほど後方散乱の割合が多くなる。
D コンプトン効果は軌道電子に対しては起こらない。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 1
コンプトン効果の記述を下記に示す。
コンプトン効果
波長λの光子が物質内の自由電子と衝突して進行方向が φ だけ変えられ、エネルギーを電子に与えて ψ なる方向へはじき出し、自らは波長λ’となる。これをコンプトン効果という。コンプトン効果は粒子性を示し、光子エネルギー1〜3 MeV の範囲で起こる。コンプトン散乱は非干渉性散乱であり、① 入射波長より散乱波長の方が長い。 ② 線減弱係数は原子番号Zに比例する。原子当たりの断面積は原子番号Zに比例する。コンプトン電子のエネルギーEeは Ee = E0/[1 + (E0/(1 – cosθ)mc^2)] で表すことができる。 ここで 60Co γ線についての補足。60Co γ線エネルギーでは全ての物質についてコンプトン散乱が優勢であり、水素を除いては、質量減弱計数はほぼ同じである。したがって、単位面積当たりの質量で表した遮蔽体の厚さ、すなわち密度×厚さの積が大きいほど遮蔽効果が大きくなる。
A 正 90 度方向にコンプトン散乱された場合の、散乱前後の波長の差はコンプトン波長 λ(c) と呼ばれ、h をプランク定数、m を粒子の静止質量、c の光速度として、λ(c) = h/(mc) である。λ(c) は粒子の質量だけに依存する。
B 正 コンプトン効果が重要な領域では、軌道電子の束縛エネルギーは光子のエネルギーに比較して小さく、無視することができる。この条件ではどの軌道電子も自由電子と同様にふるまうため、コンプトン効果の起こる確率は、照射される物質に含まれる電子数に比例する。すなわち、コンプトン散乱の単位体積あたりの発生確率は、単位体積当たりの電子数(電子密度)に比例する。
C 誤 入射光子エネルギーが高いほど、前方散乱の確率が大きくなる。
D 誤 コンプトン効果が重要な領域では、軌道電子は自由電子と同様に作用しコンプトン効果を起こす。
問16
コンプトン散乱において、散乱角 90 度における散乱光子の波長が入射光子の波長の 2 倍となる場合の入射光子のエネルギー[MeV]として最も近い値は、次のうちどれか。
1 0.26
2 0.51
3 0.76
4 1.01
5 1.51
解答 2
散乱光子のエネルギー E'(γ) は、入射光子エネルギーを E(γ)、電子の静止質量を m、光の速度を c、光子の散乱角度を θ とすれば、次式で与えられる。E'(γ) = (E(γ))/[1 + [(E(γ)/(mc^2)] × (1 – cosθ))]・・・① 光子の波長を λ、プランク定数を h とすれば、E(γ) = hc/λ の関係がある。散乱後の波長 λ’ は、題意より λ’ = 2λ であるから、E'(γ) = hc/λ’ = hc/(2λ) = E(γ)/2 である。θ = 90 度とともに ①に代入すると、E(γ) = (E(γ))/[1 + [(E(γ)/(mc^2)] × (1 – 0))] = mc^2 = 0.511 MeV となる。
問17
次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 0.1 MeV の光子による鉛の吸収線量においては、光電効果が最も大きく寄与する。
B 137Cs γ線 による鉄の吸収線量においては、光電効果が最も大きく寄与する。
C 60Co γ線による吸収線量においては、コンプトン効果が最も大きく寄与する。
D 3 MeV の光子による鉄の吸収線量においては、電子対生成が最も大きく寄与する。
解答 2
光電効果、コンプトン効果、電子対生成が起こる物質のエネルギー範囲との関係性を下記に示す。
光電効果、コンプトン効果、電子対生成が起こる物質のエネルギー範囲との関係性。
アルミニウム(Z=13)と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 50KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 50KeV ~ 20MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 20MeV]
水と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 30KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 30KeV ~ 30MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 30MeV]
鉄と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 100KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 100KeV ~ 10MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 10MeV]
鉛(Z=82)と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 600KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 600KeV ~ 5MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 5MeV]
問18
3.2 g の 32S がフルエンス率 200 cm^(-2)・s^(-1) の速中性子に照射されている。誘導される 32P の飽和放射線[Bq]として、最も近い値は、次のうちどれか。ただし 32S(n,p)32P の反応の断面積が 0.07b(バーン)とする。
1 0.42
2 0.70
3 0.84
4 0.98
5 1.3
解答 3
3.2 g の 32S に含まれる原子数 N は、N(A) をアボガドロ数(N(A) = 6.0 × 10^23) として、N = N(A) × 3.2/32 = 6.0 × 10^22 個である。従って反応率、すなわち飽和放射線 A(∞) は、A(∞) = σNφ = 0.07 × 10^(-24) × 6.0 × 10^22 × 200 = 0.84 Bq
問19
次の核種のうち、自発核分裂による中性子源として用いられるものはどれか。
1 226Ra
2 238U
3 239Pu
4 241Am
5 252Cf
解答 5
放射性同位体特性表を下記に示す。
放射性同位体特性表
核種 | 半減期 | β線のエネルギー(MeV) | γ線(X線)エネルギー(MeV) | 壊変形式 | 用途 |
---|---|---|---|---|---|
3H | 12.3y | 0.02 | ー | β- | ー |
11C | 20.4m | 0.96 | (0.51) | β+ , EC | ー |
14C | 5730y | 0.16 | ー | β- | 厚さ計(使われることは少ない) |
13N | 10.0m | 1.20 | ー | β+ | ー |
15O | 2.0m | 1.73 | (0.51) | β+ , EC | ー |
18F | 110m | 0.63 | (0.51) | β+ , EC | ー |
22Na | 2.6y | 0.55 | 1.28,(0.51) | β+ , EC | ー |
24Na | 15.0h | 1.39 | 1.37,2.75 | β- | ー |
30P | 2.5m | 3.2 | ー | β+ , EC | ー |
32P | 14.3d | 1.71 | ー | β- | ー |
33P | 25d | ー | 0.25 | β- | ー |
35S | 87.5d | 0.17 | ー | β- | ー |
42K | 12.4h | 2.00,3.52 | 1.52 | β- | ー |
43K | 22.3h | 0.83 | 0.32,0.62 | β- | ー |
45Ca | 164d | 0.26 | ー | β- | ー |
47Ca | 4.5d | 0.69 | 1.30 | β- | ー |
51Cr | 27.7d | ー | 0.32 | EC | ー |
54Mn | 312d | ー | 0.83 | EC | ー |
52Fe | 8.3h | 0.80 | (0.51) | β+ , EC | ー |
59Fe | 44.6d | 0.47,0.27 | 1.10,1.29 | β- | ー |
57Co | 271d | ー | 0.12,0.14 | EC | メスバウア線源 |
58Co | 70.8d | 0.48 | 0.81(0.51) | β+ , EC | ー |
60Co | 5.3y | 0.32 | 1.17,1.33 | β- | 密度計、レベル計、厚さ計・・・γ線を使用 |
62Cu | 9.7m | 2.93 | 1.17,0.88 | β+ , EC | ー |
67Ni | 100y | 0.067 | ー | β- | ガスクロマトECD検出器用線源 |
67Ga | 3.3d | ー | 0.09,0.19 | EC | ー |
68Ga | 1.1h | 1.90,0.82 | 1.08,(0.51) | β+ , EC | ー |
68Ge | 271d | ー | 0.009 | EC | ー |
75Se | 120d | ー | 0.27,0.14 | EC | ー |
75Br | 98m | ー | (0.51),1.7 | β+ , EC | ー |
76Br | 16.2h | ー | (0.51),3.6 | β+ , EC | ー |
82Br | 35.3h | 0.44 | 0.78,0.55 | β- | ー |
81mKr | 13s | ー | 0.19 | IT | ー |
85Kr | 10.7y | 0.69 | 0.51 | β- | 厚さ計(よく使われる核種) |
81Rb | 4.6h | 1.05 | 0.45(0.51) | β+ , EC | ー |
82Rb | 1.3m | 3.15 | 0.78 | β+ , EC | ー |
86Rb | 18.8d | 1.77,0.70 | 1.08 | β- | ー |
85Sr | 64.8d | ー | 0.51 | EC | ー |
87mSr | 2.8h | ー | 0.39 | IT,EC | ー |
90Sr | 28.8y | 0.55 | ー | β- | 厚さ計、タバコ量目計 |
87Y | 80.3h | 0.45 | 0.49 | β+ , EC | ー |
90Y | 64.1 | 2.28 | ー | β- | ー |
98Mo | 66.0h | 1.23,0.44 | 0.74,0.18 | β- | ー |
99mTc | 6.0h | ー | 0.14 | IT | 蛍光X線線源 |
109Cd | 463d | ー | 0.222 | EC | ー |
111In | 2.8d | ー | 0.17,0.25 | EC | ー |
113mIn | 1.7h | ー | 0.39 | IT | ー |
113Sn | 115.1d | ー | 0.26 | EC | ー |
123I | 13.2h | ー | 0.159 | EC | インビボ検査(脳血流・甲状腺機能・心機能)、チンチグラム、SPECT |
124I | 4.2d | 1.53,2.14 | 0.60 | β+ , EC | ー |
125I | 60.1d | ー | 0.036 | EC | インビトロ検査(ホルモン、腫瘍関連抗原などで診断)、ラジオイムノアッセイ(臨床分析においてタンパク質の標識)、前立腺癌 125I挿入小線源療法(125I を密封したシードを前立腺内に永久挿入) |
128I | 25.0分 | ー | ー | β+ , β- , EC | ホットアトム(ヨウ素原子を熱中性子で照射) 127I (n,γ) 128I → γ線放射、中性子放射化分析において高感度 |
129I | 1.57×10^7y | ー | 0.038 | β- | ー |
131I | 8.0d | 0.61 | 0.36 | β- | 甲状腺治療及び診断(甲状腺機能亢進症) |
132I | 2.3h | 1.19,2.14 | 0.67,0.77 | β- | ー |
133Xe | 5.3d | 0.35 | 0.08 | β- | ー |
133mXe | 2.2d | ー | 0.23 | IT | ー |
131Cs | 9.7d | ー | 0.03,0.004 | EC | ー |
137Cs | 30y | 0.51 | 0.66 | β- | 密度計、レベル計、厚さ計 |
137mBa | 2.6m | ー | 0.66 | IT | ー |
140La | 40.2h | 1.35 | 1.60,0.49 | β- | ー |
141Ce | 32.5d | 0.44 | 0.15 | β- | ー |
147Pm | 2.6y | 0.224 | ー | β- | 厚さ計 |
192Ir | 74.2d | 0.54,0.67 | 0.32,0.47 | β-,EC | 非破壊検査 |
198Au | 2.7d | 0.96 | 0.41 | β- | ー |
197Hg | 64.1h | ー | 0.08 | EC | ー |
201Tl | 73.0h | ー | 0.17,0.14 | EC | ー |
204Tl | 3.8y | 0.764 | ー | β-,EC | 厚さ計 |
203Pb | 52.0h | ー | 0.28 | β- | ー |
210Po | 140d | α線6.0 | ー | α | 煙感知器、静電除去 |
222Rn | 3.8d | α線5.5 | 0.51 | α | ー |
226Ra | 1622y | α線4.8 | 0.19 | α | ー |
241Am | 400y | α線6.0 | 0.06 | α | 煙感知器、静電除去・・・α線。蛍光X線、硫黄計、厚さ計・・・γ線 |
252Cf | 2.6y | α線6.12 | 0.04 | α,SF | 中性子水分計 |
問20
10 MeV の中性子が三重水素原子核(3H)との弾性衝突によって 0.1 MeV 以下のエネルギーになるための最小の衝突回数として正しい値は次のうちどれか。
1 2
2 3
3 4
4 5
5 6
解答 3
エネルギー E(0) の中性子(質量m)が 質量 M の物質に弾性衝突してエネルギー E(n) になった時のエネルギーも求め方は E(n) = [(M-m)/(M+m)]^2 × E(0) と表せる。ここの問いにおいて、m=1、M=3 であるので、E(n)=(1/4)E(0) となる。10MeV から 0.1MeV へは、0.1/10 = 1/100 のエネルギー減少である。3H との散乱では1回に最大 1/4 に減少するので、最低4回の衝突が必要となる。
問21
吸収線量の単位を SI 基本単位で表記した場合、正しいものは次のうちどれか。
1 m^2・s^(-2)・kg^(-1)
2 m・s^(-2)・kg^(-1)
3 m^2・s^(-1)
4 m^2・s^(-2)
5 A・s・kg^(-1)
解答 4
吸収線量は J・kg^(-1) = kg・m^2・s^(-2)・kg^(-1) = m^2・s^(-1) となる。またその他の放射線量と単位を下記の表に示す。
放射線量と単位
量 | 記号 | SI単位 | その他 |
---|---|---|---|
量子数 | N | I | ー |
フルエンス | Φ | m^(-2) | ー |
エネルギーフルエンス | φ | J × m^(-2) | ー |
断面積 | δ | m^2 | ー |
線減弱係数 | μ | m^(-1) | = 線エネルギー吸収係数 |
質量エネルギー転移係数 | μtr/ρ | m^2 × kg^(-1) | 光子との相互作用 |
質量エネルギー吸収係数 | μen/ρ | m^2 × kg^(-1) | ー |
質量阻止能 | S/ρ | J × m^2 × kg^(-1) | 荷電粒子との相互作用 |
線エネルギー付与 | LΔ | J × m^(-1) | ー |
質量減弱係数 | μ/ρ | m^2 × kg^(-1) | 物質には依存しない |
カーマ | K | J × kg^(-1) | ー |
照射線量 | X | C × kg^(-1) | ー |
エネルギー付与 | εi | J | 荷電粒子に対して用いる |
吸収線量 | D | J × kg^(-1) | ー |
放射能 | A | Bq | ー |
問22
次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 放射能は単位時間当たりに放出される放射線の数をいう。
B 吸収線量は任意の電離放射線に用いられる。
C カーマは任意の電離放射線に用いられる。
D 照射線量は空気に対してのみ定義される。
解答 4
A 誤 放射能(Bq)は、単位時間当たりに壊変する原子数である。
B 正 吸収線量(Gy)は、任意の電離放射線、任意の物質に対して用いられる。
C 誤 カーマ(Gy)は、光子や中性子のような、電荷を持たない電離放射線に対して用いられる。
D 正 照射線量(C・kg^(-1))は、光子が空気を照射するときに定義される量である。
問23
次の検出器のうち、α線の測定に用いられないものの組み合わせはどれか。
A ガスフロー式 2π比例計数管
B NaI(Tl)シンチレーション検出器
C Ge 半導体検出器
D プラスチックシンチレーション検出器
E 表面障壁型 Si 半導体検出器
1 AとD 2 AとE 3 BとD 4 BとE 5 CとD
解答 3
A ガスフロー式 2π比例計数管・・・α線は飛程が短く、ほとんどの場合計数ガス中でエネルギーをすべて失うため、測定が可能である。
B NaI(Tl)シンチレーション検出器・・・NaI は潮解性があるため、アルミニウムなどの密封容器に納められている。α線は容器を通過できないため、測定できない。
C Ge 半導体検出器・・・Ge 半導体検出器は真空容器中に入れて冷却されている。α線は容器を通過できないため、測定できない。
D プラスチックシンチレーション検出器・・・極めて薄い遮光膜で覆われたプラスチックシンチレータは、α線を検出可能である。
E 表面障壁型 Si 半導体検出器・・・主にα線用の高いエネルギー分解能を有する検出器である。
問24
容器 1 L、圧力 5 気圧の空気充填電離箱に 10 kBq のトリチウムガス(β線平均エネルギー:5.7 keV)を注入したとき、得られる飽和電流[pA]として、最も近い値は次のうちどれか。ただし、β線に対する空気の W 値は 34 eV で、この値はトリチウムガスの注入により変わらないものとする。また、壁効果は無視する。
1 0.13
2 0.27
3 0.52
4 2.6
5 5.7
解答 2
トリチウムは 100 % の割合で β- 壊変する核種であるから、10 kBq のトリチウムが毎秒空気に与えるエネルギーは、5.7 × 10 × 10^3 = 5.7 × 10^4 keV・s^(-1) = 5.7 × 10^7 eV・s^(-1) となる。したがって毎秒生成するイオン対数は、5.7×10^7/34 = 1.7 × 10^6 個・s^(-1) である。素電荷は 1.6 × 10^(-19) C であるから、飽和電流値は、1.7 × 10^6 × 1.6 × 10^(-19) = 2.7 × 10^(-13) A = 0.27 pA となる。
問25
ダイノード 10 段の光電子増倍管の利得が 1.0 × 10^6 である場合、各ダイノードの平均の電子増倍率はいくらか。次のうちから最も近いものを選べ。
1 3.0
2 3.5
3 4.0
4 4.5
5 5.0
解答 3 1 段あたりの増倍率を x とすると、題意より x^10 = 1.0 × 10^6 であり、すなわち、x^5 = 10^3 となることがわかる。2^10 = 1024 であるので x^5 ≒ 2^10、すなわち x ≒ 2^2 = 4 となる。
問26
目的とする量 P は、それぞれ独立の測定値 X、Y により、P = X/Y の関係で与えられる。X、Y の標準偏差をそれぞれ σ(X)、σ(Y) とすると、P の標準偏差として正しいものは、次のうちどれか。
解答 1 P の標準偏差 σ(P) は次のようになる。
問27
γ線スペクトロメトリによる放射能測定において、次の光子の対のうち、サム効果を考慮する必要があるものの正しい組み合わせはどれか。
A 24Na 線源からの 1.369 MeV のγ線と 2.754 MeV の γ線
B 57Co 線源からの 0.122 MeV のγ線と 0.136 MeV の γ線
C 60Co 線源からの 1.173 MeV のγ線と 1.333 MeV の γ線
D 134Cs 線源からの 0.605 MeV のγ線と 0.796 MeV の γ線
E 137Cs 線源からの 0.662 MeV のγ線と 0.032 MeV の K-X(Ba)線
1 ABEのみ 2 ACDのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 BCEのみ
解答 2
励起状態にある原子核の下方遷移(高いエネルギー準位から低いエネルギー準位に遷移すること)がカスケード(「段階状の滝」という意味)的に生じて、複数のγ線が極めて短時間に放出され、それらがともに検出されると、検出器の出力波高は複数のγ線によるエネルギー吸収の和に相当する高さになる。このような現象をコインシデンス・サム効果と呼び、全吸収ピークの検出効率は、γ線が単独で放出される場合に比べて低下する。サム効果はγ線に対する検出効率が高いと顕著になり、特に低エネルギーγ線を井戸型検出器を用いて測定した場合は著しい。 なお、偶発同時計数(別々の原子核から放出されたγ線が、偶然同時に検出される現象)と異なり、サム効果の発生頻度は線源強度に依存しない。
A 正 2 つのγ線は、24Mg の 1.369 MeV の準位(半減期 1.35 ps)を挟んでカスケードに放出されるため、サム効果を生じる。
B 誤 2 つのγ線は、57Fe の 0.136 MeV の準位から、どちらかが選択されて放出されるため、サム効果を生じない。
C 正 2 つのγ線は、60Ni の 1.333 MeV の準位(半減期 0.713 ps)を挟んでカスケードに放出されるため、サム効果を生じる。
D 正 2 つのγ線は、134Ba の 0.605 keV の準位(半減期 5.12 ps)を挟んでカスケードに放出されるため、サム効果を生じる。
D 誤 0.032 MeV の K-X(Ba)線は、137Ba の 0.662 MeV の準位が内部転換によって K 殻電子を放出させたときに生じる。0.662 MeV のγ線放出と内部転換は、どちらかが選択されて起きるため、サム効果は生じない。
問28
放射線源を用いて得た比例計数管の出力パルス信号を分解時間 50 μs の電気回路を通して計数したところ、計数率は 60 kcpm であった。次に、この回路の分解時間を 150 μs に変えたとき、計数率[kcpm] として最も近い値は、次のうちどれか。
1 45
2 48
3 50
4 55
5 58
解答 4
毎秒の計数率 n は、60 × 10^3/60 = 1.0 × 10^3 s^(-1) である。分解時間を補正した計数率 n(0) は、n(0) = n/(1-nτ) = 10^3/(1-0.05) = 1053 s^(-1) である。n(0) = n/(1-nτ) より n = n(0)/(1-n(0)τ) が得られる。したがって分解時間を 150 μs に変更したときの計数率 n’ は次の式で計算できる。n’ = 1053/(1+1053×150×10^(-6)) = 909 s^(-1) = 909 × 60 × 10^(-3) kcpm = 54.5 kcpm
問29
GM 計数管の計数値の相対標準偏差が 5 % になる計数に最も近い値は、次のうちどれか。
1 200
2 400
3 600
4 800
5 1000
解答 2
計数が x のときの標準偏差 σ は √x であるから、題意より √x/x = 0.05、すなわち、 x = 400 である。
問30
1 mg の 137Cs を含む点状線源がある。この点状線源から 2 m 離れた位置における 1 cm 線量当量率[μSv・h^(-1)]として最も近い値は次のうちどれか。ただし、137Cs 線源に対する 1 cm 線量当量率定数を 0.093 μSv・m^2・MBq^(-1)・h^(-1) とする。
1 11
2 23
3 64
4 74
5 83
解答 4
137Cs 1 mg の 原子数 N は、アボガドロ数 N(A) を、N(A) = 6.0 × 10^23 として、次式で計算される。N = 6.0 × 10^23 × (1×10^(-3)/137) = 4.4 × 10^18。137Cs の半減期 T は約 30 年であるから、壊変定数 λ は次の値となる。λ = ln2/T = 0.693/(30×365×24×60×60) = 7.3 × 10^(-10) s^(-1)。したがって、137Cs の放射能 A は次式で計算できる。A = λN = 7.3 × 10^(-10) × 4.4 × 10^18 = 3.2 × 10^9 Bq = 3200 MBq。 よって 2 m 離れた位置における線量率 H は、次のようになる。H = 0.093 × (3200/2^2) = 74 μSv/h
中性子エネルギー
中性子はそのエネルギーにより熱中性子、熱外中性子、熱中性子等に分類される。原子核に中性子が捕獲される捕獲反応は熱中性子や熱外中性子等の「遅い中性子」で主として起こり、質量数が 1 増加した原子核が 生成される。核内の中性子の結合エネルギーがおよそ 8 MeV であるので、この反応は発熱反応であり、エネルギーの低い中性子によってエネルギーの高い励起状態の核が形成される。 この励起状態からγ線が放出される。カドミウムは熱中性子に対する捕獲断面積が 2520 b(バーン)と大きいことが知られ、熱中性子の遮蔽や発生するγ線を利用して熱中性子の検出 に用いられる。この他に 3He(n , p)3H , 6Li(n , α)3H , 10B(n , α)7Li 等の核変換を起こす反応があり、比較的大きなQ値を持つため、熱中性子の検出に利用される。これらは荷電粒子放出 反応と呼ばれ、通例は高エネルギー中性子の吸熱反応として起こるが、エネルギーの低い中性子でもクーロン障壁の小さい軽い核に対して起こり得る。 捕獲反応及び荷電粒子放出反応は吸収反応と総称され、これに核分裂反応や中性子放出反応も含まれる。さらに中性子のエネルギーが大きくなるに従い、 反応の断面積は中性子の速度に逆比例する振る舞いを見せる。また、中性子のある特定のエネルギーで捕獲反応が強く起こることがあり、これを共鳴吸収という。
また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。
https://www.radiologist-study.org