問1
1 MeV の電子がタングステンターゲットに当たった場合、制動放射線の最短波長はいくらか。次のうちから最も近い値を選べ。
1 0.6 pm
2 1.2 pm
3 18 pm
4 0.6 nm
5 3.3 nm
解答 2
デュエヌ・フントの法則より、λ(min) = 1.24/(1×10^3) (nm) = 1.24 (pm)
問2
次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 1 fm は 1 × 10^(-15) m である。
B 1 nSv は 1 × 10^(-10) Sv である。
C 1 GeV は 1 × 10^9 eV である。
D 1 TBq は 1 × 10^10 Bq である。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 2
A 正
B 誤 1 × 10^(-9) Sv
C 正
D 誤 1 × 10^12 Bq
問3
次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 核子とは中性子、陽子及び中間子をいう。
B 原子核の体積は質量数にほぼ比例する。
C 核子間の結合は強い相互作用によるものである。
D 核子あたりの結合エネルギーは質量数が大きいほど高くなる。
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 3
A 誤 中間子は含まない。
B 正
C 正
D 誤 質量数約 60 近辺が最もた高い。
問4
内部転換電子に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 運動エネルギーは競合するγ線のエネルギーと等しい。
B K殻転換よりL殻転換において運動エネルギーは高い。
C 運動エネルギーの分布は線スペクトルを示す。
D 特性X線の放出と競合して起きる。
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 3
A:誤 γ線のエネルギーよりも軌道電子の束縛エネルギー分だけ小さい。
B:正
C:正
D:誤 γ線放出と競合して起きる。
問5
次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 原子番号は原子核内の中性子の数に等しい。
B X線より波長の短い電磁波をγ線と呼ぶ。
C 特性X線が原子核から放出されることはない。
D 内部転換が起きるとオージエ電子が放出されることがある。
1 AとC 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 2
A 誤 陽子数に等しい。
B 誤 原子核あるいは素粒子のエネルギー準位間の遷移や、素粒子の対消滅に伴って放出される光子をγ線といい、それ以外をX線という。
C 正
D 正 軌道電子の放出に伴って生じた空席を埋める際に、特性X線の放出と競合してオージエ電子が放出される。
問6
次のうち、βーγ同時計数法により放射能を測定できる核種の組み合わせはどれか。
A 32P
B 24Na
C 55Fe
D 60Co
E 137Cs
1 AとB 2 AとC 3 BとD 4 CとE 5 DとE
解答 3 参考までに下の表に最低限覚えておくべき放射性同位体特性表を示す。
A 誤 32P・・・β- 壊変のみでγ線を放出しないため適用できない。
B 正 24Na・・・β- 壊変の直後に、2.75 MeV、1.37 MeV のγ線をそれぞれほぼ 100% 放出する。
C 誤 55Fe・・・EC 壊変のため適用できない。
D 正 60Co・・・β- 壊変の直後に、1.17 MeV、1.33 MeV のγ線をそれぞれほぼ 100% 放出する。
E 誤 137Cs・・・β- 壊変するが、γ線は半減期 2.55 分の 137mBa から放出され、β-線放出と同時でないため適用できない。
放射性同位体特性表
核種 | 半減期 | β線のエネルギー(MeV) | γ線(X線)エネルギー(MeV) | 壊変形式 | 用途 |
---|---|---|---|---|---|
3H | 12.3y | 0.02 | ー | β- | ー |
11C | 20.4m | 0.96 | (0.51) | β+ , EC | ー |
14C | 5730y | 0.16 | ー | β- | 厚さ計(使われることは少ない) |
13N | 10.0m | 1.20 | ー | β+ | ー |
15O | 2.0m | 1.73 | (0.51) | β+ , EC | ー |
18F | 110m | 0.63 | (0.51) | β+ , EC | ー |
22Na | 2.6y | 0.55 | 1.28,(0.51) | β+ , EC | ー |
24Na | 15.0h | 1.39 | 1.37,2.75 | β- | ー |
30P | 2.5m | 3.2 | ー | β+ , EC | ー |
32P | 14.3d | 1.71 | ー | β- | ー |
33P | 25d | ー | 0.25 | β- | ー |
35S | 87.5d | 0.17 | ー | β- | ー |
42K | 12.4h | 2.00,3.52 | 1.52 | β- | ー |
43K | 22.3h | 0.83 | 0.32,0.62 | β- | ー |
45Ca | 164d | 0.26 | ー | β- | ー |
47Ca | 4.5d | 0.69 | 1.30 | β- | ー |
51Cr | 27.7d | ー | 0.32 | EC | ー |
54Mn | 312d | ー | 0.83 | EC | ー |
52Fe | 8.3h | 0.80 | (0.51) | β+ , EC | ー |
59Fe | 44.6d | 0.47,0.27 | 1.10,1.29 | β- | ー |
57Co | 271d | ー | 0.12,0.14 | EC | メスバウア線源 |
58Co | 70.8d | 0.48 | 0.81(0.51) | β+ , EC | ー |
60Co | 5.3y | 0.32 | 1.17,1.33 | β- | 密度計、レベル計、厚さ計・・・γ線を使用 |
62Cu | 9.7m | 2.93 | 1.17,0.88 | β+ , EC | ー |
67Ni | 100y | 0.067 | ー | β- | ガスクロマトECD検出器用線源 |
67Ga | 3.3d | ー | 0.09,0.19 | EC | ー |
68Ga | 1.1h | 1.90,0.82 | 1.08,(0.51) | β+ , EC | ー |
68Ge | 271d | ー | 0.009 | EC | ー |
75Se | 120d | ー | 0.27,0.14 | EC | ー |
75Br | 98m | ー | (0.51),1.7 | β+ , EC | ー |
76Br | 16.2h | ー | (0.51),3.6 | β+ , EC | ー |
82Br | 35.3h | 0.44 | 0.78,0.55 | β- | ー |
81mKr | 13s | ー | 0.19 | IT | ー |
85Kr | 10.7y | 0.69 | 0.51 | β- | 厚さ計(よく使われる核種) |
81Rb | 4.6h | 1.05 | 0.45(0.51) | β+ , EC | ー |
82Rb | 1.3m | 3.15 | 0.78 | β+ , EC | ー |
86Rb | 18.8d | 1.77,0.70 | 1.08 | β- | ー |
85Sr | 64.8d | ー | 0.51 | EC | ー |
87mSr | 2.8h | ー | 0.39 | IT,EC | ー |
90Sr | 28.8y | 0.55 | ー | β- | 厚さ計、タバコ量目計 |
87Y | 80.3h | 0.45 | 0.49 | β+ , EC | ー |
90Y | 64.1 | 2.28 | ー | β- | ー |
98Mo | 66.0h | 1.23,0.44 | 0.74,0.18 | β- | ー |
99mTc | 6.0h | ー | 0.14 | IT | 蛍光X線線源 |
109Cd | 463d | ー | 0.222 | EC | ー |
111In | 2.8d | ー | 0.17,0.25 | EC | ー |
113mIn | 1.7h | ー | 0.39 | IT | ー |
113Sn | 115.1d | ー | 0.26 | EC | ー |
123I | 13.2h | ー | 0.159 | EC | インビボ検査(脳血流・甲状腺機能・心機能)、チンチグラム、SPECT |
124I | 4.2d | 1.53,2.14 | 0.60 | β+ , EC | ー |
125I | 60.1d | ー | 0.036 | EC | インビトロ検査(ホルモン、腫瘍関連抗原などで診断)、ラジオイムノアッセイ(臨床分析においてタンパク質の標識)、前立腺癌 125I挿入小線源療法(125I を密封したシードを前立腺内に永久挿入) |
128I | 25.0分 | ー | ー | β+ , β- , EC | ホットアトム(ヨウ素原子を熱中性子で照射) 127I (n,γ) 128I → γ線放射、中性子放射化分析において高感度 |
129I | 1.57×10^7y | ー | 0.038 | β- | ー |
131I | 8.0d | 0.61 | 0.36 | β- | 甲状腺治療及び診断(甲状腺機能亢進症) |
132I | 2.3h | 1.19,2.14 | 0.67,0.77 | β- | ー |
133Xe | 5.3d | 0.35 | 0.08 | β- | ー |
133mXe | 2.2d | ー | 0.23 | IT | ー |
131Cs | 9.7d | ー | 0.03,0.004 | EC | ー |
137Cs | 30y | 0.51 | 0.66 | β- | 密度計、レベル計、厚さ計 |
137mBa | 2.6m | ー | 0.66 | IT | ー |
140La | 40.2h | 1.35 | 1.60,0.49 | β- | ー |
141Ce | 32.5d | 0.44 | 0.15 | β- | ー |
147Pm | 2.6y | 0.224 | ー | β- | 厚さ計 |
192Ir | 74.2d | 0.54,0.67 | 0.32,0.47 | β-,EC | 非破壊検査 |
198Au | 2.7d | 0.96 | 0.41 | β- | ー |
197Hg | 64.1h | ー | 0.08 | EC | ー |
201Tl | 73.0h | ー | 0.17,0.14 | EC | ー |
204Tl | 3.8y | 0.764 | ー | β-,EC | 厚さ計 |
203Pb | 52.0h | ー | 0.28 | β- | ー |
210Po | 140d | α線6.0 | ー | α | 煙感知器、静電除去 |
222Rn | 3.8d | α線5.5 | 0.51 | α | ー |
226Ra | 1622y | α線4.8 | 0.19 | α | ー |
241Am | 400y | α線6.0 | 0.06 | α | 煙感知器、静電除去・・・α線。蛍光X線、硫黄計、厚さ計・・・γ線 |
252Cf | 2.6y | α線6.12 | 0.04 | α,SF | 中性子水分計 |
問7
次の過程のうち、放出される電子が連続スペクトルを示すものの組み合わせはどれか。
A 内部転換
B 光電効果
C 電子対生成
D コンプトン効果
E オージエ効果
1 AとB 2 AとE 3 BとD 4 CとD 5 CとE
解答 4
線スペクトル・・・原子が放射または吸収する光などの電磁波を通して見たときに線状にに見えるスペクトル。線スペクトルにはα線、γ線、オージエ電子、特性X線、内部転換電子、光電子がある。
連続スペクトル・・・ある波長範囲にわたって連続的に分布したスペクトル。分光装置の性能をいくら高めても線スペクトルに分解できないもので、連続スペクトルにはβ-、β+、コンプトン電子や散乱光子、制動放射線、核分裂エネルギー(252Cf などから放出される中性子)、マックス ウェル・ボルツマン分布(0.025 eV のエネルギーを有する熱中性子)に従う連続分布がある。
問8
次のうち、質量数に変化がなく、原子番号が 1 増加する過程はどれか。
1 α壊変
2 β-壊変
3 β+壊変
4 γ遷移
5 電子捕獲
解答 2
壊変形式 | 原子番号の変化 | 質量数の変化 |
---|---|---|
α壊変 | -2 | -4 |
β-壊変 | +1 | 0 |
β+壊変 | -1 | 0 |
γ遷移 | 0 | 0 |
電子捕獲 | -1 | 0 |
問9
陽子(p)と 4He(2+) を 2 MV の電位差で加速した時、2つの粒子の速度の比 (v(p)/v(He)) は次のうちどれか。
1 1/2
2 1
3 √2
4 2
5 4
解答 3 エネルギーは、p[1H(1+)]:2 MeV、4He(2+):4 MeV。E = (1/2)・m・v^2 より、v = √(2E/m)。p と 4H(2+) の質量は、u を原子質量単位としてほぼ 1u と 4u である。したがって、v(p)/v(He) = √(2×2/1)/√(2×4/4) = √4/√2 = √2 となる。
問10
次の組み合わせのうち、正しいものはどれか。
A ベータトロン ー 交流磁場
B 陽電子形加速器 ー アルバレ型円筒空洞共振器
C ファン・デ・グラーフ型加速器 ー 高周波電圧
D シンクロトロン ー 静磁場
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 1
下記に加速器の特徴を示す。
線形加速器
線形加速器は直線状に並べられた多数の電極に粒子の速度に合わせた高周波の高電圧を印加することによって加速する。
コッククロフト・ワルトン加速器
コンデンサーと整流器を組み合わせた倍圧整流回路を利用して、コンデンサーに高電圧を貯めて、コンデンサーから加速管に高電圧を印加する事で荷電粒子を加速する。直流高電圧、静電場を使っているため、イオン・電子共に加速可能である。
バン・デ・グラーフ型加速器
超高圧タンク内に絶縁ベルトを回転させ、電荷を帯電球に貯めて、超高電圧を抵抗によって分圧し、加速管に電圧を加えて加速する。帯電球に電荷が貯まると、ベルト上の電荷と斥力が作用し、ベルトの回転数が低下したり放電を発生する。超高圧ガスはは放電防止用窒素ガスである。直流高電圧、静電場を使っているため、イオン・電子共に加速可能である。
ベータトロン
ベータトロンは交流励磁によって作られる磁界により、電子に一定の円運動させ、その磁場により生じる電場で電子を加速する。交流電場で行い、電子だけを加速させる。また磁場の変化で誘起される電場で加速される。
マイクロトロン
一様な直線磁界で円軌道上を回転させ、マグネトロン又はクライストロンに夜3000MHzのマイクロ波の電場で電子を加速する。電子エネルギーが増大すると回転半径も大きくなる。
サイクロトロン
D電極の上下に磁石を設置し、D電極に+、ーの高周波を掛けると、荷電粒子は回転運動を始め、ギャップで加速され、回転半径は大きくなり、ビームとして取り出される。D電極上下の磁界は直流磁界(直流電磁石)で高周波は一定周波数を用いギャップ間で加速する。高周波静磁場を用いてイオンのみを加速させる。現在は粒子線治療とPET薬剤生成加速器に用いられる。
シンクロトロン
シンクロトロンは増大する磁場を用いて荷電粒子を偏向電磁石で曲げて行う事で一定軌道に回転させ、その途中に高周波を掛けて加速する装置である。また電子軌道を収束電磁石で強制的に変える事でX線が発生する。シンクロトロンは電子とイオンの両方加速可能である。磁場は加速に伴って変化する。
問11
質量数 200 の原子核が 4 MeV のα線を放出して壊変するとき、生成核の反跳エネルギー[MeV]として最も近い値はどれか。
1 0.04
2 0.08
3 0.1
4 0.2
5 0.4
解答 2
質量数 200 の原子核の質量を M(≒ 200u)、反跳速度を V、エネルギーを E、α線の原子核の質量、反跳速度、エネルギーをそれぞれ m(≒ 4u)、v、e(= 4 MeV)とおくと、運動量保存則より、M・V = m・v、したがって V = (m/M)・v である。反跳エネルギーは、 E = (1/2)・M・V^2 = (1/2)・M・(m・v/M)^2 = (m/M) × (1/2)・m・v^2 = (m/M) × e = (4/200) × 4 = 0.08 (MeV)
問12
重荷電粒子に対する物質の阻止能[keV/m]に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
1 粒子の電荷の2乗に比例する。
2 粒子の速度に依存する。
3 同じ速度の粒子に対して、粒子の質量に反比例する。
4 物質の単位体積当たりの原子の個数に比例する。
5 物質の原子番号に比例する。
解答 3
質量衝突阻止能 ∝ [(z^2 × e^4)/v^2] × [(n × Z)/ρ] ∝ [(z^2 × e^4)/v^2] × [(A × Z) × Na]
z : 有効電荷 e : 電子
1 正
2 正
3 誤 粒子の質量に依存しない。
4 正
5 正
問13
チェレンコフ光に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 荷電粒子が結晶の格子面に沿って入射したときに放出される光のことである。
B 荷電粒子が物質中での光速より速く進むときに放射される光である。
C 荷電粒子が物質中で曲げられるときひ放出される光である。
D 荷電粒子が物質を通過する際に生じる分極に伴って生じる光である。
解答 5
ある誘導体内に荷電粒子が入射した時、その物質中の光速度 C より粒子速度 v が大きい時に可視光線が発生する。高速電子が誘導体中OP(開いた光弦)に進行すると入射粒子の電界により誘導体は分極する。 分極が元に戻る時、そのエネルギーを光(電磁波)として放出する。水中でチェレンコフ光が発生するためには、二次電子の速度が C/1.33 以上(C:真空中の光速 1.33:水の屈折率)運動エネルギーにして 0.26 MeV 以上であることが必要。コンプトンの場合最大0.8 MeV のエネルギーであるため 発生する。β線エネルギーであれば0.26 MeV であれば発生する。 511keV × [(1/(√1-(v/c)^2))-1] = 511kev × [(1/(√1-(1/n)^2))-1] = 511kev × [1-(1/(√1-(1/1.33)^2))-1] = 264kev
問14
水(屈折率 1.33)中を電子が通過する場合、チェレンコフ光が発生するための電子の運動エネルギー[keV]として、最小の値(しきいエネルギー)に最も近いものは次のうちどれか。
1 90
2 150
3 210
4 270
5 330
解答 4
水中でチェレンコフ光が発生するためには、二次電子の速度が C/1.33 以上(C:真空中の光速 1.33:水の屈折率)運動エネルギーにして 0.26 MeV 以上であることが必要。コンプトンの場合最大0.8 MeV のエネルギーであるため 発生する。β線エネルギーであれば0.26 MeV であれば発生する。 511keV × [(1/(√1-(v/c)^2))-1] = 511kev × [(1/(√1-(1/n)^2))-1] = 511kev × [1-(1/(√1-(1/1.33)^2))-1] = 264kev
問15
γ線と物質との相互作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 光電効果ではγ線のエネルギーがすべて光電子に転移する。
B コンプトン効果の断面積は物質の原子番号に比例して増加する。
C コンプトン効果ではγ線のエネルギーが高いほど前方に散乱されやすい。
D K吸収端はコンプトン効果に起因して生じる。
1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD
解答 4
光電効果、コンプトン効果、電子対生成の記述を下記に示す。
光電効果
光子が物質に入射すると、その原子の軌道電子に全エネルギーを与えて外へ追い出してしまう現象をいう。光子自身は原子に吸収されて消滅したことになる。その代わり電子を飛び出させる。飛び出る電子を光電子という。入射光子エネルギーをhνとし、軌道電子の原子核との結合エネルギーをIとすると、電子のもらう運動エネルギー = 1/2(mv2) = hν – I である。光電効果は1 MeV 以下の光子で特によく起こり、 同じエネルギーの光子では、原子番号が大きいほどよく起こる。K軌道で最もよく起こり、次いでL軌道が起こりやすい。光電効果の後に特性X線かオージエ電子が放出される。特性X線の発生する割合ωは蛍光収率といい、オージエ効果によるオージエ電子放出は(1 – ω)となる。原子番号が大きいほど蛍光収率の割合が高くなり、エネルギーも高くなる。またKオージエ電子はLオージエ電子よりもエネルギーは高い。特性X線もK > Lである。主に粒子性を示す。光電効果に対する原子あたりの断面積はZ^(4~5)である。
光電効果に関する例題
0.1 MeV の光子がタングステンと光電効果を起こしたときのK軌道電子とKα-X線のエネルギーを求めよ。K軌道、L軌道の結合エネルギーは69.5 KeV、10.9 KeVとする。
光電子エネルギー 100 – 69.5 = 30.5 KeV
Kα-X線 69.5 – 10.9 = 58.6 KeV
オージエ効果
光電効果、軌道電子捕獲、内部転換等の現象で原子の軌道に空席が生じたとき、外側の軌道のエネルギー準位の高い電子がそこへ飛び込み、そのエネルギー差が特性X線として放出される際、この特性X線のエネルギーを別の軌道電子に与えて、一定のエネルギーを持つ電子を放出することがある。この時出てくる電子をオージエ電子、この現象をオージエ効果という。オージエ電子は線スペクトルである。 原子番号の大きい物質ほど特性X線の発生量が多く、オージエ電子の発生量が少なくなる。
コンプトン効果
波長λの光子が物質内の自由電子と衝突して進行方向が φ だけ変えられ、エネルギーを電子に与えて ψ なる方向へはじき出し、自らは波長λ’となる。これをコンプトン効果という。コンプトン効果は粒子性を示し、光子エネルギー1〜3 MeV の範囲で起こる。コンプトン散乱は非干渉性散乱であり、① 入射波長より散乱波長の方が長い。 ② 線減弱係数は原子番号Zに比例する。原子当たりの断面積は原子番号Zに比例する。コンプトン電子のエネルギーEeは Ee = E0/[1 + (E0/(1 – cosθ)mc^2)] で表すことができる。 ここで60Coγ線についての補足。60Coγ線エネルギーでは全ての物質についてコンプトン散乱が優勢であり、水素を除いては、質量減弱計数はほぼ同じである。したがって、単位面積当たりの質量で表した遮蔽体の厚さ、すなわち密度×厚さの積が大きいほど遮蔽効果が大きくなる。
電子対生成
エネルギー1.02 MeV をもつ光子が通過中の物質の原子核付近で強いクーロン場の影響を受けて、一対の陰陽電子が生まれて光子が消滅する。これを電子対生成という。電子対生成の全断面積は Z(Z+1) ≒ Z^2 に比例する。三対子生成:電子対生成=1:2の割合で発生する。三対子生成は低原子番号で良く発生する。また、電子対生成で発生した陽電子は停止して、自由電子と結合して消滅する。消滅時に0.51 MeVの消滅線を180°方向に2本放出する消滅線は0.51 MeV の単色光である。
A 誤 一部は軌道電子を束縛状態から解放されるために使われる。
B 正
C 正
D 誤 光電効果に起因する。
問16
1 MeV のγ線がアルミニウムに当たってコンプトン効果を起こし、0.5 MeV の電子が放出された。この場合、散乱γ線の散乱角はいくらか。次のうちから最も近いものを選べ。
1 15°
2 30°
3 45°
4 60°
5 135°
解答 4
エネルギー保存則より、散乱γ線のエネルギーは 1.0 – 0.5 = 0.5 MeV である。θ を散乱角とすれば、電子の静止質量は 0.511 MeV であるから、散乱前後のエネルギーの式より、 0.5 = 1/[1 + (1/(0.511)) × (1 – cosθ)]。cosθ について解くと cosθ = 0.489 ≒ 0.5 となり θ = 60° となる。
問17
電子対生成に関する次の記述のうち、誤っているものの組み合わせはどれか。
A 生成された電子と陽電子の運動エネルギーの和は 1.022 MeV である。
B 断面積は原子番号に比例する。
C 電子対生成が起こった位置で消滅放射線が発生する。
D 4 MeV γ線と鉄の主たる相互作用は電子対生成である。
1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて
解答 5
電子対生成の記述を下に示す。
電子対生成
エネルギー1.02 MeV をもつ光子が通過中の物質の原子核付近で強いクーロン場の影響を受けて、一対の陰陽電子が生まれて光子が消滅する。これを電子対生成という。電子対生成の全断面積はZ(Z+1) ≒ Z^2 に比例する。三対子生成:電子対生成=1:2の割合で発生する。三対子生成は低原子番号で良く発生する。また、電子対生成で発生した陽電子は停止して、自由電子と結合して消滅する。消滅時に0.51 MeVの消滅線を180°方向に2本放出する消滅線は0.51 MeV の単色光である。
光電効果、コンプトン効果、電子対生成が起こる物質のエネルギー範囲との関係性を示す。
アルミニウム(Z=13)と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 50KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 50KeV ~ 20MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 20MeV]
水と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 30KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 30KeV ~ 30MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 30MeV]
鉄と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 100KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 100KeV ~ 10MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 10MeV]
鉛(Z=82)と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 600KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 600KeV ~ 5MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 5MeV]
A 誤 和はγ線のエネルギーから 1.022 MeV 引いた値である。
B 誤 断面積は原子番号のほぼ 2 乗に比例する。
C 誤 生成した陽電子の多くが電子と対消滅するのは、ある程度移動してエネルギーが低下してからである。
D 誤 4 MeV γ線と鉄の主たる相互作用はコンプトン効果である。
問18
光子と物質との相互作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A コンプトン効果によって放出される二次電子の最大エネルギーは、入射光子のエネルギーに等しい。
B コンプトン効果は光子の波動性を示す現象である。
C 光電効果は光子の粒子性を示す現象である。
D 2 MeV の制動放射線は電子対生成が可能である。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 5
A 誤 二次電子の最大エネルギーになるのは光子が 180°方向に散乱されるときであるが、その時も散乱光子のエネルギー分小さくなるため等しくはならない。
B 誤 コンプトン効果は光子の粒子性を示す現象である。
C 正 光電効果は光子の粒子性を示す現象である。
D 正 2 MeV の制動放射線は電子対生成が可能である。
問19
次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 中性子の静止質量は陽子と電子の静止質量の和より大きい。
B 原子核内の陽子は電子捕獲して中性子になることがある。
C 核外にある中性子は β- 壊変して陽子に変わる。
D 重陽子の静止質量は、陽子と中性子のそれぞれの静止質量よりも大きい。
1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて
解答 1
A 正 中性子の静止質量は 935 MeV、陽子の静止質量 931 MeV、電子の静止質量 0.511 MeV より、中性子の静止質量の方が大きいことが分かる。
B 正 軌道電子捕獲では核内で p + e- → n + ν という反応を示す。
C 正 β- 壊変は n → p + e- + ν'(反ニュートリノ) という反応を示す。
D 誤 和よりも結合エネルギー分だけ小さい。
問20
次の金属のうち、熱中性子に対する吸収断面積の最大のものはどれか。
1 Co
2 Mn
3 In
4 Cd
5 Au
解答 4
吸収断面積は Co:37b、Mn:13b、In:194b、Cd:2520d、Au:99b である。Cd は吸収断面積が大きく、熱中性子吸収材としてよく使われるため覚えておいた方が良い。
問21
次の記述のうち、誤っているものの組み合わせはどれか。
A 吸収線量は間接電離放射線にのみ用いることができる。
B 中性子は直接電離放射線に分類される。
C 照射線量は物質を選ばず用いることができる。
D カーマは空気に対してのみ用いることができる。
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 5 下にカーマ、吸収線量、照射線量の定義を示す。
カーマ
カーマ(K)は、ある物質の体積要素内で間接電離によって自由になった全荷電粒子の最初の運動エネルギーの和dEをその体積の物質の質量dmで除した商である。E = dE/dm。単位は1Gy = 1J/kg。 また、カーマは光子、中性子など電荷を持たない放射線に対して用いることができる。
吸収線量(D)
質量dmの物質に電離放射線によって付与された平均エネルギーdεとすると、D = dε/dmを吸収線量という。単位はGy = J/kg。吸収線量はすべての放射線に対して用いることができる。
照射線量(X)
dmという質量の空気の容積要素内で光子(X線、γ線)によって発生する全ての電子が空気中で完全に静止するとき、空気中に発生した一方符号のイオンの全電荷の絶対値をdQとするとX = dQ/dmと表せる。また、照射線量は光子が空気と相互作用するときにだけ用いることができる。
A 誤 放射線の種類によらず用いることができる。
B 誤 中性子は電荷を持たないので間接電離放射線である。
C 誤 照射線量は光子が空気と相互作用するときにだけ用いることができる。
D 誤 カーマは光子、中性子など電荷を持たない放射線に対して用いることができる。
問22
次の量と名称と単位に関する組み合わせのうち正しいものはどれか。
A 照射線量 ー C/kg
B 粒子フルエンス ー m2/s
C 質量阻止能 ー J・m/kg
D 吸収線量率 ー J/(kg・s)
E 線減弱係数 ー m
1 AとC 2 AとD 3 BとC 4 BとE 5 DとE
解答 2
放射線量と単位を下の表に示す。
量 | 記号 | SI単位 | その他 |
---|---|---|---|
量子数 | N | I | ー |
粒子フルエンス | Φ | m^(-2) | ー |
エネルギーフルエンス | φ | J × m^(-2) | ー |
断面積 | δ | m^2 | ー |
線減弱係数 | μ | m^(-1) | = 線エネルギー吸収係数 |
質量エネルギー転移係数 | μtr/ρ | m^2 × kg^(-1) | 光子との相互作用 |
質量エネルギー吸収係数 | μen/ρ | m^2 × kg^(-1) | ー |
質量阻止能 | S/ρ | J × m^2 × kg^(-1) | 荷電粒子との相互作用 |
線エネルギー付与 | LΔ | J × m^(-1) | ー |
質量減弱係数 | μ/ρ | m^2 × kg^(-1) | 物質には依存しない |
カーマ | K | J × kg^(-1) | ー |
照射線量 | X | C × kg^(-1) | ー |
エネルギー付与 | εi | J | 荷電粒子に対して用いる |
吸収線量 | D | J × kg^(-1) | ー |
放射能 | A | Bq | ー |
問23
次の検出器のうち、熱中性子の計測に適さないものはどれか。
1 CH4 比例計数管
2 3He 比例計数管
3 BF3 比例計数管
4 6Li(Eu)シンチレーション検出器
5 235U 核分裂電離箱
解答 1
熱中性子の測定についての記述を下に示す。
熱中性子の測定
熱中性子の(n,α)反応に対応した検出器にはBF3計数管と6Li(Eu)シンチレーション検出器がある。また(n,p)反応に対して計数ガスとして 3He を充填した 3He比例計数管がある。これらの検出器はポリエチレンなどの水素密度の高い減速材と組み合わせることにより速中性子 に対しても感度のある検出器を作ることができる。熱中性子による核分裂反応を用いた検出器には 235U 核分裂電離箱などがあり、約 160 MeV の極めて大きなエネルギーが付与された核分裂片を測定している。(n,γ)反応による熱中性子の測定には Au の放射化を利用する方法がある。この反応で生成される核種198Au はβ壊変するため、その放射能を測定することにより熱中性子の絶対値を決定する ことができる。中性子の検出に BF3比例計数管がしばしば用いられる。これはフッ化ホウ素ガスを比例計数管の計数ガスとして封入したもので 10B(n,α)反応を利用している。この反応の Q 値は正であるので、検出する中性子のエネルギーのしきい値はない。その断面積は非常に大きく中性子のエネルギーを E とすると、断面積は E^(-1/2) に比例するので特に 熱中性子の検出に適している。この 10B(n,α)反応に際して、E と 2.78 MeV を加えたエネルギーが放出されるが、7Li 原子核の中間励起状態を経由して 7Li の基底状態に到達する確率が 93% 程度であり、この際 0.487 MeV のγ線も放出される。熱中性子の検出に際して励起状態を経由する場合、粒子の持つ運動エネルギーは 2.3 MeV となり、これが運動量保存則に従ってα粒子と 7Li核とに分配される。 E が極めて小さい場合α粒子の受け取るエネルギーは 1.46 MeV であり、7Li核の受け取るエネルギーは 0.84 MeV となる。10B(n,α)7Li反応の断面積は非常に大きく、特に熱中性子に対して感度の高い測定ができる。断面積は中性子の速度を v とすると 1/v に比例する。
CH4比例計数管(反跳陽子比例計数管)
中性子が軽い原子核と作用する際の弾性散乱を利用した高速中性子測定用のガス入り検出器である。この原理による計数管は、入射中性子のエネルギーに対応した出力信号をつくるので、中性子エネルギースペクトルの測定に使える特徴がある。構造は金属の円筒の中心に細い芯線の間に電圧をかけるようになっている。計数管ガスには最も軽い水素がよく使われ、用途によってメタンなども使われる。入射中性子が水素原子核に衝突すると、そのエネルギーにより水素原子核(陽子)が反跳される。電荷を持つ反跳電子はガス中を走り水素原子を電離する。 この電離作用により電極から電気信号が取り出せる。
1 誤 CH4 比例計数管・・・高速中性子の測定に用いられる。
2 正 3He 比例計数管
3 正 BF3 比例計数管
4 正 6Li(Eu)シンチレーション検出器
5 正 235U 核分裂電離箱
問24
次の括弧内の大小関係が正しいものの組み合わせはどれか。
A W値(ヘリウム > 空気)
B ε値(シリコン > ゲルマニウム)
C 気体中の移動度(電子 > 陽イオン)
D 蛍光の減衰時間(NaI(Tl)シンチレータ > プラスチックシンチレータ)
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 5
A 正 W値(ヘリウム:41 eV > 空気:34 eV)
B 正 ε値(シリコン:3.6 eV > ゲルマニウム 3.0 eV)
C 正 気体中の移動度・・・イオンは他のガス分子との衝突密度が大きいため動きにくい。移動度を v、電場を E、気体の圧力を p とすれば、移動度 μ は、v = μ・(E/p) で定義される。μ は電子の方がイオンに比べて 約10^9 倍も大きい。
D 正 蛍光の減衰時間(NaI(Tl)シンチレータ:230 nm > プラスチックシンチレータ:2.4 ns)
問25
次のシンチレータのうち、137Cs 662 keV γ線の測定に際して、最も良好なエネルギー分解能が期待できるものはどれか。
1 NaI(Tl)
2 CsI(Tl)
3 Bi4(Ge3)O12
4 La(Br3)Ce
5 Lu2(SiO5)Ce
解答 4
エネルギー分解能は、シンチレータと組み合わせた光電子増倍管からのパルス波高値が高い方が良好である。NaI(Tl)の波高値を 100 とすれば、CsI(Tl) は 49、Bi4(Ge3)O12 は 13 であり、これらの中では NaI(Tl) が最も良好である。一方 La(Br3)Ce は、662 keV γ線に対して約 3% の分解能を有し、これは NaI(Tl) に比較して約 2 倍の高分解能である。Lu2(SiO5)Ce は主に PET 用に開発された短い減衰時間(42 ns) を有するシンチレータである。この蛍光出力は Bi4(Ge3)O12 に 比べ 4 から 7 倍大きいが、それでも NaI(Tl)より小さく、分解能は劣る。したがって選択肢の中では La(Br3)Ce が最も良好なエネルギー分解能を有する。
問26
内容積 1 L のボールチェンバーによって放射線を測定したところ、電流 1 nA が得られた。この場合空間の空気吸収線量率[μGy/s]はいくらか。次のうちから選べ。ただし、このチェンバーの内部は密度 1.3 kg/m3 の空気が充填され、壁材はプラスチック内面にカーボン電極を塗布したもので、空気等価と見做すことができるものとする。
1 1.6
2 3.6
3 26
4 34
5 76
解答 3
ボールチェンバーとは球形状の電離箱を意味すると思われる。空気の W 値を 34 eV、e を素電荷の値として、線量率は次式で計算される。[(1×10^(-9))/e] × 34 × e × [1/(1.3×10^(-3))] = 2.62 × 10^(-5) (Gy/s) = 26.2 (μGy/s)
問27
0.9 MeV のγ線と 2.8 MeV のγ線をカスケード状に同時に放出するβ-壊変核種があるとして、この核種の線源を Ge 検出器に近接して置いて波高分布スペクトルをとった場合、何本のピークが観測されると考えられるか。次のうちから選べ。
1 5本
2 6本
3 7本
4 8本
5 9本
解答 5
0.9 MeV γ線からは全吸収ピークだけが得られる。2.8 MeV γ線では、全吸収、シングルエスケープ、ダブルエスケープ、電子対生成に伴う消滅放射線の合計 4 本のピークが得られる。さらに 2 つのγ線は同時に放出されるため、これらのサムピークが生じる。したがって 1 + 4 × 2 = 9 本のピークが観測される。
問28
グリッド付き電離箱における次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A α線のエネルギースペクトルの測定に用いられる。
B 電子の流動に基づく信号のみを用いる。
C 検出器ガスとして空気も使用できる。
D グリッドで電子を増幅して使用する。
1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD
解答 1
グリッド付き電離箱の記述を下記に示す。
グリッド付き電離箱
グリッド付き電離箱は、等距離の間を運動する電子によるパルスを利用する電離箱であるので、単一エネルギーのα粒子に対して、そろったパルスの波高値が得られ、高い分解能が得やすく、比較的高速の計数も可能な検出器である。
図1に示すように、高電圧電極Aと電子捕獲電極Cの間に、Cに接近してたくさんの細い平行に張られた格子Gを挿入し、これを適当な中間電位に保つと A – G 間を運動するα粒子により生まれた電子およびイオンによるCへの静電誘導はほとんど完全に遮蔽され、しかも A -G 間に生まれた電子は、気体中では大体電気力線にそって正電極の方に向かって引かれるので、G -C 間の電界を A -G 間のそれよりも十分に強くなるようにしておけば、電子はGに捕らえられずそれをくぐり抜け、残らず電子捕獲電極Cに集めることができる。したがって電子の 線量にのみ比例した大きさのパルスをCから取り出すことができる。この電離箱に使用されるガスは主にアルゴン+メタン(5 ~ 10%)の高純度ガスを混合して用いられる。
A 正 α線のエネルギースペクトルの測定に用いられる。
B 正 電子の流動に基づく信号のみを用いる。
C 誤 この電離箱に使用されるガスは主にアルゴン+メタン(5 ~ 10%)の高純度ガスを混合して用いられる。また空気中の酸素は電子を吸着しやすいため用いられない。
D 誤
問29
次の放射線測定器のうちα線のエネルギー測定に最適なものはどれか。
1 表面障壁型Si半導体検出器
2 ZnS(Ag)シンチレーション検出器
3 Ge 検出器
4 NaI(Tl)シンチレーション検出器
5 熱ルミネセンス線量計(TLD)
解答 2
1 正 表面障壁型Si半導体検出器・・・高い分解能を有し、もっとも適する。
2 誤 ZnS(Ag)シンチレーション検出器・・・α線検出に用いられるが、エネルギー分解能は 1 に比べて悪い。
3 誤 Ge 検出器・・・真空容器に封入されているため、α線の測定はできない。
4 誤 NaI(Tl)シンチレーション検出器・・・潮解性があるため容器に封入されており、α線の測定はできない。
5 誤 熱ルミネセンス線量計(TLD)・・・線量測定の検出器であり、個々のα線の測定はできない。
問30
分解時間 0.20 ms のGM 計数管を用いて計数するとき、数え落としによる誤差が 5.0% を超えない最大の真の計数率[cps]にもっとも近い値は次のうちどれか。
1 250
2 400
3 550
4 700
5 850
解答 1
真の計数率を n(0)、数え落としのある計数率を n、分解時間を τ とする。題意より (n(0) – n)/n(0) = 0.05 である。数え落とし補正の式、n(0) = n/(1-nτ) を n について解くと、n = n(0)/(1+n(0)τ) である。真の計数率 n(0) について解くと、n(0) = 0.05/[τ(1-0.05)] = 0.05/(0.2×10^(-3)×0.95) = 263 cps となる。
荷電粒子の磁場中の運動についての記述
Ⅰ
荷電粒子が磁場の中を運動するとき、軌道が曲がることはよく知られている。質量 M 、電荷 ze の荷電粒子が速度 v で磁束密度 B の磁場中で磁場に直角に運動するとき、粒子にはローレンツ力と呼ばれる力 F が働き、F = ze・v・B である。このとき、この力 F と粒子に働く遠心力が釣り合って円運動をすることから、その円運動の軌道半径を r とすると、F = M・v^2/r が成り立つ。粒子が円軌道を一周するのに要する時間 Tr は、Tr = 2・π・r/v = (2・π・M)/(ze・B) となる。非相対論的速度の範囲では、Tr は粒子のエネルギーによらずほぼ一定であると見なすことができる。このように、集会の周波数 1/Tr が粒子のエネルギーによらないという性質を利用している加速器がサイクロトロンである。この加速器では、磁場に直角にディーと呼ばれる2個の半円形電極を向かい合わせに起き、これに高周波電圧を印加する。粒子は2つの電極間ギャップを通過するときに印加された電圧に対応するエネルギーを得る。加速により粒子の軌道半径は大きくなるが、周期は変わらない。粒子が半回転して、もう一方の電極に達したときに電圧が逆転するようにすると、粒子はまた加速され、加速と共にその軌道半径は大きくなる。粒子の円軌道の最大半径を R とすれば、最終的に得られる粒子エネルギー E は、E = (B・ze・R)^2/(2・M) となる。最大軌道半径 0.5[m]、磁束密度を 2[T] とし (4He)2+ を加速すると、この粒子に与えられるエネルギーは 48 [MeV] となる。ただし、1[T] = 1[V・s・m^(-2)]、1[u] = 1.66 × 10^(-27) [kg] とする。
解説
素電荷は e = 1.60 × 10^(-19) [C] であり、(4He)2+ の質量は 4u と近似できるので、E = (2×2×1.6×10^(-19)×0.5)^2/(2×4×1.66×10^(-27)) = 7.71 × 10^(-12) [J] = (7.71×10^(-12))/(1.6×10^(-19)) [eV] = 4.81 × 10^7 [eV] = 48.1 [MeV]
Ⅱ
質量数 a、運動エネルギー E の入射粒子と質量数 A の静止した標的核が衝突を起こし、一体となって複合核を形成した後、何らかの粒子を放出してある原子核に壊変する場合を考える。衝突の前後の粒子や原子核の質量差をエネルギーに換算したものは、反応エネルギーあるいは Q値と呼ばれる。Q値が正の場合を発熱反応といい、負の場合を吸熱反応という。吸熱反応の場合には、入射粒子のエネルギーが Q値の絶対値を超えないと反応は起こらない。核反応が起こるための入射粒子の最小エネルギー E(max)をしきいエネルギーという。ここで、複合核の概念を用いて最小エネルギー E(min)を求めてみる。複合核の運動エネルギー Ec は、運動量 保存則を用いて、Ec = a/(a+A)・E となる。E(min)は、反応の Q値の絶対値と複合核の運動エネルギーの和に等しくなる入射粒子のエネルギーに相当するから、E(min) = (a+A)/A・|Q| となる。ここで、27Al(n,α)24NA の核反応を考える。標的核は静止しているとすると、反応の Q 値は -3.13 MeV となり吸熱反応である。このとき、反応を起こすために必要な入射粒子である中性子の最小エネルギーは、 3.25 MeV である。ただし、27Al、4He、24Na、の結合エネルギーを、それぞれ 224.9520 MeV、28.2957 MeV、193.5235 MeV とし、陽子及び中性子の静止エネルギーをそれぞれ 938.2796 MeV 及び 939.5731 MeV とする。 放出粒子が荷電粒子の場合には、標的核が大きくなると、複合核からの粒子放出がその間のクーロン障壁によって妨げられることがある。
解説
質量をそれぞれ、27Al:M(Al)、中性子:M(n)、α粒子:M(α)、24Na:M(Na)、陽子:M(p)、結合エネルギーをそれぞれ、27Al:B(Al)、α粒子:B(α)、24Na:B(Na)、また光の速度を c とする。
Q = [M(Al) + M(n) – [M(α) + M(Na)]]・c^2
= [13M(p)c^2 + 14M(n)c^2 + – B(Al)] + [M(n)c^2] – [[2M(p)c^2 + 2M(n)c^2 – B(α)] + 11M(p)c^2 + 13M(n)c^2 – B(Na)] = -B(Al) + B(α) + B(Na) = -224.9520 + 28.2957 + 193.5235 = -3.1328 [MeV]
反応を起こすために必要な最小エネルギー「しきいエネルギー」は (1+27)/27 × 3.1328 = 3.249[MeV]
また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。
https://www.radiologist-study.org