第1種放射線取扱主任者 化学問題・解説4

問1

ある放射性同位元素 10 TBq は 1 年後 1 TBq に減衰した。それから 10 年後の放射能として最も近い値は、次のうちどれか。

1 100 GBq

2 10 GBq

3 10 kBq

4 100 Bq

5 1 Bq 以下

解答 4

ある放射性同位元素の経過時間毎の放射能をそれぞれ A(0)、A(1Y)、A(11Y)。半減期を T 年とすると、A(1Y) = A(0)・(1/2)^(t/T) より 1 = 10・(1/2)^(t/T) 1/10 = (1/2)^(t/T)・・・① また、A(11Y) = A(1Y)・(1/2)^(10/T) = [(1/2)^(1/T)]^10。①より A(11Y) = (1/10)^10 = 1 × 10^(-10)[TBq] = 100[Bq]

問2

次のうち、放射性核種を含まない組み合わせはどれか。

A 11C, 12C, 13C

B 13N, 14N, 15N

C 16O, 17O, 18O

D 19F, 27Al, 31P

1 AとB 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 4

安定核種の質量数を下に示す。他の安定同位体の質量数は私のまとめた資料に記載してますので、是非ご購入を。

12C , 13C

14N, 15N

16O, 17O, 18O

19F

27Al

31P

問3

次の放射性核種の組み合わせのうち、寿命が長い核種の半減期が、寿命が短い核種の半減期の2倍以内であるものはどれか。

1 3H と 35S

2 15O と 18F

3 60Co と 63Ni

4 90Sr と 137Cs

5 123I と 125I

解答 4

1 誤 3H と 35S・・・3H:半減期 12.33 年、35S:半減期 85.51 日 → 51.5 倍

2 誤 15O と 18F・・・15O:半減期 2.037 分、18F:半減期 109.8 分 → 53.9 倍

3 誤 60Co と 63Ni・・・60Co:半減期 5.271 年、63Ni:半減期 100.1 年 → 19.0 倍

4 正 90Sr と 137Cs・・・90Sr:半減期 28.74 年、137Cs:半減期 30.04 年 → 1.05 倍

5 誤 123I と 125I・・・123I:半減期 13.27 時間、125I:半減期 59.4 日 → 107 倍

問4

炭素 120 g 中に 14C が 3.9 Bq 含まれている。この場合の 14C と 12C の原子数比 14C/12C として最も近い値は、次のうちどれか。なお、14C の半減期は 5730 年(1.8 × 10^11秒)、12C の同位体存在度は 99%、アボガドロ定数は 6.0 × 10^23 mol^(-1) とする。

1 1.7 × 10^(-14)

2 1.7 × 10^(-13)

3 2.0 × 10^(-12)

4 1.7 × 10^(-11)

5 2.0 × 10^(-10)

解答 2

14C の放射能を A(14C)、原子数を N(14C) とすると、A(14C) = λN = (ln2/T(14C)) × N(14C) N(14C) = [A(14C)×T(14C)]/ln2。14C の放射能は、3.9 Bq、半減期は 1.8 × 10^11 秒であるから、 N(14C) = (3.9×1.8×10^11)/0.693 ≒ 1.0 × 10^12。一方、12C の原子数を N(12C)、質量数 M、質量を W とする。N(12C) = (W/M) × 6.0 × 10^23 = (120/12) × 6.0 × 10^23 = 6.0 × 10^24。よって、原子数比は、 N(14C)/N(12C) = (1.0 × 10^12)/(6.0 × 10^24) = 1.66 × 10^(-13) ≒ 1.7 × 10^(-13)

問5

1 GBq の無担体 32P の質量(g) として最も近い値は、次のうちどれか。ただし、32P の半減期は 14 日(1.2 × 10^6秒)、アボガドロ定数は 6.0 × 10^23 mol^(-1)とする。

1 4.5 × 10^(-9)

2 9.2 × 10^(-8)

3 4.5 × 10^(-8)

4 9.2 × 10^(-7)

5 4.5 × 10^(-6)

解答 2

A = λN = (0.693/T) × (W/M) × 6.0 × 10^23 1.0 × 10^9 = [0.693/(1.2×10^6)] × (W/32) × 6.0 × 10^23 W = 9.23 × 10^(-8) [g]

問6

次の逐次壊変において、放射平衡が成立することがないのはどれか。なお、( )内は壊変様式と半減期を示す。

1 28Mg (β- , 20.9h) → 28Al (β- , 2.24m) →

2 68Ge (EC , 271d) → 68Ga (EC + β+ , 67.6m) →

3 87Y (EC , 79.8h) → 87mSr (IT , 2.80h) →

4 132Te (β- , 3.20d) → 132I (β- , 2.30h) →

5 143Ce (β- , 33.1h) → 143Pr (β- , 13.6d) →

解答 5

親核種の半減期が娘核種の半減期より短い時には放射平衡は成立しない。

問7

次のウラン系列に関する記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 234U が生成する。

B 230Th がα壊変して 226Ra となる。

C 210Po が生成する。

D 最終の安定核種は 208Pb である。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 1

ウラン系列は 238U → 206Pb(安定) α壊変 8 回、β-壊変 6 回 である。

問8

放射性核種の経時変化に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

1 60mCo(半減期10.5分)から生成する 60Co(半減期5.27年)の放射能は、十分に時間が経過すると、半減期 10.5 分で減衰する。

2 99Mo(半減期65.9時間)から生成する 99mTc(半減期6.01時間)の放射能は、十分に時間が経過すると、半減期6.01時間で減衰する。

3 226Ra(半減期1600年)から生成する 222Rn(半減期3.82日)の放射能は、十分に時間が経過すると、226Raの放射能の2倍となる。

4 68Ge(半減期271日)から生成する無担体の 68Ga(半減期67.6分)の比放射能は、常に一定である。

5 64Cu(半減期12.7時間)から生成する 64Ni(安定)及び 64Zn(安定)の生成速度は、常に等しい。

解答 4

1 誤 親核種の半減期が娘核種の半減期より短い時には放射平衡は成立しないため、ここでは放射平衡が成立しない。また、60Co は半減期 5.27 年で減衰する。

2 誤 娘核種(99mTc)は」、半減期の 7 ~ 10 倍程度経過すると過度平衡が成立して、親核種(99Mo)と同様に減衰する。

3 誤 親核種(226Ra)の半減期が非常に長いため、娘核種の半減期(222Rn)の半減期の 10 倍程度で永続平衡が成立する。親核種と娘核種の放射能の比は 1 (λ1N1 = λ2N2)となる。

4 正 親核種(68Ge)と娘核種(68Ga)の半減期は 10 倍以上違うため、永続平衡が成立する。したがって親核種と娘核種の放射能の比は 1 (λ1N1 = λ2N2)となり、常に一定となる。

5 誤 64Cu から 64Ni 及び 64Zn の生成は分岐壊変であり、それぞれ異なる分岐比をもち、その生成速度は異なる。

問9

次の核反応において、標的核と生成核の原子番号が 2 以上異なるものの組み合わせはどれか。

A (α , p2n)

B (n , α)

C (p , 3p2n)

D (d , n)

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 4

標的核の原子番号を Z とすると、生成核の原子番号は

A 誤 Z + (2) – ((1) + 2 ×(0)) = Z + 1

B 正 Z + (0) – (2) = Z – 2

C 正 Z + (1) – (3 × (1) + 2 × (0)) = Z – 2

D 誤 Z + (1) – (0) = Z + 1

問10

サイクロトロンによる荷電粒子放射化分析で、炭素を分析するために利用できる核反応は、次のうちどれか。

1 12C(p , n)

2 12C(d , n)

3 12C(α , p)

4 13C(α , n)

5 13C(p , α)

解答 2

荷電粒子放射化分析は、高エネルギーのイオンを照射して生成する放射性核種の放射線を計測して元素を定量する分析法である。荷電粒子としては、陽子(p)、重粒子(d)、3He あるいは 4He(α粒子)が用いられる。 軽元素に対して感度が高く、特に B、C、N 及び O の定量に使用されている。用いられる核反応には、11B(p , h)11C、12C(3He , α)11C、10B(d , n)11C、14N(p, α)11C、12C(d , n)13N、16O(3He , p)18F がある。

問11

A 77As

B 99Mo

C 111Ag

D 131I

E 156Eu

解答 3

235U の熱中性子による核分裂では、亜鉛の RI の 72Zn からテルビウムの RI の 161Tb まで、原子番号でいえば 30 から 65 まで色々な元素の RI を含む。これらを核分裂生成物と呼び、質量数 95、 138 付近に核分裂収率の極大(核分裂収率は約 6%)があり、極小は質量数 118(核分裂収率は 0.009%)くらいである。したがって、極大付近の質量数を持つ核種の収率が高いと考える。

核分裂収率[235U(n , f)]

77As:0.00796 % 99Mo:6.11 % 111Ag:0.0174 % 131I:2.89 % 136Eu:0.0149 %

問12

次の操作のうち、放射性気体が発生するのはどれか。

A 3H で標識された NH4(Cl) に Ca(OH)2 を混合して加熱する。

B 14C で標識された CaCO3 を塩酸に加える。

C 32P で標識された Ca(PO4)2 を硫酸に加える。

D 35S で標識された FeS を硫酸に加える。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 2

A 正 2・N[3H]4(Cl) + Ca(OH)2 → CaCl2 +2・[3H]HO + 2・N[3H]3 ↑

B 正 Ca[14C]O3 + 2・HCl → BaCl2 + H2O + [14C]O2 ↑

C 誤 Ca3([32P]O4)2 + 2・H2SO4 → Ca(H2[32P]O4)2 + 2・CaSO4

D 正 Fe[35S] + H2SO4 → FeSO4 + H2[35S] ↑

問13

熱中性子によるラジオアイソトープの製造法について、以下のように照射ターゲットと核反応を選んだ時、下記のラジオアイソトープが得られる組み合わせはどれか。

<照射ターゲット> <核反応> <ラジオアイソトープ>

A 酸化リチウム             (n , α)               3H

B 窒化アルミニウム  (n , p)    14C

C 硫黄        (n , p)    32P

D 二酸化ウラン    核分裂    90Sr

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 5

A 正 6Li(n , α)3H

B 正 14N(n , p)14C

C 正 32S(n , p)32S

D 正 235U の熱中性子による核分裂では 80 種以上の核分裂片が生じ、その質量数はおよそ 72 ~ 160 である。90Sr は核分裂収率の高い核分裂生成物として著名なものの一つである。

問14

次の操作により、110mAg 標識の AgNO3 の水溶液(0.1mol/l) から 110mAg が沈殿するのはどれか。ただし、加える溶液の濃度はいずれも 0.1mol/l とする。

A 希塩酸を加える。

B 硝酸ナトリウム水溶液を加える。

C 水酸化ナトリウム水溶液を加える。

D 塩化アンモニウム水溶液を加える。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 3

A 正 希塩酸を加える。・・・Ag+ + Cl- → AgCl ↓ (白色沈殿)

B 誤 硝酸ナトリウム水溶液を加える。・・・反応なし

C 正 水酸化ナトリウム水溶液を加える。・・・2・Ag+ + 2・OH- → Ag2O ↓ +H2O 酸化銀(暗赤色沈殿)を生じる。

D 正 塩化アンモニウム水溶液を加える。・・・Ag+ + NO3- + NH4+ + Cl- → AgCl ↓ + NH4+ + NO3-

問15

水溶液中の Cl- の量を測定するのに、110mAg で標識された硝酸銀水溶液の過剰の一定量を加えて110mAgCl の沈殿を生成させる方法がある。Cl-の定量に関して述べた以下の記述のうち、正しい組み合わせはどれか。

A 他に Br- が共存していても影響しない。

B 他に ClO4- が共存していても影響しない。

C 生成した AgCl の一部分を分離して、その放射能を測定することにより Cl- の量を求めることができる。

D 生成した AgCl を除去した溶液中に残る放射能を測定することにより Cl- の量を求めることができる。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 5

A 誤 Br- + 110mAgNO3 → 110mAgBr ↓ + NO3-

B 正 AgClO4 の溶解度は大きいため溶液中に残る。したがって、Cl- の定量には影響しない。

C 誤 一部分を分離して、放射能を測定するだけでは定量できない。

D 正 Cl- + 110mAgNO3 → 110mAgCl ↓ + NO3- 硝酸銀水溶液を一定量加えるので、過剰量分の放射能を測定すると定量できる。

問16

次の核種のうち、水酸化鉄共沈法で共沈しないものはどれか。

1 22Na

2 60Co

3 65Zn

4 90Y

5 140La

解答 1

問17

ラジオコロイド(RC)に関する次の記述のうち、正しい組み合わせはどれか。

A 無担体の 140La の水溶液にアンモニア水を加えてアルカリ性とした後、ろ紙に通すと 140La がろ紙に捕集される。

B 直径が 1 ~ 100 nm 程度の分散粒子である。

C 水溶液の pH が 7 よりも 2 のほうが、RC は生成しやすい。

D 長期間静置した溶液中の RC は、均一に分布する。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 1

A 正 アンモニア水を加えるとラジオコロイドである La(OH)3 が生じ、ろ過すると 140La はろ紙上に残る。

B 正 直径が 10^(-7) から 10^(-5) (1 ~ 100 nm) 程度の粒子が分散している溶液をコロイド溶液といい、その粒子をコロイド粒子と呼ぶ。さらに非常に低濃度で生成する放射性のコロイド状物質をラジオコロイド(RC)という。

C 誤 ラジオコロイドは、水酸化物の生成する中性からアルカリ性で生成しやすい。

D 誤 ラジオコロイドが生成し放置している間に静かに沈降する。RIの希釈溶液では、よく見られるので、長時間保存していた希釈溶液の仕様にあたっては注意を要する。少量の酸をラジオコロイド溶液に加えてイオン溶液に変え、適切な錯化剤を加えて アルカリ溶液を滴下して pH を上げると錯形成し均一溶液となる。

問18

500 kBq の35SO4(2-) を含む 0.1 mol/l 硫酸ナトリウム水溶液 200 ml から 35S を除去する目的で、塩化バリウム水溶液を加えて硫酸イオンを硫酸バリウム(BaSO4)として沈殿させた。これをろ過乾燥させて得られる[35S]硫酸バリウムの比放射能 (kBq/g)に最も近い値は、次のうちどれか。

ただし、BaSO4 の式量を 233 とする。

1 5.4

2 22

3 110

4 220

5 540

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 3

Na2[35S]O4 + BaCl2 → Ba[35S]O4 ↓ + 2・NaCl 0.1mol/l 硫酸ナトリウム水溶液 200 ml なので、0.1 × 200 × 10^(-3) = 200 × 10^(-4) mol。200 × 10^(-4) molの BaSO4 が生成し、200 × 10^(-4) = w/233 よって、w = 4.66 g となる。 500 kBq の35SO4(2-) がすべて沈殿したとすると、500[kBq]/4.66[g] ≒ 110[kBq/g] となる。

問19

水溶液中にイオンとして存在する放射性核種の有機相への溶媒抽出法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

1 有機溶媒によってイオンの酸化数が変化することを利用する分離方法である。

2 イオンの抽出速度が遅いので、通常は 1 時間以上激しく撹拌する必要がある。

3 イオンとキレート化剤から生成する中性の錯体が抽出される。

4 アセトンやエタノールも抽出溶媒として利用できる。

5 比重が 1 より大きい有機溶媒は利用できない。

解答 3

1 誤 イオンの酸化数の変化を利用するものではない。

2 誤 イオンの抽出速度は速い。

3 正 溶媒抽出法は液体ー液体間の放射性核種の分配平衡を利用した分離法で、水溶液中に電気的に中性の分子を形成させ抽出する。

4 誤 アセトンやエタノールは水と混じり合うため抽出溶媒として適さない。

5 誤 代表的な抽出溶媒である四塩化炭素は水よりも重い。

問20

100 ml の水相中にあるラジオアイソトープ(RI)を 100 ml の有機相に溶媒抽出すると 90% が抽出された。水相に残った RI をもう一度新たな 100 ml 有機相で溶媒抽出すると、2 回分を合わせて何% のRIが有機相に抽出されるか。最も近い値は、次のうちどれか。

1 91

2 92

3 94

4 96

5 99

解答 5

有機相と水相への放射性核種の分配を示す数値を分配比 D という。D = C(0)/C(w) [C(0):有機相中の放射性核種全濃度、C(w):水相中の放射性核種全濃度、さらに、V(w)とV(0) をそれぞれ水相と有機相の容量とすると、 有機相への抽出率 E は、E = D/[D+(V(w)/V(0))]。ここで、V(w) = V(0) = 100 ml より、E = D/(D+1) = 0.90 よって D = 9。したがって、有機相:水相は 9:1 に分配される。最初の水相中の RI を A[Bq] とすると、有機相に抽出された分は、1 回目 0.90A、 2 回目 0.90(A – 0.90A) = 0.09A、よって2 回分を合わせた抽出割合は、(0.90A + 0.09A)/A × 100 = 99%

 

問21

ラジオアイソトープ(RI)のトレーサー利用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 3H を水素のトレーサーとして用いると同位体効果はない。

B 用いる RI の同位体交換反応速度が大きいことが必要である。

C 用いる RI の原子価を、対象とするイオンの原子価にそろえる。

D 比放射能の高い標識化合物を用いる時は、自己放射線分解に注意する。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 5

A 誤 原子番号 1 の水素のうち質量数 1 の 1H、2 の 2H(重水素)、3 の 3H(トリチウム) の間では、質量数が大きく異なるので同位体効果も大きい。

B 誤 トレーサとして用いる RI は同位体交換速度が実験期間中、無視できるほど小さくなければならない。

C 正 トレーサと追跡されるものとが、異なる酸化状態にあるので、両者の酸化状態を揃えるために、適切な酸化剤や還元剤を加える必要がある。

D 正 比放射能の高い標識化合物はそれ自身、放射線効果などによって分解しているおそれがあるので、その放射化学的純度を調べる必要がある。

問22

同位体希釈法(逆希釈法)で混合物試料中の化合物Aを定量した。Aの比放射能は 700 dpm/mg である。この試料に非放射能の化合物Aを 25 mg を加えて完全に混合した後、一部を純粋に分離したところ、その比放射能は 70 dpm/mg となった。混合物試料中の化合物A の量(mg) として最も近い値は次のうちどれか。

1 0.1 以下

2 0.6

3 1.7

4 2.8

5 3.0 以上

解答 4

逆希釈法は放射性化合物を定量するのに非放射性化合物を用いる希釈分析法で、定量する放射性物質の重量 X、比放射能 S0、加える非放射性物質の重量 a、加えた後の比放射能 S とすると、S0X = S(X+a) という式が成り立つ。 700・a = 70(a + 25) a ≒ 2.8 [mg]

問23

14C と 3H で標識された少量の有機物質を完全燃焼させて発生した気体を、まず ①十分に長い塩化カルシウム管に通し、次いで②ソーダ石灰管(NaOH + Ca(OH)2) に通した。①と②に捕集されるラジオアイソトープ(RI)の組み合わせは、次のうちどれか。

<①で捕集されるRI> <②で捕集されるRI>

1 14Cと3H         なし

2 14C             3H

3 3H            14C

4 なし           14Cと3H

5 なし            なし

解答 3

有機化合物の元素分析法である。有機物質は完全燃焼すると、炭素は全て CO2、水素は全て H2O となる。生成した H2O は塩化カルシウム管に、CO2 はソーダ石灰管に吸収される。それぞれの増加量が H2O とCO2 の質量となる。

問24

次の放射性核種について、放出される主要な放射線として正しいものはどれか。

<核種> <放射線>

1 60Co Coの特性X線

2 99mTc β線

3 192Ir 消滅放射線

4 201Tl Hgの特性X線

5 241Am 中性子線

解答 4

1 誤 0.318 MeV の β-線及び 1.173 MeV と 1.333 MeV の2本のγ線を放出する。

2 誤 β線を出さず、核異性体(IT) によって生じる 0.14 MeV のγ線を放出する。

3 誤 放射されるγ線は複雑であるが、0.3 MeV 付近が多い。

4 正 γ線及び Hg からの特性X線を放出する。201Tl は SPECT に利用される。

5 誤 α線のエネルギーは 5.486 MeV、γ線のエネルギーは非常に低く、わずか 59.5 keV である。

問25

放射性同位体の利用法に関する次の記述のうち、正しい組み合わせはどれか。

A 147Pm を用いた厚さ計では、β線の試料による吸収や散乱を利用する。

B 192Ir を用いた非破壊検査装置では、γ線の透過作用を利用する。

C 210Po を用いた静電除去装置では、α線の試料表面からの散乱を利用する。

D 252Cf を用いた水分計では、中性子の水素原子核による吸収を利用する。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 1

A 正 厚さ計の線源として用いられる核種を多い順に並べると 85Kr , 241Am , 90Sr , 147Pm , 204Tl , 137Cs , 14C といった順になる。147Pm は低エネルギーのβ線源として、透過量を測定することでごく薄い紙やビニルシートの厚さを知るために用いられる。

B 正 非破壊検査(ラジオグラフィ)とは、放射線の物体に対する透過減弱作用と写真作用を利用して物体内部の状況を調べる方法をいう。一般的に半減期がやや短い欠点はあるが、その他の条件が最も良い 192Ir が一番多く用いられており、次いで 60Co、137Cs の順となっている。

C 誤 静電除去装置は、摩擦などによって絶縁体表面に生じた静電気を、α粒子やβ-粒子を照射して得た電離空気に接触させて消滅する装置である。すなわち電離作用を利用する。放射線源としては、241Am , 210Po , 85Kr が使用される。

D 誤 速中性子が水素原子と衝突して減速され熱中性子になる現象を利用したもので、線源としては 241Am-Be , 226Ra-Be , 252Cf などの速中性子源が用いられている。

問26

次の試料中の放射性核種を定量するとき、用いる検出器として正しい組み合わせはどれか。

<試料>  <核種>  <検出器>

A ろ紙   14C  Si(Li)検出器

B 水溶液  55Fe  井戸型NaI(Tl)シンチレーション検出器

C 有機溶液 3H  液体シンチレーション検出器

D 水溶液  60Co  Ge検出器

E ろ紙   32P   GM計数管

1 ABCのみ 2 ABEのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 CDEのみ

解答 5

A 誤 Si の結晶に Li をドリフトして作られる検出器で、低エネルギーX線用の高分解能検出器である。入射してくる数 keV から約 20 keV の X 線に対してほとんど 100% の検出効率がある。Ge に比べて Si は原子番号が小さいので、高エネルギー光子に対する検出効率は低く、50 keV 程度が実用上の上限である。

B 誤 55Fe は EC 壊変の核種であり、X線(5.9keV)のみを放出する。スミア法が最適であり、エネルギー依存性を考慮して検出器を選ぶ必要がある。

C 正 低エネルギーβ線放出体である 3H でも効率よく測定できるため、液体シンチレーション検出器を用いる。

D 正 Ge 検出器はγ線用の検出器である。60Co は β- ー γ放射体であるため測定可能である。また精密なスペクトル測定が不要な場合、効率の良い NaI(Tl)シンチレーション計数装置でも測定できる。

E 正 32P のβ線の最大エネルギーは 1.71 MeV と高く、測定器としては通常の GM カウンターで十分である。

問27

ホットアトムに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A ヨウ化エチルを熱中性子照射した後、水で抽出すると、128I が水相に検出される。

B As(Ⅴ)のヒ酸塩を熱中性子照射すると、76As(Ⅲ)が生成する。

C 安息香酸と炭酸リチウムを混合し、熱中性子照射すると、安息香酸がトリチウムで標識される。

D ブタノールと 3He を混合し、熱中性子照射すると、ブタノールがトリチウムで標識される。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 5

ホットアトム法 = 反跳原子法 = ジラーズ・チャルマーズ法 と呼ばれ、中性子照射によってターゲットが放射化した時、娘核種から放出される放射線の反跳エネルギーによって、結合が切れて、液体又は気体中に遊離する現象を利用する。C2H5Iに熱中性子 を照射すると C2H5I(128) が発生する。128I からのγ線によって、結合が切れて 128I が溶液中に移動する。

A 正 熱中性子照射したヨウ化エチルから生成した 128I の一部が水相に抽出分離される。

B 正 熱中性子照射したヒ酸塩中に生じた放射性ヒ素 76As のかなりの部分がターゲット物質と異なる酸化状態となる。

C 正 有機化合物に 3He または炭酸リチウムを混合して、3He(n , p)3H または 6Li(n , α)3H で生成するホットアトムである 3H によって有機化合物を標識する(反跳合成法)。

D 正 有機化合物に 3He を混合して、3He(n , p)3H で生成するホットアトムである 3H によって有機化合物を標識する(反跳合成法)。

問28

226Ra は 4.8 MeV のα線を放出して 222Rn になる。この時、222Rn の持つ反跳エネルギー(keV)として最も近い値は、次のうちどれか。

1 22

2 34

3 86

4 220

5 340

解答 3

α壊変 226Ra → 222Rn + α が成り立つ。生成核の質量を M、α粒子の質量を m、生成核の速度を V、α粒子の速度を v とする。運動量保存則より、M・V = m・v・・・①。両粒子の運動エネルギーE(M)、E(α)は、 E(M) = 1/2・M・V^2・・・②、E(α) = 1/2・m・v^2・・・③。

①〜③より、E(M) = (m/M)・E(α) = (4/222) × 4.8 = 0.0864 [MeV] ≒ 86 [keV]

問29

水和電子に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 水溶液をγ線で照射すると水和電子が生成する。

B 水和電子はスパー(スプール)内に生成する。

C 水和電子には酸化能力がある。

D 水和電子は水素ラジカルを生成する。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 2

フリーラジカルの生成を下に示す。

励起・・・H2O → H*(還元性) + OH*(酸化性)

電離・・・H2O → H2O+ + e- 、H2O+ → H+  +  OH*

もしくは H2O+   +   H2O  →   H3O+   +   OH*            H3O+   +   e- → H* +   H2O

電子の周りには水分子が集まり水和電子[e(aq)]が生成される。

e- + nH2O → e(aq)-  [還元性]

e(aq)- + H2O → OH- + H* もしくは、e(aq)- + H+ → H*

H* + OH* → H2O となり、

H*は生体分子の水素を引き抜いて反応を起こし、10^(-10)秒の寿命をもつ。

還元性を示す分子・・・H*、e(aq)-、H2

酸化性を示す分子・・・OH*、H2O2

A 正 上の式でも分かるように、イオン化により生じた電子は、さらに高次のイオン化を起こしたり、親イオン(陽イオン)と再結合したりして消滅する。水中では、水分子数個にゆるく束縛され水和電子を形成し、約 30 μsec 程度存在する。

B 正 放射線が物質に及ぼす効果は、放射線の一次過程と二次過程に分類できるが、スプール生成までが一次過程である。一次過程は、励起、イオン化(電離)の物理的現象が見られる過程およびイオンやラジカルの生成までの物理化学的な現象が見られる過程である。二次過程は、一次過程によって生成したイオン、励起分子、ラジカルなどが、引き続いて起こす一連の化学的な現象が見られる過程である。

C 誤 上図に示すように水和電子は還元性を示す。また水和電子は水素原子 H より酸化還元電位が約 0.6 V 高く、水素原子より強力な還元性を持ち、反応性に富む。

D 正 水和電子は e(aq)- + H2O → OH- + H* もしくは、e(aq)- + H+ → H* という反応で水素ラジカルを生成する。

問30

フリッケ線量計に 60Co からのγ線を線量率 960 Gy/h で 1 時間照射すると、溶液 1 g 当たりどれだけの物質量(mol) のFe(3+) が生成するか。ただし、Fe(3+) の生成の G 値 を 16、アボガドロ定数を 6.0 × 10^23 /mol、1 eV を 1.6 × 10^(-19) J とする。

1 1.0 × 10^(-7) 以下

2 1.6 × 10^(-6)

3 6.0 × 10^(-6)

4 1.7 × 10^(-5)

5 1.0 × 10^(-4) 以上

解答 2

フリッケ線量計は第1鉄イオン(Fe2+) → 酸化 → 第2鉄イオン(Fe3+) と変化させて測定する線量計で、測定範囲エネルギーは 50 ~ 400 Gy 。また硫酸鉄(Ⅲ)水溶液に空気または酸素と飽和して用いる。酸素飽和していると高線量の測定が可能。 G 値 が 16 とは、100 eV のエネルギー吸収によって 16 個の Fe(3+) を生成するということである。ここで、N個の Fe(3+) が吸収する線量 D は、D = (N/16) × 100[eV] × 1.6 × 10^(-19)[J/eV] / (1.0 × 10^(-3)) [kg] = N × 10^(-15)。 線量率 960 Gy/h で 1 時間照射を行うと、960 = N × 10^(-15) よって N = 9.6 × 10^17 個。したがって線量 D = (9.6 × 10^17)/(6.0 × 10^23) = 1.6 × 10^(-6) [mol] となる。

分配係数に関する記述

イオン交換樹脂を用いる分離系では、吸着の強さを表わす指標として分配係数が用いられる。U(Ⅵ)イオンを例にとると、吸着平衡の時にイオン交換樹脂に吸着した U量が1.0×10^4Bq/g(乾燥樹脂重量)、水溶液中に残ったUの濃度が5Bq/mlの時、分配係数は2.0×10^3である。それぞれ1.0×10^4Bqの137Cs(Ⅰ)、51Cr(Ⅲ)、95Zr(Ⅳ) の各イオンのトレーサーを含む0.2M H2SO4 水溶液10mlがある。その溶液に、陰イオン交換樹脂1g(乾燥重量)を加えてから、よく撹拌して吸着平衡した。この系における それぞれのイオンの分配係数を求めたところ、次表に示す値が得られた。

陰イオン交換樹脂ー0.2M H2SO4 137Cs(Ⅰ) 51Cr(Ⅲ) 95Zr(Ⅳ)
分配係数 1.0×10^(-3)  0.5 1.0×10^3

 

95Zr(Ⅳ)は、そのほとんどが樹脂に吸着した。溶液中の95Zr濃度は約 10 Bq/molとなった。137Cs(Ⅰ)はほとんどが溶液中に残った。137Cs(Ⅰ)は溶液中で陽イオンとして存在している と考えられる。51Cr(Ⅲ)では、95%が水溶液中に見出され、その分配係数はおよそ 0.5 であった。

 

解説

分配係数 Kd[ml/g] = イオン交換樹脂中のイオン濃度/溶液中のイオン濃度 で表される。U(Ⅵ)の場合:Kd = 1.0×10^4[Bq/ml]/5[Bq/ml] = 2.0×10^3[ml/g]
ここで、試料の初期イオン濃度C0、初期放射能A0、水溶液に残ったイオン濃度C、水溶液中放射能A、水溶液体積V、イオン交換樹脂重量mとすると、
Kd = (C0-C)/C = [(A0-A)/m]/(A/V)・・・①
分配係数より、137Cs(Ⅰ)と95Zr(Ⅵ)についてイオン交換樹脂への吸着量及び水溶液中濃度を算出する。初期放射能はそれぞれ 1.0×10^4[Bq]である。
137Cs(Ⅰ):溶液中Cs放射能Acsとすると、式①より 1.0×10^(-3) = [(1.0×10^4-Acs)/1]/(Acs/10) Acs ≒ 1.0×10^4[Bq]
よって、Ccs = 1.0×10^4[Bq]/10[ml] = 1.0×10^3[Bq/ml] また、イオン交換樹脂への吸着量は、(A0cs-Acs)/1[g] = 0[Bq/g]

95Zr(Ⅵ):溶液中Zr放射能をAzrとすると、式①より 1.0×10^3 = [(1.0×10^4-Azr)/1]/(Azr/10) Azr ≒ 100 よって、Ccs = 100[Bq]/10[ml] = 10[Bq/ml]
また、イオン交換樹脂への吸着量は、(A0cs-Acs)/1[g] = 9900[Bq/g] 次に水溶液中に51Crが95%見出されたことにより、51Crの分配係数を求める。

51Cr(Ⅲ):水溶液中濃度:1.0×10^4 × 0.95 = 9500Bq、Ccs = 9500[Bq]/10[ml] イオン交換樹脂への吸着量:(A0cr-Acr)/1[g] = 500[Bq/g]
よって、分配係数Kd = 500[Bq/g]/950[Bq/ml] ≒ 0.5[ml/g] 強塩基性陰イオン交換樹脂にほとんど吸着しないあるいは全然吸着しないグループとして、アルカリ金属
アルカリ土類金属、Sc、Y、ランタノイド元素、Ac、Tl(Ⅰ)、Ni、Alなどがある。Csはアルカリ金属である。また、陰イオン交換樹脂は、陰イオンしか吸着しないので、CsはCs+
の陽イオンとして存在すると考えられる。

溶媒抽出法では、溶質の抽出特性を表す指標として分配比が用いられる。有機相中の溶質の全濃度をC0、水相中のそれをCAとすると、分配比は( C0/C )で表される。
通常は有機相中への抽出を増すために( HDEHP )等の抽出剤を有機相に加える。有機相を30%リン酸トリプチン/n-ドデカン、水相を硝酸溶液とした時の、いくつかの金属元素
についての金属元素について分配比を表に示す。

有機相:30%リン酸トリプチン/n-ドデカン 水相:3M 硝酸溶液 U(Ⅳ) Eu(Ⅲ) Tc(Ⅶ)
分配比  20  0.1  0.1

 

等容積の有機相と 3M 硝酸溶液を用いた1回の抽出では、U(Ⅵ)は 95 %が有機相に抽出され、Eu(Ⅲ)とTc(Ⅶ)は 90 %が水相に残ることがわかる。この水相に対して、新たに等容積の有機相を用いて2回目の抽出を行うと、水相中に残るU(Ⅵ)量は、最初に存在した量の 0.25 %となる。

 

解説

有機相中の溶質の全濃度をC0、水相中の溶質の全濃度をCAとすると、分配比は次のようになる。 D = C0/CA 分配比Dは水相を基準として有機相に何倍も多く抽出 されるかを表し、Dが大きいほど有機相に多く抽出されることを意味する。また、放射性核種がどれだけ有機相に抽出されたかを表す抽出率Eは、分配比Dで次のように表される。
E = D/[D + (Vw/V0)]・・・② VwとV0は、それぞれ水相と有機相の容量(ml)を示す。水相と有機相を等容積で抽出を行う場合、Vw = V0 となり、②式は次のようになる。
E = D/(D + 1)・・・③ 1回目の抽出により有機相に抽出されたU(Ⅵ)の割合は式③より、E = 20/(20 + 1) ≒ 0.95 よって 95%
また、Eu(Ⅲ)とTc(Ⅲ)の割合は、E = 0.1/(0.1 + 1) ≒ 0.09 問題では水相に残った割合なので、(1 – 0.09) × 100 ≒ 90%
ここで、1回目の抽出により水相中に残ったU(Ⅵ)は、最初に存在した量の5%となる。2回目の抽出により有機相に抽出されるU(Ⅵ)の割合も0.95であるため、さらにその5%が 2回目の抽出により水相中に残る。したがって、(0.05 × 0.05) × 100 = 0.25% が水相中に残ると考えられる。
溶媒抽出法では、通常、有機相への抽出を増すために抽出剤を有機相に加える。例えば、90Sr – 90Yから 90Y を分離する際に、有機相にHDEHP(ビス2ーエチルヘキシルリン酸) を加えて抽出を行なっている。

III

約100年前、キュリー夫妻はウラン鉱石に含まれるラジウムを発見した。ウラン鉱石中に存在するラジウム(226Ra)は238Uと永続平衡にあるので、この鉱石中に含まれる 226Raと238Uの重量をW(Ra)とW(U)、それぞれの半減期をT(Ra)とT(U)(T(Ra)= 1.6×10^3年、T(U)= 4.5×10^9年とすると、次式の関係が成立する。

W(Ra)/226 = W(U)/228 × T(Ra)/T(U)

従って、その鉱石に含まれているW(U)が5.0×10^3gの場合には、約 1.7 mgの226Raが含まれていることになる。 ところで、キュリー夫妻は原子量を確定できるだけのラジウム量を得るために、ウラン回収後の残渣である鉱さい数トンを用いてラジウムの分離作業を行った。 原料である鉱さいを溶解し、その中に含まれるラジウムなどの微量金属を硫酸塩の沈殿として回収した。分離した硫酸塩の沈殿は、さらに様々な沈殿分離法を経て、 バリウム成分が精製された。最終段階では、同じアルカリ土類金属の塩であるBaCl2と 226RaCl3 とを分離するために、両者の水への溶解度の差を利用する分別結晶法を用いた。 試料を溶かした水溶液を蒸発濃縮して新たな結晶を得るごとに、結晶中の226Raの放射能濃度は増大した。この操作を何回も繰り返し、約100mgの 226RaCl3 結晶を得た。 なお、純粋な226Ra 100mg の放射能は 3.7×10^9 Bqである。

 

解説

ウラン鉱石中に存在するラジウム(226Ra)は238Uと永続平衡にある。永続平衡(親核種1の半減期が娘核種2に対して非常に長い:λ1<<λ2)が成立する場合は、親核種1と娘核種2は次の関係となる。
N1・λ1 = N2・λ2・・・④
ここで、ウラン鉱石中に含まれる226Raと238Uの重量をW(Ra)とW(U)、それぞれの半減期をT(Ra)とT(U)とすると、式④は次のように表される。
N(U)・λ(U) = N(Ra)・λ(Ra) より (ln2/T(U))・(W(U)/238) = (ln2/T(Ra))・(W(Ra)/226) (W(Ra)/226) = (W(U)/238)・(T(Ra)/T(U))
W(U) = 5.0 × 10^3の場合は、(W(Ra)/226) = (5.0 × 10^3[g]/238)・(1.6 × 10^3[年]/4.5 × 10^9[年]) W(Ra) ≒ 1.7 × 10^(-3)[g] = 1.7[mg]
ラジウムとバリウムは共にアルカリ土類金属の元素であり、化学的性質では同じ挙動をする。しかし、水等への塩化物の溶解度の差があるため、その差を利用して分別結晶法により 分離できる。アルカリ土類金属は周期表において第2族に属する元素。226Raの半減期は1.60 × 10^3年、ウラン鉱物に3.4 × 10^(-5)%程度含まれる。226Raの1gは約1Ci(キュリー) である。1Ci = 3.7 × 10^10Bq = 37GBq よって、純粋な226Ra 100mg の放射能は、3.7 × 10^9 Bq である。

中性子照射による核反応の記述

ライフサイエンスの分野でよく用いられる 32P(半減期14日 (1.2×10^6秒))は、β- 壊変して 32S になる。32P は、天然同位体存在度のリン(31P:100%)をターゲットとして原子炉での中性子照射による 31P (n,γ) 32P 反応で得られる。この場合は担体の 31P を含んでおり、生成する 32P の比放射能は、核反応断面積にも照射中性子フルエンス率にも依存する。また、照射時間にも 冷却時間にも依存する。一方、32P の製造には天然同位体存在度の硫黄(32S:95%)をターゲットとする原子炉での中性子照射で、32S (n,p) 32P のように、照射の前後で原子番号が変わる核反応が利用される。この場合、ターゲットから化学分離により無担体の 32P が得られ、この 32P の比放射能は、核反応断面積にも照射中性子フルエンス率にも依存しない。また、照射時間にも冷却時間にも 依存しない。無担体で 1 kBq の 32P では、その計数率は検出効率 10% としても 6000 cpm あり、容易に検出できるが、その質量は 10^(-13) グラムと超微量であり、トレーサーとして使用するとき、対象への化学的生物学的影響はほとんど無視できる。なお、無担体の 32P 製品中に、ターゲット硫黄中の 33S(0.8%) 由来の 33P(半減期 25日 (2.2×10^6秒)) が不純物として放射能比で 1 % 含まれていると、100 日後における 32P の放射性核種純度はおおよそ 92 % となる。

 

解説

放射能の単位は Bq で 1秒あたりの壊変数である。
1.0 kBq = 1000[s^(-1)] = 60000[min^(-1)] よって検出効率 10% とすると、6000 cpm となる。
放射能:A[Bq]、壊変定数:λ、[s^(-1)]、半減期:T[s]、質量:W[g]、質量数:M[g/mol] とすると、
A = (0.693/T) × (W/M) × 6.02 × 10^23
1.0 × 10^3 = (0.693/(1.2×10^6)) × (W/32) × 6.0 × 10^23
W = 9.2 × 10^(-14) ≒ 10^(-13) [g] となる。
続いて、放射能 A0 の放射性核種を用いているとき、その半減期を T とすると経過時間 t における放射能 A は、A = A0 × e^(-0.693t/T) となる。この式は A = A0 × (1/2)^(t/T) と書き直せる。
32P:A × (1/2)^(100/14) ≒ A × (1/2)^7
33P:0.01A × (1/2)^(100/25) = 0.01A × (1/2)^4
よって、[A × (1/2)^7]/[A[(1/2)^7] + 0.01 × (1/2)^4] = 0.925 したがって 92.5% となる。

 

上空大気中で宇宙線により生じる中性子と空気中の 14N との (n,p) 反応により 14C(半減期 5730年(1.8×10^11秒))が生成する。宇宙線強度が変わらなければ常に同じ割合で生成し壊変するので、地球大気中の 14C の量は一定に保たれる。その比放射能は炭素 1g 当たり約 0.23 Bq であり、その炭素同位体原子数比(14C/(12C+13C))の値は 1.2 × 10^(-12) である。 14CO2 の化学形で存在する大気中の 14C が、光合成により植物体内に取り込まれ、食物連鎖により動物体内にも入り、生物体中の 14C 比放射能は、大気中とほぼ同じになる。しかし、生物が死ぬと、14C の供給が途絶えるので、14C 比放射能は時間とともに減衰する。したがって、これら生物試料中の 14C を測定すれば、その生物の死後の経過時間が求められる(年代測定)。14C はこれまで、試料を気体にして 比例計数管により、あるいは、炭素含有率の大きい有機液体にして液体シンチレーション検出器により、その放射能で測定されてきた。しかし、試料量が少量のとき、あるいは数万年前の試料では、含まれる 14C 放射能が mBq 程度となり、その放射能測定は極めて困難あるいは不可能となるが、近年、加速器質量分析法を用いて、1ミリグラム程度の 試料でも、あるいは数万年前の試料でも、高感度に炭素同位体原子数比を測定して 14C の量を求め、その年代を決定することが可能になってきた。例えば、1ミリグラムの炭素を含む試料を測定して、13C/12C 原子数比の値が 0.0108、14C/13C 原子数比の値が 10^(-11) であったとすると、この試料の年代として最も近い値は 20000 年前である。

 

解説

14C は天然に 14N から (p,n) 反応で生成する。炭素の安定同位体は、12C 98.89% のほかに、13C 1.11% がある。
14C 年代測定:大気の上層部で宇宙線が 14N に衝突すると、 14C ができる。これが酸化されて 14CO2 となり、植物や動物の組織内に吸収されて生体の一部となる。14C の半減期は 5730 年であり、1つの炭素サイクル内では、炭素の比放射能はほぼ一定とみなしてもよい。生体の死後、その中に止まるようになった炭素はサイクルからはずれるので、14C 固有の壊変定数で放射能を失う。したがって、試料中の 14C の比放射能を測定すれば年代が分かる。
A = (0.693/T) × N より、0.23 = 0.693/(1.8×10^11) × N
N(14C) = 6.0 × 10^10
N(12C+13C) = (1/12) × 6.0 × 10^23 = 5.0 × 10^22
よって、N[14C/(12C+13C)] = (6.0×10^10)/(5.0×10^22) = 1.2 × 10^(-12)

測定による年代の算出

N(13C)/N(12C) = 0.0108、N(14C)/N(13C) = 10^(-11) より、
N(13C) = 10^11 × N(14C)・・・(1)
N(12C) = N(13C)/0.0108 = (N(14C) × 10^11)/0.0108・・・(2)
ここで、N = (W/A) × 6.0 × 10^23 より、
N(12C) + N(13C) = (1×10^(-3))/12 × 6.0 × 10^(23)・・・(3)
(1)、(2)、(3)より、
(N(14C) × 10^11)/0.0108 + 10^11 × N(14C) = (1×10^(20))/2.0
N(14C) = (1/2) × 10^7 個(1mg中)
A = λN = (0.693/T)×N より、
A = (0.693/1.8×10^11) × (1/2×10^7) = 1.9 × 10^(-5) Bq
地球大気中の 14C の比放射能は 0.23 Bq/g であるから、1ミリグラム当たりの放射能は o.23 × 10^(-3) Bq となる。
1.9 × 10^(-5) = 0.23 × 10^(-3) × (1/2)^(t/5730)
0.083 = (1/2)^(t/5730)
左辺の(1/2)^n について検討すると、(1/2)^3 = 0.125、(1/2)^4 = 0.0625 である。
3 < t/5730 < 4 より 17190 < t < 22920 となり、約 20000 年前のものと推定できる。

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

https://www.radiologist-study.org

第1種放射線取扱主任者試験 物理学問題・解説4

問1

次の記述のうち、相対論的立場から正しいものの組み合わせはどれか。

A 光子のエネルギーは、波長に逆比例する。

B 光子の運動量は、エネルギーに比例する。

C 粒子のド・ブロイ波長は、運動量に比例する。

D 粒子の運動量は、速度に比例する。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 1

A:正 エネルギーE = h・ν = (h・c)/λ

B:正 運動量P = E/c = (h・ν)/c

C:正 運動量P = mv = √2Em = c/λ λ = c/(mv)・・・これを物質波(ド・ブロイ波)という。

D:誤 速度 v が小さい非相対論的領域ではこのような式が成り立ち、運動量P = mv = √2Em = c/λ 正しいが、v が大きい相対論的領域では、運動量 p は m を質量、c を光速として、p = (mv)/[√1-(v/c)^2]で与えられる。

問2

水に 2 Gy の吸収線量が与えられた場合、平均の温度上昇(℃)として最も近い値はどれか。ただし、この水は断熱環境下にあり、照射による吸収エネルギーはすべて温度上昇に費やされるものとする。

1 1.0 × 10^(-4)

2 5.0 × 10^(-4)

3 1.0 × 10^(-3)

4 2.0 × 10^(-3)

5 5.0 × 10^(-3)

解答 2

水の比熱は 1 [cal・℃(-1)・g(-1)] = 4.2 × 10^3 [J・℃(-1)・kg(-1)]であるから、温度上昇 ΔT[℃]は、ΔT = 2/(4.2 × 10^3) = 4.8 × 10^(-4) [℃]

問3

同一原子のK殻とL殻の電子に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

1 ボルツマン定数 ー J・kg

2 アボガドロ定数 ー mol・kg(-1)

3 プランク定数 ー J・s

4 ファラデー定数 ー J・mol(-1)・K(-1)

5 リュードベリ定数 ー m

解答 3

1:誤 ボルツマン定数・・・通常 k で表し、k = 1.38 × 10^(-23) [J/K]

2:誤 アボガドロ定数・・・通常 N(A) で表し、N(A) = 6.02 × 10^23 [mol^(-1)]

3:正 プランク定数・・・通常 h で表し、h = 6.63 × 10^(-34) [J・s]

4:誤 ファラデー定数・・・通常 F で表し、F = N(A)・e = 6.02 × 10^23 × 1.602 × 10^(-19) = 9.65 × 10^4[C/mol]

5:誤 リュードベリ定数・・・通常R(∞)で表し、R(∞) = 1.10 × 10^7[m^(-1)]

問4

原子核に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 原子核の半径は 10^(-14) m より小さい。

B 原子核を構成する核子には、中性子、陽子及び電子がある。

C 核子間の結合力は、距離の2乗に反比例する。

D 56Fe の原子核においては核子当たりの結合エネルギーは 8 MeV 程度である。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

 

解答 4

A:正 原子核の半径は 10^(-14) 〜 10^(-15) m 。

B:誤 原子核を構成する核子は陽子と中性子である。

C:誤 核力の到達距離は有限で極めて短い。2乗に反比例するのは電気力、万有引力などである。

D:正 正確には 8.8 MeV である。

問5

内部転換に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 同時にニュートリノが放出される。

B 原子核の励起エネルギーの放出過程である。

C 原子の軌道電子が放出される。

D 原子番号が 1 つ増加する。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 4

核が励起状態にあるときγ線を放出する代わりに、そのエネルギーを軌道電子に与えて放出することを内部転換といい、放出される電子、つまり内部転換電子は線スペクトルをもつ。 この放出される電子が K殻、L殻等の電子にエネルギーを与えることで特性X線が放出される。 よってニュートリノは放出されない。

問6

次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 内部転換に伴って特性X線が放出されることがある。

B 光電効果に伴って特性X線が放出されることがある。

C 特性X線の波長は制動X線の波長より長い。

D 同じ原子において、KX線の波長はLX線の波長より長い。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 1

A:正 K殻電子が多く放出され、その空席をL殻などの上位のエネルギー順位の電子が遷移して埋める際に特性X線が放出される。

B:正 光電効果の後に特性X線かオージエ電子が放出される。

C:誤 制動X線のエネルギーは 0 から入射荷電粒子のエネルギーまで分布するため、波長の最大値(エネルギーは最小)は特性X線の波長よりも長い。

D:誤 K殻の空席をL殻以上の電子が遷移して埋める際に放出されるのがKX線、同様にL殻の空席に伴うのがLX線である。KX線の最小エネルギーはL殻電子が遷移する場合であるが、K殻とL殻のエネルギー差はL殻の結合 エネルギーよりもずっと大きい。すなわち特性X線の中ではKX線のエネルギーが最も大きく、波長が短い。

問7

次の記述のうち、正しいものはどれか。

1 22Na の半減期は、24Na の半減期より短い。

2 57Co の半減期は、60Co の半減期より短い。

3 125I の半減期は、131I の半減期より短い。

4 134Cs の半減期は、137Cs の半減期より短い。

5 235U の半減期は、238U の半減期より長い。

解答 2      基本的には半減期を覚えておくしかない。

1 誤 22Na:2.6年 > 24Na: 15時間

2 正 57Co:272日 < 60Co: 5.3年

3 誤 125I:60日 > 131I: 8.0日

4 誤 134Cs:2.1年 < 137Cs: 30年

5 誤 235U:7.0億年 < 238U: 45億年

問8

次のうち、純β線放出核種でないものはどれか。

1 14C

2 35S

3 47Ca

4 90Sr

5 90Y

解答 3

47Caは半減期 4.5日で 1.3 MeV のγ線を放出する。

問9

232Th(原子番号90)が208Pb(原子番号82)に壊変するまでに起こる壊変の回数の正しい組み合わせはどれか。

(α壊変の回数) (β-壊変の回数)

1 5回 3回

2 5回 4回

3 6回 3回

4 6回 4回

5 6回 5回

解答 4

α壊変では質量数Aが4、原子番号Zが2減る。β-壊変ではAは変化せす、Zが1増える。両者のAの差は24であるから、α壊変数は 24/4 = 6 回である。6 回のα壊変によって Zは12減る。両者のZの差は8であるから、β-壊変数は 12-8 = 4回である。

問10

加速器に関する次の関連のうち、適切なものの組み合わせはどれか。

A シンクロトロン ー 静磁場

B サイクロトロン ー ディー電極

C ファン・デ・グラーフ型加速器 ー 高周波電圧

D コッククロフト・ワルトン型加速器 ー 絶縁ベルト

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 BCDのみ 4 ABCDすべて 5 1から4の選択肢以外

解答 5

A 誤 シンクロトロン・・・シンクロトロンは増大する磁場を用いて荷電粒子を偏向電磁石で曲げて行う事で一定軌道に回転させ、その途中に高周波を掛けて加速する装置である。また電子軌道を収束電磁石で強制的に変える事で X線が発生する。シンクロトロンは電子とイオンの両方加速可能である。磁場は加速に伴って変化する。

B 正 サイクロトロン・・・D電極の上下に磁石を設置し、D電極に+、ーの高周波を掛けると、荷電粒子は回転運動を始め、ギャップで加速され、回転半径は大きくなり、ビームとして取り出される。D電極上下の磁界は直流磁界で 高周波は一定周波数を用いギャップ間で加速する。高周波静磁場を用いてイオンのみを加速させる。現在は粒子線治療とPET薬剤生成加速器に用いられる。

C 誤 ファン・デ・グラーフ型加速器・・・超高圧タンク内に絶縁ベルトを回転させ、電荷を帯電球に貯めて、超高静電圧を抵抗によって分圧し、加速管に電圧を加えて加速する。帯電球に電荷が貯まると、ベルト上の電荷と 斥力が作用し、ベルトの回転数が低下したり放電を発生する。超高圧ガスはは放電防止用窒素ガスである。直流高電圧、静電場を使っているため、イオン・電子共に加速可能である。

D 誤 コッククロフト・ワルトン型加速器・・・コンデンサーと整流器を組み合わせた倍圧整流回路を利用して、コンデンサーに高電圧を貯めて、コンデンサーから加速管に高電圧を印加する事で荷電粒子を加速する。直流高電圧、静電場を使っているため、イオン・電子共に加速可能である。

問11

熱中性子と 3He との核反応に関する次の記述のうち、正しい組み合わせはどれか。

A 水素の原子核(陽子)が放出される。

B トリチウムの原子核が放出される。

C 重水素の原子核が放出される。

D ヘリウムの原子核が放出される。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 1

3He(n,p)3H 反応に関する問題である。

問12

次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 24Naから放出されるγ線を重水に照射すると、中性子が放出される。

B 226Ra から放出される α線をベリリウムに照射すると、中性子が放出される。

C 150keV の 2H ビームを 3H に照射すると、中性子が放出される。

D 241Am から放出されるα線を天然ホウ素に照射すると、中性子が放出される。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 BCDのみ 4 ACDのみ 5 ABCDすべて

解答 5

A 正 重水素 3H の結合エネルギーは 2.2 MeV であり、24Na の 2.75 MeV γ線によって光核反応を生じ、陽子と中性子に分解することがある。。

B 正 9Be(α,n)12C 反応を利用して中性子線源に用いる。

C 正 3H(d,n)4He 反応によって 14MeV の中性子が放出される。

D 正 通常用いられるのは 9Be(α,n)12C 反応を利用した 241Am – Be 線源であるが、10B(α,n)13N 、11B(α,n)14N 反応を利用した 241Am – B 線源も使われる。241Am – Be 線源の平均中性子エネルギーが約 5 MeV であるのに対し、241Am – B 線源では約 3 MeV と低く、中性子放出率は低い。

問13

1 MeV の陽電子線を銅に照射した時に放出されない放射線はどれか。

1 制動放射線

2 消滅放射線

3 特性X線

4 内部転換電子

5 オージエ電子

解答 4

1 発生する 制動放射線・・・速い電子又は荷電粒子が原子核の近傍を通るとき、核の陽電荷によるクーロン力を受けて強く制動されるとき、余るエネルギーが光子の形で放射される。これが制動放射で放射される。

2 発生する 消滅放射線・・・陽電子は停止して、自由電子と結合して消滅する。 消滅時に0.51 MeVの消滅線を180°方向に2本放出する消滅放射線は0.51 MeV の単色光である。

3 発生する 特性X線・・・特性X線が放出されるのはβ-壊変、β+壊変あるいはα壊変の後に内部転換を生じた場合、または軌道電子捕獲ECの場合である。陽子は軌道電子捕獲 p + e- → n + ν という反応を示すので特性X線が発生する。

4 発生しない 内部転換電子・・・核が励起状態にあるときγ線を放出する代わりに、そのエネルギーを軌道電子に与えて放出することを内部転換といい、放出される電子を内部転換電子という。内部転換電子は核が励起状態でなければ発生しない。

5 発生する オージエ電子・・・光電効果、軌道電子捕獲、内部転換等の現象で原子の軌道に空席が生じたとき、外側の軌道のエネルギー準位の高い電子がそこへ飛び込み、そのエネルギー差が特性X線として放出される際、この特性X線の エネルギーを別の軌道電子に与えて、一定のエネルギーを持つ電子を放出することがある。この時出てくる電子をオージエ電子という。

問14

陽電子に関する次の記述のうち正しい組み合わせは、次のうちどれか。

A 真空中では陽電子は安定である。

B 消滅光子のエネルギーは、ドップラー効果により広がりを持つ。

C 陽電子の消滅に際して、3個の消滅光子を放出することがある。

D 陽電子と電子がポジトロニウムをつくる。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 5

A 正 消滅することなく安定である。

B 正 ともに消滅する相手である軌道電子は相当な運動量を持っているので、消滅放射線は放出方向に依存してエネルギーが広がる。

C 正 電子と光子のスピンと呼ばれる性質のため、ポジトロニウムの状態によっては3個あるいはそれ以上の光子が対消滅によって放出されることがある。。

D 正 陽電子と電子の対は、互いの引力によってポジトロニウムと呼ばれる原子のような状態を示し、短時間で対消滅する。

問15

5 MeV のα線に対するアルミニウム中の飛程を R(Al)[cm]、鉄中の飛程を R(Fe)[cm]とすると、飛程の比[R(Al)/R(Fe)]に最も近い値は次のうちどれか。ただし、アルミニウム及び鉄の密度は、それぞれ 2.7 g/cm3、7.9 g/cm3 である。

1 0.1

2 0.5

3 1

4 2

5 3

解答 4

飛程に密度を乗じた値は、物質の質量数の平方根に比例する(ブラッグ・グレーマン則)。重荷電粒子の飛程は物質の密度に反比例し、質量数の平方根に比例するというもの。物質M(原子量A、密度ρ)中の飛程Rと、物質M0(原子量A0、密度ρ0)中の飛程との比は次のように表される。R/R0 = (√A/A0)/(ρ/ρ0) = (√A/A0) × (ρ0/ρ)。 アルミニウム、鉄の質量数はそれぞれ約 27 と 56 であるから、密度をそれぞれ ρ(Al)、ρ(Fe)とすれば、R(Al)/R(Fe) = (√27/56)/(2.7/7.9) = (√27/56) × (7.9/2.7) = (√2)/2 × 7.9/2.7 = 2.1 となる。

問16

4.8 MeV のα線が空気中で停止するまでの間に生成するイオン対数として、最も近い値は次のうちどれか。

1 1.4 × 10^3

2 7.2 × 10^3

3 1.4 × 10^4

4 7.2 × 10^4

5 1.4 × 10^5

解答 5

空気のW値は約 34 eV であるので、イオン対数 = (4.8×10^6)/34 = 1.4 × 10^5 個

問17

次の3つの荷電粒子に対する水中飛程の大小関係として、最も適切なものはどれか。

A 100 MeV の陽子

B 200 MeV の重陽子

C 1200 MeV の 12C原子核

1 A<B<C 2 B<A<C 3 C<A<B 4 C<B<A 5 1 から 4 の選択肢以外

解答 3

飛程 R = (1/M) × (E/Z)^2 という式が成り立つで計算すると C<A<B が成り立つ。

問18

2 MeV の光子における線減弱係数と線エネルギー転移係数とが異なる要員として、正しいものの組み合わせはどれか。

A 2次電子の放射エネルギー損失

B コンプトン散乱光子の放出

C 軌道電子の結合エネルギー

D 電子ー陽電子対の生成

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 4

エネルギー転移係数は光電効果、コンプトン効果、電子対生成などにより発生する2次電子に転移されるエネルギーの割合を表す値であるため、2次電子がどのような過程でエネルギーを失うかについては無関係であるため A は誤りとなる。

問19

コンプトン散乱に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 入射光子と軌道電子との非弾性衝突である。

B 電子のコンプトン波長は散乱角 90° の散乱光子の波長と入射光子の波長との差に等しい。

C コンプトン電子は光子の入射方向と逆向きには反跳されない。

D 入射光子のエネルギーが大きくなるほど後方へ散乱光子の割合が大きくなる。

解答 3

A 誤 コンプトン効果は波長λの光子が物質内の自由電子と衝突して進行方向が φ だけ変えられ、エネルギーを電子に与えて ψ なる方向へはじき出し、自らは波長λ’となるため弾性散乱となる。

B 正 h/(mc) をコンプトン波長λ0 という。散乱前後の光子のエネルギーをE、E’、波長をλ、λ’とする。90°方向への散乱では E’ = E/[1+(E/mc^2)] である。E = hc/λ、E’ = hc/λ’ を代入して整理すると、λ’ = λ + h/(mc) = λ + λ0 が得られる。

C 正 電子は入射方向に対して 0度 ~ 90度の範囲に反跳される。

D 誤 入射光子のエネルギーが大きくなるほど後方へ散乱光子の割合が小さくなる。

問20

コリメートされた 1 MeV 光子がコンクリート(密度:2.35 × 10^3 kg/cm3) に入射するとき、最初に相互作用を起こすまでのコンクリート中での平均距離(m)として最も近い値はどれか。 ただし、1 MeV 光子に対する質量減弱係数を 6.38 × 10^(-3) m2/kg とする。

1 0.07

2 0.1

3 0.13

4 0.16

5 0.19

 

解答 1

ここで求める平均距離は平均自由行程 L であり、平均自由行程L = 1/μ で表される。

よって L = 1/(6.38 × 10^(-3) × 2.35 × 10^3) = 0.067 [m] となる。

問21

異なる物質I及び物質Ⅱに対する室減弱係数(μ/ρ)及び質量エネルギー吸収係数(μ(en)/ρ)を下図に示す。これらの図に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

 

A 原子番号が小さいのは物質Ⅰである。

B 物質Ⅰにおける図の低エネルギー域で見られる曲線の不連続部分はK吸収端である。

C 物質Ⅱにおける図で実線と点線の重なる領域は主に光電効果に起因する。

D 実線は質量減弱係数を表す。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 5

物質Iで約 2 keV、物質Ⅱで約 90 keV に見られる不連続はともにK吸収端であり、物質Ⅱではさらに低エネルギー 領域にL、M吸収端が見られる。原子番号が大きくなると、吸収端のエネルギーは高くなる。エネルギー吸収係数は減弱係数よりも必ず小さいので、図では実線が質量減弱係数、点線が質量エネルギー吸収係数である。 低エネルギー領域では光電効果が優勢なため、両者の差は小さい。

問22

次の反応のうち、中性子捕獲反応はどれか。

1 (n,α)

2 (n,p)

3 (n,n’)

4 (n,f)

5 (n,γ)

解答 5

1 (n,α)・・・α線放出

2 (n,p)・・・陽子線放出

3 (n,n’)・・・非弾性散乱

4 (n,f)・・・核分裂反応

5 (n,γ)・・・中性子捕獲反応

問23

量と単位に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A カーマ ー J・kg^(-1)

B 質量阻止能 ー MeV・kg^(-1)・m^2

C 線エネルギー吸収係数 ー MeV・m^(-2)

D 粒子フルエンス ー m^2・s^(-1)

1 ABCのみ 2 ABのみ 3 ADのみ 4 CDのみ 5 BCDのみ

解答 2

A 正 カーマ ー J・kg^(-1)

B 正 質量阻止能 ー MeV・kg^(-1)・m^2

C 誤 線エネルギー吸収係数 ー m^(-1) が正しい単位

D 誤 粒子フルエンス ー m^(-2) が正しい単位

問24

次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A W値は電子線に対して用いることができる。

B カーマは光子線に対して用いることができる。

C 照射線量は中性子に対して用いることができる。

D 吸収線量は陽子に対して用いることができる。

 

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 BCDのみ 4 ACDのみ 5 ABCDすべて

 

解答 2

A 正 W値はすべての荷電粒子に対して用いることができる。

B 正 カーマは光子、中性子など電荷を持たない放射線に対して用いることができる。

C 誤 照射線量は光子が空気と相互作用するときにだけ用いることができる。

D 正 吸収線量はすべての放射線に対して用いることができる。

問25

十分に長い半減期を持つ放射線源からのβ線を1秒間ずつ1000回計数したところ、平均値として200カウントを得た。この場合、計数値が228を超えた回数として期待される数は、次のうちどれか。

1 15

2 20

3 25

4 30

5 50

解答 3

標準偏差は σ = √200 ≒ 14 であり、228は平均値(x’) + 2σ に相当する。計数値が[x’± 2σ]の範囲になる確率は 95% であるから、約950 回は 172 から 228 のはずであり、228 を超えるのは残りの半分、約 25 回である。

問26

32P 線源を GM管式計数装置で 1分間測定したところ、60000カウントであった。32P の半減期に相当する 14.3日後に同じ条件で測定したところ、1分間に 33000カウントを得た。この計数装置の分解時間(μs)として最も近い値は次のうちどれか。ただし、バックグラウンドは無視できるものとする。

1 150

2 180

3 200

4 220

5 250

解答 2

始めの測定の計数率は n1 = 1000 s^(-1)、2回目の計数率は n2 = 550s^(-1) である。数え落としを補正した計数率をそれぞれ n10 s^(-1)、n20 s^(-1)、分解時間を τs とすれば、n10 = n1/(1-n1τ)、n20 = n2/(1-n2τ)、1半減期による減衰から n10 = 2(n20) が成立する。すなわち、1000/(1-1000τ) = 2×550/(1-550τ)、これにより τ = 1.8 × 10^(-4) s = 180 μs となる。

問27

時定数 10s のサーベイメータに急激に一定の強さの放射線を照射した場合、指示値が最終値の 90% になるまでに要する時間(s)として、最も近い値は次のうちどれか。ただし、計数率はバックグラウンド計数率よりも十分高いものとする。また、ln10 = 2.3 とする。

1 20

2 23

3 26

4 29

5 32

解答 2

指示値 x は、十分時間が経過した後の指示値を x0、時定数を τ として、x = x0(1 – e^(-t/τ)) にしたがって上昇する。90% に達する時間を Ts とすると、0.9 = (1 – e^(-T/10)) すなわち 0.1 = e^(-T/10) となる。両辺の自然対数をとると、ln0.1 = -(T/10)、すなわち ln10 = T/10 よって T ≒ 23 s となる。

問28

次の検出器のうち、熱中性子の測定に用いられるものの組み合わせはどれか。

A 水素充填比例計数管

B BF3比例計数管

C 金箔と放射能測定器

D 3He比例計数管

E ポリエチレンラジエータ付きSi半導体検出器

1 ABCのみ 2 ABEのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 CDEのみ

解答 4

A 誤 水素充填比例計数管・・・高速中性子測定

B 正 BF3比例計数管・・・熱中性子測定

C 正 金箔と放射能測定器・・・熱中性子測定

D 正 3He比例計数管・・・熱中性子測定

E 誤 ポリエチレンラジエータ付きSi半導体検出器・・・高速中性子測定

問29

光子に対する個人被ばく線量測定に用いられる測定器として、正しいものの組み合わせはどれか。

 

A OSL線量計

B 蛍光ガラス線量計

C TLD

D 放射化箔検出器

E 固体飛跡検出器

1 ABCのみ 2 ABEのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 CDEのみ

解答 1

A 正 OSL線量計

B 正 蛍光ガラス線量計

C 正 TLD

D 誤 放射化箔検出器・・・感度が低く、大線量の中性子測定に用いられる。

E 誤 固体飛跡検出器・・・中性子の個人被ばく線量測定に用いられる。

問30

次のうち、シンチレーション検出器に関係のあるものの組み合わせはどれか。

A POPOP

B 光電陰極

C スチルベン

D アクチベータ(活性炭)

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 BCDのみ 4 ACDのみ 5 ABCDすべて

解答 5

A 正 POPOP・・・POPOPは、PPO、ブチルPBD、DMPOPOPなどと同様、液体シンチレータの溶質として用いられる。

B 正 光電陰極・・・光電子増倍管の光を受ける電極である。

C 正 スチルベン・・・固体有機シンチレータの一種である。

D 正 アクチベータ(活性炭)・・・NaI(Tl)シンチレータに微量に添加されている Tl はアクチベータとして作用する。

放射性物質の壊変についての記述

β- 壊変の際は、核電荷が 1 だけ増加する。β+ 壊変の際は核電荷が 1 だけ減少すると同時に電荷を持つ陽電子と電荷を持たないニュートリノが放出される。電子捕獲の際には、核電荷が 1 だけ減少すると同時にニュートリノが 1 個放出される。 このとき K 軌道電子が最も捕獲されやすい。電子捕獲の後続過程として、特性X線又はオージエ電子が放出される。

 

1 MeV の光子と軟組織との相互作用の大部分はコンプトン効果であり、その結果生じる二次電子が軟組織中の原子、分子を励起又は電離して、エネルギーが付与される。その平均線エネルギー付与の大きさは、α線に比べて小さい。放射線防護の立場では、このような二次電子に対する放射線荷重係数の値が 1 と定められている。

 

その場所における 1 MeV の光子に対する軟組織の吸収線量が 240 mGy であるとき、その光子のエネルギーフルエンスは 8.0 × 10^(-3) J/cm2、光子フルエンスは 5 × 10^(10) cm^(-2)、軟組織の単位体積 1 cm3 中に生成するイオン対の平均数は 6 × 10^(13) 個である。ただし、1 MeV 光子に対する軟組織の質量エネルギー吸収係数を 0.03 cm2/g、軟組織の比重を 1、 軟組織で 1 イオン対を生成するのに必要な平均エネルギーを 25 eV とし、1 eV = 1.6 × 10^(-19) J とする。

 

解説

光子フルエンスを Φ、エネルギーフルエンスを φ、質量エネルギー吸収係数を μ(en)、軟組織の比重を ρ、W値を W、吸収線量を D、軟組織 1 cm3 中に生成するイオン対数を N と置けば、エネルギーフルエンスの定義より、
φ = 1.0 × 10^6 × 1.6 × 10^(-19) × Φ = 1.6 × 10^(-13)Φ J/cm2・・・①
光子によるエネルギー吸収より、
D = μ(en)φ × 10^3 J/Kg・・・②
一方、生成するイオン対数より、
D = (W × 1.6 × 10^(-19)N)/(ρ × 10^(-3)) J/kg・・・③
D = 0.24 Gy であるから、②より、
φ = D/(μ(en) × 10^3) = 0.24/(0.03 × 10^3) = 8.0 × 10^(-3) J/cm2 となる。
また、①より、
Φ = φ/(1.6 × 10^(-13)) = 5.0 × 10^10 cm^(-2) となる。
また、③より、
N = (D × ρ × 10^(-3))/(W × 1.6 × 10^(-19)) = (0.24 × 1 × 10^(-3))/(25 × 1.6 × 10^(-19)) = 6.0 × 10^13 cm^(-3) となる。

 

光子と物質との相互作用において主要な反応は、下図に示すように、光電効果、コンプトン効果及び電子対生成であり、入射光子エネルギーや物質の原子番号 Z に関連して起こる確率が異なる。図中に示された t、s、k をそれぞれの相互作用の線源弱係数とすると、t は Z^5 に、s は Z に、k は Z^2 に概ね比例する。これらの3つの相互作用のほかに、確率は小さくなるが、レイリー散乱や光核反応がある。光核反応は光子エネルギーが数 MeV 以上になった時に重要で、光子が物質の原子核に吸収され、中性子等を放出させる現象をいう。

 

高速中性子と質量数 A の原子核との衝突が弾性散乱である場合には、原子核内部のエネルギーに変化は起こらず、入射中性子と原子核の間にはエネルギー並びに運動量の保存則が成り立つ。衝突の前後における中性子のエネルギーをそれぞれ E1 及び E2 とすると、衝突後の中性子の取り得るエネルギーが最小となるのが正面衝突、最大となるのが接線衝突の場合であるから、その範囲は、
α = [(A-1)/(A+1)]^2 とすると、
αE1 < E2 E1 ・・・①
となり、このエネルギー範囲で一様な確率分布となる。
一方、原子核の反跳エネルギー E(R) の取り得る値は、
0 < E(R) (1-α)E1 ・・・②
となる。特に標的となる原子核が水素の場合には、衝突後の中性子の取り得るエネルギー範囲は、
0 < E2 < E1 ・・・③
となり、平均エネルギーは、
E’2 = (1/2)E1・・・④
となる。

また中性子が 12C 原子核に衝突する場合の 12C 原子核の最大反跳エネルギーは、(48/169)E1 となる。

 

解説

衝突後の中性子エネルギーが最小になるのは、散乱角が 180 度、すなわち中性子が進んできた方向に戻っていく場合であり、正面衝突の際に生じる。逆に衝突後の中性子エネルギーが最大となるのは、かすかな衝突(接線衝突)の場合であり、散乱角は 0 度である。
次に中性子の質量を m、原子核の質量を M、実験室系での衝突前の中性子の速度を v0、衝突後の中性子の速度を v、原子核の速度を V とすれば、エネルギー保存則より次式が成り立つ。
(1/2)mv0^2 = (1/2)mv^2 + (1/2)MV^2・・・(1)
運動量の保存則より、接線衝突、すなわち θ = 0 度のときは次式が成立する。
mv0 = mv + MV・・・(2)
ここで、v > 0 の場合は衝突後の中性子の進行方向が衝突前と同じであることを示す。②より、
V = (m/M) × (v0-v)・・・(3)
(3)を(1)に代入して整理すれば、
(v0-v)[v0(M-m)+v(M+m)] = 0・・・(4)
(4)の解は2通り存在し、
v0 = v・・・(5)
または、v0(M-m) + v(M+m) = 0 v = -[(M-m)/(M+m)]v0・・・(6)
⑤の解は θ = 0 度の接線衝突に相当し、中性子速度は散乱によって変化せず、E2 = E1 である。

v < 0 の⑥の解は θ = 180 度 の正面衝突に相当し、中性子は来た方向に戻っていく。その時のエネルギーは、
E2 = (1/2)mv^2 = (1/2)m[(M-m)/(M+m)]^2 × V0^2 = [(M-m)/(M+m)]E1・・・(7)
u を原子質量単位とすれば、m ≒ 1u、M ≒ Au であるから、(7) は。
E2 = [(A-1)/(A+1)]^2 × E1・・・(8)
と書くことがきる。したがって αE1 < E2 < E1 である。重心系での散乱角度分布が等方でであるとき、このエネルギー範囲で E2 は一様な分布を示す。
E(R) = E1 – E2 であるから、
E2 = E1 -E(R)・・・(9)
(9)を①に代入すれば、
αE1 < E1 – E(R) < E1 ・・・(10)
(10)を整理すれば次式が得られる。
0 < E(R) < (1-α)E ・・・(11)
原子核が水素の場合は A = 1 であるから、α = 0 となり、次式が得られる。
0 < E2 < E1 ・・・(12)
E2 の分布は一様であるから、E2 の平均値 E’2 は、
E’2 = (1/2) × (0+E1) = (1/2)E1・・・(13) である。
原子核が 12C の場合は、A = 12 であるから、
α = [(12-1)/(12+1)]^2 = 121/169・・・(14) となる。
したがって反跳核の最大エネルギーは、
[1-(121/169)] × E1 = (48/169) × E1 である

 

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プラトー特性

プラトー特性

検出器に印加する電圧と計数率の関係をプラトー特性といい、比例計数管やGM計数管の使用電圧を決めたり計数管の動作試験として行われる。プラトー試験は次の通りに行う。

① 印加電圧が低い(およそ1000V未満)とき出力パルス波高はディスクリミネータの弁別レベル(Edsc)より低く、ディスクリミネータから出力は出来ない。

② さらに印加電圧を上げると陽極全体に電子なだれが生じ、パルス波高がディスクリミネータの弁別レベルを超えて計数され始める。

③ この計数開始電圧よりさらに電圧を上げると、電子なだれはいっそう成長し、パルス波高が高くなってGM計数管で生じた全てのパルスが弁別レベル(Edsc)を超えて計数される。これ以上電圧を上げてもパルス波高は高くなるが計数管に入射する放射線の数は一定であるから計数率が増えることなく一定になる。この間の電圧の領域をプラトーという。

④ プラトー領域を超えてさらに印加電圧を上げると、計数率が急激に上昇する。この電圧ではガイガー放電は異常に高くなって、消滅ガスの抑制作用は限界を越える。このような状態になると、消滅ガスが消耗してGM計数管の寿命を縮めたり、場合によっては連続放電を起こしてGM計数管が破壊することがある。通常のGM計数管ではプラトーの長さはおよそ 200 V 程度である。

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放射性核種の臓器親和性

放射性核種の臓器親和性

 

核種 臓器親和性
32P , 45Ca , 65Zn , 90Sr , 226Ra , 232Th , 238U , 239Pu , 241Am
40K , 137Cs 筋肉
222Rn , 232Th , 238U , 239Pu
53Fe , 59Fe 骨髄
3H , 14C , 24Na , 40K , 137Cs 全身
59Fe , 60Co , 65Zn , 232Th , 239Pu 肝臓
131I 甲状腺
59Fe 脾臓

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放射性気体の発生

放射性気体の発生について

放射性気体が発生するような化合物はフードまたはグローブボックス内に取り扱う。空気中の放射性物質の濃度を測定を測定するには、いったん捕集して行う方法がとらえる場合が多い。捕集するには放射性物質の物理的、化学的性状によって様々な手法が用いられる。 例えば、気体の HTO(トリチウム水蒸気) を捕集するにはシリカゲルを用いた固体捕集法や、ドライアイスを用いた冷却凝縮法などがとられる。HT(トリチウムガス)の場合にはパラジウム触媒 を用いて HTO(トリチウム水蒸気)に変えたのちに集める。(水素ガス状トリチウムの場合には、前段でもレギュラーシーブを通して HTO を除いた乾燥空気に無トリチウム水素ガスを担体として加えたのち、パラジウム酸化触媒を通して 水に変換して捕集する。)また、放射性ヨウ素が I2 の状態で存在する場合には活性炭での捕集が行われるが、CH3I の場合にはトリエチレンジアミン担持の 活性炭が利用されている。(気体状のヨウ素の捕集には、活性炭を用いる。トリエチレンジアミン(TEDA)を添着させた活性炭を用いることにより、有機状のヨウ素を高収率で捕集できる。) 放射性の二酸化炭素を捕集するにはアルカリ性溶液に通す方法がとられる。(例えば水酸化ナトリウム溶液に通すと炭酸水素ナトリウムの形で溶液中に捕集できる。NaOH + CO2 → NaHCO3) 一般的に非密封放射性同位元素の排気設備は、実験室内を換気し空気中濃度限度以下にするとともに、排気中の放射性同位元素の濃度を排気中濃度限度以下にするためのものである。排気設備に備えられるフィルタとして、プレフィルタと高性能エアフィルタがある。 プレフィルタにはガラス繊維フィルタ等が用いられている。高性能エアフィルタは HEPA フィルタとも呼ばれ、定格風量で 0.3 μm の微粒子を 99.97 % 以上の捕集効率で捕集する性能を有するものとされている。 (HEPA フィルターの性能は、JIS 規格により「定格流量で粒径が 0.3 μm の粒子に対して、99.97 % 以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が 24.5 Pa 以下の性能を持つエアフィルター」として定められている。)

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人体の実効線量当量への寄与

人体の実効線量当量への寄与

① 40Kからのβ、γ線・・・・年間 0.23mSV
② 14Cからのβ線・・・年間 0.012 mSV
③ 宇宙船・・・年間0.38 mSV
④ 地表からのγ線・・・年間 0.46 mSV
⑤ Rnからのα、β線・・・年間 1.28 mSV α線による肺の被ばくが多い。
⑥ 内部被ばくは主に210Po , 210Pb からである。

 

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壊変について

壊変について

137Cs は代表的な核分裂生成物の1つである。下図の 0 keVのレベルは 137Ba の基底状態を示すが、137Cs は 9 割以上の確率で励起状態のエネルギー準位に壊変する。図中の IT は核異性体転移を示し、137mBa は半減期約 2.6 m で基底状態へと到達する。この際に 662 keV のγ線を放出する場合と、γ線を放出する代わりにこのエネルギーを軌道電子に与える場合がある。 後者は内部転換と呼ばれる。0.25 GBq の 137Cs 点線源から 0.5 m 離れた点における 662 keV のγ線の空気に対する吸収線量率を求める。γ線放出に対する電子の放出比(内部転換係数)が 0.11 であるとすると、線源から毎秒放出されるγ線の数は 2.1 × 10^8 s^(-1) である。散乱や減弱を無視すれば、線源から 0.5 m 離れた点におけるエネルギーフルエンス率は 0.662 × 2.11 × 10^8 × 1/(4π×0.5^2) = 4.47 × 10^7 MeV/m^2・s である。空気の線エネルギー吸収係数と密度をそれぞれ 3.8 × 10^(-3) m^(-1)、1.3 kg/m^3 であるとするならば電子平衡が成立するならば求める値は 4.47 × 10^7 × 3.8 × 10^(-3) × 1/1.3 × 10^6 × 1.6 × 10^(-19) × 60 × 60 = 1.31 × 10^5 MeV/kg・sとなる。

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がん治療・酸素効果

がん治療

がんの放射線治療において、がん細胞を死滅させる治療効果を高める一方で正常組織に対する副作用を小さくするために、酸素効果、温度効果を利用したり、防護剤や増加剤の使用が試みられている。

酸素効果

正常細胞では酸素分圧はすでにある程度高いため、さらに酸素分圧を高めても増感作用は認められない。がん細胞の中心部は低酸素状態にあり、放射線治療に対して低感受性である。酸素分圧を高めることによって感受性を高められればよいが、 中心部まで直接に酸素分圧を高める方法はなく、1回目の照射により腫瘍細胞の周辺部位の酸素分圧の高い細胞を死滅させ、その内部にあった腫瘍細胞の酸素分圧が高まった後に再び照射するように、数回にわたり照射を分割して行い腫瘍細胞を 順々に再酸素化して治療する方法が考えられている。

温度効果

細胞を40°以上にすると放射線感受性は著しく上昇する。がん細胞の感受性を高めるために、温熱処理(ハイパーサーミア)する治療法がある。40° ~ 45°の温熱処理が一般的であり、温熱単独でも致死作用が見られるが、 放射線治療や化学療法を併用した方が効果は高い。

放射線防護剤

低LET放射線による間接作用では拡散性のフリーラジカルが重要な役割を果たす。このフリーラジカルとよく反応する物質が存在すれば間接作用を抑えることができる。このような防護効果を拮抗的作用という。 ラジカルスカベンジャーと呼ばれるSH基を持つ化合物が古くから知られており、システインとシステアミンが有名である。s-s 結合を持つ化合物も同様な働きを持ち、その例としてはシスタミンがあげられる。 防護剤は照射に先立ちあらかじめ与えておくか、少なくとも照射中に与えなければ効果がない。

増感剤

放射線増感剤として臨床的に用いられているものに、BUdR(5-ブロムデオキシウリジン)がある。BUdRはDNAの構成物質であるチミジンと類似しており、DNAに取り込まれやすい。 BUdRを取り込んだ細胞は放射線感受性が高くなる。低酸素細胞増感剤としてメトロニダゾールやミソニダゾールがあるが、副作用が強く現在のところ臨床の現場で実用化されているものはない。

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照射物質と生成RIの分離について

照射物質と生成RIの分離について

照射物質と生成RIの分離には種々の化学的手法がが用いられる。例として、65Cu(p,n)65Zn 反応による 65Zn トレーサーの製造を考える。荷電粒子反応で照射物質が発熱することや標的核の密度が大きいことから、照射物質は金属銅が望ましい。照射物質が 固体の場合には、酸やアルカリ水溶液に溶解して分離を行うことが多い。金属銅は硝酸のような酸化力のある酸で溶解する。水溶液から銅と亜鉛の分離にはいくつかの方法が考えられる。 酸性では硫化物イオンとの反応で CuS が沈殿するが ZnS は沈殿しないことを利用し、CuS を沈殿として分離する沈殿法がある。一般に無担体のRIは、溶液中で溶解度積に達して 沈殿を生成することはまずない。銅イオンの方が還元されやすいため電気分解法では銅を陰極に選択的に析出させることができる。また、亜鉛の方がクロロ錯体を形成しやすいことを 利用して陰イオン交換樹脂を使って亜鉛を捕集するのも1つの方法である。さらに錯形成能の違いを利用して分離する方法に溶媒抽出法がある。オキシン(8-オキシキノリノール)が pH3 までは銅と錯体を形成するが、亜鉛とは形成しないことを利用してクロロホルムのような溶媒に抽出して分離することができる。

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中性子を発生させる方法

中性子を発生させる方法

① 9Be(γ , n)8Be という反応で、約 1.7 MeV 以上のγ線があればこの反応を起こせる。
② 9Be(α , n)12C という反応で、5.3 MeV のα線を照射した場合、最大 10 MeV を超える中性子が発生する。
③ 3H(2H , n)4He という反応で、200 keV の2Hビームを照射した場合は、平均約14 MeV の中性子が放出される。この反応は中性子線源、核融合発電にも利用される。
④ 2H(2H , n)3He という反応で、2 MeV の2Hビームを照射した場合は、前方に約 5 MeV の中性子が放出される。

問題 エネルギー計算

235U が熱中性子を吸収して95Sr , 139Xe 及び中性子に分裂する反応において、1.0 g の235U が全て反応を起こすとき、この反応により発生するエネルギー(kWh)はいくらか。
95Sr:157.61 × 10^(-27) kg 139Xe:230.67 × 10^(-27) kg 235U:390.29 × 10^(-27) kg 中性子1個:1.67 × 10^(-27) kg とする。

解答 反応は次のようになる。
235U + n → 236U → 95Sr → 139Xe + 2n
質量差は次のようになる。
235U + n – [95Sr + 139Xe + 2n]
235U – [95Sr + 139Xe + n]
[390.29 – (157.61 + 230.67 + 1.67)] × 10^(-27) = 0.34 × 10^(-27) kg
1つの核分裂によって発生するエネルギーEは
E = mc^2 = 0.34 × 10^(-27) × (3.0 × 10^8)^2 = 3.06 × 10^(-11) J
1 g の 235U に含まれる原子数は(1.0 × 10^(-3))/(390.29 × 10^(-27)) = 2.6 × 10^(21) 個
よって 3.06 × 10^(-11) × 2.6 × 10^(21) = 8.0 × 10^(11) J
ここで 1 kWh = 1.0 × 10^3 × 60 × 60 = 3.6 × 10^6
したがって エネルギー = (8.0 × 10^(11))/(3.6 × 10^6) = 2.2 × 10^4 KWh となる。

問題 反跳エネルギー

電子の静止質量の約10^4倍大きい質量をもつ原子核から1 MeV の光子が放出されるときに、原子核が受ける反跳エネルギーを求めよ。

光子のエネルギーを Eγ、光の速度を C とすると運動量 Pγ は Pγ = Eγ/C となる。また反跳原子核の質量を m とすると Pn = mv となり、運動量保存則より Pγ = Pn となり、Eγ/C = mv  v = Eγ/(mc) よって反跳核の運動エネルギー En = 1/2(mv^2) = 1/2 × m × ((Eγ)^2)/(m^2 × c^2) = ((Eγ)^2)/(2mc^2) ここで m = 10^4 × me であるので、En = Eγ/(2 × 10^4 × mec^2) = 1^2/(2 × 10^4 × 0.51) ≒ 10^(-4) MeV

β線エネルギースペクトルを測定するための条件

① β線が検出器内の有効領域で全エネルギーを失うこと
② β線が検出器の有効領域に達するまでにエネルギーの一部でも失わないこと。
③ 検出器内で得たエネルギーに比例した出力信号を出すこと。

 

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