核分裂によるエネルギー計算

核分裂によるエネルギー計算問題

235U が熱中性子を吸収して 95Sr、139Xe 及び中性子に分裂する反応において、1.0 g の 235U が全てこの反応を起こすと、この反応により発生するエネルギー[kWh]はいくらか求めよ。

95Sr:157.61 × 10^(-27)kg。139Xe:230.67 × 10^(-27)kg。 235U:390.29 × 10^(-27)kg。

中性子1個:1.67 × 10^(-27)kg。

解答

反応は次のようになる。
235U + n → 236U → 95Sr → 134Xe + 2n
質量差は次のようになる。
235U + n -[95Sr + 139Xe + 2n]
235U – [95Sr + 139Xe + n] となり
[390.29 – (157.61 + 230.67 + 1.67)] × 10^(-27) = 0.34 × 10^(-27) kg
一つの核分裂によって発生するエネルギー E は
E = mc^2 = 0.34 × 10^(-27) × (3.0×10^8)^2 = 3.06 × 10^(-11) J
1 g の 235U に含まれる原子数は (1.0×10^(-3))/(390.29×10^(-27)) = 2.6 × 10^(21) 個
したがって、3.06 × 10^(-11) × 2.6 × 10^(21) = 8.0 × 10^(11) J
1 kWh = 1.0 × 10^3 × 60 × 60 = 3.6 × 10^6 J
よってエネルギー = (8.0×10^11)/(3.6×10^6) = 2.2 × 10^4 kWh

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第1種放射線取扱主任者まとめ集

汚染検査直接法・間接法

汚染検査直接法・間接法に関する記述

放射性同位元素による汚染の検査法には、間接法と直接法がある。間接法はろ紙等により表面を拭き取り、その放射能を測定し汚染を検出する方法であり、( A )の汚染 の検出に適している。直接法はサーベイメータを用いて汚染を検出する方法であり、遊離性と固着性の汚染を合わせて検出できる。非密封の放射性同位元素3H、90Sr、137Csを 取り扱う施設において、3Hによる汚染は直接法では検出が難しい場合が多い。間接法による3Hの放射能測定を行うには液体シンチレーションカウンタが適してる。90Srや137Csの場合は直接法も間接法 も実施できる。直接法に用いる測定器として、90Srの汚染に対してはGM管式サーベイメータが、137Csの汚染の検出に対してはGM管式サーベイメータやNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータが有効である。3Hで標識した水は、蒸発したり、 空気中の水分と同位体交換したりして飛散することがあるので、3Hを取り扱う際にはフードやグローブボックス内で行うことが望ましい。作業中の3Hで標識された水の飛散を調べる ために行う空気中濃度の測定の際には、エアサンプラーを用い、シリカゲルで一定時間補修する。捕集後、シリカゲルを加熱して発生する水をコールドトラップで捕集し、融解して回収した 水を液体シンチレーションカウンタで測定する。また」、実験室内の空気を直接水トラップにバブリングしたり、コールドトラップを用いて水蒸気を捕集する方法もある。90Srや137Csをバイアルから 小分けする場合には、汚染の拡大を防ぐためバットの中で行うようにするとともに、被ばくを防ぐための遮蔽用の衝立てとして、90Srにはアクリル板、137Csには鉛板が用いられる。

 

診断、治療及びトレーサー実験等に用いられるヨウ素の放射性同位体としては、123I、125I、128I、131Iなどがある。123Iは半減期13.3時間で主に159keVのγ線 を放出し、シングルフォトン放射断層撮影法(SPECT)に利用されている。125Iは半減期59.4日で主に35.5keVのγ線とTeの特性X線を放出し、前立腺癌に対する小線源療法に利用される。128Iは半減期25.0分で443keVのγ線等を放出し ヨウ素の中性子捕獲反応で生成することから、放射化分析に利用される。131Iは半減期8.02日であり、β-線を放出するので、甲状腺がんや機能亢進症に対する内服療法に利用されている。また、131Iからは放射性の キセノンが生成する。トレーサー実験には、比較的半減期の長い125Iや131Iが用いられる。放射性ヨウ素で標識された化合物を使用する場合、酸化剤を加えたり、酸性にしたり、 加熱したりすると、分解し、周辺を汚染することがあるので注意が必要である。このため、フードやグローブボックス内で取り扱うようにする。揮散したヨウ素を捕集するには 活性炭が用いられる。

 

32Pのみを取り扱う施設において、[32P]リン酸溶液を購入してトレーサー実験を行った。使用時の放射能は500MBqであった。実験終了直後に、実験室で間接法による 汚染検査を行った。床面の100cm2をろ紙で拭き取り、GM計数装置(計数効率:20%)にて1分間測定した。ここで、拭き取り効率は0.50とする。バックグラウンド計数を除いた 正味の計数は1200カウントであった。この床面での表面汚染密度は 2.0 Bq/cm2となる。実験終了直後に、貯留槽の放射能を測定することにした。貯留槽内の水量は1m3であった。 20cm3を採水し、アルミニウム皿に蒸発乾固した。その放射能をGM計数装置(計数効率:20%)で10分間測定したところ、バックグラウンド計数を除いた正味の計数は1200カウント であった。水中の放射能濃度は 0.5 Bq/cm3になる。なお、前日には放射能は検出されておらず、32Pの実験の際の器具等の洗浄水の流入によるものと推定された。このことは、 貯留槽に使用量の 1000 分の1が流入したことに相当する。2週間後にこれと同様のトレーサー実験を500MBqの32Pを用いて行い、前回と同量の32Pが貯留槽に流入したとすると、 その直後の貯留槽中の32Pの濃度は 0.375 Bq/cm3になると推定される。ただし、この時貯留槽の水量は2m3とし、また、32Pの半減期は14日とする。

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活性酵素

活性酵素

大気中に含まれる酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したものの総称である。

スーパーオキシドアニオンラジカル・・・O2* → 酵素との反応で過酸化水素ができる。水和電子と酸素との反応でもできる。1電子還元でスーパーオキシドラジカルに2電子還元で過酸化水素になる。

ヒドロキシラジカル・・・HO* → グアニンの C-H の部位を C-OH に変化させる。ヒドロキシラジカルが生体成分への反応性が最も高い。

過酸化水素・・・H2O2

一重項酸素・・・’O2

ヒドロペルオキシラジカル・・・HO2*

また広義の活性酸素として

一酸化窒素・・・NO

二酸化窒素・・・NO2

オゾン・・・O3

過酸化脂質

この反応を防ぐ役割をするのが抗酸化酵素である。カタラーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、ペルオキシターゼなど活性酸素を無害化する酵素がある。

カタラーゼ

H2O2による細胞障害を消失させる。(体内に存在する) カタラーゼは過酸化水素を分解する。

スーパーオキシドディスムターゼ

スーパーオキシドアニオンラジカル・・・O2* による細胞障害を消失させる。

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中性子照射

中性子を発生させる手法

1 9Be にγ線を照射させると、9Be(γ,n)8Be という反応を示す。この反応に必要なγ線のエネルギーは約 1.7 MeV である。

2 9Be にα線を照射させると、9Be(α,n)12C という反応を示す。この時 5.3 MeV のα線を照射すると、最大 10 MeV を越える中性子が発生する。

3 3H に重水素(2H)を照射させると、3H(2H,n)4He という反応を示す。200 keV の 2H ビームを照射した場合は平均約 14 MeV の中性子が放出される。この反応は中性子源、核融合発電に利用される。

4 2H に重水素(2H)を照射させると、2H(2H,n)3H という反応を示す。2 MeV の 2H ビームを照射した場合は、前方に約 5 MeV の中性子が放出される。

中性子を照射することで起こる合成

1 ヨウ化エチル(S2H5-I)の中性子照射から 128I の合成。
中性子照射して生成したヨウ化エチル(C2H5-I)を分液漏斗に入れ、水と振り混ざると、安定ヨウ素 127I が 128I になるときに放出するγ線の反跳エネルギーによってヨウ素は C-H を切断し、水相に移行する。

2 クロム酸カリウム(K2CrO4)の中性子照射から 57Cr3+ の合成
50Cr(n,γ)51Cr 反応によるγ線の反跳エネルギーにより K2CrO4 の Cr4+ から Cr3+ になる。これと同時に K2CrO4 の 41K も中性子照射で 41K(n,γ)42K により半減期 12 時間の 42K が生成する。

3 ヘキサアミンコバルト塩酸塩(Co[NH3]6)Cl3 の中性子照射した場合
反跳エネルギーにより結合が切れたコバルトイオン 60Co+ が水溶液中に存在する。

4 241Am から放出されるα線を天然ホウ素に照射すると起こる反応
通常 10B(α,n)13N(中性子エネルギーは約3MeV)、11B(α,n)14N 反応が起こる。他に241Am-Be 線源を用いて 9Be(α,n)12C(中性子エネルギーは平均5MeV)反応がある。

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放射性核種の使用

放射性核種について

32P を使用する場合、遮蔽材にアクリル樹脂を用いて制動放射線の発生を避ける。被ばくする手指のモニタリングにはリングバッジが適している。32P の取り扱いで汚染が発生した場合、その位置の特定にはGM管式サーベイメータが用いられる。さらにスミア法で非固着性汚染の広がりを調べ、除染の方法を検討する。スミアろ紙を水に浸して液体シンチレーションカウンタで チェレンコフ光を計測することで 32P のみを測定することも可能である。14C,32P,35S の内2核種を同時に利用した際のスミア試料の測定に液体シンチレーションを使用した場合、 14C と 35S を区別して定量することは困難である。これは両者のβ線の最大エネルギーが近いためである。14C 及び 32P それぞれ 1 MBq を含む可能性がある洗浄液を排水することとなった。放射性同位元素の排液中又は排水中の濃度限度は 14C は 2.0 × 10^0 Bq/cm3、32P は 3.0 × 10^(-1) Bq/cm3 である。この施設には排水設備として 10 cm3 の貯留槽2基と 10 m2 の希釈槽1基が設けられている。1つの貯留槽から排水する場合、排液量が少なくとも 3.9 m3 以上ならば希釈しないで排水が可能である。同様に、排液の量が少なくとも 2.2 m3 以上ならば、2週間経過すれば希釈しないで排液が可能である。また希釈槽が必要な場合は、貯留槽中の 14C が 20 MBq を越える場合に限られる。使用核種の変更や追加が作業内容の進展により必要となることがある。それに対応した測定技術や管理技術の適用が求められる。例えば、使用核種を 32P から 33P に変更した場合、放射線の最大エネルギーが異なるため、イメージングプレート像の高解像度化が可能となる。この場合には、これまでと同じサーベイメータを使用して汚染箇所の特定や除染に対応することができる。 しかし、ラジオイムノアッセイに有用で主に、X線・低エネルギーγ線を放出する 125I を追加した場合、低エネルギーγ線用 NaI(Tl)シンチレーション式サーベイメータを追加して、汚染箇所の特定や除染に対応することが望まれる。

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2πガスフロー比例計数管

2πガスフロー比例計数管の使用について

Ⅰ 表面汚染検査計の校正に使用するために、均一な天然ウラン面線源(線源部の有効面積:150cm2)を内部封入型2πガスフロー比例計数管を用いて測定した。この面線源が1年前に作製されたとすると、測定対象となる主な放射線は、238U、及び 234U からの α線 と、 234Th 及び234mPaからの β線 である。 比例計数ガスとしてメタンガスを流し、印加電圧を上昇させながら計数率を測定し、横軸に印加電圧、縦軸に計数率をプロットした。図のように両者の関係には、領域1及び領域2のようなプラトーと呼ばれる計数率変化の小さい部分が生じた。この時、領域1で計数される放射線は、 α線 であり、 また、領域2で計数される放射線は、 α線+β線 である。比例計数管は、ガス増幅により、放射線による信号をノイズに比べ十分に大きくできるため、領域1で得られた計数率からバックグラウンド計数率を差し引いた正味の計数率は、面線源から放出される α線 の表面放出率に相当する。

Ⅱ バックグラウンド計数率を差し引いて得られた表面汚染検査計の正味の計数率Ns(cps)と表面汚染密度As(Bq/cm2)との関係は、 放射性核種のα(β)線の放出割合が100%の場合には、Ns = As × εi × εs × W で与えられる。ここで、この表面汚染検査計のεiは機器効率と呼ばれ、測定器固有の特性や線源との幾何学的条件で決まる。一方、εsは線源効率と呼ばれ、線源におけるα(β)線の全放出率に対するα(β)線の表面放出率の割合で与えられる。また、W(cm2)は、表面汚染検査計の有効窓面積を表す。 前述のⅠで示した天然ウラン面線源の全面を厚さ7mg/cm2のアルムニウム板で覆って面線源とし、2πガスフロー型比例計数管で測定したところ、計数率1875cpsであった。次に、GM管式表面汚染検査計(有効窓面積:20cm2)を用いて、汚染検査時と同じように線源面にできる限り近づけて測定したところ、計数率として9000cpmを得た。両測定においてバッググラウンド計数率及び測定器の数え落としをともに無視すると、このGM管式表面汚染検査計のεiは 0.60 となる。 上記の測定で求めたεiの値を14Cによる表面汚染の評価に適用した場合、天然ウラン面線源のβ線平均エネルギーが14Cのそれと比べて高いので、この値は14Cに対しては過大となり、結果として表面汚染は過小に評価されることになる。一方、εsの値は、汚染線源の性状により変化するため実験的に求めることが望ましいが、14Cの評価においてこの値が不明な場合には、 210Po と同様に 0.25 を使用することが推奨されている。

[ GM管式表面汚染検査計のεiの求め方 ] ウランから放出されるα線のエネルギーは約4から5MeVであり、空気中の飛程は2.5から3.5cm程度である。(飛程R[cm]は R = 0.318E^1.5で表される。)空気の密度は約1.2mg/cm3であるから、飛程は3.0から4.2mg/cm2である。(mg/cm2)単位で表した飛程は物質にあまり依存しないため、7mg/cm2のアルミニウム板で覆うことにより、α線は完全に遮蔽される。したがって計数されるのはβ線だけである。2πガスフロー型比例計数管は、 検出器内に線源を入れるため、プラトー領域では線源から放出される荷電粒子はほぼ100%計数される。したがってウラン線源のβ線面放出率は1875(/s)である。単位面積あたりでは、1875/150 = 12.5(s^(-1)・cm^(-2))、したがってεi = (9000/60)/(12.5 × 20) = 0.60である。

[ 14Cの評価においてεsの値が不明な場合 ] β線の最大エネルギーが0.15から0.4MeVのときは、α線に対する値と同じとし、線源効率は安全側に0.25とするのが推奨されている。解答群の核種のうち、3Hのβ線最大エネルギーは18.86keVと低すぎ、また32P、90Sr – 90Yのβ線最大エネルギーはそれぞれ1.711MeV、2.28MeV(90Y)と高すぎる。55Feは低エネルギー特性X線線源である。したがって、14Cと同様に扱えるのは、α線源である210Poである。

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直線ー二次曲線モデル

直線ー二次曲線モデル(LQモデル)

これは、1粒子による2本鎖切断の発生率をαとし、2粒子による2本鎖切断を起こす確率をβの平方根とすると、αは吸収線量Dに比例し、βは吸収線量の2乗(D^2)に比例すると仮定している。

致死率 I = αD + βD^2 となる。

LQモデルの生存率 S は S = exp(-αD-βD^2) で表されます。

αD = βD^2 となる線量値は D = α/β から α/β 比と呼び生存曲線を特徴づける変数となる。生存曲線はα/β比が大きいとき(1ヒットの細胞死が多いとき)直線に近づき、α/β比小さいとき(2ヒットの細胞死の数が多いとき)肩が深くなります。 α/β比の値により、晩期反応系正常組織と早期反応系組織・腫瘍に分けることができ、早期反応系組織・腫瘍はα/β比が大きく(10Gy)、晩期反応系正常組織はα/β比が小さい。(1 ~ 4Gy)といえます。

LQモデルが成立するためには以下のような前提条件がある。

① 次回照射までに十分なSLD回復が起こっている。

② 感受性の変化がない

③ 基本的に同様な細胞集団である

④ 再増殖が起きていない

 

早期反応系組織・腫瘍 α/β
皮膚 9.4 ~ 21
脱毛 5.5 ~ 7.7
口腔粘膜 7.9
大腸 7.1 ~ 8.4
脾臓 8.9

 

晩期反応系正常組織 α/β
脊髄 2.5 ~ 5.2
2.1
口腔粘膜 7.9
1.2
2.1 ~ 4.3
2.1 ~ 4.3
3.5 ~ 5.0
皮下組織 1.5

生物学的等価線量(BED)

BED = nd(1 + {d/(α/β)}) n:照射回数、d:1回線量

BEDは放射線生物学や放射線腫瘍学のLQモデルに基づき、分割照射による細胞生存率への影響を加味した指標となります。

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https://www.radiologist-study.org

放射性核種を生成する核種

放射性核種を生成する核種

RI がその安定同位体を含まないで存在している状態のことを無担体であるという。(n,γ)、(d,p)、(n,2n)、(γ,n) 反応によって生ずる RI は常に非放射性のターゲットによって薄められる。したがって、無担体の RI を作ることはできない。 (d,n)、(d,2n)、(d,α)、(n,p)、(n,f) のような核反応は、ターゲットと違った原子番号の RI が製造でき、ターゲットから化学的に目的の RI を分離できるので無担体 RI が製造できる。

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β-壊変

β-壊変

放射能は単位時間当たりの壊変の数として与えられ、100% β- 壊変する核種では単位時間当たりに放出される β- 線を測定し、その全数を求めることにより決定できる。 この放射能の測定において標準線源を用いることなく直接測定する方法は絶対測定法と呼ばれ、これに属する方法には幾何学的効率を 一定にして測定する定立体角法、連続してほぼ同時に放出される複数の放射線に着目して測定する同時計数法などの方法がある。一方、測定する試料と性状の等しい 標準線源からの β- 線を測定してその計数効率を求め、間接的に放射能を測定する方法は、相対測定法と呼ばれる。β- 壊変に続いて γ線の放出を伴う核種に適用できる Ge 検出器を用いたγ線スペクトロメトリに基づく放射能測定もこの一つであり、着目するγ線の全吸収ピークの計数率と放射能の関係を あらかじめ標準線源を用いて求めておき放射能を決定する。

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第1種放射線取扱主任者試験 生物学問題・解答4

問1

標識化合物の利用法に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A [3H]ウリジンを用いて RNA の合成量を調べた。

B [14C]チミジンを用いて糖の合成量を調べた。

C [35S]メチオニンを用いてタンパク質の合成量を調べた。

D [125I]ヨードデオキシウリジンを用いて脂質の合成量を調べた。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 2

標識化合物の種類を下図に示す。

標的核 アミノ酸の種類 核種
DNA チミジン 3H
デオキシリボヌクレオチド 32P
ヨードデオキシウリジン 125I
RNA ウリジン(ウラシル) 3H
タンパク質 グリシン 3H、14C
メチオニン 35S
ヒスチジン 3H
脳、がん細胞 グルコース 14C

A 正 ウリジン(ウラシル)は、RNA のみにある塩基(ウリジンはウラシルとなる)。

B 誤 標識チミジンは、DNA 合成量の測定に用いる。

C 正 タンパク質合成にはメチオニンの他、ヒスチジンなどの標識アミノ酸も用いられる。

D 誤 ヨードデオキシウリジン(IUdR)は核酸類似物質で DNA に取り込まれ、増感作用を持つ。

問2

オートラジオグラフィーに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A ラットにおける薬物の体内分布を調べることができる。

B マクロオートラジオグラフィーには 14C 標識化合物が適している。

C ミクロオートラジオグラフィーには 32P 標識化合物が適している。

D イメージングプレートを用いると写真フィルムに比べて定量性が劣る。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 1

オートラジオグラフィとは放射性同位元素が発する放射線(β線)により、標識された部位の近傍の感光乳剤が感光する。 これを現像すると、標識された部位に銀が偏析する。この試料を透過電子顕微鏡で観察すると、銀の局在位置から、標識された組織や細胞の位置を特定することができる。

ミクロオートラジオグラフィ対応核種・・・3H、14C、35S

マクロオートラジオグラフィ対応核種・・・14C、35S、59Fe、32P

A 正 マクロオートラジオグラフィーにより動物の切片から画像を得る。

B 正 マクロオートラジオグラフィーは、β核種であれば適用可能である。

C 誤 32P はミクロオートラジオグラフィーにはエネルギーが高すぎて不適。

D 誤 コンピュータ処理が可能で、定量性はイメージングプレートが優る。

問3

放射線による DNA 2 本鎖切断とその修復に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 修復は細胞照射後 2 時間以内に終了する。

B DNA 2 本鎖切断は細胞周期停止の原因となる。

C 非相同末端結合による修復は全細胞周期で行われる。

D 相同組換え修復は細胞周期の M 期で行われる。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 4

A 誤 ほとんどのものは短時間で修復されると考えられるが、SLD 回復で 12 時間、PLD 回復で 6 ~ 8 時間と言われるように、すべてが 2 時間以内では修復されない。

B 正 DNA 2 本鎖切断は細胞周期停止の原因となる。

C 正 非相同末端結合は、切断部位をそのまま単純に再結合する修復機構で、DNA 依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA-Pkcs)や、Ku80、Ku70、XRCC4などのタンパク質が DNA の切断端に集まり修復に関与する。 理論的には非相同末端結合修復はいずれの細胞周期でも発現するが、G1 期や G0 期に活発に行われる。もっと詳しいことは上記に記載してあります私のまとめ集に記載しておきますで、詳しくは上記のサイトまでアクセスしてください。

D 誤 相同組換え修復は、その修復に、切断を受ける前に S 期で合成された姉妹染色分体の対応部位と相互に乗り換えることにより、正常な遺伝情報を鋳型として修復を行う。また相同組換えは鋳型として、姉妹染色分体を必要とするため、細胞周期のS期 後半からG2期に限定される。こちらももっと詳しいことは上記に記載してあります私のまとめ集に記載しておきますで、詳しくは上記のサイトまでアクセスしてください。

問4

水への放射線照射で生じるラジカル生成物に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 水和電子は強い酸化剤である。

B 水素ラジカルは比較的安定で数秒の寿命を持つ。

C ヒドロキシラジカルは DNA に作用して損傷を与える。

D 過酸化水素を生体内で分解する酵素が存在する。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 5

A 誤 還元性を示す分子・・・H*、e(aq)-[水和電子]、H2 であり、水和電子は強い酸化剤ではない。

B 誤 水素ラジカルは10^(-10)秒の寿命をもち、比較的短い。

C 正 ヒドロキシラジカルは DNA の損傷に対して最も重要な働きをする。

D 正 過酸化水素を生体内で分解する酵素がカタラーゼであり、体内に存在する。

問5

放射線によるアポトーシスを起こした細胞で認められる現象として、正しいものの組み合わせはどれか。

A クロマチンの凝縮

B 細胞の膨大

C オートファゴソームの形成

D DNA の断片化

E 核濃縮

1 ABCのみ 2 ABEのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 CDEのみ

解答 3

ネクローシスの形態学的変化・・・傷害を受けた細胞の受動的・病理的死で細胞の膨化・ミトコンドリアの変化が起こる。

アポトーシスの形態学的変化・・・能動的・生理的な細胞死で細胞の縮小・核濃縮・核の断片化・核内のクロマチンの凝縮・細胞の分断化・アポトーシス小体の形成。この他にもミトコンドリアの形態的変化、数の減少・紡錘体の大きさの減少・中心体の増加、マクロファージによる貪食などがある。

オートファジー(自己融解死)・・・細胞内で過剰にタンパク質が作られたり、異常となった場合に小胞を作り分解することをいい、この時に作られる小胞をオートファジー小胞、オートファゴソームという。

問6

X線被ばくによる遺伝子突然変異に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 点突然変異は吸収線量に対して直線的に増加する。

B 線量率を下げても単位吸収線量当たりの突然変異頻度は変化しない。

C α線被ばくに比べ単位吸収線量当たりの突然変異頻度は低い。

D 塩基置換は突然変異に含まれない。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 2

A 正 点突然変異は 1 箇所の変化に基づくため、線量に比例する。

B 誤 線量率を下げれば、突然変異率は減少する。

C 正 高 LET 放射線の方が単位線量あたり高率に突然変異頻度は低い。

D 誤 塩基一個の損傷の場合、点突然変異とも呼ばれる。

問7

放射線による染色体異常のうち、安定型異常の組み合わせは、次のうちどれか。

A 転座

B 逆位

C 小さな欠失

D 二動原体染色体

E 環状染色体

1 ABCのみ 2 ABEのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 CDEのみ

解答 1

環状染色体や 2動原体染色体は細胞分裂に際してうまく両極に分かれることがでず、異常は比較的早期に消失する。これを不安定型の異常という。

欠失、逆位、転座などは 細胞分裂によっても引き継がれ長期にわたって存在し、安定型の異常(発がんしやすい異常)といわれる。

問8

培養細胞に対する放射線の致死作用における酸素効果に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 高 LET 放射線の場合に顕著に見られる。

B 酵素の存在により致死作用が高まることを指す。

C 酸素効果の程度を表す指標として OER が用いられる。

D DNA 修復能を酸素が抑制する結果として生じる。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 3

A 誤 酸素効果に限らず、高 LET 放射線は修飾要因による変化は小さい。

B 正 酸素は増感作用を持つ。

C 正 酸素増感比(OER)は酸素効果の指標である。

D 誤 酸素存在下でより活性の高いラジカルが産生される。

問9

X線による細胞致死作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 細胞周期の S 期後半にある細胞より、M 期にある細胞で効果が大きい。

B 同一吸収線量では、線量率を低くすると効果が小さくなる。

C ラジカルスカベンジャーが存在すると効果が大きくなる。

D 同一吸収線量では、分割照射より効果が大きくなる。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 1

A 正 放射線感受性は M 期で最も高い。

B 正 線量率効果により、効果は小さくなる。

C 誤 ラジカルスカベンジ(取り除かれる)ため、効果は小さくなる。

D 誤 分割照射により SLD 回復があり、効果は小さくなる。

問10

放射線照射後の細胞生存率曲線に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 通常、グラフの縦軸は生存率で、横軸は吸収線量である。

B 放射線によるがん化の定量に用いられる。

C 中性子線では、X線に比べて細胞生存率曲線の傾きが急である。

D 線量率が異なっても、細胞生存率曲線の傾きに影響しない。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 2

A 正 生存率曲線のグラフを下に示す。縦軸は生存率を対数目盛で、横軸は吸収線量を線形目盛でとる。

B 誤 細胞死はがん化につながらない。

C 正 傾きが急ということは、感受性が高いことを示す。

D 誤 線量率が低くなれば、傾きは緩やかになる。

問11

バイスタンダー効果に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 放射線を照射された細胞への影響が、照射されていない細胞に及ぶ現象をいう

B バイスタンダー効果は、ゲノム不安定性を引き起こすことがある。

C バイスタンダー効果の機序の1つとして、一酸化窒素を介したものがある。

D バイスタンダー効果の機序の1つとして、ギャップジャンクションを介したものがある。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 5

バイスタンダー効果・・・低線量発がんのリスク評価

放射線の影響は、線量が低くなればなるほど他の要因による影響と区別がつけられなくなるため、現状では比較的高い線量域で得られている結果を外挿して、低線量域においても同様に直線性を示すと仮定しています(LNT仮説)。このLNT仮説を否定する仮説がバイスタンダー効果という。放射線誘発バイスタンダー効果とは 放射線を照射した細胞が近傍に存在する細胞に様々な生物学的影響を引き起こす現象をいう。この現象はLNT仮説が低線量の影響を過小評価している可能性を支持する生物の細胞応答です。 バイスタンダー効果は照射された細胞から放出された一酸化窒素や活性酸素種、様々なサイトカインなど多数のシグナル分子によって伝達されると考えられている。また、ゲノム(個々の生物が持つ遺伝子・染色体全体)不安定性を引き起こす効果がある。なお、ギャップジャンクション(ギャップ結合)は細胞の結合形態の1つであり、環状のタンパク質が隣接する(少し隙間があるのでギャップ)細胞をつないでいる。例えば隣り合っている細胞同士を結ぶ小さなトンネル(ギャップ・ジャンクション)を閉じる薬剤や、培養液に分泌された活性酸素種を捕捉、中和する薬剤を添加するとバイズタンダー効果は抑制される。

問12

急性被ばく後の骨髄死に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 被ばく後 2 ~ 3 日以内に起こる。

B マウスでは週齢に関わらず同程度の線量で起こる。

C 一般に、マウスよりヒトの方が高い線量で起こる。

D 半致死線量程度の被ばくの場合には、骨髄死が起こる。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 4

骨髄機能低下は 0.5 Gy 程度で起こる。また、1 Gy の被ばくを受けると 10% 程度の人に悪心、嘔吐などが現れる。同時に食欲不振、全身倦怠感、めまいなどの症状が現れることから、放射線宿酔と呼ばれる。1.5 Gy が死亡のしきい線量であり、 造血臓器の症状で死亡するため、骨髄死あるいは造血死と呼ばれる。3 ~ 5 Gy では被ばくした半数が死亡し、これを俗に半致死線量という。7 ~ 10 Gy では被ばくした人のほぼ全数が死亡する。これを全致死線量という。ヒトではこの値だが、マウスの半致死線量はヒトよりも高く 5.6 ~ 7.0 Gy とされている。

A 誤 LD(50/30) で表されるように、被ばく後 30 日以内が骨髄死の起こる期間とされている。

B 誤 一般に、週齢が若い方が放射線感受性は高い。

C 誤 半致死線量で比較するとヒトでは 3 ~ 5 Gy であるのに対して、マウスでは 5.6 ~ 7.0 Gy となる。

D 正 骨髄死は造血臓器の症状で死亡することをいい、骨髄死あるいは造血死と呼ばれる。3 ~ 5 Gy では被ばくした半数が死亡し、これを半致死線量という。

問13

消化管各部について、X線被ばくによる潰瘍・穿孔等に関する感受性の高い方から順に並べたものは、次のうちどれか。

1 胃 > 小腸 > 食道 > 大腸

2 胃 > 食道 > 大腸 > 小腸

3 小腸 > 大腸 > 胃 > 食道

4 大腸 > 小腸 > 食道 > 胃

5 食道 > 大腸 > 小腸 > 胃

解答 3

放射線感受性臓器・・・十二指腸 ー 小腸 ー 大腸 ー 肝 ー 胃 ー 食道・口腔

潰瘍・穿孔についても、非常に大きな線量を受けた後に幹細胞の分裂停止を原因として上皮細胞の供給停止が起こり、引き続いて生じる障害と考えて良い。

問14

次の免疫細胞のうち、X線に対する致死感受性が最も高いものはどれか。

1 B細胞

2 T細胞

3 NK細胞

4 形質細胞

5 マクロファージ

解答 1

1 正 B細胞・・・B細胞はリンパ球の中で最も感受性が高い。骨髄由来。

2 誤 T細胞・・・T細胞は胸腺由来のリンパ球。

3 誤 NK細胞・・・NK細胞はリンパ球の1つ。細胞性免疫、液性免疫の過程を経ず、NK細胞はウイルス等の異物を攻撃する。このため、Natural Killer 細胞と呼ばれる。

4 誤 形質細胞・・・B細胞が分化した細胞で、免疫グロブリンを産生する。感受性は低くなる。

5 誤 マクロファージ・・・単球の成熟過程から派生する貪食細胞。感受性は他の白血球と同程度。

問15

皮膚の外部被曝に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 急性障害の発生にはしきい線量が存在する。

B 最も早く現れる変化は紅斑である。

C γ線 10 Gy 急性被ばくの直後に痛みを生じる。

D γ線 30 Gy の急性被ばくで難治性潰瘍が生じる。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDのみ

解答 2

皮膚は表面から表皮、真皮、皮下組織の順に配列している。表皮の最下層は基底細胞膜といわれ、細胞分裂を盛んに行なっており放射線感受性の高い部分である。基底細胞層は波打っており、平均 70 μm の深さにある。 法令で個人被ばく線量測定が義務付けられている 70 マイクロメートル線量当量は、この基底細胞層の深さに対応している。分裂した細胞は表面方向に押し上げられ、順次角質化し脱落している基底細胞の被ばくは、皮膚紅斑。 や落屑の原因となる。また、毛のうは真皮内にあり、細胞分裂を盛んに行い、毛の伸長のもととなっている。毛のうの放射線感受性は高く、放射線被ばくは脱毛の原因となる。下の表に皮膚の影響としきい線量 を示す。被ばく線量が増すと、潜伏期が短くなり、症状の重篤度が増す。

皮膚の放射線影響としきい線量

線量 放射線影響
3 Gy 以上 脱毛
3 ~ 6 Gy 紅斑・色素沈着
7 ~ 8 Gy 水泡形成
10 Gy 以上 潰瘍形成
20 Gy 以上 難治性潰瘍(慢性化、皮膚がんへの移行)

A 正 皮膚障害は確定的影響である。

B 正 3 Gy あたりから初期紅斑 ー 2次紅斑(色素沈着) ー 脱毛 ー 水泡 ー びらん・潰瘍 の順に現れる

C 誤 熱による火傷とは異なり、症状の無自覚(痛みを感じないこと)が特徴の1つであり、初期治療において被ばく部位の特定が困難な原因となっている。

D 正 20 Gy 以上の被ばくで、難治性潰瘍が生じる。

問16

γ線の被ばくによる臓器の晩期障害として、正しいものの組み合わせはどれか。

A 肝臓 ー 脂肪肝

B 甲状腺 ー 機能亢進症

C 食道 ー 穿孔

D 肺 ー 肺線維症

E 脊髄 ー 放射線脊髄症

1 ABCのみ 2 ABEのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 CDEのみ

解答 5

急性障害・晩発障害

X線やγ線による高線量急性被ばくでは、全身被ばくする場合と局所被ばくする場合で様相が異なる。全身被ばくでは致死が問題となり、局所被ばくでは高線量を被ばくしても致死とはならず、被ばくした組織や臓器の障害が問題となることが多い。組織や臓器の放射線障害では、被ばくした直後から数週間以内に起こる障害を急性障害と呼び、 数ヶ月から数年後以降に起こる障害を晩期障害と呼ぶ。臓器にはそれぞれ特徴的な晩期障害が存在する。脳では脳壊死、脊髄神経では脊髄神経麻痺、腸管では穿孔・狭窄が晩期障害として重要である。これらの晩期障害は 主に血管の閉塞が原因であると考えられる。 ただし、全ての晩期障害が血管の閉塞ではなく、肺の晩期障害として重要である放射線肺線維症では肺胞細胞の障害などが原因として考えられている。消化管に関しては、 放射線障害による小腸上皮の喪失を原因とする体液漏出や感染が原因となる。中枢神経障害による死亡は被ばく線量が 50 ~ 100 Gy を越える場合に起こり、脳浮腫による頭蓋内圧亢進が主な原因の1つと考えられている。LD 50/60 程度以上の線量を 全身被ばくした場合には肺では 30 日以内に放射線肺炎が生じる。特に肺でウイルス感染が高頻度に生じる点に注意が必要である。

補足

① 血管の閉塞では主に放射線脊髄炎(脊髄神経麻痺)、消化管穿孔、心筋症が起こる。

② 肺、特に全肺照射の場合 10 Gy を下回る線量でも重篤な影響が現れる。

③ 放射線肺炎のしきい線量は 6 ~ 8 Gy。肺は肺胞上皮細胞と血管内皮細胞の放射線感受性が高く、フリーラジカル 産生、透過性亢進、サイトカインの誘導を経て、間質の浮腫が原因である。

A 誤 放射線照射と脂肪肝は無関係

B 誤 甲状腺は機能低下が起こる。

C 正 上皮の炎症に引き続いて、晩期の影響として起こる。

D 正 放射線肺炎(初期の炎症)に引き続いて起こる。

E 正 脊髄神経の麻痺なども起こる。

問17

放射線による発がんに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 外部被ばくでも内部被ばくでも起こりうる。

B 遺伝的影響に分類される。

C 晩発影響に分類される。

D 確定的影響に分類される。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 2

A 正 どちらの被ばくで形式でもがんは起こりうる。

B 誤 確率的影響は、発がんと遺伝的影響である。

C 正 最小潜伏期は、白血球で 2 年、固形がんで 10 年

D 誤 発がんはしきい線量がない確率的影響である。

問18

原爆被爆者の疫学調査で、統計的に有意な発がんリスクの上昇の見られる臓器の組み合わせはどれか。

A 胃

B 肺

C 子宮

D 前立腺

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 1

原爆被爆者の疫学調査について以下に示す。

① 発がんの増加が認められる臓器・・・胃、肺、白血病、肝、乳房。認められていない臓器・・・膵、直腸、胆、子宮。前立腺、腎、喉頭。

② ヒトでは遺伝的影響の増加は有意ではない。

③ 組織荷重係数の大きさはガンの感受性を表している。

④ 組織荷重係数は低線量被ばくによる確率的影響を評価する。

⑤ 器官形成期の被ばくの影響で小頭症が胎児奇形で唯一確認されている。その他に精神発達遅滞、低身長もあげられる。

問19

放射線被ばくと最も多く認められる発がんの組み合わせとして、正しいものはどれか。

1 頭部白癬X線治療患者 ー 脳腫瘍

2 ウラン鉱夫 ー 腎臓がん

3 チェルノブイリ原子力発電所事故における被ばく者 ー 小児甲状腺がん

4 原爆被爆者 ー 胆嚢がん

5 ラジウム時計文字盤塗装工 ー 胃がん

解答 3

1 誤 頭部白癬X線治療患者・・・照射野に甲状腺が含まれるため、甲状腺がんの増加が報告されている。

2 誤 ウラン鉱夫・・・ラドンの吸入により、増加するのは肺がん。

3 正 チェルノブイリ原子力発電所事故における被ばく者・・・小児甲状腺がんのみ発生率の増加が確認された。

4 誤 原爆被爆者・・・発がんの増加が認められる臓器・・・胃、肺、白血病、肝、乳房。

5 誤 ラジウム時計文字盤塗装工・・・ラジウムが経口摂取され骨に蓄積するため、増加するのは骨がん。

問20

確定的影響に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A すべて身体的影響である。

B 線量が増加しても障害の重篤度は変わらない。

C 線量率が低下しても障害の重篤度は変わらない。

D 胎内被ばくによる精神遅滞は確定的影響に分類される。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとD 5 CとD

解答 3

A 正 放射線影響が誰に現れるかという観点から、放射線影響は身体的影響と遺伝的影響に分類され、確定的影響に関してはすべて身体的影響となる。

B 誤 線量が増加したら障害の重篤度も増加する。

C 誤 線量率が低下しても障害の重篤度も低下する。

D 正 精神遅滞のしきい値は 0.2 ~ 0.4 Gy とされている。

問21

放射線のしきい線量に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A しきい線量は、線質に依存しない。

B 確率的影響に関しては、しきい線量が存在しないと仮定されている。

C γ線急性全身被爆後の骨髄死のしきい線量は、6 Gy 程度とされている。

D 一般に、線量率が低くなるとしきい線量は大きくなる。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 4

A 誤 線質が変われば与える影響の程度も変わり、しきい線量も変化する。

B 正 これは、高線量・高線量率被ばくからの外挿により、低線量部分は「仮定」である。

C 誤 骨髄機能低下は 0.5 Gy 程度で起こる。また、1 Gy の被ばくを受けると 10% 程度の人に悪心、嘔吐などが現れる。骨髄死のしきい値は 1.5 Gy 程度とされている。

D 正 線量率効果により影響の程度は軽減されるので、しきい線量は大きくなる。

問22

自然放射線レベルが通常に比べて高い地域(高バックグラウンド)に関する次の記述のうち、誤っているものの組み合わせはどれか。

A がん死亡率が高い。

B 遺伝性疾患の発生率が高い。

C 女性の甲状腺がんの発生率が高い。

D 白血病の発生率が高い。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 5

高バックグラウンド地域を対象とした疫学調査では、いずれの部位のがんも、死亡率、発生率共にコントロール集団に比べて増加は確認されていない。遺伝性疾患は高バックグラウンド地域に限らず、ヒトでの増加は確認されていない。

問23

次の放射性核種とその集積部位の組み合わせのうち、正しいものはどれか。

A 3H ー 骨

B 59Fe ー 骨髄

C 60Co ー 肝臓

D 137Cs ー 脳

解答 3

放射性核種の臓器親和性を下の表に示す。

A 誤 3H(T) は HTO(水) の形となり全身に分布する。

B 正 59Fe は内皮系組織の他、赤血球に取り込まれるため、骨髄に集積する。

C 正 60Co などの遷移元素はコロイドを形成し、肝臓などに集積する。

D 誤 137Cs は筋肉を中心に全身に分布する。

放射性核種の臓器親和性

核種 臓器親和性
32P , 45Ca , 65Zn , 90Sr , 226Ra , 232Th , 238U , 239Pu , 241Am
40K , 137Cs 筋肉
222Rn , 232Th , 238U , 239Pu
53Fe , 59Fe 骨髄
3H , 14C , 24Na , 40K , 137Cs 全身
59Fe , 60Co , 65Zn , 232Th , 239Pu 肝臓
131I 甲状腺
59Fe 脾臓

問24

次の放射性核種のうち、骨に集積する核種として正しいものの組み合わせはどれか。

A 32P

B 90Sr

C 125I

D 226Ra

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDのみ

解答 2

骨はリン酸カルシウムが重要な構成成分である。したがって、向骨性核種としては、32P の他、Ca と同じアルカリ土類に属する 90Sr、226Ra があげられる。また下の表に放射性核種の臓器親和性を示す。

放射性核種の臓器親和性

核種 臓器親和性
32P , 45Ca , 65Zn , 90Sr , 226Ra , 232Th , 238U , 239Pu , 241Am
40K , 137Cs 筋肉
222Rn , 232Th , 238U , 239Pu
53Fe , 59Fe 骨髄
3H , 14C , 24Na , 40K , 137Cs 全身
59Fe , 60Co , 65Zn , 232Th , 239Pu 肝臓
131I 甲状腺
59Fe 脾臓

問25

胎内被ばくに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 着床前期の被ばくでは四肢異常の発生率が上昇する。

B 被ばくによる奇形発生にはしきい線量が存在する。

C 妊娠 10 週での被ばくでは小頭症の発生率が上昇する。

D 発がんリスクは成人で被ばくした場合に比べて低い。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 3

胎児期の被ばくの影響を下表に示す。

胎児期の放射線影響

胎児期の区分 期間 発生する影響 しきい線量(Gy)
着床前期 受精 8 日まで 胚死亡  0.1
器官形成期 受精 9 日 ~ 受精 8 週 奇形 0.15
胎児期 受精 8 週 ~ 受精 25 週 精神発達遅滞  0.2 ~ 0.4
受精 8 週 ~ 受精 40 週 発育遅延 0.5 ~ 1.0
全期間 発がんと遺伝的影響

A 誤 着床前期の影響は胚死亡。四肢異常は奇形となる。

B 正 奇形発生のしきい値は 0.15 Gy である。

C 正 奇形の発生は器官形成期(受精 9 日 ~ 受精 8 週)とされている。また小頭症は原爆被爆(胎内被ばく)で認められた唯一の奇形であり、その発生は15週くらいまで観察されている。(ヒトの大脳の発生は他の臓器に比べて時間がかかることによる。)また下に原爆被爆者の疫学調査でわかっていることを示す。

① 発がんの増加が認められる臓器・・・胃、肺、白血病、肝、乳房。認められていない臓器・・・膵、直腸、胆、子宮。前立腺、腎、喉頭。

② ヒトでは遺伝的影響の増加は有意ではない。

③ 組織荷重係数の大きさはガンの感受性を表している。

④ 組織荷重係数は低線量被ばくによる確率的影響を評価する。

⑤ 器官形成期の被ばくの影響で小頭症が胎児奇形で唯一確認されている。その他に精神発達遅滞、低身長もあげられる。

D 誤 発がんリスクは胎内被ばくの方が 2 ~ 3 倍高いとされている。

問26

γ線急性全身被ばくで見られる障害のうち、しきい線量が 1 Gy より大きいものはどれか。

A リンパ球数減少

B 脱毛

C 女性の永久不妊

D 男性の永久不妊

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 4

A 誤 リンパ球数減少・・・しきい値 0.25 Gy

B 正 脱毛・・・しきい値 3.0 Gy 以上

C 正 女性の永久不妊・・・2.5 Gy ~ 6 Gy

D 正 男性の永久不妊・・・3.5 Gy ~ 6 Gy

問27

放射線による遺伝的影響に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 生殖細胞の突然変異は遺伝的影響の原因となる。

B 精子は精原細胞よりも突然変異が誘発されやすい。

C 倍加線量は遺伝的影響を誘発率で示す方法である。

D 同一線量では、倍加線量の値が大きいほど突然変異頻度が高くなる。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 1

A 正 遺伝的影響は将来子供を産む可能性のある人が生殖腺に被ばくを受けた場合にのみ発生する可能性が生じる。

B 正 突然変異感受性は、精細胞 > 精母細胞 = 精子 > 精原細胞 である。

C 誤 倍加線量を用いて間接的に誘発率を求める方法である。誘発突然変異率 = 自然突然変異率 × (被ばく線量/倍加線量)

D 誤 加線量は自然発生と同じだけの影響を起こすのに必要な線量であり、倍加線量が大きいということは、一定の影響を起こすために大きな線量が必要であるということを示すので、感受性が低いことを意味する。したがって、倍加線量が大きいほど遺伝的影響は起こりにくい

問28

低LET放射線と比べた高LET放射線の細胞致死作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 直接作用より間接作用の寄与が大きい。

B 細胞周期依存性が小さい。

C 線量率により大きく変化する。

D 分割照射による変化が小さい。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 4

A 誤 高LET放射線は直接作用の寄与が大きい。なぜなら、ラジカルの再結合が起き、間接作用が小さくなるため。

B 正 細胞周期依存性が小さい。

C 正 線量率効果は小さい。

D 誤 分割照射による変化が小さい。

問29

培養細胞の致死作用を指標としたRBEに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 線量率を変化させたときの効果の大きさの違いを示す。

B 放射線の LET の増大とともに大きくなり、最大値をとった後小さくなる。

C 基準放射線として一般にβ線が用いられる。

D 細胞の種類によって異なる値を示す。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 4

A 誤 放射線の線質の違い、すなわちLETの違いによる影響の違いを表す指標として生物学的効果比(RBE)が用いられる

B 正 一般に高LET放射線の方がRBEは大きいが、LETが100keV/μmを越えるあたりからRBEはかえって減少する。これは overkill と呼ばれるが、細胞を殺すために必要なエネルギー以上の エネルギーが無駄になっているからと考えられている。

C 誤 基準放射線としては、X線(管電圧250kV)が一般的に用いられる。

D 正 細胞の種類が異なれば、RBE の値も異なりうる。

問30

臓器障害のしきい線量の高低を比較したものとして、正しいものの組み合わせはどれか。

A 耳下腺(口腔内乾燥) > 皮膚(紅斑)

B 卵巣(不妊) > 膀胱(萎縮)

C 視神経(失明) > 水晶体(白内障)

D 肺(放射線肺炎) > 脳(壊死)

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 2

A 正 耳下腺(口腔内乾燥)[しきい値 40 ~ 60 Gy] > 皮膚(紅斑)[しきい値 3 ~ 6 Gy]

B 誤 卵巣(不妊)[しきい値 2.5 ~ 6 Gy] < 膀胱(萎縮)[しきい値 65 ~ 80 Gy]

C 正 視神経(失明)[しきい線量 50 ~ 65 Gy] > 水晶体(白内障)[しきい線量 5 Gy]

D 誤 肺(放射線肺炎)[しきい線量 6 ~ 8 Gy] < 脳(壊死)[しきい値 45 ~ 75 Gy]

細胞増殖に関する記述

細胞増殖の過程において、細胞が分裂してから次に分裂するまでの 1 周期は、細胞周期という概念でとらえられている。細胞周期は G1期、S期、G2期、及び M期の4つの時期に分けられ、この順に進行する。S期は DNA合成期 で、M期は細胞分裂期である。放射線照射により細胞は DNA損傷を感知して、3つの時期で細胞周期は停止する。それら3つの 時期は G1 チェックポイント、 G2 チェックポイント及び S 期チェックポイントと呼ばれている。放射線照射による DNA 損傷が生じると、放射線感受性遺伝病毛細血管拡張性運動失調症の原因遺伝物質 ATM が活性化し、最終的に Cdk1 や Cdk2 を抑制すること等により細胞周期を停止させる。 毛細血管拡張性運動失調症の患者由来細胞では、放射線照射による3つのチェックポイントでの細胞周期停止は 3 つとも異常である。

 

補足

細胞周期の進行は、様々なタンパク質によって調整されている。例えば、サイクリンというタンパク質は細胞周期の進行に応じて周期的に変動することから、細胞周期の調節に関係すると考えられてきた。現在、サイクリンと Cdc キナーゼ(Cdk1、Cdk2 など)が複合体を作り、これに細胞周期を進める働きがあることがわかっている。一方、(細胞分裂を抑制する)がん抑制遺伝子は p21 という タンパク質を作り、サイクリンと Cdc キナーゼの複合体の形成を阻害し、細胞周期の進行を止めている。

 

細胞の放射線致死感受性は、細胞が細胞周期のどの時期にあたるかのよって異なる。一般に細胞周期の G2 期から M 期にかけて放射線感受性は最も高く、 S 期後半で放射線感受性は最も低い。この細胞周期依存的な放射線感受性の違いは、放射線致死感受性を決定する最も重要な DNA 損傷である DNA 2 本鎖切断の修復能の違いによると考えられている。 DNA 2 本鎖切断は、非相同末端結合と相同組換え修復の主な2つの方法により修復されるが、相同組換え修復はより正確で間違えが少ない。 S 期後半では、 DNA 2 本鎖切断 が相同組換え修復により修復されるため放射線感受性が低いとされている。

 

補足

相同組換え修復は S 期後半から G2 期に誘導される DNA 2 本鎖切断の修復過程である。この修復では欠損した遺伝情報を相同な DNA と組換えて修復するため誤りが少ない修復機構となる。S 期後半には相同な 2 本 の DNA は合成されたばかりであり、両者の距離は近い。したがって、組換えも容易であり、修復の効率が良いことから、感受性は低くなる。一方、非相同末端結合は G1 期に 誘導される2本鎖切断の修復過程であり、組換えるべき相同な DNA は存在しないので、切断端を単に結合する修復過程をとることとなり、誤りがちな修復となる。

 

胚(胎芽)及び胎児に対する放射線の影響は、動物実験の結果並びに原爆胎内被ばく者の疫学調査の結果より評価されている。一般に受精から出産までの期間は受精の時から順に、着床前期、器官形成期及び胎児期の3つの時期に分類される。動物実験の結果では、これら3つの時期により放射線の影響は異なっている。 着床前期では致死が、器官形成期では奇形が、胎児期では、発達遅延が最も特徴的な障害である。しかし、原爆胎内被ばく者の疫学調査の結果は、動物実験により得られた結果と必ずしも一致しない。 動物実験では多様な奇形が生じることが報告されているが、原爆胎内被ばく者で認められた主な奇形は小頭症である。また、原爆胎内被ばく者では被ばくの影響として精神遅滞も観察されている。

培養細胞の放射線照射による影響に関する記述

培養細胞の放射線照射後の生存率曲線は、一般に図1に示す通り吸収線量を横軸に線形目盛で表記し、生存率を縦軸に対数目盛で表記して描く。生存率曲線の型は、低LET放射線では上に凸となり、高LET放射線では直線的となる。細胞生存率曲線の型を説明するためにいくつかの モデルが提案され、それらのモデルにより生物学的な意味を検討しようとする試みがなされてきた。今日では、細胞の吸収線量が D の場合の生存率 S を定数 α、β を用いて S = exp[-(αD + βD^2)] と表す LQ モデルがよく用いらている。 LQ モデルでは、放射線による細胞死は 2つの要素からなり、その 1つは吸収線量に比例するもので、もう 1つは 吸収線量の 2乗に比例するものであると仮定する。ただし、 LQ モデルでは高線量域では実験により得られる細胞生存率曲線に一致しないので、このモデルを利用する際には注意を要する。

 

補足

細胞の生存率曲線として、標的説に基づくものが長く使われてきた。しかし、標的が生物学としての実態を表すものではないことや低線量域で動物培養細胞の実験結果とフィットしないことなどから、直線2次曲線(LQ)モデルが考えられた。1次の項は1本の放射線で2本鎖切断を引き起こすもので、主として低LET放射線による寄与を考えている。したがって、高LET放射線のみでは S = exp(-αD) となり、グラフは直線的となる。一方、低LET放射線のみでは S = exp(-βD^2)となり、グラフは肩を持つ上に凸の曲線となる。細胞の生存率曲線は、低LET放射線であっても高線量域では直線的となるが、LQ モデルでは数式からわかる通り、線量が増大するに従ってどんどん傾きは大きくなることはない。従って、高線量域での適用に注意が必要である。

 

Ⅰで述べたモデルは、低LET放射線照射後の吸収線量と染色体異常の発生頻度との関係にも当てはまる。一般的に、吸収線量と二動原体染色体異常や環状染色体の発生頻度との関係は、図2に示す通り吸収線量を横軸に線形目盛で表記し、細胞当たりの染色体異常の数を縦軸に線形目盛で表記すると、その型は下に凸となる。この場合の生物学的意味として、吸収線量に比例する要素は 1 個の二次電子により 1つの DNA 2本鎖切断が生じる場合で、吸収線量の 2乗に比例する要素は 2 個の二次電子により 1つの DNA 2本鎖切断が生じる場合と想定されている。

 

補足

線量(D)と染色体異常(F)の関係式は、F = αD + βD^2 となる。1次の項は1本の放射線で2重鎖切断が引き起こされる事象、2次の項は2本の放射線で2重鎖切断が引き起こされる事象を想定している。低線量域では1次の項が支配的で傾きは緩やかであるが、高線量域になると2次の項が支配的になり傾きは急になり、曲線は下に凸となる。

 

Ⅰで述べたモデル及び図の表記法は、正常組織の障害やがん組織に対する放射線の効果の評価にも応用されている。S = exp[-(αD + βD^2)]で示されるこのモデルでは、吸収線量 D が α/β の時に、細胞死全体に占める”線量に比例する細胞死”と”線量の2乗に比例する細胞死”の割合が等しくなる。臨床経験や動物実験の結果から、一般に正常組織のうち晩期反応組織では早期反応組織に比べα/β の値は小さく、がん組織の α/β の値は早期反応組織の値に近い。 α/β の値が大きいときは、小さい場合に比べ曲線の型がより直線的であることを意味する。このため、放射線治療においては、 治療期間を変えずに分割回数と総線量を増やすことにより、がん組織に対する効果を同じかやや良くし、晩期反応組織の障害を低減させることができる。

 

補足

αD = βD^2 を解くと、D = α/β となる。これは、線量の1次の項の寄与と2次の項の寄与が等しくなる線量は α/β という係数の比で表すことができることを示している。α が β に比べて大きい場合には、式は S = exp(-αD) に近くので直線的になる。
がん細胞と早期反応組織は α/β 比が大きく、分割照射をしても細胞死に与える影響があまり変わらず、一方、晩期反応組織は(感受性が低いため) α/β 比が小さく肩が深いため、分割照射によって影響が小さくできる。
※ α/β 比の大小と肩の大きさの大小の関係について
肩の大きさとは、①肩の深さが大きい(大きく曲がる)ことと、②肩の幅(長さ)が大きいことの2つの意味に解釈できる。

 

職業被ばくのような低線量放射線のリスクを推定するためにも、同様なモデルが用いられる。疫学調査の結果から 3 Gy 程度までの線量域での線量ー効果関係の型を推定し、そのモデルに従って低線量域でのリスクを観察値から外挿して推定する。原爆被ばく者における 3 Gy 程度までの線量域での白血病の増加の観察値は LQ モデルに適合し、白血病 以外のがんの増加の観察値では L モデルに最も適合する。

 

補足

広島・長崎の高線量ー高線量率被ばくの疫学調査のデータのカーブフィッティングにおいて、白血病は LQ モデルに良く適合し、その他の固形がんについては L モデルに適合することが知られている。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

https://www.radiologist-study.org