急性障害・晩発障害

急性障害・晩発障害

X線やγ線による高線量急性被ばくでは、全身被ばくする場合と局所被ばくする場合で様相が異なる。全身被ばくでは致死が問題となり、局所被ばくでは高線量を被ばくしても致死とはならず、被ばくした組織や臓器の障害が問題となることが多い。組織や臓器の放射線障害では、被ばくした直後から数週間以内に起こる障害を急性障害と呼び、 数ヶ月から数年後以降に起こる障害を晩期障害と呼ぶ。臓器にはそれぞれ特徴的な晩期障害が存在する。脳では脳壊死、脊髄神経では脊髄神経麻痺、腸管では穿孔・狭窄が晩期障害として重要である。これらの晩期障害は 主に血管の閉塞が原因であると考えられる。ただし、全ての晩期障害が血管の閉塞ではなく、肺の晩期障害として重要である放射線肺線維症では肺胞細胞の障害などが原因として考えられている。消化管に関しては、 放射線障害による小腸上皮の喪失を原因とする体液漏出や感染が原因となる。中枢神経障害による死亡は被ばく線量が 50 ~ 100 Gy を越える場合に起こり、脳浮腫による頭蓋内圧亢進が主な原因の1つと考えられている。LD 50/60 程度以上の線量を 全身被ばくした場合には肺では 30 日以内に放射線肺炎が生じる。特に肺でウイルス感染が高頻度に生じる点に注意が必要である。

補足

① 血管の閉塞では主に放射線脊髄炎(脊髄神経麻痺)、消化管穿孔、心筋症が起こる。

② 肺、特に全肺照射の場合 10 Gy を下回る線量でも重篤な影響が現れる。

③ 放射線肺炎のしきい線量は 6 ~ 8 Gy。肺は肺胞上皮細胞と血管内皮細胞の放射線感受性が高く、フリーラジカル 産生、透過性亢進、サイトカインの誘導を経て、間質の浮腫が原因である。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

イオン交換樹脂

イオン交換樹脂

イオン交換樹脂はイオン交換基をもつ高分子であり、水溶液中のイオンと樹脂自身に吸着しているイオンを交換する。イオン交換樹脂が水溶液中のイオンを吸着する強さがイオンによって異なり、この性質を利用してイオンを分離することができる。例えばスチレンー ジビニルベンゼン共重合体を高分子骨格とし、 -S03H 基をイオン交換部位として持つ強酸性陽イオン交換樹脂では +1 価イオンの樹脂への吸着強度は Li+ < Na+ < K+ < Rb+ であり 水和イオン半径が小さいものほど強い。(水和イオン半径は原子番号が大きいほど小さくなる)。また価数が異なるイオンに対しては一般に +1価 < +2価 < +3価 という傾向がある。 イオン交換樹脂に吸着しているイオンと水溶液中のイオンは吸着平衡になる。陽イオン交換樹脂に吸着している A+ イオンの濃度を [A]r 、水溶液中の A+ イオンの濃度を [A]a 、B+ イオンについても同様に行うと、Kr = ([B]r/[B]a)/([A]r/[A]a) という 平衡定数となる。Kr > 1 の時には B+ イオンの方が A+ イオンより強く吸着する。イオン交換樹脂の吸着平衡は、溶液と樹脂吸着のイオンの濃度比を決定し、濃度には依存しないので、無担体の放射性同位体の分離に適している。 一方、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いて塩化物イオンとの錯形成能の違いを利用して分離することができる。強塩基性陰イオン交換樹脂カラムに Fe3+,Co2+,Ni2+ を含む 9 mol/l 塩酸溶液を 1ml ,その後 9 mol/l , 4 mol/l , 0.5 mol/l の濃度の塩酸を 順次 12 ml ずつ流して各イオンを分離すると上図のようになった。塩化物イオンとの錯体形成能の強さは Fe3+ > Co2+ > Ni2+ の順であり、a , b , c のピークは左から Ni2+ , Co2+ , Fe3+ である。

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

実効線量の評価

実効線量の評価についての記述

低線量放射線の確定的影響)を評価するための線量として実効線量が定義されている。実効線量は線質効果と組織の感受性を勘案して評価されるが、直接測定することができないため 測定できる実用的な「測定量」と次のように関連付けられている。外部被ばくに関連する測定量には、70μm線量当量、3mm線量当量及び1cm線量当量がある。放射線防護上重要な細胞が 表面からどれほどの深さに存在するかに応じて適用される。 3mm 線量当量は眼の水晶体の等価線量に対応し、、 70μm 線量当量は皮膚の等価線量に対応する。全身均等被ばくの場合 には、所定の場所に装着された個人被ばく線量計により測定された 1cm 線量当量の値を実効線量とする。不均等被ばくの場合には、次式にしたがって算出する。
実効線量 H = 0.08Ha + 0.44Hb + 0.45Hc + 0.03Hm

 

Ha : 頭部及び頸部における 1cm 線量当量

Hb : 胸部及び上腕部における 1cm 線量当量

Hc : 腹部及び大腿部における 1cm 線量当量

Hm : 上の各部分のうち線量当量が最大となるおそれのある部分における 1cm 線量当量である。

例えば、頭頸部のみに5.0mSvの被ばくがあったとすると、実効線量は 0.55 mSvと算定される。

 

体内に取り込まれた放射性物質は、減衰し排泄されつつ長期間にわたって周囲の組織に線量を与え続ける。摂取時から50年間(成人の場合)にわたって積分した線量に、 放射線の線質を考慮した放射線荷重係数を乗じて得られる線量を預託等価線量と呼ぶ。これに組織・臓器ごとに定められている組織荷重係数を乗じた上で足し合わせて預託実効線量が定義される。 内部被ばくに伴う実効線量とはこれを指す。組織荷重係数を表1に示す。

表1

組織・臓器 組織荷重係数
生殖腺 0.20
赤色骨髄・結腸・肺・胃 0.12
膀胱・乳房・肝臓・食道・甲状腺 0.05
皮膚・骨表面 0.01
残りの組織・臓器 0.05
合計 1.0

125Iを吸入した場合、その大部分は甲状腺に分布する。125Iが放出するγ線やX線の放射線荷重係数は 1 なので、甲状腺の預託等価線量が10mSvの時の実効線量は 0.5 mSvとなる。 また、空気中のラドン及びその娘核種の吸入による被ばくが最も大きな組織は肺である。ラドン及びその娘核種の壊変に伴って放出されるα線の放射線荷重係数は 20 なので、 吸入されたラドン及びその娘核種による実効線量が1.2mSvと算定されたときの肺の等価線量は 10 mSv、吸収線量は 0.5 mSvである。

 

核種と化学形ごとに摂取された単位放射能当たりの実効線量が計算されている。この換算係数を実効線量係数と呼ぶ。3Hに関する実効線量係数を表2に示す。

表2

核種 化学形等 吸入摂取した場合の実効線量係数[mSv/Bq]
3H 元素状水素 1.8 × 10^(-12)
3H メタン 1.8 × 10^(-10)
3H 1.8 × 10^(-8)
3H 有機物(メタンを除く) 4.1 × 10^(-8)
3H 上記を除く化合物 2.8 × 10^(-8)

これを用いれば、トリチウム水蒸気4.9 × 10^6を吸入摂取した場合の実効線量は 8.8 × 10^(-2) mSvと評価できる。

解説

水蒸気なので、表2の水の欄の値を用いる。 1.8 × 10^(-8) × 4.9 × 10^6 = 8.8 × 10^(-2) mSv

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

バイスタンダー効果

バイスタンダー効果・・・低線量発がんのリスク評価

放射線の影響は、線量が低くなればなるほど他の要因による影響と区別がつけられなくなるため、現状では比較的高い線量域で得られている結果を外挿して、低線量域においても同様に直線性を示すと仮定しています(LNT仮説)。このLNT仮説を否定する仮説がバイスタンダー効果という。放射線誘発バイスタンダー効果とは 放射線を照射した細胞が近傍に存在する細胞に様々な生物学的影響を引き起こす現象をいう。この現象はLNT仮説が低線量の影響を過小評価している可能性を支持する生物の細胞応答です。 バイスタンダー効果は照射された細胞から放出された一酸化窒素や活性酸素種、様々なサイトカインなど多数のシグナル分子によって伝達されると考えられている。また、ゲノム(個々の生物が持つ遺伝子・染色体全体)不安定性を引き起こす効果がある。なお、ギャップジャンクション(ギャップ結合)は細胞の結合形態の1つであり、環状のタンパク質が隣接する(少し隙間があるのでギャップ)細胞をつないでいる。

例えば隣り合っている細胞同士を結ぶ小さなトンネル(ギャップ・ジャンクション)を閉じる薬剤や、培養液に分泌された活性酸素種を捕捉、中和する薬剤を添加するとバイズタンダー効果は抑制される。

アブスコパル効果

放射線をがんに照射して治療を行うと、放射線が当たっていない遠方にあるがんも縮小するという効果。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

溶解度積2

溶解度積についての記述2

水溶液から目的物質を固体の沈殿として分離する場合固体の水への溶解度が分離の効率(収率)を決定する。一般に陽イオンAと陰イオンBからできている水への溶解度が小さい難容性塩 AmBn の沈殿が生成するとき、水溶液中でのイオンと固体は 溶解平衡になっている。(ある化合物がこれ以上水に溶解できなくなった状態を溶解平衡と呼ぶ。)それぞれのイオンの水溶液中の濃度を [A],[B] とすると、 Ksp = [A]^m [B]^n という関係式が成り立つ。・・・・①(イオン化合物 Am Bn が電離して Am Bn = mA + nB の化学平衡式が成り立つとき、溶解度積 Ksp は Ksp = [A]^m [B]^n となる)。Ksp は溶解度積と呼ばれる定数である。Aを含む水溶液とBを含む水溶液が混合したときに ① 式の右辺が Ksp を上回るときには Am Bn の沈殿が生成して AやBの濃度が下がり、① 式が成立したところで平衡になる。難容性塩である BaSO4 の場合には Ksp = 1.0×10^(-10) (mol/l)2 である。140Ba(半減期12.8日 = 1.1×10^6秒)が 70 MBq あるとするとその物質量はおおよそ 1.9 × 10^(-10) mol である。これが硝酸塩として溶解している。水溶液Xの 500ml と、濃度 0.02 mol/l の Na2SO4 水溶液Yを 500ml 混合しても[140Ba2+][SO4]2- < Ksp であって、 140Ba2+ は沈殿しない。もし、 0.02 mol の非放射能 Ba(NO3)2 を 500 ml のXに担体として溶解しておくと、500ml のYとの混合により 140Ba2+ を沈殿させることができるが、この担体量では 140Ba2+ のうち 1.0 × 10^(-1) % が沈殿せずに溶液中に残る。(水溶液Yと混合した後に沈殿が生じているので、溶液中の(非放射性140Ba2+)の濃度は、溶解度積が 1.0×10^(-10) (mol/l)2 である。 ことから 1.0×10^(-5) mol/l となる。一方 1l 中に沈殿は(0.01-1.0×10^(-5))mol 生成している。よって溶液中の(非放射性140Ba2+)の濃度の沈殿に対する比をとると、(1.0×10^(-5))/(0.01-1.0×10^(-5)) = 1.0×10^(-3) = 0.1 % となる。)

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

内部被ばく

内部被ばくに関する記述

放射性物質が体内に侵入経路には経口摂取、吸入摂取、経皮侵入の3つの経路がある。経口摂取された放射性物質の消化管吸収率は、ヨウ素のように高いものと酸化プルトニウムのように 低いものものとがあり、吸収率は放射性物質の種類により異なる。血液中に入った放射性物質は、その化学的性質に従って特有の分布をする。トリチウムやセシウムは全身にほぼ均等に 沈着し、カルシウムやストロンチウムは骨に、ヨウ素は甲状腺に沈着する。組織に沈着した放射性物質の多くは、主に尿、糞により体外に排出される。排出速度は生物学的半減期により表され 被ばく線量率は物理的半減期と生物学的半減期から計算される実効半減期に従って減少する。実効半減期は、式(生物学的半減期×物理学的半減期)/(生物学的半減期+物理学的半減期)により計算される。吸入により放射性物質を取り込んだ場合にも 体内移行率の高い放射性物質であれば経口摂取とほぼ同様な挙動を取るが、酸化プルトニウムのように体液に溶解しにくいものでは肺やそのリンパ節に長期間渧留する。

放射性物質の摂取による体内被ばく線量を評価するためにの主な方法としては、生体試料を用いるバイオアッセイと全身に沈着した放射性物質から放出される γ 線を体外から 全身カウンタを用いて検出する方法とがある。この他に、特定の器官に着目して、その器官に沈着している放射能の測定を目的とした甲状腺モニタなどがある。バイオアッセイの試料としては主に 尿、糞が用いられるが、必要に応じて血液なども用いられる。事故時のように吸入摂取が疑われる場合には、鼻スミア試料を採取することが重要である。放射性物質の 体内量は、測定された試料中の放射能を、摂取した核種の人体における代謝モデルに当てはめることにより求められる。体内量は国際放射線防護委員会(ICRP)による排出率関数 などで計算される。精密型全身カウンタは、バックグラウンド放射線による計算を少なくするための遮蔽室と検出器及び放射線計測部(データ解析部)からなっている。検出器としては一般にNaI(Tl)シンチレーションカウンタが用い られてきたが、近年ではエネルギー分解能が優れたGe検出器が用いられるようになっている。

体内汚染がわかった場合には放射性物質の体外除去が行われる。胃腸管からの吸収低減のためには、胃腸管の洗浄、下剤の投与、プルシアンブルーなどのイオン交換剤の投与等 が行われる。体内に吸収された放射性物質を除去するための処置としては、① ヨウ化カリウムなどの安定同位体を含む化合物の投与、② DTPAなどのキレート剤の投与、③ 利尿剤の投与 などが考えられる。どの方法を選択するかは、放射性物質の性質による。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

DNA損傷

DNA損傷

放射線により細胞には様々なタイプのDNA損傷が生じる。代表的なものとして、DNAで構成するチミンにヒドロキシラジカル(OH*)が付加されることで生じるチミングリコールなどの塩基損傷やDNA糖鎖の損傷によるDNA鎖切断がある。 塩基損傷の修復には塩基損傷の部位だけを切り出して正しい塩基を挿入する塩基除去修復と塩基損傷の周辺の塩基を含めた広い範囲を取り去り 修復を行うヌクレオチド除去修復がある。また、DNA鎖切断の一つであるDNA2本鎖切断の修復には非相同末端結合と相同組換えが関与する。この二つの修復には細胞周期に関連した 特徴があり、G1期の細胞では非相同末端結合による修復が主体となり、S期後半の細胞では相同組換えによるDNA2本鎖切断が効率的に修復される。

放射線により細胞に生じたDNA損傷が正確に修復されないと細胞に突然変異が生じる可能性があり、がんや遺伝性影響リスクが増加すると考えられている。がんについては、放射線により白血病の発生リスクが増加することがよく知られている。原爆被爆者のこれまでの疫学調査の結果から、放射線による 白血病の過剰発生は被爆後約2年の潜伏期を経て、被爆後約7年前後にピークとなり、その後減少するという推移をたどる。この白血病の線量反応は、被ばく線量が2 Gy 以下では直線ー2次曲線 モデルに従う。また被ばく時年齢については、1 Gy 被ばくの場合の白血病死亡の過剰絶対リスクは10歳での被ばくは、30歳での被ばくと比較して高い。また病型別でみると、急骨髄性白血病発生の相対リスクは増加するか、慢性リンパ性白血病 のそれは有意な増加認められていないことが分かっている。また有意な増加が認められているのは、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病である。

生殖細胞の放射線被ばくにより子孫に現れる影響を遺伝性影響という。低LET放射線に関するマウスを用いた Rusell らの特定座位法による検討では、精原細胞の突然変異率は線量の増加とともに直線的に増加する。一方、同一線量で比較すると約 900 mGy/min の高線量率で 照射した場合は線量率が約 100分の1 である約 8mGy/min の場合と比べて突然変異率は高いことが分かっている。また、線量率が約 8mGy/min の場合と0.007 ~ 0.05 mGy/min の場合と比較すると、前者による突然変異率は後者と比べてほぼ等しい ことが示されている。放射線による生殖細胞の突然変異誘発率に関しては、生殖細胞の発育段階により差があり、精子は精原細胞より誘発率が高い。この要因の一つとして精子が精原細胞に比べて放射線による細胞致死感受性が低いことがあげられる。 放射線被ばくによる遺伝的影響うを評価する方法の一つに倍加線量法がある。倍加線量法では、自然発生する突然変異率と同率の突然変異を誘発する吸収線量を用いる。つまり、この吸収線量 が大きいほど子孫への影響は起こりにくいこととなる。

またこの他に放射線におけるDNA損傷には鎖切断・水素結合開裂・塩基損傷がある。

① 鎖切断:ポリヌクレオチド中のヌクレオチド間の結合切断による損傷

② 水素結合開裂:塩基間の水素結合のヌクレオチド間の結合切断による損傷

③ 塩基損傷:ヌクレオチドと塩基間の結合の切断や塩基への損傷

ヌクレオチドとはヌクレオシドにリン酸が結合した物質である。

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

溶解度積

溶解度積についての記述

難溶性塩 CuS の溶解度積 Ksp(cus)は飽和水溶液における固ー液平衡 CuS – CuS2+ + S2- のイオン濃度の積 Ksp(cus) = [Cu2+][S2-] で表される。溶液中のイオン濃度の積が Ksp(cus) よりも大きくなると溶液から固体が析出する。S2- は水溶液中で 弱酸である H2S の解離により生成するため [S2-] は溶液の pH に強く依存し、pH が大きくなると増加する。64Cu2+ を 1.0 kBq(1.1×10^(-16)mol)と 65Zn2+ を 1.0 kBq (5.1×10^(-14)mol)含む Cu2+ と Zn2+ の各濃度 1.0×10^(-3) mol/l の 0.3 mol/l 塩酸溶液 1l がある。これに H2S を吹き込んで飽和させる。(この条件では[S2-] = 7.6×10^(-23)mol/lとなる。)

ただし、Ksp(cus) = [Cu2+][S2-] = 6.5×10^(-30) (mol/l)2

Ksp = [Zn2+][S2-] = 2.2×10^(-18) (mol/l)2 とする。

この操作により硫化銅(Ⅱ)が沈殿し、溶液中に残る銅イオン濃度は 64Cu2+ と非放射性 Cu2+ も含めて Ksp(cus)/[S2-] で表され、(6.5×10^(-30))/(7.6×10^(-30)) = 8.6×10^(-8) (mol/l)2 となる。 なお、1.0 kBq/l の 64Cu2+ のみで硫化物のみで硫化物は沈殿しない。(イオン濃度より[64Cu2+][S2-] = 1.1×10^(-30) × 7.6×10^(-23) = 8.4×10(-39)となる。これは 溶解度積 Ksp(cus)の 6.5×10^(-30)より小さいので 64Cu2+ のみでは沈殿は生成しない)。

一方[Zn2+]と[S2-]との積は 1.0 × 10^(-3) × 7.6 × 10^(-23) = 7.6 × 10^(-26) (mol/l)2 であり、この値は Ksp(ZnS)より小さいので 65Zn2+ + Zn2+ は沈殿しないで溶液中に残り、Cu2+ + 64Cu2+ と Zn2+ + 65Zn2+ の相互分離が可能になる。

溶解度積の例題

100 kBq の 140Ba を含む硫酸バリウム(BaSO4)100 mg を 1l の水とよく撹拌して混合したとき水に溶解する 140Ba の放射能 [kBq] を求めよ。BaSO4 の式量 233。BaSO4 の溶解度積 Ksp = [Ba2+][SO4]2- = 1.0 × 10^(-10) (mol/l)2 とする。

解答

BaSO4 100mg は 0.1/233 mol である。この中に 100kBq の 140Ba が含まれるので、比放射能は 100kBq/(0.1/233) = 2.33 × 10^5 kBq/mol となる。溶解度積が 1.0 × 10^(-10) kBq/mol であるので、 溶液中に溶解する[Ba2+]および[SO4]2- はともに 1.0 × 10^(-5) [mol/l] となる。溶液は 1l であるので溶解する 140Ba は 2.33 × 10^5 kBq/mol × 1.0 × 10^(-5) mol/l × 1l ≒ 2.33 kBq となる。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

非密封の放射性同位元素を取り扱う作業

非密封の放射性同位元素を取り扱う作業に関する記述

非密封の放射性同位元素を取り扱う作業では、空気汚染による内部被ばくを生じない作業環境を作ることが重要である。空気の汚染には放射性物質の空気中への飛散率が 関係している。飛散の度合いは放射性物質の化学的性質、物理的形状、そして作業形態が影響する。物質の化学的性質としての揮発性についてみると、例えば、137CsIでは 放射性同位元素は飛散しないが、 K(131I) では、化学反応によって放射性同位元素が揮発する可能性がある。また、 H2(35S) のような放射性気体を扱う作業ではさらに飛散し易くなる。 物理的形状についてみると、特に液状、粉末状、塊状では、塊状のもので飛散率は最も小さい。作業形態についてみると、溶媒抽出分離、蒸発乾固、静置の各操作では、一般に 蒸発乾固で最も飛散率が大きくなる。

 

放射性同位元素を貯蔵施設にて保管する際には、放射性物質を直接入れる内容器の他に外容器を用意する。線源が入った内容器表面の汚染を調べるには、スミア法を用いる。 低エネルギーβ線放出核種である。 14C で標識された有機化合物は 14C で分解しやすい。このため、これらの化合物の水溶液は 2 ℃程度、ベンゼン溶液は 8 ℃程度で 貯蔵するのが望ましいとされている。

 

排水中の45Ca濃度を液体シンチレーションカウンタで測定する場合には、水と溶け合うジオキサンにシンチレータを溶かしたものが用いられてきたが、現在では、水とエマルジョンを 形成する乳化シンチレータが多く用いられる。一方、排水中の32Pの放射能測定では、シンチレータを用いずチェレンコフ光を計測することができる。いずれの場合も、あらかじめ、測定 試料の透明度を調べ、それが不十分な場合にはろ過を行い、また。有機物で着色している場合には、活性炭を加えてこれを除去することが望ましい。

 

放射性同位元素を取り扱う作業を計画する際には、必要な試薬などの数量について予測する必要がある。例えば、無担体の45Ca2+水溶液から10MBqを分取し、これに 安定なカルシウム(原子量:40)を加えて、カルシウムの比放射能を1 × 10^9Bq/gとするのに必要なCa2+の量は 0.01 グラムである。また、放射能は時間とともに減少すること から、これについても予測する必要がある。例えば、2007年10月1日に131Iを370MBq受け入れ、同日及び同年10月9日にそれぞれ74MBqを使用する。同年10月25日の時点で残る 131Iの数量は 18 MBqとなる。なお、131Iの半減期は8.02日である。

Ⅳ 解説

必要なカルシウムの量をm[g]とする。ここで混合前の全放射能は、混合後の全放射能と等しいはずである。10[MBq] = 1×10^9[Bq/g] × m[g] m = 10×10^6[Bq]/1×10^9[Bq/g] = 0.01[g]

10月1日:131Iを370[MBq]受け入れ・・・74[MBq]を使用 → 370[MBq] – 74[MBq] = 296[MBq]

10月9日:131Iの半減期に8.02日により、受け入れ8日後のこの時点の放射能は 296[MBq]×(1/2)^(8/8.02) = 148[MBq] 74[MBq]を使用 → 148[MBq] – 74[MBq] = 74[MBq]

10月25日:前回の使用より、16日が経過・・・・74[MBq]×(1/2)^(16/8.02) ≒ 18[MBq]

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

放射性ヨウ素のタンパク質への標識法

放射性ヨウ素のタンパク質への標識法・・不足当量法の応用

直接法・・・直接チロシンのフェノール基に I+ を導入する方法。主にクロラミンT法、ヨードゲン法、ラクトパーオキシダーゼ法(標識効率が低い)

間接法・・・チロシンのないタンパク質に間接的に放射性ヨウ素を標識する方法。主にボルトンハンター法

不足当量法

目的の微量成分を正確に測定できる。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集