組織荷重係数

ICRP 1990 組織荷重係数

 

臓器 組織荷重係数
胃・肺・結腸・骨髄 0.12
生殖腺 0.20
膀胱・食道・乳房・肝臓・甲状腺・その他 0.05
骨表面・脳・唾液腺・皮膚 0.01

ICRP 2007 組織荷重係数

組織荷重係数は各組織・臓器の確率的影響のなりやすさを規格化した係数である。

 

臓器 組織荷重係数
胃・肺・結腸・骨髄・乳房・その他 0.12
生殖腺 0.08
膀胱・食道・肝臓・甲状腺 0.04
骨表面・脳・唾液腺・皮膚 0.01

その他(残りの組織)とは、腎臓・副腎・胆嚢・心臓・リンパ節・口腔粘膜・前立腺・大腸(上部)・小腸・筋肉・膵臓・脾臓・胸腺・子宮である。ICRP 1990とICRP 2007との違いを覚えておくと良い。

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第1種放射線取扱主任者まとめ集

α線放出核種のサーベイの方法

α線放出核種のサーベイの方法に関する記述

α線の空気中の飛程は 5 MeV のエネルギーでも 3.5 cm 程度であるため、α線放出核種については主として内部被ばくの管理が重要となる。内部被ばくを防ぐための管理測定では、空気中における放射能濃度と物品などの表面汚染密度の 2 つの量が主な対象となる。放射能濃度の測定において、粒子状汚染はろ紙フィルタに吸引捕集し、α線や光子などを測定して評価することが一般的である。また、気体状のものは、サンプリング容器 に捕集し測定するが、検出器自身がサンプリング容器の機能を持つ通気型電離箱を用いて測定する場合もある。一方、表面汚染密度については、管理対象物の表面をα線測定用サーベイメータで測定する直接測定法と、ろ紙などを用いて拭き取ることにより遊離性汚染の放射能を測定する間接測定法がある。

 

α線測定用サーベイメータには、比例計数管、シンチレーション検出器、半導体検出器などの検出器が用いられる。気体計数管である比例計数管はβ線測定と兼用でき、入射窓面積が大きいものが多く、計数ガスとしては PR ガスが用いられる。α線測定用シンチレーション検出器は、一般的に、粉末状の ZnS(Ag) シンチレータを光透過性のある膜状に塗布して、光電子増倍管と組み合わせて構成される。半導体検出器は、シリコン半導体を用いた電子デバイスの 1 つである ダイオードと同様の接続構造を持ち、これに逆方向の電圧を引火することにより生じる空乏層を有感領域として利用する。これらのα線用の検出器は、光子やβ線にも感度を持つことがあるが波高弁別によりα線の計数への影響を抑えることが可能である。

 

補足

電子デバイスとしてはトランジスタとダイオードの選択肢があるが、トランジスタは増幅やスイッチ作用を有する半導体のことを言う。

 

サーベイメータを用いた直接測定法において、α線の正味の計数率 N(α)[s^(-1)] と表面汚染 R[Bq/cm^2] との関係は、次式で与えられる。
R = N(α)/(W・ε(a)・ε(b))
ここで、ε(a) は機器効率と呼ばれ、線源との距離、検出器の入射窓厚などに依存して変化する。ε(b) は線源効率と呼ばれ、汚染部の状態に依存し、α線の自己吸収などにより小さくなる。また W[cm^2] は検出器の窓の面積を表す。α線測定用サーベイメータ(W:60 cm^2) を構成するため、α線表面放出率 300[s^(-1)] の面状標準線源(面積:15cm × 10cm)を密着に近い状態で測定したところ、正味の計数率 30[s^(-1)] が得られた。このサーベイメータで汚染部分を測定し、N(α) として 15[s^(-1)] の値が 得られた場合には、ε(b) を 0.25 とすると、上記の式より表面汚染は R は 4.0 Bq/cm^2 となる。一方、間接測定法の場合では、表面汚染 R’ [Bq/cm^2]は次式で与えられる。
R’ = N(α)/[F・S・ε(a)・ε(b)]
ここで、S は拭き取った部分の面積である。F は拭き取り効率と呼ばれ、一般に汚染面の状態が平滑で浸透性が低いほど大きくなる。

 

解説

標準線源の面積は 150 cm^2 であり、1 cm^2 あたりの放出率は 2.0 cm^(-2)・s^(-1) である。よって機器効率は ε(a) = 30/(2.0×60) = 0.25、したがって表面汚染は R = 15/(60×0.25×0.25) = 4.0 Bq/cm^2 となる。

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第1種放射線取扱主任者まとめ集

オートラジオグラフィ

オートラジオグラフィ

オートラジオグラフィとは放射性同位元素が発する放射線(β線)により、標識された部位の近傍の感光乳剤が感光する。 これを現像すると、標識された部位に銀が偏析する。 この試料を透過電子顕微鏡で観察すると、銀の局在位置から、標識された組織や細胞の位置を特定することができる。

ミクロオートラジオグラフィ対応核種・・・3H、14C、35S

マクロオートラジオグラフィ対応核種・・・14C、35S、59Fe、32P

 

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井戸型 NaI シンチレーション検出器

井戸型 NaI シンチレーション検出器に関する記述

井戸型 NaI(Tl) シンチレーション検出器は、線源を井戸の中に入れると、線源が検出器に対して張る立体角を 4π に近い条件で測定することができるため、幾何学的効率がおおよそ 1 となり、γ線放出核種に対する検出感度が高く、放射能測定や放射線管理測定に有用である。しかしながら、1 壊変当たり、幾つかの光子を同時に放出する核種の測定に際しては、サム効果の影響が顕著となり、その出力パルスの波高分布は複雑となることがあるので、 得られたデータの解釈に留意が必要である。その一例として、22Na の測定の場合について見てみよう。22Na は図1に示すように、90% の場合で、陽電子壊変し、残りの 10% は電子捕獲壊変をするが、いずれの壊変をした場合も、1.27 MeV のγ線を放出する。この 22Na を小型のプラスチック製の容器に密封した線源を、井戸型 NaI(Tl) 検出器の井戸の中に入れて波高分布を測定した結果の例を図2の曲線Ⅰに示す。ここでは、5 本のピークが明確に認められる。
ピーク① は 22Na から放出された陽電子が消滅するときに放出されるエネルギー 0.511 MeV の消滅放射線のうち片方が NaI(Tl) 結晶中で、光電効果による全吸収を起こした時に生成されるものである。
ピーク② は消滅放射線の双方が NaI(Tl) 結晶中で全吸収を起こし、そのサム効果により生じたもので、そのチャネル位置は、1.02 MeV に相当する。
ピーク③ は 1.27 MeV γ線の全吸収ピークであり、この際、同時に放出される消滅放射線が NaI(Tl) 結晶と光電効果やコンプトン効果などの相互作用を起こさない必要がある。
ピーク④ は消滅放射線の片方と、1.27 MeV γ線とが NaI(Tl) 結晶中で全吸収された結果生じたもので、チャネル位置は 1.78 MeV に相当する。また、強度はかなり低くなるが、2.29 MeV に相当するチャネルにもピーク⑤が認められる。これは、消滅放射線の双方と、1.27 MeV γ線のすべてが NaI(Tl) 結晶でそれぞれ全吸収を起こした場合に形成される 3重 のサムピークである。この 22Na 線源を井戸の外に出して測定すると状況は一変し、 波高分布は、図2 の曲線 Ⅱ に示すようになり、ピーク②とピーク⑤は、ほとんど観測されない。これは、陽電子の消滅位置を起点にして、2 個の消滅放射線が互いに正反対の方向に放出されるため、密封線源を井戸の外に出した場合に、2 個の消滅放射線が同時に NaI(Tl) 結晶に直接入射する可能性がほとんどなくなるからである。井戸型でない通常の NaI(Tl) 検出器の使用に際しても、同じ理由により、ピーク②とピーク⑤は観測されない。以上述べた 5 本のピークの他に、チャネル番号 200 付近に、なだらかなピーク状の 分布が曲線 Ⅰ にも曲線 Ⅱ にも認められる。これは、光子の後方散乱によるものである。散乱角 180 ° の散乱光子のエネルギーは、0.51 MeV 消滅放射線に対して 0.17 MeV であり、1.27 MeV γ線に対して0.21 MeV である。さらに入射光子エネルギーが増加すると、この値は 0.25 MeV に近づく。この様に、散乱角 180° の散乱光子のエネルギーは入射光子のエネルギーにそれほど依存しない。そのため、このようなピーク状のスペクトルが観測される。井戸型 NaI(Tl) 検出器の場合には、種々の散乱角の散乱光子も結晶中に入射するので、この様なピークはなだらかな分布となるのに対して、線源を井戸の外に出した場合には、検出器位置で散乱角が 180° の散乱線成分の割合が多くなるので、ピークの形がシャープになる。

 

解説

入射光子エネルギーを E MeV、180度方向にコンプトン散乱される光子エネルギーを E’ MeV とすると、m を電子の質量、c を光速として
E’ = E/[1 + (E/mc^2)(1-cos180°)] = E/[1+(2/0.51)E]
E’ = 0.51 MeV では E’ = 0.17 MeV、E = 1.27 MeV では E’ = 0.21 MeV、E が十分大きい場合は分母の 1 は無視でき、E’ ≒ E/(2E/0.51) = 0.26 MeV に近づく。

 

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預託実効線量

預託実効線量について

体内に取り込まれた放射性物質による内部被曝の実効線量をおよそ一生分について積算した値。成人では摂取後 50 年間、子供は 70 歳になるまでの年数で計算する。

成人の場合

131I:0.022 μSv/Bq
134Cs:0.019 μSv/Bq
137Cs:0.013 μSv/Bq
90Sr:0.028 μSv/Bq
239Pu:0.25 μSv/Bq

5歳児

131I:0.10 μSv/Bq
134Cs:0.013 μSv/Bq
137Cs:0.0096 μSv/Bq
90Sr:0.047 μSv/Bq
239Pu:0.33 μSv/Bq

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放射線防護のモニタリング

放射線防護のモニタリングについての記述

放射線管理のために放射線を測定し、その結果を解釈・評価して放射線防護の目標が達成されているか否かを判断するための一連の行為を放射線モニタリングという。防護の対象は放射線業務従事者と一般公衆の2つに大別されるので、モニタリングもそれぞれ区別して行われる。放射線業務従事者のモニタリングには、作業環境モニタリングと個人モニタリングがある。作業環境 モニタリングの目的は、線源の管理状況を確認し、安全が守られていることを確認することにある。個人モニタリングの目的は、①放射線業務従事者の被ばく線量を測定又は算定し、被ばくが線量限度を超えないことを証明すること、②被ばく線量を解析評価することにより、作業環境が十分に管理されているかどうかを確認することにある。実効線量に関する放射線業務従事者の 線量限度は、1年間に 50 mSv、かつ 5 年間に 100 mSv である。また、ICRP 勧告では一般公衆の線量限度は1年間に 1 mSv である。

 

人体の被ばくは、内部被ばくと外部被ばくに分けられる。14C のような低エネルギーの β 線源やα放射性物質の場合には、外部被ばくよりも内部被ばくを重視する必要がある。中性子線の場合には外部被ばくが主であるが、生体構成元素の放射化による内部被ばくも起こる。この放射化は被ばく線量推定に利用できる。例えば、血液中のナトリウムの放射化でできる。 24Na や毛髪に含まれるイオウの放射化でできる 32P から放出される放射線の測定が考えられる。

 

内部被ばく線量を測定するためには、体内に摂取された放射性物質の放射能を評価する方法には、①体外計測法、②バイオアッセイ法、③空気中濃度計算法がある。①の体外計測法ではホールボディカウンタがよく利用される。この方法は体内に残留している放射能を体外より評価するので、X線やγ線を放出する放射性物質に適用されるが、体内に自然に存在するカリウムからの放射線の影響を考慮する必要がある。②のバイオアッセイ法では、放射性物質を摂取した人の尿、便、呼気、血液及び 毛髪などを処理して試料を作成し、その放射能を計測し、この値と該当核種の排泄率から体内に摂取された放射性物質の量を推定する。この方法は、X線やγ線だけでなく飛程の短い 35S のような β 線や 239Pu のような α 線を放出する核種にも適用できる。③の空気中濃度計算法は飛散率を利用した放射性物質の空気中濃度算出、あるいは空気サンプリング装置等を用いて対象となる場所の空気中の放射性物質を捕集してその放射能を適当な測定装置で測定することによる。 後者は特に、クリプトン、キセノン、ラドンなどの放射性希ガスや、ヨウ素、ラドン娘核種などの空気中に拡散する放射性物質の測定に有効である。希ガスやヨウ素の捕集には活性炭が、粒子状放射性物質の捕集にはろ紙が一般的に用いられる。測定対象者が立ち入った時間の呼吸量を用いて体内に摂取された 放射性物質の放射能を算定する。

 

補足

体外計測法は、自然バックグラウンド計数を提言するための遮蔽体(鉄室)が必要で、通常、大掛かりな装置となり、簡単には設置できない特殊な装置であるという欠点がある。バイオアッセイ法も核種を選ばないが、試料の採取のために被検者の負担を課すこと、排泄率関数(曲線)に大きな個人差があり精度が悪いことなどの欠点がある。空気中濃度計算法は簡単な実測と計算に基づくが、空気中への飛散率などパラメータにかなり保守的な仮定を含むことから、管理上の上限値を抑える目的で用いるのが適当である。

 

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染色体異常

染色体異常について

染色体の数又は構造の変化を伴う遺伝情報の変化を染色体異常という。染色体異常には様々な種類のものがある。染色体の様々な位置で DNA 2本鎖切断が生じて誤った修復が起こった場合、どのような染色体異常が起こりうるだろう。

染色体1 a b c d – e f g h i j k l

染色体2 m n o – p q r s t u

① 染色体1 の a – b 間と k – l 間で DNA 2本鎖切断が生じ、誤って b 側の末端と k 側の末端が結合されると環状染色体が生じる。(1本の染色体に2本の切断が起きた場合は中間欠失、逆位、環状染色体。1本の染色体に1つの切断が起きた場合末端欠失となる。)

② 染色体1 の h – i 間と染色体2 の s – t 間でDNA2本鎖切断が生じ誤って h 側の末端と s 側末端が結合されると2動原体染色体が生じる。(2本の染色体にそれぞれ1つの切断が起きた場合は2動原体染色体、転座となる)

③ 染色体1 の h – i 間と染色体2 の s – t 間でDNA2本鎖切断が生じ誤って h 側の末端と t 側末端が結合され、同時に i 側の末端と S 側末端が結合されると転座が生じる。

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一般公衆が受ける被ばく、自然放射線

一般公衆が受ける被ばく、自然放射線についての記述

一般公衆が受ける自然放射線及び人工放射線による1人当たりの年間実効線量は、世界平均値に比べ日本の推定値は大きい。これは、日本において医療用放射線による被ばく線量が大きいためである。自然放射線による被ばく線量で比較した場合には、日本の年間被ばく線量は世界平均値に比べ小さい。これは日本では 222Rn による被ばく線量が世界平均値に比べ小さいためであり、その原因としては建築様式の違いがあげられる。

 

解説

自然放射線による被ばく線量は、世界平均で 2.4 mSv/年、日本では 1.5 mSv/年であり、これは建築様式の違い(木造家屋の建材や密封性の違い)により、ラドンによる被ばく線量が小さいことによる。一方、異様放射線被ばくは、諸外国が 1 mSv強/年であるのに対し、日本では 2.3 mSv/年と大きく、一般公衆の自然・人工を合わせたトータルの年間被ばく線量は諸外国に比べ大きくなっている。

 

自然放射線は、宇宙線、宇宙線起源核種からの放射線及び原始放射線核種からの放射線の3種類に大別される。宇宙線には、地球外の宇宙空間から飛来する一次宇宙線と、それが大気と相互作用を起こして生成される二次宇宙線がある。一次宇宙線は主に陽子からなる。二次宇宙線は陽子、中性子、電子、γ線、パイオン(π中間子)及びミューオンなどからなる。 宇宙線起源核種とは、宇宙線が他の元素と衝突して生成される放射性核種である。宇宙線起源核種には 14C や 3H などが含まれ、体内に取り込まれることにより内部被ばくの原因となる。これらの宇宙線起源核種による被ばくは、原始放射性核種による被ばくに比べて小さい。宇宙線による被ばくは地磁気の影響により、高緯度で大きい。また、高度とともに 増加する。

 

補足

一次宇宙線は陽子や重粒子からなり、大気圏に突入すると大気を構成する原子(分子)と衝突して核破砕を起こし、二次宇宙線や宇宙線起源核種を生成する。中性子による 14N (n,p) 14C は有名な反応である。宇宙線について、地磁気により高緯度で高線量率になること、空気による遮蔽が薄れることにより高高度で高線量率になることは押さえておきたい。

原始放射性核種とは地球の誕生時から存在してきた放射性核種で、それらの主なものは、40K、トリウム系列核種及びウラン系列核種の3種類である。これらのうち 40K の半減期は 12.5 億年であり、40K は β-壊変 を起こして 40Ca になり、あるいは軌道電子捕獲 を起こして 40Ar になる。原始放射性核種は、地殻、岩石・土壌、海水、建材、人体などほとんどすべての物質中に様々な濃度で含まれている。地殻や岩石等の違いにより含まれる放射能濃度はまちまちであり、このことも地域による自然放射線の線量率が異なる原因となっている。日本国内では、一般に西日本の方が東日本よりも自然放射線の線量率は高くなる傾向がある。また、トンネル内での自然放射線の線量率は高く、湖の上では 低くなる。

 

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http://radiologist.sakura.ne.jp/radiology/index.html

DNA損傷と修復2

DNA損傷と修復

放射線、紫外線、活性酵素などの影響やDNA複製過程でのエラーもよって、異常な塩基対が形成される。細胞にはこのような異常な塩基や塩基対を修復する機構が備わっている。例えばシトシンが脱アミノ化されるとウラシルが生じる。ウラシルはRNAに含まれるものの、 本来DNAに含まれない塩基であるため細胞はこれを異常と察知し修復を行う。この場合の修復は塩基除去修復によって行われる。塩基除去修復において、まずDNAグリコシラーぜによって下図の a の位置で切断が起こり、塩基のない 部位が生じる。次のAPエンドヌクレアーゼによって下図の b の位置で切断が起こる。さらにホスホジエステラーゼによってもう一方のリン酸ジエステル結合が切断され、損傷塩基が取り除かれると、DNAの2本の鎖のうち一方の鎖が切れた構造が残ることになる。

補足

損傷した塩基がDNAグリコシラーぜによって切除される。塩基のない部位は(プリンが無い、ピリミジンが無いという意味でAP部位という)AP部位といい、AP部位はAPエンドヌクレアーゼによって、5’端のリン酸基をもつ部位で切断を受け、さらにホスホジエステラーゼによってもう一方のリン酸ジエステル結合が加水分解・切断 され、リン酸 – デオキシリボースが切り出される。

放射線によって生じるDNA損傷には塩基損傷や架橋に加え、鎖切断がある。鎖切断には大きく分けて1本鎖切断と2本鎖切断がある。正常ヒト2倍体細胞に 1 Gy のγ線を照射した場合細胞 1 個あたり、1 本鎖切断は約1000個、2本鎖切断は約40個生成する。1本鎖切断と2本鎖切断は 最終的にDNAリガーゼによって結合されるが、結合の際には 5’末端にリン酸基、3’末端基に水酸基が必要である。末端の形状がこれと異なる場合には、ポリヌクレオチドキナーゼ/ホスファターゼなどによる整形を必要とする。

補足

鎖切断箇所は必要によって切断末端が5’端にリン酸、3’端に水酸基を持つようにポリヌクレオチドキナーゼ/ホスファターゼによって消化・整形され、DNAポリメラーゼによってヌクレオチド欠損箇所に正常なヌクレオチドが挿入され、最終的にDNAリガーゼによって結合が行われ、修復が完了する。

ヒトやマウスの体細胞において、DNA2本鎖切断は主として相同組換えと非相同末端結合の二つの機構で修復される。相同組換えは鋳型として、姉妹染色分体を必要とするため、細胞周期のS期 後半からG2期に限定される。非相同末端結合に関わるDNA依存プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA – PKcs)遺伝子に変異を有するscid(スキッド)マウスは放射線致死高感受性に加え、免疫機能の異常を呈する。また近年ヒトでも DNA – PKcs の遺伝子に変異を有する 患者が報告され、免疫抗体遺伝子の再編成過程において非相同末端結合が関わるためである。

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第1種放射線取扱主任者試験 放射線生物学5

問1

次の標識化合物のうち、PET(陽電子放射断層撮影)診断に用いられる正しいものの組み合わせはどれか。

A [14C]メチオニン

B [15O]水

C [18F]フルオロデオキシグルコース

D [67Ga]クエン酸ガリウム

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 3

くすり 剤形 検査目的 保険適用
18F – フルオロデオキシグルコース(FDG) 注射剤 悪性腫瘍、てんかん、虚血性心疾患の検査
15O – 酸素ガス 吸入剤 脳酸素消費量の検査
15O – 一酸化炭素ガス 吸入剤 脳血流量の検査
15O – 二酸化炭素ガス 吸入剤 脳血流量の検査
15O – 水 注射剤 脳、心筋血流の検査
11C – メチオニン 注射剤 腫瘍検査
11C – 酢酸 注射剤 腫瘍検査、心筋機能検査
11C – コリン 注射剤 腫瘍検査
11C – ラクロプライド 注射剤 脳ドーパミン神経機能の検査
11C – フルマゼニル 注射剤 てんかん、脳神経細胞障害の検査
13N – アンモニア 注射剤 心筋血流量の検査
18F – フッ化ナトリウム 注射剤 骨疾患の検査

A 誤 [14C]メチオニン・・・14C は β-壊変核種。

B 正 [15O]水・・・脳血流量の測定に用いられる。

C 正 [18F]フルオロデオキシグルコース・・・がんの早期発見で用いられる主流な核種。

D 誤 [67Ga]クエン酸ガリウム・・・核医学で腫瘍検査に用いられる。67Ga の壊変形式は EC。

問2

放射線治療でブラッグピークを利用するものとして正しいものの組み合わせはどれか。

A 陽子線

B 電子線

C γ線

D 炭素イオン線

E 中性子線

1 AとD 2 AとE 3 BとC 4 BとE 5 CとD

解答 1

ブラッグピークを作るのは重荷電粒子であり、陽子と炭素イオン線が該当する。

問3

放射線の間接作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 化学物質により修飾されることはほとんどない。

B 主に水分子から生じたフリーラジカルによる。

C 線量が一定であれば、酵素活性の不活活性率は酵素濃度に関係なく一定である。

D 酸素濃度に影響を受ける。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 4

間接作用の修飾要因

① 希釈効果

希釈効果とは、溶液を照射する場合に溶質の濃度が低い方が高い時よりも溶質に対する放射線の影響の割合が大きくなることをいう。主に酵素濃度が減少する。 ① 溶質として存在する酵素などの生体高分子数の不活化を指揮とした場合吸収線量が一定であれば不活性化した分子数は濃度によらず一定 → 同じ条件での不活性化率は濃度の増加に伴い低下する。

② 酸素効果

組織内の酸素分圧が放射線効果に影響を与えることを酸素効果という。酸素存在下での放射線効果は、無酸素下での放射線効果に比べて大きい。これは酸素分子が電子親和性が大きく、 電子を取り込んでスーパーオキシドという反応性に富むラジカルを産生するためである。また、照射後に酸素濃度を高めたとしても酸素効果は見られない。同じ生物学的効果を 得るのに必要な無酸素下での線量と酸素存在下での線量の比を酸素増感比(OER)という。

OER = (無酸素下である効果を得るのに必要な線量)/(酸素存在下で同じ効果を得るのに必要な線量)

OERは酸素分圧の上昇につれて大きくなるが、酸素分圧が 20 mmHg を越えるとほぼ一定となる。低LET(線エネルギー付与)放射線ではOERは 2.5 ~ 3 程度であるが、 高LET放射線では酸素効果は小さい。

③ 保護効果

ラジカルと反応しやすい物質が照射野に存在すれば、生じたラジカルは除去されるので放射線の効果は減少する。これを保護効果といい、このような働きを持つ物質を放射線防護剤あるいは単に防護剤という。 SH化合物などのラジカルスカベンジャーはその一例である。SH基にはシステイン、システアミン、グルタチオン、シスタミンがある。またOH基も還元作用があることから、 アルコール、グリセリン、ポリエチレングリコールなども同様に保護効果を持つ。

④ 温度効果

温度が低下した状態では放射線効果は減少する。これを温度効果という。ラジカルの拡散が低温により妨げられるためだと考えられている。

ラジカルの再結合

生成されたH*やOH*といったラジカルは拡散し広がっていくが、その過程でラジカル同士再結合するのもある。ラジカルの再結合はラジカル同士の距離が近いと起きやすい。ラジカルの生成密度は、低LET放射線では 疎で高LET放射線では密であることから、低LET放射線では間接作用の寄与が大きいが、高LET放射線では間接作用の寄与が小さくなる。

A 誤 ラジカルスカベンジャーによる保護効果がある。

B 正 特に OH ラジカルの寄与が大きい。

C 誤 間接作用についての不活性化率は酵素濃度の増加に伴い減少する。(希釈効果)

D 正 酸素濃度が下がると影響は小さくなる。

問4

水への放射線照射により生成するスーパーオキシド(O2*-)に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 生体に存在するカタラーゼにより分解される。

B ヒドロキシラジカルに比べて生体成分への反応性が高い。

C 酵素反応により過酸化水素を生じる。

D 水和電子と酸素との反応で生じる。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 5

活性酵素

大気中に含まれる酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したものの総称である。

スーパーオキシドアニオンラジカル・・・O2* → 酵素との反応で過酸化水素ができる。水和電子と酸素との反応でもできる。1電子還元でスーパーオキシドラジカルに2電子還元で過酸化水素になる。

ヒドロキシラジカル・・・HO* → グアニンの C-H の部位を C-OH に変化させる。ヒドロキシラジカルが生体成分への反応性が最も高い。

過酸化水素・・・H2O2

一重項酸素・・・’O2

ヒドロペルオキシラジカル・・・HO2*

また広義の活性酸素として

一酸化窒素・・・NO

二酸化窒素・・・NO2

オゾン・・・O3

過酸化脂質

この反応を防ぐ役割をするのが抗酸化酵素である。カタラーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、ペルオキシターゼなど活性酸素を無害化する酵素がある。

カタラーゼ

H2O2による細胞障害を消失させる。(体内に存在する) カタラーゼは過酸化水素を分解する。

フリーラジカルの生成

励起・・・H2O → H*(還元性) + OH*(酸化性)

電離・・・H2O → H2O+ + e- 、H2O+ → H+ + OH* もしくは H2O+ + H2O → H3O+ + OH*

H3O+ + e- → H* + H2O

電子の周りには水分子が集まり水和電子が生成される。e- + nH2O → e(aq)-[還元性]

e(aq)- + H2O → OH- + H* もしくは、e(aq)- + H+ → H*、e(aq)- + O2 → O2*-(スーパーオキシドラジカル)

H* + OH* → H2O となり、H*は生体分子の水素を引き抜いて反応を起こし、10^(-10)秒の寿命をもつ。

還元性を示す分子・・・H*、e(aq)-、H2

酸化性を示す分子・・・OH*、H2O2

A 誤 カタラーゼは過酸化水素を分解する。

B 誤 ヒドロキシラジカルが生体成分への反応性が最も高い。

C 正 スーパーオキシドが1電子還元されると過酸化水素となる。

D 正 e(aq)- + O2 → O2*-(スーパーオキシドラジカル)となり、水和電子は強い還元性を示す。還元性を示す分子・・・H*、e(aq)-、H2

問5

放射線による DNA 損傷の修復に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 2本鎖切断は、1本鎖切断に比べて修復されにくい。

B 2本鎖切断の修復に、相同組換えは関与しない。

C ヌクレオチド除去修復は、塩基損傷を修復する。

D 1本鎖切断は、非相同末端結合により修復される。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 2

A 正 2本鎖切断は1本鎖切断 よりも生じにくく、10 倍以上のエネルギーを必要とするため2本鎖切断のほうが修復されにくい。。

B 誤 相同組換え修復は S 期後半から G2 期に誘導される DNA 2 本鎖切断の修復過程である。

C 正 塩基損傷部位を含めて広い範囲が切り出される場合をヌクレオチド除去修復という。

D 誤 非相同末端結合は G1 期に 誘導される2本鎖切断の修復過程である。

問6

X線によるDNA損傷に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 単位吸収線量当たりの2本鎖切断の数は1本鎖切断の数の約2倍である。

B DNA損傷は細胞周期の進行に影響する。

C 低酸素条件下ではDNA損傷は起こりにくい。

D γ線では起こらない種類のDNA損傷が生じる。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 3

A 誤 2本鎖切断は1本鎖切断 よりも生じにくく、10 倍以上のエネルギーを必要とするため単位吸収線量当たりの2本鎖切断の数は1本鎖切断の数の約1/10倍となる。

B 正 細胞周期チェックポイントが働き、分裂が遅延する。

C 正 組織内の酸素分圧が放射線効果に影響を与えることを酸素効果という。X線は間接効果なので、低酸素下では間接効果の働きが下がる。

D 誤 X線もγ線も電磁波の電離放射線である。

問7

遺伝子突然変異に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A α線はγ線に比べて単位吸収線量当たりの突然変異頻度が高い。

B β線は中性子に比べて単位吸収線量当たりの突然変異頻度が高い。

C 点突然変異は発がんの原因となる。

D 塩基損傷は点突然変異の原因となる。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDのみ

解答 3

A 正 高LET放射線であるα線の方が頻度は高い。

B 誤 高LET放射線である中性子線の方が頻度は高い。

C 正 点突然変異は1箇所の塩基情報の誤りをいうが、発がんの原因となりうる。

D 正 点突然変異は1箇所の塩基情報の誤りをいう。

問8

染色体異常に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 転座は安定型異常に分類される。

B 環状染色体は不安定型異常に分類される。

C G1 期の DNA 2 本鎖切断により M 期で染色分体異常が生じる。

D G2 期の DNA 2 本鎖切断により M 期で染色体異常が生じる。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 1

A 正 欠失、逆位、転座などは 細胞分裂によっても引き継がれ長期にわたって存在し、安定型の異常(発がんしやすい異常)といわれる。

B 正 環状染色体や 2動原体染色体は細胞分裂に際してうまく両極に分かれることがでず、異常は比較的早期に消失する。これを不安定型の異常という。

C 誤 DNA 合成期より前(G1期での照射)に染色体が切断される(1対の染色分体の同じ位置に異常が認められる)と M 期で染色体型異常となる。

D 誤 DNA 合成期より後(G2期での照射)に染色体分体が切断されると M 期で染色分体型の異常となる。

問9

細胞周期に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A p53 は放射線照射後の細胞周期停止に関与する。

B 最も放射線感受性が低いのは M 期後半である。

C G0 期には G2 期から移行する。

D 毛細血管拡張性運動失調症患者由来の細胞では細胞周期チェックポイントに異常がある。

1 AとB 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 2

A 正 p53 はがん抑制遺伝子で、機能の1つに細胞周期の制御がある。

B 誤 M 期は放射線感受性が最も高い。

C 誤 G0 期は、分裂する必要がなく G1 期が長く続く状態から移行する。

D 正 毛細血管拡張性運動失調症は常染色体劣性遺伝形式をとり、運動失調と毛細血管拡張、細胞性免疫不全を呈する疾患であり、免疫グロブリンAやEの欠失、Tリンパ球の欠失などがみられる。また、ATM遺伝子の異常により、細胞周期の進行が止まらなくなることが原因である。

問10

毛細血管拡張性運動失調症に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 紫外線に高感受性を示す。

B 高発がん性を示す。

C 免疫異常を示す。

D 遺伝形式は常染色体優性遺伝である。

1 AとB 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 3

毛細血管拡張性運動失調症は常染色体劣性遺伝形式をとり、運動失調と毛細血管拡張、細胞性免疫不全を呈する疾患であり、免疫グロブリンAやEの欠失、Tリンパ球の欠失などがみられる。また、ATM遺伝子の異常により、細胞周期の進行が止まらなくなることも原因である。 毛細血管拡張性運動失調症はチェックポイントを欠き、DNA損傷を修復できないため、高率に発がんする。

A 誤 紫外線に高感受性を示すのは、色素性乾皮症である。

B 正 高発がん性を示す。

C 正 免疫異常を示す。

D 誤 遺伝形式は常染色体劣勢遺伝である。

問11

酸素効果に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 酸素の有無で生物学的効果が等しい場合の OER は 0 である。

B 低酸素細胞は放射線抵抗性を示す。

C 高LET放射線に比べて低LET放射線では酸素効果が大きい。

D X線による細胞致死における OER は 2.0 ~ 3.0 である。

1 ABDのみ 2 ABのみ 3 ACのみ 4 CDのみ 5 BCDのみ

解答 5

A 誤 同じものの比になるので、OER は 1 となる。

B 正 低酸素細胞は放射線抵抗性を示す。

C 正 高LET放射線に比べて低LET放射線では酸素効果が大きい。

D 正 X線による細胞致死における OER は 2.0 ~ 3.0 である。

問12

低LET放射線の線量率効果に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 一般に線量率が低くなると細胞生存率曲線の肩が顕著となる。

B 一般に線量率が低くなると細胞生存率曲線の傾きが大きくなる。

C 線量率が低くなる事による細胞生存率曲線の傾きの変化は、高LET放射線の場合より大きい。

D 線量率を下げると細胞生存率が低くなる現象が認められることがある。

1 AとB 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 5

A 誤 線量率を下げると傾きは緩やかとなり、ついには直線に近づくため、肩はなくなる。

B 誤 線量率効果で影響は小さくなるので、傾きは小さくなる。

C 正 線量率効果は低LET放射線の方が大きい。

D 正 線量率を下げると細胞生存率が低くなる現象が認められることがある。これはバイスタンダー効果の現れと言われる。

バイスタンダー効果・・・低線量発がんのリスク評価

放射線の影響は、線量が低くなればなるほど他の要因による影響と区別がつけられなくなるため、現状では比較的高い線量域で得られている結果を外挿して、低線量域においても同様に直線性を示すと仮定しています(LNT仮説)。このLNT仮説を否定する仮説がバイスタンダー効果という。放射線誘発バイスタンダー効果とは 放射線を照射した細胞が近傍に存在する細胞に様々な生物学的影響を引き起こす現象をいう。この現象はLNT仮説が低線量の影響を過小評価している可能性を支持する生物の細胞応答です。 バイスタンダー効果は照射された細胞から放出された一酸化窒素や活性酸素種、様々なサイトカインなど多数のシグナル分子によって伝達されると考えられている。また、ゲノム(個々の生物が持つ遺伝子・染色体全体)不安定性を引き起こす効果がある。なお、ギャップジャンクション(ギャップ結合)は細胞の結合形態の1つであり、環状のタンパク質が隣接する(少し隙間があるのでギャップ)細胞をつないでいる。

例えば隣り合っている細胞同士を結ぶ小さなトンネル(ギャップ・ジャンクション)を閉じる薬剤や、培養液に分泌された活性酸素種を捕捉、中和する薬剤を添加するとバイズタンダー効果は抑制される。

問13

5 Gy のγ線急性全身被ばくによる放射線影響に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

1 顆粒球は被ばく直後に一過性に増加することがある。

2 B 細胞は T 細胞よりも致死感受性が低い。

3 血小板の減少は顆粒球の減少よりも早期に起こる。

4 顆粒球の減少は主にリンパ節が被ばくすることによって起こる。

5 赤血球の減少は観察されない。

解答 1

下に血液の影響に関する記述を記載する。

臓器・組織の確定的影響

造血臓器は、赤血球、白血球などの血液細胞(血球)を産生する臓器であり、骨髄、リンパ球がこれにあたる。胎児期には、肝臓、脾臓も造血機能を持つ。骨髄は造血機能を持つ赤色骨髄と脂肪変性して造血機能を失った 白色骨髄(黄色骨髄)に分けられる。小児期において、ほとんど全ての骨髄が赤色骨髄であるが、年齢が増大すると白色骨髄の割合が大きくなる。赤色骨髄が 0.5 Gy 程度被ばくすると、造血機能の低下が起こり 血球の供給が止まる。このため、造血臓器の放射線障害は末梢血中の血球数の変化によって検出できる。しかし一方では、放射線被ばくによりリンパ球は血球自体の細胞死が引き起こされるし、他の血球においても 寿命が尽きたものは死んで抹消血中から除かれていく。したがって、放射線影響による血球数の変化は、造血臓器と抹消血球の両方について供給と減少の関係を総合してとらえることが重要である。赤血球および血小板は核を持たないが、 白血球には核がある。白血球は起源や形態から、リンパ球と顆粒球に分類され、さらに顆粒球は、酸性や塩基性の染色液によく染まるか否かおよび形態の観点から、好酸球、好中球、好塩基球および単球に分類される。白血球においては、 リンパ球を除き、顆粒球の種類による放射線影響の違いは特にない

白血球

白血球は免疫応答、貪食作用などの機能を持つ。したがって、白血球の減少により、免疫機能の低下が起こり細菌観戦への抵抗性が減少する。

リンパ球(間期死)

リンパ芽球、幼若リンパ球、リンパ球と分化するが、分化しても放射線感受性は低下せず、抹消血中の成熟リンパ球の放射線感受性までも高いことが特徴である。放射線被ばくにより抹消血中のリンパ球は細胞死を起こすため、供給の低下を 待たずに被ばく直後(24時間で出現)からリンパ球は減少する。リンパ球減少のしきい線量は 0.25 Gy である。リンパ球の回復は他の血球に比べて遅い。

B細胞・・・B細胞はリンパ球の中で最も感受性が高い。骨髄由来。

T細胞・・・T細胞は胸腺由来のリンパ球。

NK細胞・・・NK細胞はリンパ球の1つ。細胞性免疫、液性免疫の過程を経ず、NK細胞はウイルス等の異物を攻撃する。このため、Natural Killer 細胞と呼ばれる。

形質細胞・・・B細胞が分化した細胞で、免疫グロブリンを産生する。感受性は低くなる。

マクロファージ・・・単球の成熟過程から派生する貪食細胞。感受性は他の白血球と同程度。

顆粒球

骨髄芽球の放射線感受性が最も高く、分化の進行に伴って次第に低下し、成熟抹消顆粒球の放射線感受性が最も低い。顆粒球の減少はリンパ球にやや遅れて始まり、被ばく後 3 ~ 4 日後で最低値を示す。被ばく直後に 一過性の顆粒球数の増加が見られることがあるが、これは脾臓などの貯蔵プールから一過性の放出が行われるため起こると考えており、初期白血球増加と呼ばれる。

血小板

赤血球は寿命が 60 ~ 120 日と長いため供給の低下の影響が現れにくく、血球数の変化は他の血球に比べてそれほど顕著ではない。

1 正 初期白血球増加が見られる。顆粒球は白血球の1つ。

2 誤 B 細胞はリンパ球の中で最も感受性が高い。

3 誤 顆粒球の減少の方が早く起こる。

4 誤 造血臓器(骨髄)の被ばくに起因する。

5 誤 寿命が長いため他の血球に比べて顕著でないが、減少はしていく。

問14

次の細胞のうち、放射線致死感受性の最も低いものはどれか。

1 心筋細胞

2 水晶体上皮細胞

3 腸クリプト(腺窩)細胞

4 皮膚基底細胞

5 リンパ球

解答 1

下の表に臓器別放射線感受性を示す。

臓器・組織の放射線感受性

細胞や臓器・組織の種類によって放射線感受性はっよて決まる。一般に、臓器・組織の放射線感受性は、その臓器・組織を構成している細胞の放射線感受性によって決まる。臓器・組織を成人における放射線感受性によって 大まかに分類すると下の表の通りとなる。

感受性の程度 組織
最も高い リンパ組織(胸腺、脾臓)、骨髄、生殖腺(精巣、卵巣)
高い 小腸、皮膚、毛細血管、水晶体
中程度 肝臓、唾液腺
低い 甲状腺(45Gyで機能を失う)、筋肉、結合組織
最も低い 脳、骨、神経組織

問15

組織荷重係数の大小関係について正しいものの組み合わせはどれか。

A 皮膚 > 肝臓

B 骨髄(赤色) > 結腸

C 結腸 > 食道

D 肺 > 膀胱

1 ABCのみ 2 ABのみ 3 ADのみ 4 CDのみ 5 BCDのみ

解答 4

組織荷重係数を下表にまとめた。場合によっては 2007 年と 1990 年とを比較する問題も出てくるので両方覚えておく方がベストかな。

ICRP 2007 組織荷重係数

組織荷重係数は各組織・臓器の確率的影響のなりやすさを規格化した係数である。

 

臓器 組織荷重係数
胃・肺・結腸・骨髄・乳房・その他 0.12
生殖腺 0.08
膀胱・食道・肝臓・甲状腺 0.04
骨表面・脳・唾液腺・皮膚 0.01

その他(残りの組織)とは、腎臓・副腎・胆嚢・心臓・リンパ節・口腔粘膜・前立腺・大腸(上部)・小腸・筋肉・膵臓・脾臓・胸腺・子宮である。ICRP 1990とICRP 2007との違いを覚えておくと良い。

ICRP 1990 組織荷重係数

 

臓器 組織荷重係数
胃・肺・結腸・骨髄 0.12
生殖腺 0.20
膀胱・食道・乳房・肝臓・甲状腺・その他 0.05
骨表面・脳・唾液腺・皮膚 0.01

問16

ヒトのγ線急性全身被ばくに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 臓器により細胞致死感受性が異なる。

B 前駆症状として体温低下をきたす。

C 線量率が低い方が致死線量は高い。

D ヒトの 50% 致死線量はマウスの 50% 致死線量よりも高い。

1 AとB 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 2

A 正 臓器により細胞致死感受性が異なる。

B 誤 微熱がでる。

C 正 線量率が高い方が影響は大きい。

D 誤 ヒトの方が感受性は高い。ヒトの半致死線量は 3 ~ 5 Gy。マウスの半致死線量はヒトよりも高く 5.6 ~ 7.0 Gy とされている。

問17

放射線による細胞の適応応答に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 2 Gy 以上の事前照射により認められる。

B 事前照射後 1 ~ 2 ヶ月で認められる。

C リンパ球の染色体異常に関して認められる。

D 化学物質でも同様な適応応答が認められる。

1 ABCのみ 2 ABのみ 3 ADのみ 4 CDのみ 5 BCDのみ

解答 4 適応応答についての記述を下記に示す。

適応応答

事前照射により、その後の照射に対する抵抗性を獲得する現象をいう。0.01 ~ 0.2 Gy 程度の線量域で認められるため、リンパ球の染色体異常に関して認められている。実験結果としてトリチウムを含む培養液([3H]チミジン)でリンパ球を培養した後、0.15 Gy のX線を照射したところ、染色体異常の発生頻度がコントロールの約 1/3 となった。という報告がある。他にも大腸菌によるアルキル化剤を用いた実験がある。

問18

10 Gy のγ線急性全身被ばくの数時間後に生じる急性障害に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

1 皮膚に痛みを感じる。

2 皮膚に水疱が形成される。

3 消化管から下血が起こる。

4 毛細血管の透過性亢進が起こる。

5 肝機能障害が起こる。

解答 4

10 Gy のγ線急性全身被ばくの数時間後に生じるものとして、毛細血管の透過性の亢進により腫脹に繋がる。

問19

急性放射線外部被ばくによる発がんに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 白血病の潜伏時間は被ばく線量が高いほど短い。

B 被ばく線量と悪性度には相関関係が認められない。

C 乳がんの放射線による過剰発生リスクと線量との関係は LQ(直線ー2次曲線)モデルがよくあてはまる。

D 組織荷重係数とは、各組織における単位線量当たりのがん発生率のことである。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 2

問20

1 Gy のX腺急性全身被ばくによって引き起こされる可能性のある影響として、正しいものの組み合わせは、次のうちどれか。

A 脱毛

B 男性の一時不妊

C 皮膚の紅斑

D 放射線宿酔

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 5

A 誤 脱毛・・・しきい線量は 3 Gy

B 正 男性の一時不妊・・・しきい線量は 0.15 Gy

C 誤 皮膚の紅斑・・・しきい線量は 3 ~ 6 Gy

D 正 放射線宿酔・・・しきい線量は 1 Gy

問21

確率的影響と確定的影響に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 遺伝的影響は確率的影響である。

B 早期反応には確率的影響はない。

C 組織荷重係数は確率的影響を考慮した係数である。

D 晩発影響には確定的影響はない。

E 内部被ばくでは確定的影響は起こらない。

1 ABCのみ 2 ABEのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 CDEのみ

解答 1

A 正 確率的影響に分類されるのは、発がんと遺伝的影響である。

B 正 発がんには長い潜伏期があり、発がんの最低潜伏期間は白血病で 2 年、その他の固形がんで 10 年とされており、晩発影響に区分される。また遺伝的影響も経世代影響であり、時間を要する。

C 正 組織荷重係数は各組織・臓器の確率的影響のなりやすさを規格化した係数である。

D 誤 晩発影響には白内障が含まれる。

E 誤 大量の放射性物質の体内取り込みがあれば、確定的影響も起こる。

問22

125I の物理学的半減期を 60 日、生物学的半減期を 140 日 としたとき、有効半減期[日]として最も近い値は、次のうちどれか。

1 20

2 40

3 80

4 120

5 140

解答 2

1/有効半減期 = 1/物理学的半減期 + 1/生物学的半減期 より、有効半減期 = 42 (日)

問23

期間形成期にある胎児がγ線に急性被ばくした場合、奇形の発生に関するしきい値[Gy]に最も近い値は、次のうちどれか。

1 0.005

2 0.02

3 0.1

4 0.5

5 2

解答 3

胎児期の放射線影響を下の表に示す。

胎児期の放射線影響

胎児期の区分 期間 発生する影響 しきい線量(Gy)
着床前期 受精 8 日まで 胚死亡  0.1
器官形成期 受精 9 日 ~ 受精 8 週 奇形 0.15
胎児期 受精 8 週 ~ 受精 25 週 精神発達遅滞  0.2 ~ 0.4
受精 8 週 ~ 受精 40 週 発育遅延 0.5 ~ 1.0
全期間 発がんと遺伝的影響

問24

外部放射線による体内被ばくに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 重度精神発達遅滞は受精後 26 週以降の被ばくで多い。

B 生じる影響は確定的影響のみである。

C 着床前に被ばくすると奇形の発生頻度が高い。

D 被ばく線量推定には母親の子宮線量が用いられる。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 4

胎児期の放射線影響

胎児期の区分 期間 発生する影響 しきい線量(Gy)
着床前期 受精 8 日まで 胚死亡  0.1
器官形成期 受精 9 日 ~ 受精 8 週 奇形 0.15
胎児期 受精 8 週 ~ 受精 25 週 精神発達遅滞  0.2 ~ 0.4
受精 8 週 ~ 受精 40 週 発育遅延 0.5 ~ 1.0
全期間 発がんと遺伝的影響

A 誤 重度精神発達遅滞は受精 8 週 ~ 受精 25 週の被ばくで多い。

B 誤 全期間で発がんと遺伝的影響のリスクはある。

C 誤 奇形の発生頻度が高い時期は受精 9 日 ~ 受精 8 週。

D 正 子宮の線量で代用することができる。。

問25

γ線急性全身被ばくによる身体的影響に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 高線量で被ばくした場合に生じる生殖細胞の減少は身体的影響である。

B 低線量率で被ばくした場合に生じる体細胞のがん化は身体的影響である。

C 高線量による影響は急性障害のみで、晩発影響はない。

D 晩発影響には、しきい線量があるものとないものがある。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 2

A 正 被ばくした本人に影響が現れるものが身体的影響である。

B 正 被ばくした本人に影響が現れるものが身体的影響である。

C 誤 高線量による影響で晩発影響には白内障がある。

D 正 しきい線量があるもの:白内障。しきい線量がないもの:発がん

問26

放射線による遺伝的影響に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 遺伝的影響には、しきい線量があるものとないものがある。

B 体内被ばくによる奇形は遺伝的影響である。

C 生殖年齢又は生殖年齢以前に被ばくした場合のみに生じる可能性がある。

D 生殖器官が被ばくしなければ生じることはない。

1 AとB 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 5

A 誤 遺伝的影響には、しきい線量はない。

B 誤 胎児自身の被ばくによる身体的影響である。

C 正 生殖年齢又は生殖年齢以前に被ばくした場合のみに生じる可能性がある。

D 正 生殖器官が被ばくしなければ生じることはない。生殖細胞の突然変異が子孫に伝わって生じる。

問27

放射線による遺伝的影響に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 放射線誘発突然変異の発生率は、線量率に依存しない。

B 遺伝的影響リスクの推定に用いられる間接法では倍加線量の概念を用いる。

C 遺伝有意線量は、ある集団の妊娠可能女性の平均生殖腺線量である。

D 放射線誘発突然変異は自然突然変異と区別できない。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 ACのみ 4 BDのみ 5 BCDのみ

解答 4

A 誤 誘発突然変異率 = 自然突然変異率 × (被ばく線量/倍加線量)。線量率を下げれば突然変異率は減少する。また点突然変異は1箇所の変化に基づくため線量に比例する。よって放射線誘発突然変異の発生率は、線量率に依存する。

B 正 遺伝的影響の発生確率の推定(間接法)として用いられるのが倍加線量といい、ヒトの遺伝的疾患の自然発生率と動物実験による倍加線量を比較して推定する方法をいう。倍加線量として 1 Gy の値が示されている。(ヒトの場合0.2 ~ 2.5 Gy と幅がある。)

C 誤 女性のみではなく、男性も含め全集団で考慮している。

D 正 放射線誘発突然変異は自然突然変異と区別できない。

問28

LETと細胞致死作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 高LET放射線は低LET放射線よりも細胞致死作用が小さい。

B 高LET放射線は低LET放射線よりも間接作用の寄与が小さい。

C RBEはLETが 100 〜 200 keV/μm の範囲で最小となる。

D 高LET放射線は低LET放射線よりも細胞周期依存性が小さい。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 ACのみ 4 BDのみ 5 BCDのみ

解答 4

A 誤 高LET放射線の方が細胞致死作用は大きい。

B 正 高LET放射線は低LET放射線よりも間接作用の寄与が小さい。それは、電離密度が高いため、ラジカルの再結合が起こりやすい。

C 誤 RBEはLETが 100 〜 200 keV/μm の範囲で最大となる。

D 正 高LET放射線は低LET放射線よりも細胞周期依存性が小さい。

問29

RBEに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 放射線の種類による生物効果の量的違いを表す値である。

B 低線量域における確定的影響の RBE を参考に放射線荷重係数が定められている。

C 基準放射線としては、一般に 200 ~ 250 kV のX腺が用いられる。

D 生物効果の指標によって RBE の値は異なる。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 1

A 正 RBE はγ線・X線に比べて、どのくらい生物効果が大きいかを表す指標である。

B 誤 放射線荷重係数は、確率的影響の RBE を参考にしている。

C 正 基準放射線としてはX線(管電圧250kV)やγ線が用いられるため、X線やγ線のRBEは 1 となる。

D 正 生物効果の指標によって RBE の値は異なる。

問30

粒子線の生物作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 陽子線の RBE は、X線と比べて小さい。

B ヘリウム線の生物作用は、ブラッグピーク付近で最大となる。

C 中性子線は、エネルギーが異なると生物作用の程度も異なる。

D 鉄イオン線の RBE は、炭素イオン線と比べて小さい。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 3

A 誤 陽子線の RBE は 1.0 ~ 1.2 程度であるが、X線やγ線のRBEは 1 となるため小さくはない。

B 正 ヘリウム線は重荷電粒子であり、ブラッグピークを作る。。

C 正 中性子線は高LET放射線であり、RBE は100 〜 200 keV/μm で最大となる。

D 誤 粒子線の RBE は粒子の質量が大きいものほど大きい。

 

放射線による細胞死に関する記述

放射線による細胞死には様々な様式が存在する。主なものとしては、細胞が大きくなり細胞内容が流出することが特徴的な細胞死である壊死(ネクローシス)と、細胞が小さくなり核が凝縮するアポトーシスがあげられる。これらの細胞死では細胞死に伴い DNA は断片化されるが、断片化の形式は細胞死により異なる。壊死(ネクローシス)では断片化された DNA は電気泳動により観察するとスメア状となるが、アポトーシスでは 梯子状(はしご)となる。放射線生物学においては放射線照射後の細胞生存率を定量する場合に、上に述べたような一般的な細胞死の他に細胞増殖能を喪失を “細胞死” として取り扱う。この様式の “細胞死” としては、代謝を保ちながら細胞の分裂が不可逆的に停止し細胞増殖能を形成する老化(セネッセンス)があげられる。

 

補足

DNA 損傷等の障害が何もなくとも、細胞が分裂できる回数には限界があることが知られており、限界に達して細胞分裂を失った状態はセネッセンス(細胞老化)と呼ばれる。

 

Ⅰ で述べた放射線生物学における細胞死の概念を踏まえ、放射線照射後の細胞生存率を定量する手法としてコロニー形成法が一般に用いられる。コロニー形成法では、細胞を単一細胞に分離して細胞培養皿に播種し、一定期間培養した後に生じるコロニー数を計数する。通常、細胞を播種した後 7 ~ 21 日程度してから 50 個以上の細胞からなるコロニー数を計数する。計数したコロニー数を播種した 細胞数で除した値をコロニー形成率という。放射線照射後の細胞生存率は、放射線を照射した細胞のコロニー形成率を、照射してない細胞のコロニー形成率で除した割合で表す。コロニー形成法により得られた細胞生存率から細胞生存率曲線を描くが、通常、細胞生存率曲線は縦軸に生存率を対数目盛で示し、横軸に吸収線量を線形目盛で示す。

 

解説

分裂する細胞の細胞生存率の定量には、コロニー形成法を用いる。50 個程度以上の細胞からなる肉眼で観察可能なコロニーを計数する。コロニー形成率は、非照射(コントロール群)においても播いた細胞がすべてコロニーを作る訳ではないので、照射群と非照射群のコロニー形成率の比から求める。。

 

放射線照射後の細胞生存率は、照射条件あるいは培養条件によって変化する。培養細胞に低 LET 放射線を照射した場合、総吸収線量が同一であるならば 1 回で照射したときと比較して、2 回に分けて時間間隔をおいて照射したときに細胞生存率は高くなる。この現象は亜致死損傷回復によると考えられている。低 LET 放射線では、特別な場合を除けば吸収線量が同じであれば線量率が低くなると生物効果は小さくなる。また、培養細胞に 低 LET 放射線を照射した後の培養条件によって細胞の生存率の上昇が見られることがある。これは潜在的致死損傷回復によると考えられている。

 

補足

亜致死損傷(SLD)回復は、標的説に基づき定義され、線量率効果の機構の説明に用いられる。また、潜在的致死損傷(PLD)回復は、プラトー期や低栄養などの細胞の生育条件が悪い時に見られる減少として知られている。

放射線被ばくによる急性障害と晩発影響についての記述

高線量放射線を一度に全身被ばくしたような場合、数週間以内に現れる障害を急性障害という。占領によって症状は異なるが、典型的な経過は以下の 4 つの病期に分けられる。被ばく直後から数時間以内に悪心、嘔吐、発熱など非特異的な症状が現れる前駆期、これらの症状が一時的に消失する潜伏期、骨髄や消化管障害、脱水など多彩な症状が現れる発症期、その後回復期あるいは死亡の 4 期である。障害の現れ方やその時期は、線量及び臓器・組織によって異なる。例えば、ヒトが高線量のγ線を全身被ばくしても医療処置がなされないと、3 ~ 10 Gy では 3 ~ 4 週間程度で骨髄の障害により、10 ~ 20 Gy では、1 ~ 2 週間程度で腸管の障害により死亡する危険性が高い。

 

解説

Ⅰ は急性放射線症についての出題である。前駆期は被ばく後 48 時間以内を指し、悪心、嘔吐、下痢、発熱、頭痛、意識障害等の症状が現れる。唾液腺の腫脹、圧痛および口腔粘膜の毛細血管拡張などが診察時の留意点と言われている。

 

臓器や組織の急性障害は、主に臓器・組織の実質細胞の死によって起こると考えられる。臓器や組織によって実質細胞の放射線感受性が違うために、障害を認めるようになるしきい線量も臓器や組織によって異なる。一般に、現れる障害の重篤度は、被ばくした線量が大きいと高い。1 回のγ線による被ばくでは、抹消血中のリンパ球数の減少は 0.5 Gy 以上の被ばくによって起こる。女性の永久不妊は 6 Gy 以上の生殖腺被ばくによって起こり、男性の永久不妊は 6 Gy 以上の生殖腺被ばくによって起こる。又、男性の一時的不妊のしきい線量は 0.15 Gy で、女性の一時的不妊が起こる線量は男性に比べて高い。

 

晩発影響としては、発がん、白内障、遺伝的影響などが挙げられる。発がんと遺伝的影響は、確率的影響と考えられている。一般に、被ばくしてから発がんまでの期間は固形がんでは白血病に比べて長い。白内障は確定的影響に分類され、水晶体の混濁による。遺伝的影響は放射線に被ばくした生殖細胞に遺伝子の突然変異や染色体異常が起こることによる。遺伝的影響のリスクの推定には倍加線量法と、線量効果関係を動物実験によって求め、 これをヒトに適用して行う直接法とがある。遺伝的影響のリスクは、倍加線量が大きいほど低く、一般的に線量率が低いほど低い。UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会) 2001 年報告では倍加線量を 1 Gy と見積もっている。

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

https://www.radiologist-study.org