GM計数管

GM計数管について

気体放射線検出器の多くは、気体原子や分子の電離に起因する電流変化を、必要に応じ増幅器などを用い電気信号の形で取り出して放射線を検出する。この形式の検出器では、計数ガス、印加電圧、電極構造などの違いにより、異なる動作モードが得られる。電離箱は、放射線により生成された初期の電荷量に相当する出力が得られる検出器である。また、比例計数管では、電離で発生した電子が検出器内の電場で加速され、新たな電離が引き起こされる。比例計数管は、このガス増幅作用を利用して出力波高を高めるが、この際、入射放射線のエネルギー 情報は保持される。一方、GM 計数管はこれら2つの検出器と比較すると、入射放射線のエネルギー情報が得られない反面、出力波高が十分に高く、放射線管理などで汎用性に用いられる。

GM計数管の動作過程では、計数ガス中に生成された電子が陽極心線へと移動しながら運動エネルギーを増し、新たに電離を起こすとともに、計数ガスの励起に起因した紫外線の介在による電離も加わり電子なだれが陽極心線全体に広がる。この結果、陽極心線周辺に生じた陽イオン の鞘ににより電界が弱まり、GM放電が停止する。これを不感時間という(およそ200μs程度)。GM放電の停止後、陽イオンは次第に移動して陰極へ到達するが、この際に陰極から電子が放出されると再放電を招く。このため、計数ガス中に内部消滅ガスとして働く少量の有機ガス(Qガスといい、ヘリウム+イソブタンの混合)を混ぜ、このガスの分解により電子の 再放出を防止する。これと異なる方法として、電気回路により印加電圧を一時的に下げて再放電を防止することを外部消滅と呼ぶ。

ここで有機ガスのガス増幅について、① 印加電圧が高くなると増幅度は大きくなる。② 計数ガスに酸素を加えると酸素と電子が吸着し、増幅度は小さくなる。③ 陽極心線を細くすると心線周辺の電場が強くなり、増幅度は大きくなる。④ 計数ガスの圧力を強めると圧が高くなり増幅度は小さくなる。という特徴がある。

GM計数管の出力と経過時間との関係をオシロスコープで観測すると下図のようになる。ここでもとのパルス波高にまで戻る時間 P は回復時間。またパルス波高が波高弁別レベルまで戻る時間 q は分解時間と呼ばれ、この間新たな放射線を計数しない。この q の値は通常 10^(-4) s 程度であり、これを求める方法には 二線源法、半減期法などがある。 r は放射線の入射があってもパルスが形成されない時間である。信号処理系を含めたGM計数装置において、時間 t の間に得られた放射線の計数を N とすると、計数 N を得るために要した放射線に有感な時間は t – Nq となる。計数率が極めて高くなり、パルス波高が回復できない状態になると、補正の範囲を超えて極端に計数が低下する。これを 窒息現象と呼ぶ。ここでGM計数管の分解時間(不感時間) τ(s) と見かけの計数率 n(cps) および真の計数率 N(cps) の関係式は N = n/(1 – n・τ) で表せる。

下図のようにGM計数管を配置したとする。
① 中央に穴のあいた絞りは幾何学的効率を規定するために用いる。
② 中央に穴のあいたバッフル板は散乱β線の影響を軽減するために用いるもの。
③ 線源の大きさが十分小さい場合幾何学的効率は絞りの半径及び線源と絞りとの距離とによって決まる。幾何学的効率 G = 1/2[1 – (a/√b)] = 1/2[1 – (10/√104)] ≒ 0.0097 となる。

吸収板は、線源とGM計数管入射窓の間に介在する空気層やGM計数管入射窓におけるβ線の吸収を推定したり、γ線に対するGM計数管の感度を評価するために必要である。吸収板の位置はGM計数管入射窓に近い位置がよい。吸収板はβ線の最大飛程よりも厚い吸収板を用いてγ線 とバックグラウンドにより計数率を評価する。

GM計数管によって放射能を決定するための手順

はじめにβ線の最大飛程よりも厚い吸収板を用いて計数を行い、γ線とバックグラウンドによる計数率を評価する。次に種々の厚さ(2mg/cm2 ~ 50mg/cm2 程度)のアルミニウム製吸収板を置いた時の計数率を順次求める。この値について予め計数装置の不感時間による数え落としの補正を行うとともに厚い吸収板 を用いた時の計数率を差し引き、計数管のγ線に対する感度とバックグラウンドの影響を補正する。これらの結果を片対数グラフの横軸に吸収板厚[mg/cm2]、縦軸に計数率をプロットするとほぼ直線状のグラフが得られる。これは吸収板厚の増加とともにほぼ指数的に計数率が 減少することを意味する。このようなグラフを吸収曲線と呼び、その形はあまり吸収体の材質に依存しない。したがって線源ーGM計数管入射窓間に介在する空気層やGM計数管入射窓におけるβ線の吸収を補正するためには線源ーGM計数管入射窓間と空気密度から空気層の厚さ[mg/cm2]を求め、空気層厚及びGM計数管入射窓の厚さ[mg/cm2]の分だけ 吸収曲線を外挿すればよい。この結果を n’ [s^(-1)]とすると、60Co 試料(線源)の放射能 A [Bq] は次式により決定する。 A = n’/[ε1 × (1+ε2) × (1-ε3)]と表される。ここで ε1 は幾何学的効率。ε2 は後方散乱率。εs は自己吸収率。

端窓型GM計数管を用いた定位体角法では、線源から計数管へ入射するβ-線の割合を絞りにより一定に保ち、放射能 A を求める。この時測定で得られるβ-線の計数率 n と点状線源の放射能との関係は次式で与えられる。n = Aε1 × (1+ε2) × (1-ε3) × (1-ε4) ここで、ε1 は幾何学的効率であり、絞りの半径を R 、絞りと線源との距離を d とするとε1 = 1/2[1 – (d/(√d^2 + R^2))] となる。ε2 は線源支持板の後方散乱の割合、ε3 は線源ー検出器間の空気層や検出器窓による吸収損失の割合、ε4 は線源の自己吸収による損失の割合を表す。また、この測定法を拡張し、幾何学的効率が 0.5 、さらに線源と検出領域との間のβ-線の吸収損失をなくした測定器が 2πβ計数管である。βーγ線同時計数法では、β線検出器とγ線検出器を対向させ、その間に点状線源を置いて測定する。β-線とこれに連続して放出されるγ線について、バックグラウンドを補正したそれぞれの計数率を nβ、nγ、またそれらの同時計数の計数率を nc で表すと、β線検出器及びγ線検出器の計数効率 εβ、εγは εβ = nc/nγ , εγ = nc/nβ となる。この時放射能 A = (nβ・nγ)/nc となる。この測定方法において計数率が高い場合は、β-線と同時事象の関係にないγ線による偶発同時計数率の影響を補正することが必要となり、この補正量は同時計数回路の信号パルスの分解時間を τ とすると 2τ ・ nβ ・ nγ で与えられる。またβ線検出器として 4πβ計数管を用いれば、β線の計数へのγ線の影響がほとんどなく補正が軽減される。

 

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第1種放射線取扱主任者まとめ集

臓器・組織の放射線感受性

臓器・組織の放射線感受性

細胞や臓器・組織の種類によって放射線感受性はっよて決まる。一般に、臓器・組織の放射線感受性は、その臓器・組織を構成している細胞の放射線感受性によって決まる。臓器・組織を成人における放射線感受性によって 大まかに分類すると下の表の通りとなる。

感受性の程度 組織
最も高い リンパ組織(胸腺、脾臓)、骨髄、生殖腺(精巣、卵巣)
高い 小腸、皮膚、毛細血管、水晶体
中程度 肝臓、唾液腺
低い 甲状腺(45Gyで機能を失う)、筋肉、結合組織
最も低い 脳、骨、神経組織

臓器・組織の確定的影響

造血臓器は、赤血球、白血球などの血液細胞(血球)を産生する臓器であり、骨髄、リンパ球がこれにあたる。胎児期には、肝臓、脾臓も造血機能を持つ。骨髄は造血機能を持つ赤色骨髄と脂肪変性して造血機能を失った 白色骨髄(黄色骨髄)に分けられる。小児期において、ほとんど全ての骨髄が赤色骨髄であるが、年齢が増大すると白色骨髄の割合が大きくなる。赤色骨髄が 0.5 Gy 程度被ばくすると、造血機能の低下が起こり 血球の供給が止まる。このため、造血臓器の放射線障害は末梢血中の血球数の変化によって検出できる。しかし一方では、放射線被ばくによりリンパ球は血球自体の細胞死が引き起こされるし、他の血球においても 寿命が尽きたものは死んで抹消血中から除かれていく。したがって、放射線影響による血球数の変化は、造血臓器と抹消血球の両方について供給と減少の関係を総合してとらえることが重要である。赤血球および血小板は核を持たないが、 白血球には核がある。白血球は起源や形態から、リンパ球と顆粒球に分類され、さらに顆粒球は、酸性や塩基性の染色液によく染まるか否かおよび形態の観点から、好酸球、好中球、好塩基球および単球に分類される。白血球においては、 リンパ球を除き、顆粒球の種類による放射線影響の違いは特にない

白血球

白血球は免疫応答、貪食作用などの機能を持つ。したがって、白血球の減少により、免疫機能の低下が起こり細菌観戦への抵抗性が減少する。

リンパ球(間期死)

リンパ芽球、幼若リンパ球、リンパ球と分化するが、分化しても放射線感受性は低下せず、抹消血中の成熟リンパ球の放射線感受性までも高いことが特徴である。放射線被ばくにより抹消血中のリンパ球は細胞死を起こすため、供給の低下を 待たずに被ばく直後(24時間で出現)からリンパ球は減少する。リンパ球減少のしきい線量は 0.25 Gy である。リンパ球の回復は他の血球に比べて遅い。

B細胞・・・B細胞はリンパ球の中で最も感受性が高い。骨髄由来。

T細胞・・・T細胞は胸腺由来のリンパ球。

NK細胞・・・NK細胞はリンパ球の1つ。細胞性免疫、液性免疫の過程を経ず、NK細胞はウイルス等の異物を攻撃する。このため、Natural Killer 細胞と呼ばれる。

形質細胞・・・B細胞が分化した細胞で、免疫グロブリンを産生する。感受性は低くなる。

マクロファージ・・・単球の成熟過程から派生する貪食細胞。感受性は他の白血球と同程度。

顆粒球

骨髄芽球の放射線感受性が最も高く、分化の進行に伴って次第に低下し、成熟抹消顆粒球の放射線感受性が最も低い。顆粒球の減少はリンパ球にやや遅れて始まり、被ばく後 3 ~ 4 日後で最低値を示す。被ばく直後に 一過性の顆粒球数の増加が見られることがあるが、これは脾臓などの貯蔵プールから一過性の放出が行われるため起こると考えており、初期白血球増加と呼ばれる。

血小板

赤血球は寿命が 60 ~ 120 日と長いため供給の低下の影響が現れにくく、血球数の変化は他の血球に比べてそれほど顕著ではない。

生殖腺(精巣)・・・線量率効果がない

男性の生殖腺は精巣(睾丸)であり、精原細胞 → 精母細胞 → 精子細胞 → 精子と約 70 日かけて分化・成熟する。放射線感受性は後期精原細胞が最も高く、0.15 Gy の急性被ばくにより細胞死が起こり、一過性の不妊が生じる。 この 0.15 Gy という線量は急性被ばくのしきい線量としてはかなり低いものであるが、分割照射や低線量率被ばくの場合でもしきい線量はそれほど変わらず、線量率効果がないことに注意が必要である。3.5 ~ 6 Gy を越える 線量では幹細胞(精原細胞)はほとんど死んでしまい、永久不妊が起こる。長時間での被ばくでの一時的不妊の線量率のしきい値は約 0.4 Gy/年で推定できる。また突然変異感受性は、精細胞 > 精母細胞 = 精子 > 精原細胞 である。

生殖腺(卵巣)

女性の生殖腺は卵巣であり、卵原細胞 → 卵母細胞 → 卵子 と分化・成熟する。胎児期にすでに卵母細胞(未成熟)までの分化が進んでおり、その段階で停止している。思春期を迎えると卵母細胞以降の分化が再開され月経の度に 排卵される。静止期にある卵母細胞の放射線感受性は比較的低いが、分化が再開された卵母細胞の放射線感受性は非常に高く、高感受性間期死の形を取り細胞死を起こす。 0.65 Gy ~ 1.5 Gy で一過性の不妊が生じる。 2.5 ~ 6 Gy で卵巣に蓄えられている未成熟卵母細胞が死滅し永久不妊となる。永久不妊のしきい線量は、若年層で高く年齢の増加に伴い低くなる傾向が見られる。

小腸

小腸の粘膜には絨毛があり、その付け根にはクリプト(腺窩)と呼ばれる分裂を盛んに行なっている細胞がある。クリプトから分化する細胞は吸収上皮細胞であり、順次先端方向へ押し上げられていき、先端部で先端部で寿命を全うし脱落していく。 小腸が 10 Gy 以上の急性照射を受けた場合、クリプトの細胞分裂が停止し、吸収上皮細胞の供給が絶たれ、粘膜上皮の剥離、萎縮および潰瘍が発生し、脱水症状も現れる。

皮膚

皮膚は表面から表皮、真皮、皮下組織の順に配列している。表皮の最下層は基底細胞膜といわれ、細胞分裂を盛んに行なっており放射線感受性の高い部分である。基底細胞層は波打っており、平均 70 μm の深さにある。 法令で個人被ばく線量測定が義務付けられている 70 マイクロメートル線量当量は、この基底細胞層の深さに対応している。分裂した細胞は表面方向に押し上げられ、順次角質化し脱落している基底細胞の被ばくは、皮膚紅斑 や落屑の原因となる。また、毛のうは真皮内にあり、細胞分裂を盛んに行い、毛の伸長のもととなっている。毛のうの放射線感受性は高く、放射線被ばくは脱毛の原因となる。下の表に皮膚の影響としきい線量 を示す。被ばく線量が増すと、潜伏期が短くなり、症状の重篤度が増す。

皮膚の放射線影響としきい線量

線量 放射線影響
3 Gy 以上 脱毛
3 ~ 6 Gy 紅斑・色素沈着
7 ~ 8 Gy 水泡形成
10 Gy 以上 潰瘍形成
20 Gy 以上 難治性潰瘍(慢性化、皮膚がんへの移行)

水晶体

水晶体前面の上皮細胞は放射線感受性が高く、放射線被ばくにより損傷を受けると水晶体混濁の原因となる。水晶体混濁の程度が進んで視力障害が認められるような状態になったものを白内障という。 水晶体の前方には 3 mm の角膜が存在するが、法令で個人被ばく線量の評価が義務付けられている 3 ミリメートル線量当量はこの暑さに対応している。1 回照射の場合のしきい線量は 水晶体混濁で 2 Gy 、白内障で 5 Gy 、慢性被ばくの場合では水晶体混濁が 5 Gy 、白内障で 8 Gyとされている。水晶体は何年にもわたる被ばくでの線量率しきい値は 0.15 Gy/年をいくぶん上回る程度で白内障がでると推定されている。

 

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第1種放射線取扱主任者まとめ集

放射性同位体の分離

水溶液中の放射性同位体の分離について

1 キレート抽出・・・オキシン、ジチゾン、クペロンのようなキレート剤は金属とキレート化合物をつくる。これらの化合物の多くは有機溶媒に溶け、水に溶けないのでキレート抽出される。化学においてキレートとは複数の 配位座を持つ配位子による金属イオンへの配位結合をいう。

2 イオン会合体抽出・・・3つの型がある。金属イオンが大きな有機の基を持つイオンと結合するか、あるいは大きいイオンと会合するような過程を経るもの。ハロゲン、チオシアミン酸、硝酸のイオンなどとアルコール、エーテル、ケトンおよびエステル のような酵素を含んでいる有機化合物とが金属イオンに配位している水分子を置換して抽出できる化学種を生ずる過程を経るもの。金属イオンが高分子の塩になって有機溶媒に溶けているもの。 Co,CU,Zn はクロロ錯体を形成 するが、有機溶媒には抽出されない。Co はイオン交換樹脂にて分離する。またこの Co は中性子を照射することで核反応がおきて、[60Co]2+ として水溶液中に存在する。

標識化合物

化合物の一部または全部の元素が放射性同位体と置き換えられたものをいう。標識の位置によって特定標識化合物、名目標識化合物、全般標識化合物、均一標識化合物がある。

特定標識化合物・・・特定の位置の原子だけが標識される。[1-14C]チミン、[6-3H]ウラシルのように標識位置を明記している。

名目標識化合物・・・特定の位置の大部分が標識されているが、その他の位置の原子も標識され分布比が明確ではない。[9-10-3H(N)]オレイン酸のようにN-を付ける。

均一標識化合物・・・全ての位置の原子が均一に標識されている。[U-14C]のようにU-を付ける。

全般標識化合物・・・全ての位置の原子が全般的に標識されているが分布が均一ではなく分布比も明確ではない。[G-14C]メチオニンのようにG-を付ける。

標識化合物の保管方法は、① 比放射能を低くする。② 放射能の濃度を低くする。③ 少量ずつ分けて保管する。④ 強いエネルギーのβ放出体やγ放出体などとは一緒に置かない。⑤ 有機溶液はラジカルスカベンジャー を加えて加水分解を防ぐ。ラジカルスカベンジャーはエタノールやベンジルアルコールを加えて約 2℃ で保管する。

セリウム線量計での吸収線量の求め方

例題 硫酸セリウム(Ⅳ)の硫酸酸性水溶液 10g に 60Co からγ線を 1時間照射したところ、1.0 × 10^(-5) のCe(Ⅲ)が生成した。この反応の G値 を 2.5 とした時の吸収線量はいくらか。ただしセリウムの原子量は 140 とする。

吸収線量 D = N/G値 × 100 ここで N = (1.0×10^(-5))/140 × 6.0 × 10^(23) したがって、D = (1.0×10^(-5))/140 × 6.0 × 10^(23) × 100/2.5 × 1.6 × 10^(-19) = 0.0274 J/g = 27.4 J/Kg

 

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ブラッググレイの原理

Bragg-Gray

物質中の吸収線量測定の関係

ブラッググレイの原理

吸収線量とは、任意電離放射線が任意物質に当たった時、その物質の単位質量当たりに吸収されたエネルギーとして定義されている。本来の SI 単位は J/kg であるが、この単位に対してグレイ[Gy] という特別単位名称と記号とが与えられる。吸収線量の測定法として最も定義に忠実な方法は熱量計法である。例えば、断熱状態の水に 1.0 Gy の吸収線量が 与えられた時でも、温度上昇は約 0.24 × 10^(-3) ℃ にとどまり、これを正確に測定することは容易ではない。そのため、実用的な吸収線量測定は、ブラッグ・グレイの原理に準拠した空洞電離箱法によることが多い。空洞電離箱とは固体壁(グラファイトなど)の中に空洞を設け、その空洞中に空気などの気体を充填したものである。空洞の中心には細い導電性の棒状電極を配置し、これと固体壁の間に 電圧を印加して電離電流を測定する。固体壁が絶縁体である場合には、内壁面に炭素などを薄く塗布し、導電性を確保する。印加電圧が低いと、電離によって生じたイオン対が再結合するので、充分な電圧をかけて、飽和電流が得られるようにする。

解説

水の比熱は 1.0[cal・℃^(-1)・g^(-1)] = 4.2 × 10^3[J・℃^(-1)・kg^(-1)] であるから、温度上昇は1/(4.2 × 10^3) = 0.238 × 10^(-3) ℃ となる。

空洞体積 V [m^3]、空洞気体密度 ρ [kg/m^3] の空洞電離箱にX線又はγ線を照射して、電離電流 I [A] を得た場合壁物質中の吸収線量率 Dm [Gy/s]は次式により求めることができる。
Dm = 1.6 × 10^(-19) × (W・I)/(V・ρ・e) × Sm Dg = (W・N)/m
ここで、Wは空洞気体中で1イオン対を作るのに要するエネルギー[eV]。すなわち、W値であって、空域の場合は 34 eV である。
Smは壁物質の空洞気体に対する平均質量阻止能比であり、
Sm = (壁物質の二次電子に対する平均質量阻止能)/(空洞気体の二次電子に対する平均質量阻止能)となる。
ここで二次電子とは、コンプトン効果や光電効果によって生じた電子をいう。空洞気体が空気であり、壁物質がグラファイトのような原子番号の低い材料を使う場合、Smはほとんど 1 に近い。 こうした空洞電離箱法の適用にあたっては、二次電子の飛程に比較して空洞が小さく、空洞の存在が二次電子の粒子束に、大きく影響しないことが 前提となっているが、空洞を小さくすると電離電流が少なくなってしまう。また壁厚は壁物質中で二次電子の電子平衡が成立するように留意する。 壁部室として組織等価物質を用いれば生体組織における吸収線量(率)が決定できるが、測定対象物質と壁物質とが異なる場合には、測定対象物質に小さな空洞電離箱を挿入して測定を行い、得られた結果に測定対象物質と 壁物質の質量エネルギー吸収係数比を用いて測定対象物質の吸収線量を間接的に求める。体積 10 × 10^(-6) m3 の空洞に空気(密度 1.3 kg/m3) を充填したグラファイト空洞電離箱にγ線を照射して、1.0 mGy/s の吸収線量率を与えた場合、流れる電流は 0.38 nA である。このような微小な電流を測定するためには MOSFET を用いた高感度電位計や振動容量電位計などが用いられる。

解説

空気の W値は 34 eV であるから、電流は

[1.0× 10^(-3)[Gy/s]×1.3×10×10^(-6)[kg]×1.6×10^(-19)[C]]/[34×1.6×10^(-19)[J]] =

3.8 × 10^(-10)[A] = 0,38[nA]

Bethe公式

荷電粒子の阻止能との関係式

Fano因子

検出器で生じるキャリア数のゆらぎとポアソン統計によるゆらぎの予測値とのずれを量的に表した因子。F <= 1 である。

Rutherford散乱

重荷電粒子線が原子核の電場により弾性散乱される現象。

Laudau(ラウダウ)分布

薄い物質層を通過した荷電粒子のエネルギー分布を表す。

 

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電離箱

電離箱

放射線計測に際して重要な検出器の一つに電離箱がある。これは基本的には二つの電極の間に空気等の気体を充填したもので、電極構造として同軸状、平行平板状のものが一般的である。これらの電離箱を電流モード、または電荷モードで動作させる場合の基本を理解するために、最初図1に示すように平行平板型電離箱にアルゴンガスのような電子付着係数の小さい気体が充填され、電圧印加電極にプラスの高電圧 VB (数百V程度)が印加されている場合を考えてみよう。 この場合、電離で生じた電子はほぼ消失することなく電極間を移動し続ける。極板間距離を d とすると、電極の端の部分を除いて電極間空間の電界の強さ E はほぼ一様に E = VB/d となる。電極間に入射した荷電粒子は、電極間空間に充填された気体を電離し、その飛跡に沿って多数の電子・陽イオン対を生成する。電圧印加電極にプラス電圧を印加した場合、熱運動による拡散 を伴いながらも生成した電子は電界に逆行して全体として電圧印加電極の方へ、陽イオンは電界に沿って集電極の方向に移動していく。その際、電子が電圧印加電極に向かって移動しても、陽イオンが集電極に向かって移動しても、いずれも集電極に正の電荷が誘起される。こうした電荷の誘起は、電子が電圧印加電極に、陽イオンが集電極に到達するまで続く。 誘起される電荷は直ちに高抵抗 R を通じて大地(アース)に流れ、電離電流として観測される。しかし、電子の移動速度と陽イオンの移動速度とは、おおよそ千倍の違いがあり、陽イオンは電子に比べて大幅に遅い。そのため電子の移動による電流がマイクロ秒のオーダーで流れ、その後も陽イオンの移動による弱い電流がミリ秒のオーダーで持続する。この時電子が電圧印加電極までに誘起された電荷 q1 と陽イオンが集電極到達までに誘起された電荷 q2 との比 q1/q2 はイオン対 の発生位置に依存するが、それぞれの寄与の和(q1+q2)は電離位置に依存しない。以上は電子付着係数の小さいアルゴンガスを例にとって説明したが、空気の場合電子付着係数の大きい酸素が主要構成成分の一つとなっている。この場合、電離直後の初期の段階で電子は酸素分子と結合し陰イオンを生成する。陰イオンは 電子と同じく電圧印加電極に向かって移動するが、この陰イオンの移動度は電子の場合と比較してはるかに小さいので、アルゴンガスの場合でみられた速い電流成分の形成はほとんどみられなくなるが、この陰イオンもミリ秒オーダーの時間で電圧印加電極に到達し、この時点までの誘導電荷を積算すれば、これは電子の移動による誘導電荷の積算値と同じになる。したがって電子付着によって中性分子 が陰イオンになっても電離箱を電流モードまたは電荷モードで使用する限り、誘導電荷量や電離電流にほとんど影響を与えない。一方、例えば電界が弱い場合、電離によって生成された電子(または陰イオン)と陽イオンとが結合して中性の分子になると、その分だけ誘導電荷や電流が減少する。これを再結合損失という。この現象を軽減、回避するためには、電極に十分な電圧をかけ、電極間の電界の強さを充分大きくすることが必要である。 なお、α線の場合のように飛跡に沿って電離密度が部分的に高い場合や大強度の放射線を測定する場合にこの現象は顕著となる。電離箱は色々な用途に用いられるが、重要な用途の一つはX・γ線による周辺線量当量の測定である。この目的のためにはもっぱら同軸状の電極構造が採用されるが、この場合、電極間空間の気体(主に空気)を電離させるのは、X線・γ線との相互作用によって主に外側の電極 から放出させる二次電子である。したがって、この種の測定器のエネルギー特性は外側の電極の材料によって変わるが、1 cm 線量当量のサーベイにはその材料としてアルミニウムやグラファイトのような低原子番号の材料を用いると二次電子の主な成分はコンプトン電子となりエネルギー 特性の比較的平坦な特性が得られる。

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突然変異

突然変異

DNAの情報の変化の一つにDNAの酸化損傷による変異があげられる。ガンマ線による被ばく、太陽光による光励起された皮膚内色素、さらには体内の代謝過程で生成する活性酸素種など様々な要因でDNAは酸化される。これまでDNAを酸化する多くの系で、グアニンからチミンやシトシンへの突然変異が観察されてきた。このうちグアニン の酸化生成物である 8 – オキソグアニンはDNA複製においてアデニンを取り込むことが判明している。この性質がグアニンからチミンへの突然変異を引き起こすと提唱されている。紫外線により励起させた リボフラビンを用いて、DNA中において 8 – オキソグアニンとともにイミダゾロンが生成することが分かった。このイミダゾロンは生体内の条件で徐々に加水分解を受け、オキサゾロンが生成する。 オキサゾロンに対する塩基取り込みを解析したところ真核生物DNAポリメラーゼα、β、εはオキサゾロンに対してグアニンを優先的に取り込んだ。特にポリメラーゼαとεについては、DNA複製の中心的役割うぃ担う酵素であり、かつDNAポリメラーゼεの 構成機構をスルーしてグアニンを取り込み、オキサゾロンを乗り越えてさらに伸長されてしまうことはオキサゾロンがグアニンからシトシンを引き起こすDNA損傷であるといえる。

遺伝子突然変異

遺伝子本体は DNA であり、DNA 損傷などにより遺伝情報が変化することを遺伝子突然変異という。この場合、遺伝子だけが変化しており、染色体の構造に変化は見られない。 点としての遺伝子が変化するということから点突然変異とも呼ばれる。

染色体突然変異

染色体突然変異では、染色体の構造に変化が生じ、その変化に伴い染色体上の遺伝子に変化が生じる。染色体突然変異は遺伝子側に注目した呼び方であるが、染色体側に注目した呼び方は染色体異常である。 染色体異常の原因は染色体の切断であり、切断の大部分は修復されるが、切断されたままであったり、誤って再結合した場合に異常が現れる。染色体異常の型には欠失、逆位、環状染色体、転座、2動原体染色体 などがある。

① 欠失・・・同一腕内の 2 ヶ所に切断が起こり中央部が欠失した腕内欠失と 1 ヶ所で切断が起こり末端部が欠失した末端欠失がある。

② 逆位・・・2 ヶ所で切断が起こり、中央部が 180°回転して再結合したもの。

③ 環状染色体・・・両腕で切断が生じ、動原体を含む中央部の両端が再結合しリング状になったもので、リングとも呼ばれる。

④ 転座・・・2 個の染色体の間で部分的に交換が起こったもの。

⑤ 2動原体染色体・・・転座の交換の仕方によっては動原体を持った2動原体染色体が生じる。主に G1 期の被ばくによりなり、G2 期の時に染色分体異常が起きる。

環状染色体や 2動原体染色体は細胞分裂に際してうまく両極に分かれることがでず、異常は比較的早期に消失する。これを不安定型の異常という。一方、欠失、逆位、転座などは 細胞分裂によっても引き継がれ長期にわたって存在し、安定型の異常(発がんしやすい異常)といわれる。放射線の生物影響に基づき被ばく線量を推定する方法をバイオドシメトリ (生物学的線量算定)と呼ぶ。染色体異常の発生は確率的であり、低線量域では統計的なバラツキが大きい。染色体異常は染色体型と染色分体型に分けられる。 DNA 合成期より前(G1期での照射)に染色体が切断される(1対の染色分体の同じ位置に異常が認められる)と M 期で染色体型、DNA 合成期より後(G2期での照射)に染色体分体が切断されると M 期で染色分体型の異常となる。

ベルゴニー・トリボンドーの法則

ベルゴニーとトリボンドーは「放射線感受性は細胞分裂の頻度の高いものほど、将来行う細胞分裂の数が多いものほど、形態・機能が未分化なものほど高い」という 3 点からなる放射線感受性についてのベルゴニー・トリボンドーの法則をまとめた。 成人において細胞分裂の頻度が高いのは細胞再生系であり、造血臓器(骨髄)、小腸、皮膚、水晶体、精巣(睾丸)などがこれに属する。さらに、細胞再生系には芽球(骨髄)や精原細胞(精巣)といった未分化な細胞も存在し、放射線感受性は高い。また、小児 あるいは胎児は活発な成長・発達をしており、将来行う細胞分裂の数も多く、細胞再生系に限らず全体の放射線感受性が高い。

 

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イオン交換・陽イオン交換樹脂・陰イオン交換樹脂

イオン交換

水素イオンと結合した固体 R に塩化ナトリウムを加えた場合 R-H + NaCl → R-Na + HCl の反応で H+ イオンと Na+ イオン が交換されるような現象をイオン交換という。周族元素で比較すると水和イオン半径が小さい原子番号の大きいものほど 吸着強度が強い。例えば H+ < K+ のようなことである。また価数が大きいものほど吸着しやすい。

イオン交換樹脂

イオン交換できる酸性基または塩基性基を持つ不溶性の合成樹脂

陽イオン交換樹脂

陽イオンを吸着、自身の陽イオンを放出。(例) R-H + NaCl → R-Na + HCl

陰イオン交換樹脂

陰イオンを吸着、自身の陰イオンを放出。(例) R-OH + NaCl → R-Cl + NaOH

放射性気体の発生の例題

1 中性子照射した塩化ナトリウムを 3 mol/l 硫酸に加熱溶解した時の反応

NaCl の Na および Cl について核反応が起こる。Na については 23Na(n , γ)24Na が起こる。Cl については同位体存在度が 35Cl(75.77%),37Cl(24.23%)である。 中性子照射によって 35Cl(n,γ)36Cl が生成するが、36Cl の半減期が 3.01 × 10^5 年と非常に長いので通常は 36Cl は検出できない。一方 35Cl(n,α)32P で、32P(14.26日)が生成し、35Cl(n,p)35S で 35S(87.51日)が生成する。また 37Cl(n,γ)38Cl で 38Cl(37.24分)が生成する。よって32P,35S,38Cl が生成し、3 mol/l 硫酸で加熱溶解すると 38HCl が出る。

2 中性子照射した硫酸ウラニル 1 mol/l 硝酸に加熱溶解した時の反応

UO2(NO3)2 を中性子照射すると、核分裂を起こし核分裂生成物ができる。核分裂生成物の中には硝酸酸性で揮発性の 131I,106Ru,85Kr が存在する。

3 CH3(35S)NH2 の水溶液を塩酸酸性にして加熱した時の反応

CH3(35S)NH2(チオアセトアミドノ)水溶液に塩酸を加えて加熱すると加水分解して H2(35S) が発生する。

4 K(125I)O3 水溶液にヨウ化カリウムを加えた後過剰のチオ硫酸ナトリウムを加える。

K(125I)O3 + 5KI + 6HCl → 6KCl + 3H2O + 3I2 となるが、チオ硫酸ナトリウム Na2S2O3 を加えると、2Na2S2O3 + I2 → 2NaI + Na2S4O6 となり気体が発生しなくなる。

5 銅の単体に 35S で標識した濃硫酸を加えて加熱した時の反応

Cu + 2H2(35S)O4 → Cu(35S)O4 + (35S)O2↑ H2O となり、放射性気体が発生する。

6 金属ナトリウム+トリチウムでは、同位体交換によりトリチウムを含む水素ガスが発生する。

2Na + 2H2O → 2NaOH + H2↑

7 金属アルミニウム+トリチウム水のアルミニウムは表面に酸化アルムニウムの不動態を形成しているため、室温では水と反応しない。ただし、活性アルミニウムの微粒子と水は常温でも反応を起こす。マイクロ燃料 電池に利用されている。

2Al + 3H20 → Al2O3 + 3H2↑

8 金属アルミニウム+トリチウムを含む 2mol/l 塩酸を加えた時の反応

2Al + 6HCl → 2AlCl3 + 3H2↑

9 金属アルミニウム+トリチウムを含む 2mol/l 水酸化ナトリウム水を加えた時の反応

2Al + 2NaOH + 6H2O → 2Na[Al(OH)4] + 3H2↑

10 [32P]Cu(PO4)2に硫酸を加えた時の反応

[32P]Cu(PO4)2 + 2H2SO4 → Cu(H2[32P]O4)2 + 2CuSO4 となり過リン酸石灰を生成する方法となり、気体は発生しない。

11 Na[36Cl] + H2SO4(濃硝酸) → NaHSO4 + H[36Cl]↑ 希硫酸ではおきない。

45CaCl2 + 8NH3 → [45Ca]Cl2・8NH3 → [45Ca]Cl2・4NH3 + 4NH3 となりアンモニア水では沈殿しない。

 

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個人線量計

蛍光ガラス線量計

放射線を照射したガラス(銀イオンを含有した銀活性リン酸塩ガラス素子)に紫外線を当てると蛍光(オレンジ色)を発生するラジオフォトルミネッセンス現象を利用した線量計。測定範囲は0.03ms〜10Sv

熱ルミネッセッンス線量計

固体の熱ルミネセンス現象を利用した線量計。高感度で温湿度の環境変化にあまり影響されず、一回の測定で積算線量に係る情報が消失してしまう。加熱した時に蛍光として放出される。

OSL線量計

放射線との相互作用により、そのエネルギーを蓄積した物質に光照射を加えた時に現れる蛍光を光刺激ルミネセンスといい、通常の熱刺激では解放されない。

電離箱式線量計

一般に「ポケット線量計」として知られている。主にγ線、X線を測定する。あらかじめ電荷を充電した電離箱内に放射線が入射し、、その放射線によって電離する現象を利用したもの。

アルベド型線量計

高速中性子の被ばくの測定に用いられる。人の入射した高速中性子が体内の水素などによって減速され、体内から出てくる熱中性子を測定することにより求める。

バブル線量計

媒質中の小さな過熱液滴が放射線による熱衝動で突沸する音や泡を生じることを利用する。

固体飛跡検出器

プラスチックなどの絶縁性の固体中を陽子以上の重荷電粒子が通過すると、通路に沿って固体の原子配列に歪みが生じ、放射線損傷が生じる。この損傷を化学薬品によるエッチングによって拡大し、その大きさ、 入射方向、形状などを光学顕微鏡で直接観測できる検出器。また中性子の場合、検出子に荷電粒子を発生させる物質(ラジエータ)を密着させて使用する。検出子に入射した粒子の飛跡に生じた穴(エッチピット)の数から検出子に入射した中性子線量を知る。

アラニン線量計

アラニンを主成分としたパラフィン、フィルム等で作られた固形素子に放射線を照射した際にその吸収線量に比例して生じるラジカルの相対濃度を電子スピン共鳴(ESR)を用いて測定する。

DIS線量計

小型の電離箱に流れる電気量を半導体に蓄積した電荷の減少として高感度で読み取る線量計。

 

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放射線エネルギースペクトルの測定手法

前置増幅器について

前置増幅器からの出力信号は、増幅度可変の主増幅器に送られる。また、主増幅器には積分回路と微分回路とからなるパルス整形回路が組み込まれ、多くの場合、パルス幅の短縮、パルス波形の適正化、積分作用によるノイズ成分の軽減化がはかられる。ここでパルス幅、特にテールの部分が長いと後続パルスが重畳する確率が大きくなり、パイルアップ が生じやすくなる。一方パルス整形回路の時定数が短いと検出器からの電荷の収集が不完全となり、エネルギー分解能が悪くなる。特に大型の Ge 検出器を用いたシステムの場合電荷の収集時間が長くなり、そのため時定数は長めに設定せざるを得ないが、そうするとパイルアップの影響を受けやすくな理、高計数率測定に際して不利となる。また、 主増幅器には、パルスのアンダーシュートあるいはオーバーシュートを軽減、消滅するためのポールゼロ補償回路や直流分の変動を補償するためのベースラインレストアラなどが組み込まれている場合が多い。

前置増幅器(プリアンプ)の時定数は一般に長いため(数十μs)、毎秒数千カウント以上の場合の出力波形は図1の実線のようになる。パルスが重なったっ部分では、パルスの高さは直前のパルスの裾の高さに依存するため、適切な波高分析ができない。そこで主増幅器では微分回路と積分回路を組み合わせることにより、図2のようにされぞれのパルス波高情報を保ったまま、波高分析に的するように波形整形したパルスを出力する。前置増幅器のパルスの立ち上がり時間は 検出器では長くなる傾向がある。波形整形の積分時間は、この立ち上がり時間に比べて十分長く設定しないと電荷の収集が不完全になる。また積分することにより早い周期のノイズ成分は平均化されて影響は小さくなり、分解能が向上する。したがって一般に積分時間を長くするとエネルギー分解能は向上する。一方長い積分時間では、波形整形したパルス幅が広がるため主増幅器の出力パルスの時間幅内に次のパルスが来るような高い放射線場ではパルスが重なり パイルアップが発生し、適切な波高分析ができなくなる。したがって測定する対象に応じて回路の時定数を適切に選択する必要がある。

前置増幅器の時定数に対して、主増幅器回路が適切でない場合、出力パルスの裾が伸び、プラスやマイナスに振れることがある。この裾に次のパルスが乗ると正しい波高分析ができなくなる。図3のアンダーシュートの場合、全吸収ピークは最高値に対して左右対称にならず、低い方に裾を引くようになる。これを防ぐため回路を適切に調整してポールゼロ補償をする必要がある。交流結合回路では直流成分は流れないため、 プラスのパルスが出力されると等しい面積でベースラインはマイナスにシフトする。パルスがランダムにやってくる放射線測定では、シフトの大きさは一定ではないため正しい波高分析ができなくなる。そのためベースラインシフトを防ぐ回路ベースラインレストアラ、ベースライン再生が必要になる。

波高分析器

この主増幅器の出力をマルチチャネル波高分析器により波高分析する。これは ADC(アナログーデジタル変換器)によりパルスの波高値を最大 1 K から 16 K チャネルのデジタル量に変換したのち分類、蓄積するもので、測定時間内に到来したパルスの波高値のヒストグラムが得られる。ADC の方式によっては処理に時間がかかり、しかも、それはパルス波高に依存するのでデッドタイムによる計数損失を補正するのに面倒である。 この難点を改善するため装置が生きている時間だけクロックタイムを動作させ、装置力が生きている時間だけ測って、これを計測時間とし、デッドタイムによる計数損失を実質的に補償できるようにもなっている。これをライブタイム方式という。なお最近は前置増幅器からの出力波形の全部分を超高速ADCを用いて直ちにデジタル量に変換したのち、デジタル 信号プロセッサにより自動的に最適条件を乱しつつ全ての信号処理を行う方式も用いられるようになってきた。以上述べた波高分布スペクトルは検出器の有効体積中で吸収された放射線のエネルギースペクトルであって、必ずしも放射線のエネルギースペクトルそのものを示すものではない。

放射線エネルギースペクトルの測定手法

放射線エネルギースペクトルの測定手法として、半導体検出器やシンチレーション検出器などからパルス信号の波高分布を測定する手法が一般的である。半導体検出器においては、電離作用に基づいて生じた電子と正孔が電場中でドリフトする際に電極に誘起される微小な電荷をパルス信号として取り出す。一般に半導体検出器自体は電子増倍をしないので出力信号は微弱であり、これを利用するためにはエレクトロニクス技術の活用が 不可欠である。半導体検出器からの微弱な電荷信号は、通常電荷有感型の前置増幅器により電圧パルスに変換される。電荷有感型とは、高いゲインを持つ増幅器のフィードバック回路に静電容量の小さなキャパシタを接続したもので、入力端からの電荷はフィードバック回路に接続されたキャパシタに全部送りこまれ、 このキャパシタ両端の電圧が出力として現れる。半導体検出器自体の静電容量は数十pFから数百pFにも達するのに対して、この方式ではフィードバック回路に接続された 1 pF から数pFのキャパシタに検出器からの電荷が送り込まれることとなり、感度が著しく改善される。このようにして得られた電圧パルスを出力ケーブルの特性インピーダンスにみあった低インピーダンス状態で信号として 取り出す。半導体検出器の空乏層の厚さは印加電圧によって変わるので、それに伴って検出器自体の静電容量も印加電圧に依存するが、電荷有感型の前置増幅器を用いると、パルス信号は検出器自体の静電容量や入力部の浮遊容量の影響をほとんど受けない。検出器からの微弱な電気信号を主増幅器に送るため、検出器にほぼ密着して信号を変換する前置増幅器が使われる。主増幅器と接続する ケーブルのインピーダンスは通常 50 Ω から 100 Ω であり、前置増幅器の出力インピーダンスは十分低くなければならない。前置増幅器には電圧型と電荷型の2種類あり、半導体検出器には電荷有感型が使われる。

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標的説と生存率曲線

標的説と生存率曲線

哺乳動物細胞に放射線照射した場合の線量反応曲線を図8に示す。横軸に線量(線形目盛)、縦軸に生存率(対数目盛)をとるのが普通で、細胞の生存曲線と呼ばれる。図8に示すように、高 LET 放射線では直線となるが、 低 LET 放射線では低線量部において肩が見られ線量が大きくなると直線を示す。

この生存曲線の形を説明するために標的説というモデルが提唱されている。標的説とは、細胞は1つまたは複数の標的を持ち、個々の細胞が持つ標的が全て放射線でヒットされる細胞死を起こすというものである。

1標的1ヒットモデル

標的数が 1 でその標的が 1 ヒット受けると細胞死を起こすとするもの。図8のような生存率曲線では直線を示す。

他標的 1 ヒットモデル

標的数が複数で、それぞれの標的は 1 ヒットで不活化し全ての標的がヒットを受けはじめて細胞死が起こるものとする。低 LET 放射線では生存率曲線に肩は見られるが、高 LET 放射線では電離密度が高いことから 1 本の放射線で細胞内の全ての標的がヒットされるため、生存率曲線は直線となる。

生存率曲線の直線部において生存率を 37 % に減少させるのに必要な線量を平均致死線量といい、記号では D0 と表す。D0 は標的に平均 1 個のヒットが生じる線量と言うこともでき、哺乳動物細胞では 1 ~ 2 Gy程度である。 異なる細胞間の比較では、D0 が小さい方が細胞の放射線感受性が高く、同じ細胞に異なった種類の放射線を照射した場合では、小さな D0 を与える放射線の方が致死効果が高い。 肩を持つ生存率曲線の直線部分を延長した縦軸との交点を外挿値(n)といい、標的数を表す指標として用いる。さらに、直線部分の延長が生存率 1.0 の線と交わる線量を見かけのしきい線量(Dq)といい、肩の大きさを表すことから 放射線感受性の指標として用いられる。

SLD回復

Elkindらは培養細胞の分割照射実験を行い、細胞は亜致死損傷(sub-lethal damage : SLD)から回復できることを示した。図9の曲線Aは培養細胞に 1 回照射した場合の生存率曲線であり、曲線Bは 1 回目に 5 Gy 照射を 行い 10 数時間後に2回目の照射を行った場合の生存率曲線である。1回目の照射後に損傷の回復が全くなければ、分割照射した後の生存率曲線は曲線 A に重なるはずである。しかし、曲線Aと曲線Bは同じ大きさの肩を持つ 同一の形の曲線を示している。このことは、1 回目の照射で細胞死に至らなかった細胞の損傷は 10 数時間の間に全て回復することを示している。このような回復を SLD 回復あるいはElkind回復という。低 LET 放射線では SLD 回復が見られるため、同一線量が照射される場合、高線量率で短時間に照射(急照射)するよりも、低線量率で長時間にわたり照射(緩照射)した方が影響は小さい。これを線量率効果という。また、高 LET 放射線では SLD 回復はないか小さく、線量率効果もないか小さい。

PLD回復

本来であれば死に至る細胞が、照射後に置かれる条件により損傷を回復する場合がある。本来死に至るはずであったことから、潜在的致死損傷(potentially lethal damage : PLD)からの回復と呼ばれる。例えば、 培養細胞は増殖して密度が高くなると分裂が止まるが、この状態の細胞に照射し、その後もそのままの状態にしておいた場合の方がすぐにシャーレにまき直して増殖させた場合に比べて生存率 が高くなる。シャーレで増殖している状態のものに照射した場合は、照射後に置かれる条件によらず PDL 回復は見られない。PDL 回復は照射後 1 時間以内に終わるものと照射後 2 ~ 6 時間かけて行われるものの 2 種類がある。 したがって、照射後 6 時間以上経過してから細胞を置く条件を変えても PLD 回復は見られない。また、高 LET 放射線では PLD 回復はないか小さい。

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