熱中性子照射による(n,γ)反応

熱中性子照射による(n,γ)反応

① アルミニウム箔中に熱中性子を照射した場合の反応 → 27Al(n,γ)28Al となり、半減期 2.24 分の 28Al が生成される。

② 石英中(SiO2)に熱中性子を照射した場合の反応 → 主成分 SiO2 の Si のうち 3.1% が存在する 30Si から 31Si が生成する。よって反応は 30Si(n,γ)31Si となる。31Siの半減期は 2.62 時間

③ 鉄板中に熱中性子を照射した場合の反応 → 含量 5.8% の 54Fe から 55Fe が生成する。反応は 54Fe(n,γ)55Fe となり 55Fe の半減期は 2.73 年。また含量 0.3% の 58Fe から 59Fe が生成する。反応は 58Fe(n,γ)59Fe となり、59Fe の半減期は 45 日

④ 銅板中に熱中性子を照射した場合の反応 → Cu は 63Cu(69.2%) と 65Cu(30.8%) からなり、63Cu(n,γ)64C という反応と、65Cu(n,γ)66Cu という反応になる。64Cu の半減期は 12.7 時間。66Cu の半減期は 5.12 分である。

質量分析法

質量分析法には様々な方法がある。

1 加速器質量分析法(AMS)とは、同重体などの除去した特定の原子のみを直接計測する手法であり、長半減期の測定に用いられる。

2 中性子放射化分析(機器中性子放射化分析、INAA)とは、放射化した試料を非破壊のまま測定する方法で分解能の高い半導体検出器と波高分析器を組み合わせることでγ線を測定し多元素同時分析が可能となる。また、中性子放射化分析法では、核反応によって生成した核種から発生するγ線をGe半導体検出器で多元素同時測定するのが一般的である。

3 荷電粒子放射化分析法とは高エネルギーイオンを照射して生成する放射性核種から放出される放射線を計測して目的元素を定量する。3He を入射とする荷電粒子放射化分析法は、半導体中の微量酸素の定量分析に有効である。16O(3He,p)18F の核反応で生成した 18F の放射線を測定することにより半導体中の微量酸素を定量する。

4 PIXE法(荷電粒子励起X線)とは試料にイオンビームを照射して、その際に発生する特性X線を検出して、そのエネルギーと強度から元素を同定・定量する方法である。

5 ラザフォード散乱分析とは、固体試料に水素やヘリウムのビームを照射し、後方に散乱されてくるイオンのエネルギー及び強度を測定して定量する。

6 陽電子消滅法とは材料中に陽電子ビームを打ち込み、電子と衝突して消滅するまでの時間を測定する。大きい空孔ほど消滅するまでの時間が長くなることからそのサイズがわかる。

7 フィッショントラック法(核分裂飛跳法)は、年代測定の1つである 238U の自発核分裂で生じた飛跡を試薬により溶解・拡大させて観察し、飛跡の密度から岩石の年代を測定する。

8 即発γ線分析法とは熱外中性子ビームを試料に照射し、共鳴吸収後に照射される即発γ線を測定することにより非破壊多元素(同位体)分析をする方法。

9 熱中性子を試料に照射し、中性子の透過率を測定することにより、試料中の水分の分布が観測される。

10 中性子回折法とは物質内部の結晶配列や磁気構造の情報を得られる。軽元素と重元素が混合して含まれる物質の軽元素の位置や存在比を決定できる。

11 放射化学的中性子放射化分析(RNAA)とは、放射化した試料を放射科学的に分離・精製したのち測定する方法で、極低濃度の元素の分析や測定ピークに妨害となる核種が含まれている場合、検出感度及び分析値の確率が高い。

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235U の熱中性子による核分裂収率について

気体検出器と半導体検出器の電子ー正孔対1個作るのに必要なエネルギーの違い

気体・・・He:43 eV 空気:34 eV Ar:26eV

半導体・・・Ge:3 eV Si:3.6 eV 気体のおよそ1/10のエネルギーで生成する。

(n , γ)反応について

(n , γ)反応の断面積は共鳴のない領域で1/v(vは中性子速度)、すなわち1/√E に比例する。他にも反応もある

(n , α):α線放出

(n , p):陽子放出

(n , n’):非弾性散乱

(n , f):核分裂反応

(n , γ):中性子捕獲反応

(γ , n):光核反応・・・2 MeV 以上の光子を吸収して光分解をし中性子を放出。128Sb,Be中性子源として原子炉で使われる。

問題 235U 1g のエネルギー

235U は熱中性子により核分裂すると2 ~ 3個の中性子と2つの質量の異なる核分裂を生成するとともに約200 MeV のエネルギーを発生する。1 g の235Uがすべて核分裂をすると8.0 × 10^10 のエネルギーを発生する。

1gの235U は1/235 mol = (6.0 × 10^23)/235 ≒ 2.55 × 10^21個 200 × 10^6 × 2.55 × 10^21 × 1.6 × 10^(-19) = 8.2 × 10^10[J] となる。

235U の熱中性子による核分裂収率について

235U の熱中性子による核分裂では、亜鉛の RI の 72Zn からテルビウムの RI の 161Tb まで、原子番号でいえば 30 から 65 まで色々な元素の RI を含む。これらを核分裂生成物と呼び、質量数 95、138 付近に核分裂収率の極大(核分裂収率は約 6%)があり、極小は質量数 118(核分裂収率は 0.009%)くらいである。したがって、極大付近の質量数を持つ核種の収率が高いと考える。

核分裂収率[235U(n , f)]

77As:0.00796 % 99Mo:6.11 % 111Ag:0.0174 % 131I:2.89 % 136Eu:0.0149 %

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熱中性子の測定

熱中性子の測定

熱中性子の(n,α)反応に対応した検出器にはBF3計数管と6Li(Eu)シンチレーション検出器がある。また(n,p)反応に対して計数ガスとして 3He を充填した 3He比例計数管がある。これらの検出器はポリエチレンなどの水素密度の高い減速材と組み合わせることにより速中性子 に対しても感度のある検出器を作ることができる。熱中性子による核分裂反応を用いた検出器には核分裂電離箱などがあり、約 160 MeV の極めて大きなエネルギーが付与された核分裂片を測定している。(n,γ)反応による熱中性子の測定には Au の放射化を利用する方法がある。この反応で生成される核種 198Au はβ壊変するため、その放射能を測定することにより熱中性子の絶対値を決定する ことができる。中性子の検出に BF3比例計数管がしばしば用いられる。これはフッ化ホウ素ガスを比例計数管の計数ガスとして封入したもので 10B(n,α)反応を利用している。この反応の Q 値は正であるので、検出する中性子のエネルギーのしきい値はない。その断面積は非常に大きく中性子のエネルギーを E とすると、断面積は E^(-1/2) に比例するので特に 熱中性子の検出に適している。この 10B(n,α)反応に際して、E と 2.78 MeV を加えたエネルギーが放出されるが、7Li 原子核の中間励起状態を経由して 7Li の基底状態に到達する確率が 93% 程度であり、この際 0.487 MeV のγ線も放出される。熱中性子の検出に際して励起状態を経由する場合、粒子の持つ運動エネルギーは 2.3 MeV となり、これが運動量保存則に従ってα粒子と 7Li核とに分配される。 E が極めて小さい場合α粒子の受け取るエネルギーは 1.46 MeV であり、7Li核の受け取るエネルギーは 0.84 MeV となる。10B(n,α)7Li反応の断面積は非常に大きく、特に熱中性子に対して感度の高い測定ができる。断面積は中性子の速度を v とすると 1/v に比例する。

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確率的影響としての遺伝的影響

発がん

発がんの最低潜伏期間は白血病で 2 年、その他の固形がんで 10 年とされており、晩発影響に区分される。

確率的影響としての遺伝的影響

遺伝的影響は、生殖細胞が放射線被ばくすることにより遺伝子突然変異や染色体異常が引き起こされ、それが子孫に引き継がれて発生する。原爆被ばく者の疫学調査などのヒトに関するデータからは 遺伝的影響の優位な増加は認められていない。しかし、動物実験などから放射線被ばくにより遺伝的影響が生じることが確かめられているので、発がんとともに確率的影響に区分し放射線防護の対象としている。

遺伝的影響の発生確率の推定(直接法)

突然変異率から遺伝的影響の発生率を直接推定する方法で、突然変異率を動物実験により求め、線量率効果、動物種差、1形質から全優性遺伝への換算、表現型の重篤度などの要因により補正・外挿し、遺伝的影響の発生率を算定する。

遺伝的影響の発生確率の推定(間接法)

自然発生の突然変異率を 2 倍にするのに必要な線量を倍加線量というが、ヒトの遺伝的疾患の自然発生率と動物実験による倍加線量を比較して推定する方法をいう。倍加線量として 1 Gy の値が示されている。(ヒトの場合0.2 ~ 2.5 Gy と幅がある。)

倍加線量

① 倍加線量は自然発生と同じだけの影響を起こすのに必要な線量であり、倍加線量が大きいということは、一定の影響を起こすために大きな線量が必要であるということを示すので、感受性が低いことを意味する。したがって、倍加線量が大きいほど遺伝的影響は起こりにくいということを意味する。
② 倍加線量の逆数は単位線量あたりの相対突然変異リスクを表す。
③ 誘発突然変異率 = 自然突然変異率 × (被ばく線量/倍加線量)。線量率を下げれば突然変異率は減少する。また点突然変異は1箇所の変化に基づくため線量に比例する。

放射線被ばくによる急性障害と晩発影響についての記述

高線量放射線を一度に全身被ばくしたような場合、数週間以内に現れる障害を急性障害という。占領によって症状は異なるが、典型的な経過は以下の 4 つの病期に分けられる。被ばく直後から数時間以内に悪心、嘔吐、発熱など非特異的な症状が現れる前駆期、これらの症状が一時的に消失する潜伏期、骨髄や消化管障害、脱水など多彩な症状が現れる発症期、その後回復期あるいは死亡の 4 期である。障害の現れ方やその時期は、線量及び臓器・組織によって異なる。例えば、ヒトが高線量のγ線を全身被ばくしても医療処置がなされないと、3 ~ 10 Gy では 3 ~ 4 週間程度で骨髄の障害により、10 ~ 20 Gy では、1 ~ 2 週間程度で腸管の障害により死亡する危険性が高い。

 

解説

Ⅰ は急性放射線症についての出題である。前駆期は被ばく後 48 時間以内を指し、悪心、嘔吐、下痢、発熱、頭痛、意識障害等の症状が現れる。唾液腺の腫脹、圧痛および口腔粘膜の毛細血管拡張などが診察時の留意点と言われている。

 

臓器や組織の急性障害は、主に臓器・組織の実質細胞の死によって起こると考えられる。臓器や組織によって実質細胞の放射線感受性が違うために、障害を認めるようになるしきい線量も臓器や組織によって異なる。一般に、現れる障害の重篤度は、被ばくした線量が大きいと高い。1 回のγ線による被ばくでは、抹消血中のリンパ球数の減少は 0.5 Gy 以上の被ばくによって起こる。女性の永久不妊は 6 Gy 以上の生殖腺被ばくによって起こり、男性の永久不妊は 6 Gy 以上の生殖腺被ばくによって起こる。又、男性の一時的不妊のしきい線量は 0.15 Gy で、女性の一時的不妊が起こる線量は男性に比べて高い。

 

晩発影響としては、発がん、白内障、遺伝的影響などが挙げられる。発がんと遺伝的影響は、確率的影響と考えられている。一般に、被ばくしてから発がんまでの期間は固形がんでは白血病に比べて長い。白内障は確定的影響に分類され、水晶体の混濁による。遺伝的影響は放射線に被ばくした生殖細胞に遺伝子の突然変異や染色体異常が起こることによる。遺伝的影響のリスクの推定には倍加線量法と、線量効果関係を動物実験によって求め、 これをヒトに適用して行う直接法とがある。遺伝的影響のリスクは、倍加線量が大きいほど低く、一般的に線量率が低いほど低い。UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会) 2001 年報告では倍加線量を 1 Gy と見積もっている。

 

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フリッケ線量計・セリウム線量計

フリッケ線量計

第1鉄イオン(Fe2+) → 酸化 → 第2鉄イオン(Fe3+) と変化させて測定する線量計で、測定範囲エネルギーは 50 ~ 400 Gy 。また硫酸鉄(Ⅲ)水溶液に空気または酸素と飽和して用いる。酸素飽和していると高線量の測定が可能。

セリウム線量計

第2セリウム(Ce4+) → 還元 → 第1セリウム(Ce3+) と変化させて測定する線量計で、測定範囲エネルギーは 10^4 ~ 5×10^4 Gy

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ブラッグ・グレーマンの法則・チェレンコフ効果

核反応による複合体エネルギーの求め方

質量数a、運動エネルギーEの入射光子と、質量数Aの静止した標的核が核反応で一体となったことで複合体が形成される。そのエネルギーをE’とすると、
E’ = (a × E)/(a + E)
ここで核反応が起こるために必要な入射光子のエネルギーのしきいエネルギーをEthとすると、
-Q = [A/(a + A)]Eth

ブラッグ・グレーマンの法則

重荷電粒子の飛程は物質の密度に反比例し、質量数の平方根に比例するというもの。物質M(原子量A、密度ρ)中の飛程Rと、物質M0(原子量A0、密度ρ0)中の飛程との比は次のように表される。
R/R0 = (√A/A0)/(ρ/ρ0) = (√A/A0) × (ρ0/ρ)

β-γ同時計数法による放射能Aを求める式

β線測定器の計数率Nb(s^(-1))、γ線測定器の計数率Ng(s^(-1))、同時計数率Nc(s^(-1))とすると、A(Bq) = (Nb・Ng)/Nc となる。

W値

イオン対または正孔対を1個生成するのに必要なエネルギーのことで、すべての荷電粒子に対して用いることができる。
He:43 eV 空気:34 eV Ar:26eV C:18 eV Xe:22 eV Si:3.6 eV

チェレンコフ効果

ある誘導体内に荷電粒子が入射した時、その物質中の光速度 C より粒子速度 v が大きい時に可視光線が発生する。高速電子が誘導体中OP(開いた光弦)に進行すると入射粒子の電界により誘導体は分極する。 分極が元に戻る時、そのエネルギーを光(電磁波)として放出する。
水中でチェレンコフ光が発生するためには、二次電子の速度が C/1.33 以上(C:真空中の光速 1.33:水の屈折率)運動エネルギーにして 0.26 MeV 以上であることが必要。コンプトンの場合最大0.8 MeV のエネルギーであるため 発生する。β線エネルギーであれば0.26 MeV であれば発生する。
511keV × [(1/(√1-(v/c)^2))-1] = 511kev × [(1/(√1-(1/n)^2))-1] = 511kev × [1-(1/(√1-(1/1.33)^2))-1] = 264kev

平均自由行程

最初に相互作用を起こすまでに通過する平均距離をいう。平均自由行程L = 1/μ

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γ線の測定

γ線の測定

検出器に入射したエネルギー Eγ[MeV] のγ線がコンプトン散乱を起こし、検出部外へ逃れると、検出器の出力から得られたエネルギースペクトルにおいて、コンプトン電子のエネルギー分布に対応する連続スペクトル部分が形成される。入射γ線と外部へ逃れた光子が成す角度を θ とすると外部へ逃れた光子のエネルギー Eγ[MeV]は(α・Eγ)/[α+(1-cosθ)Eγ] の式で与えられ、α の値は 0.511[MeV]となる。このためコンプトン電子のエネルギーは θ が 180 度の時最大となり、このエネルギーに対応したコンプトン端がスペクトル中に現れる。また、光子が外部に逃れず検出器内で最終的に光電効果を起こすと、全吸収 ピークとなる。一方 2 × 0.511[MeV] を越えるエネルギーのγ線が入射すると電子対生成に起因する消滅放射線が放出され、これが検出部外へ逃れると全吸収ピークの割合が減少する。

γ線エネルギーを求める問題

NaI(Tl)γ線スペクトロメータにより、エネルギー未知のγ線の波高分布スペクトルを測定したところ、全吸収ピークが 600 チャネル、コンプトンエッジが 400 チャネルに観測された。この場合のγ線エネルギーを求めよ。ただし零点調整済みとする。

解答

零点調整済みとは多重波高分析器で観測される全吸収ピークのチャネル番号が光子のエネルギーと正しく比例関係にあるということを意味する。コンプトン散乱における散乱電子のエネルギーを Ee[MeV]、入射光子のエネルギーをEp[MeV]とすると

Ee = Ep/[1+(0.511)/(Ep(1-cosθ))]

となり、コンプトンエッジはエネルギーが最大の散乱電子。すなわち θ=180°であるので、

Ee = Ep/[1+(0.511/2Ep)]

よって Ee/Ep = 1/[1+(0.511/2Ep)]

ここで Ee/Ep = 400/600 = 2/3 より 2/3 = 1/[1+(0.511/2Ep)] EP = 0.511 となる。

γ線エネルギースペクトル測定

放射能を測定する場合、測定されたγ線エネルギースペクトル中の全吸収ピークに着目する方法が一般的である。2本のγ線[γ1,γ2]がピコ秒程度の遷移時間でカスケードに放出される 60Co のような核種の測定では2つの出力信号が同時事象として検出される。このためそれぞれの全吸収ピークの割合は減少し、両者の波高値の合計に対応する サムピークと呼ばれるピークを作る。このピークの計数効率は γ1 , γ2 とエネルギーが等しい単独のγ線に対する全吸収ピーク効率を ε1 , ε2 で表すと、ε1・ε2 で与えられる。また γ1 , γ2 とエネルギーが等しい単独のγ線に対する全計数効率をそれぞれ ε1t , ε2t とすると、γ1 の全吸収ピーク効率は ε1・(1-ε2t) となる。この効果を小さくするためには線源ー検出器間の 距離を増加させるなどの工夫が必要となる。

γ線のエネルギースペクトルを測定する場合、検出器の材質として原子番号が大きいことが望ましい。これは原子番号が大きいと光電効果、電子対生成効果の作用が高くなり全吸収ピークを形成する確率が高くなるからである。そのため、γ線のエネルギースペクトルの測定にはNaI(Tl)シンチレーション検出器 は大型のものが得やすく、価格も比較的安価であるが、そのエネルギー分解能はGe半導体検出器と比較して大幅に劣る。そのほかCsI(Tl)シンチレーション検出器が用いられることがあるが、この場合、潮解性の影響が少ない利点がある。Si表面障壁型半導体検出器は有感体積を大きくしにくく原子番号が小さいので、γ線エネルギースペクトルに 用いることはほとんどない。

γ線スペクトロメトリー②

γ線スペクトロメトリにおいては、スペクトロメータのγ線検出部の物質とγ線がどのように相互作用するかによって色々なパルス波高スペクトルが得られる。γ線が検出部に入射すると、電子、陽電子、コンプトン散乱γ線、あるいは陽電子消滅に伴う光子などが放出される。γ線の全エネルギーが検出部に付与されると、パルス波高スペクトル上に全吸収ピークとして計数される。生成された高エネルギーの荷電粒子や、その 制動放射で生じた光子が検出部外に逃れた場合にはコンプトン効果の場合に限らず全吸収ピークから低いエネルギー側にずれて計数されることがある。光電効果が起きると原子の電子軌道に空席が生じるが、この空席が電子で埋められる際にオージエ電子又は特性X線が放出される。これらのうち、 前者は直接電離により検出部にエネルギーを付与する。一方後者は前者に比べて検出部の外に逃れやすいため、スペクトル上にエスケープピークが生じる場合がある。この現象は検出器の物質に原子番号が高く、検出部の厚みが薄い場合に生じやすい。コンプトン効果ではパルス波高スペクトルは連続分布となる。しかし、コンプトン散乱γ線が検出部内で再度コンプトン効果 を起こした後、光電効果により検出部にエネルギーを与えると全吸収ピークが形成される。電子対生成では、この相互作用が起きるために必要なしきいエネルギーを差し引いた後、残りのエネルギーを電子と陽電子が分け合う。この際陽電子消滅が要因となり、放出される光子の検出過程により2つのエスケープピークが生じる。以上の要因の他、核種の壊変において複数の γ線が短時間に引き続いて放出される場合には、それらのγ線の相互に組み合わせに対応したサムピークが形成されることがある。

放射性核種 46Sc の点線源(壊変率:n0)をGe検出器の近傍に置き、γ線のパルス波高スペクトルを測定した。この 46Sc は次のように壊変する。0.889 MeV のエネルギー準位の半減期は 4ps であり、十分短く放出される2つのγ線(γ1線とγ2線)の放出は同時事象とみなすことができる。このためγ1線とγ2線について

γ1線のピーク効率を ε1

γ2線のピーク効率を ε2

γ1線の全計数効率を εT1

γ2線の全計数効率を εT2

また、γ1線の正味のピーク計数率を n1

γ2線の正味のピーク計数率を n2

サムピークの全計数効率を n12 で表すと、

n1 = n0(1-εT2)ε1

n2 = n0(1-εT1)ε2

n12 = n0ε1ε2

さらにγ1線とγ2線を合わせた全スペクトルの正味の計数率(nT)は、nT = n0(εT1 + εT2 – εT1εT2)で与えられるので、この線源の壊変率(n0)は n0 = nT + (n1n2)/n12 で求めることができる。この方法はγ線のパルス波高スペクトルに着目した比較的簡便な放射能測定でありサムピーク法と呼ばれる。

γ線やX線を使用する作業場での外部被ばく線量モニタリングについての記述

作業場の線量モニタリングに使用される放射線測定器は、固定して使用するエリアモニタと持ち運びが容易なサーベイメータの2種類に大別される。これらの検出器としては、主に、空気電離箱、GM計数管及びNaI(Tl)シンチレーション検出器の3種類が用いられる。 この3種類のうち、空気電離箱では、検出したγ線やX線の数ではなく、γ線やX線で生じる電離電荷を測定して線量を得る。一方、GM計数管では、放電現象に基づいて出力パルスが得られるため電子回路が簡単である反面、不感時間が大きく、 高線量率の場では窒息現象に注意する必要がある。また、NaI(Tl)シンチレーション検出器では、蛍光を光電子増倍管により電気信号に換えて線量を測定するが、プラスチックシンチレーション検出器に比べて、シンチレータの密度や 実行原子番号が大きいため検出効率が高い。しかし、測定範囲の低エネルギー領域ではγ線やX線の相互作用として光電効果の寄与の割合が大きく、空気電離箱に比べてエネルギー依存性が大きくなる。

 

外部被ばく線量の個人モニタリングにおいては、人体に装着して一定時間の被ばく線量を評価するため、一般的に小型で積分型の線量計が用いられる。これらの線量計には測定原理の違いにより、以下のように様々な特性がある。蛍光ガラス線量計は、γ線やX線で生じた 蛍光中心に紫外線レーザーをパルス照射することにより、被ばく線量の情報を繰り返し読み取ることができる。この線量計は、熱アニーリングにより情報を消去して、再使用が可能である。 OSL 線量計では、酸化アルミニウムを素子の主材料とし、 可視光を照射して生じる輝尽発光を読み取ることにより線量を測定する。これらの線量計は、従来用いられてきた臭化銀の感光作用を利用したフィルムバッチに比べ、退行現象が極めて起こりにくい。 TLD は、硫酸カルシウム、フッ化リチウム などを素子の主材料とし、素子を加熱することで生じる蛍光を読み取ることにより、線量を測定する線量計である。一方、電子式ポケット線量計は、小型のGM計数管やSi半導体検出器を検出部に用い、上記の線量計と異なり直読式の線量計として便利であるが、定期的に電池を充電・交換することなどが必要となる。

 

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個体レベルの確定的影響・急性障害・晩発障害

個体レベルの確定的影響

全身あるいは身体のかなり広い範囲が、大量の放射線を短時間に被ばくした場合に生じる一連の症状を急性放射線症という。急性放射線症は被ばくした線量レベルによって、主たる症状を呈する臓器・組織と潜伏期 が異なることが特徴である。被ばくした固体の半数が一定期間内に死亡する線量を半致死線量といい、LD50(30)と表す。( )内は被ばくしてからの観察期間である。LD50(30)は、動物種間での放射線感受性の比較によく用いられるが、 ヒトの場合は骨髄死を起こす期間が動物より若干長いことから監察機関を 60 日として LD50(30) を用いることが多い。さらに、被ばくした固体全体が死亡する線量を全致死線量といい、監察機関に応じ LD100(80) あるいは LD100(30) と表す。

骨髄死

骨髄機能低下は 0.5 Gy 程度で起こる。また、1 Gy の被ばくを受けると 10% 程度の人に悪心、嘔吐などが現れる。同時に食欲不振、全身倦怠感、めまいなどの症状が現れることから、放射線宿酔と呼ばれる。 1.5 Gy が死亡のしきい線量であり、 造血臓器の症状で死亡するため、骨髄死あるいは造血死と呼ばれる。3 ~ 5 Gy では被ばくした半数が死亡し、これを俗に半致死線量という。7 ~ 10 Gy では被ばくした人のほぼ全数が死亡する。これを全致死線量という。ヒトではこの値だが、マウスの半致死線量はヒトよりも高く 5.6 ~ 7.0 Gy とされている。

腸死

5~ 15 Gy の被ばく線量域では、小腸の症状が主となる。小腸クリプト細胞の細胞死により吸収上皮細胞の供給が絶たれ、その結果として粘膜剥離が起こり、脱水症状。電解質平衡の失調、腸内細菌への感染が生じ死亡に至る。 消化管、特に小腸の障害が原因で死亡するため、腸死と呼ばれる。平均生存期間は 10 ~ 20 日間である。これは、吸収上皮細胞の寿命が尽きるまでの期間に対応しており、 5~ 15 Gy の線量域内では線量によらず一定となる。

中枢神経死

15 Gy を超えて高い線量を被ばくすると、神経系の損傷が主な症状となる。この場合でも神経細胞の放射線感受性は極めて低いため、神経細胞自体の細胞死は起こらず、血管系および細胞膜の損傷が主要な役割を果たす。 50 Gy 以上の被ばくでは全身けいれんの症状が特徴的で、ショックなどにより 1 ~ 5 日後に死亡する。中枢神経の障害が原因で死亡するため、中枢神経死と呼ばれる。

放射線感受性臓器

十二指腸 ー 小腸 ー 大腸 ー 肝 ー 胃 ー 食道・口腔

 

急性障害・晩発障害

X線やγ線による高線量急性被ばくでは、全身被ばくする場合と局所被ばくする場合で様相が異なる。全身被ばくでは致死が問題となり、局所被ばくでは高線量を被ばくしても致死とはならず、被ばくした組織や臓器の障害が問題となることが多い。組織や臓器の放射線障害では、被ばくした直後から数週間以内に起こる障害を急性障害と呼び、 数ヶ月から数年後以降に起こる障害を晩期障害と呼ぶ。臓器にはそれぞれ特徴的な晩期障害が存在する。脳では脳壊死、脊髄神経では脊髄神経麻痺、腸管では穿孔・狭窄が晩期障害として重要である。これらの晩期障害は 主に血管の閉塞が原因であると考えられる。ただし、全ての晩期障害が血管の閉塞ではなく、肺の晩期障害として重要である放射線肺線維症では肺胞細胞の障害などが原因として考えられている。消化管に関しては、 放射線障害による小腸上皮の喪失を原因とする体液漏出や感染が原因となる。中枢神経障害による死亡は被ばく線量が 50 ~ 100 Gy を越える場合に起こり、脳浮腫による頭蓋内圧亢進が主な原因の1つと考えられている。LD 50/60 程度以上の線量を 全身被ばくした場合には肺では 30 日以内に放射線肺炎が生じる。特に肺でウイルス感染が高頻度に生じる点に注意が必要である。

補足

① 血管の閉塞では主に放射線脊髄炎(脊髄神経麻痺)、消化管穿孔、心筋症が起こる。② 肺、特に全肺照射の場合 10 Gy を下回る線量でも重篤な影響が現れる。 ③ 放射線肺炎のしきい線量は 6 ~ 8 Gy。肺は肺胞上皮細胞と血管内皮細胞の放射線感受性が高く、フリーラジカル 産生、透過性亢進、サイトカインの誘導を経て、間質の浮腫が原因である。

 

放射線被ばくによる急性障害と晩発影響についての記述

高線量放射線を一度に全身被ばくしたような場合、数週間以内に現れる障害を急性障害という。占領によって症状は異なるが、典型的な経過は以下の 4 つの病期に分けられる。被ばく直後から数時間以内に悪心、嘔吐、発熱など非特異的な症状が現れる前駆期、これらの症状が一時的に消失する潜伏期、骨髄や消化管障害、脱水など多彩な症状が現れる発症期、その後回復期あるいは死亡の 4 期である。障害の現れ方やその時期は、線量及び臓器・組織によって異なる。例えば、ヒトが高線量のγ線を全身被ばくしても医療処置がなされないと、3 ~ 10 Gy では 3 ~ 4 週間程度で骨髄の障害により、10 ~ 20 Gy では、1 ~ 2 週間程度で腸管の障害により死亡する危険性が高い。

 

解説

Ⅰ は急性放射線症についての出題である。前駆期は被ばく後 48 時間以内を指し、悪心、嘔吐、下痢、発熱、頭痛、意識障害等の症状が現れる。唾液腺の腫脹、圧痛および口腔粘膜の毛細血管拡張などが診察時の留意点と言われている。

 

臓器や組織の急性障害は、主に臓器・組織の実質細胞の死によって起こると考えられる。臓器や組織によって実質細胞の放射線感受性が違うために、障害を認めるようになるしきい線量も臓器や組織によって異なる。一般に、現れる障害の重篤度は、被ばくした線量が大きいと高い。1 回のγ線による被ばくでは、抹消血中のリンパ球数の減少は 0.5 Gy 以上の被ばくによって起こる。女性の永久不妊は 6 Gy 以上の生殖腺被ばくによって起こり、男性の永久不妊は 6 Gy 以上の生殖腺被ばくによって起こる。又、男性の一時的不妊のしきい線量は 0.15 Gy で、女性の一時的不妊が起こる線量は男性に比べて高い。

 

晩発影響としては、発がん、白内障、遺伝的影響などが挙げられる。発がんと遺伝的影響は、確率的影響と考えられている。一般に、被ばくしてから発がんまでの期間は固形がんでは白血病に比べて長い。白内障は確定的影響に分類され、水晶体の混濁による。遺伝的影響は放射線に被ばくした生殖細胞に遺伝子の突然変異や染色体異常が起こることによる。遺伝的影響のリスクの推定には倍加線量法と、線量効果関係を動物実験によって求め、 これをヒトに適用して行う直接法とがある。遺伝的影響のリスクは、倍加線量が大きいほど低く、一般的に線量率が低いほど低い。UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会) 2001 年報告では倍加線量を 1 Gy と見積もっている。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

過度平衡

過度平衡

半減期 T1 (壊変定数 λ1)の核種1 が放射性壊変して生成する核種2 が放射性でさらに半減期 T2 (壊変定数 λ2)で壊変して核種3 となる時。

核種1 から核種2 を分離してからの時間 t により、核種1 の原子数 N1 と 核種2 の原子数 N2 は次のようになる。

dN1/dt = -(N1λ1)

dN2/dt = λ1N1 – λ2N2・・・N2 の時間変化は親核種の壊変速度と娘核種の壊変速度の差である。tmax となるのは dN^2/dt = 0 の時で娘核種生成速度 = 娘核種壊変速度

分離時の t = 0 において N1 = N1^0、N2 = 0 とするとその後の原子数は
N1 = N1^0 exp(-λ1 t)
N2 = λ1/(λ2-λ1) × N1^0(exp(-λ1t) – exp(-λ2t)) となり、それぞれの放射能 A1とA2 は、λ1N1^0 = A1^0として

A1 = A1^0 exp(-λ1t)

A2 = λ2/(λ2-λ1) × A1^0(exp(-λ1t) – exp(-λ2t)) と示される。

また、tmax の後以下の関係が成り立つ。
N2/N1 = λ1/(λ2-λ1)
A2/A1 = (N2λ2)/(N1λ1) = 1 + (N2λ1)/(N1λ1) = 1 + N2/N1 となり、A2/A1 > 1 となり、tmax 後は A2 > A1 となる。

ここで 140Ba(12.8日) → 140La(1.68日) → 140Ce(安定)の場合を考える。
① 分離精製した 140Ba を放置すると 140La の放射能が最大となるまでに、140La と 140Ba の放射能の和に極大が現れる。
② 分離精製した 140Ba を放置すると、140La の放射能が最大となるとき、140La と 140Ba の放射能は等しくなる。
③ 分離精製した 140Ba を放置すると、140La の放射能は最大になった後、次第に半減期 12.8 日で減衰する。
④ 140Ba,140La,140Ce の原子数の総和は一定である。

過度平衡で成り立つ式・・・N2/N1 = λ1/(λ2-λ1) = T2/(T2-T1)。また A2/A1 = λ2/(λ2-λ1) = T2/(T1-T2)

永続平衡で成り立つ式・・・N2/N1 = λ1/λ2。

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

放射線量と単位・質量阻止能

放射線量と単位

記号 SI単位 その他
量子数 N I  ー
フルエンス Φ m^(-2)  ー
エネルギーフルエンス φ J × m^(-2)  ー
断面積 δ m^2  ー
線減弱係数 μ m^(-1) = 線エネルギー吸収係数
質量エネルギー転移係数 μtr/ρ m^2 × kg^(-1) 光子との相互作用
質量エネルギー吸収係数 μen/ρ m^2 × kg^(-1)  ー
質量阻止能 S/ρ J × m^2 × kg^(-1) 荷電粒子との相互作用
線エネルギー付与 J × m^(-1)  ー
質量減弱係数 μ/ρ m^2 × kg^(-1) 物質には依存しない
カーマ K J × kg^(-1)  ー
照射線量 X C × kg^(-1)  ー
エネルギー付与 εi J 荷電粒子に対して用いる
吸収線量 D J × kg^(-1)  ー
放射能 A Bq  ー

質量阻止能

荷電粒子が単位長さあたりに失うエネルギー損失で S = dE/dX ∝ [(z^2 × e^4)/v^2] × n × Z
ここで質量衝突阻止能 ∝ [(z^2 × e^4)/v^2] × [(n × Z)/ρ] ∝ [(z^2 × e^4)/v^2] × [(A × Z) × Na] z : 有効電荷 e : 電子
また S ≈ Z^2/v^2 = [(1/2)M × Z^2]/[(1/2)M × v^2] = (M × Z^2)/E となる。
また飛程 R = (1/M) × (E/Z)^2 となる。

補足として電子の質量阻止能は物質に依存せず 2 MeV・cm2/g である。

陽電子飛程

原子  半減期 min  最大エネルギー MeV  飛程 mm
 11C  20  0.961  4.2
 14N  10  1.2  5.4
 15O  1  1.7  8.2
 18F  110  0.63  2.5
 62Cu  9.7  2.93  4.3
 68Ga  68  1.9  8.2
 82Rb  1273  3.38  16.5

エネルギー別では100 MeV で約 7 cm

150 MeV で約 15 cm
300 MeV で約 25 cm これを覚えておくだけでもかなり使える。

中性子捕獲反応

原子核に中性子が捕獲されると質量数が1だけ増加した原子核が生成される。中性子の結合エネルギーはおよそ 8 MeVであるので、中性子捕獲反応は発熱反応であり、エネルギーの低い中性子 の捕獲反応によりエネルギーの高い励起状態が形成される。多くの原子核では、この励起状態から陽子が放出される原子核もある。熱中性子の遮蔽としてカドミウムが用いられる。BF3ガスを用いる 比例計数管では10B(n,α)7Li反応が起こる。3Heガスを用いる比例計数管では3He(n,p)3H反応により放出される荷電粒子を比例計数管で測定している。

中性子核反応における中性子エネルギーER = E0(4A)/(A + 1) × cos2θ

中性子の弾性散乱において原子核の反跳エネルギーEmax = [(2Mm)/(M + m)^2] × (1 – cosθ)En

 

荷電粒子に対する質量阻止能に関する記述

ある物質の荷電粒子に対する質量阻止能は、入射粒子の速度の 2 乗に逆比例し、その有効電荷の 2 乗に比例するが、入射粒子の質量には依存しない。また、その物質の原子番号に比例し、質量数に逆比例する。この比は元素によらずほぼ一定であるので、質量衝突阻止能はあまり物質によらない値となる。

 

熱中性子が原子番号 5 の 10B 原子核に吸収されると、α線が放出される場合がある。この現象は荷電粒子生成反応と呼ばれ、発熱反応であり、α線と 7Li 原子核が生成される。この反応の断面積は約 3800 b(バーン)と大きい。ここで、1b = 10^(-24) cm^2 である。反応後の生成核は 93 % の確率で励起状態をとり、Q 値の絶対値は 2.3 MeV である。放出される α線のエネルギーは 1.5 MeV である。この反応は中性子の検出によく利用され、中・高速中性子に対して感度を高くするために中性子モデレータ(減速材)が用いられる。モデレータとしては水素を多く含む材料が適切である。

 

補足

熱中性子検出には 10B(n,α)7Li 反応がよく用いられる。天然ホウ素の熱中性子吸収断面積は 764 b(バーン)と大きいが、これはホウ素に 19.9 % の存在度で含まれる 10B の断面積が 3830 b のためである。
熱中性子エネルギー、運動量ともに 0 とみなすことができるので、運動量保存則から、発熱反応のエネルギーは質量に反比例して分配される。したがって α粒子のエネルギーは 2.3 × (7/(4+7)) = 1.46 MeV となる。

 

図に 137Cs の壊変図を示す。図における核種 X は 137Ba である。核種(m)X は X の準安定状態であり、核異性転移により X となる。このとき、(m)X から光子が放出される代わりに、そのエネルギーを軌道電子に与え電子を放出する場合があり、この現象を内部転換という。光子放出と電子放出は競合過程であり、光子の放出に対する軌道電子の放出割合 α を内部転換係数という。137Cs の放射能を 10 GBq とするとき、この線源 から放出される 662 keV の光子の数は、すべての軌道電子に対する α を 0.11 とすると、 8.5 × 10^9 s^(-1) となる。このとき、線源から 1 m 離れた位置の P における光子のフルエンス率は 6.7 × 10^4 cm^(-2)・s^(-1) であり、空気の密度を 0.0013 g/cm^3、線エネルギー吸収係数を 3.8 × 10^(-5) cm^(-1) とすると、位置 P における空気の吸収線量率は 7.5 × 10^(-4) Gy/h である。ただし、線源から位置 P までの光子の減弱は無視するものとする。

解説

γ線放出数を n(γ)、内部転換電子放出数を n(e) とすれば、α = n(e)/n(γ) で定義される。核異性体転移にともなうγ線放出割合は、
n(γ)/[n(γ)+n(e)] = 1/[1+(n(e)/n(γ))] = 1/(1+α) = 0.90 となる。
したがって線源からのγ線放出数は、10 × 10^9 × 0.94 × 0.90 = 8.46 × 10^9 s^(-1)
続いて光子のフルエンス率は (8.46×10^9)/(4π×100^2) = 6.73 × 10^4 s^(-1)・cm^(-2) となる。
続いてγ線のエネルギーを J 単位に換算すると、662 × 10^3 × 1.60 × 10^(-19) = 1.06 × 10^(-13) J である。したがって吸収線量率は、
1.06 × 10^(-13) × 6.73 × 10^4 × (3.8×10^(-5)/0.0013) × 10^3 × 3600 = 7.51 × 10^(-4) [J・kg^(-1)・h^(-1)] となる。

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集