γ線の測定
検出器に入射したエネルギー Eγ[MeV] のγ線がコンプトン散乱を起こし、検出部外へ逃れると、検出器の出力から得られたエネルギースペクトルにおいて、コンプトン電子のエネルギー分布に対応する連続スペクトル部分が形成される。入射γ線と外部へ逃れた光子が成す角度を θ とすると外部へ逃れた光子のエネルギー Eγ[MeV]は(α・Eγ)/[α+(1-cosθ)Eγ] の式で与えられ、α の値は 0.511[MeV]となる。このためコンプトン電子のエネルギーは θ が 180 度の時最大となり、このエネルギーに対応したコンプトン端がスペクトル中に現れる。また、光子が外部に逃れず検出器内で最終的に光電効果を起こすと、全吸収 ピークとなる。一方 2 × 0.511[MeV] を越えるエネルギーのγ線が入射すると電子対生成に起因する消滅放射線が放出され、これが検出部外へ逃れると全吸収ピークの割合が減少する。
γ線エネルギーを求める問題
NaI(Tl)γ線スペクトロメータにより、エネルギー未知のγ線の波高分布スペクトルを測定したところ、全吸収ピークが 600 チャネル、コンプトンエッジが 400 チャネルに観測された。この場合のγ線エネルギーを求めよ。ただし零点調整済みとする。
解答
零点調整済みとは多重波高分析器で観測される全吸収ピークのチャネル番号が光子のエネルギーと正しく比例関係にあるということを意味する。コンプトン散乱における散乱電子のエネルギーを Ee[MeV]、入射光子のエネルギーをEp[MeV]とすると
Ee = Ep/[1+(0.511)/(Ep(1-cosθ))]
となり、コンプトンエッジはエネルギーが最大の散乱電子。すなわち θ=180°であるので、
Ee = Ep/[1+(0.511/2Ep)]
よって Ee/Ep = 1/[1+(0.511/2Ep)]
ここで Ee/Ep = 400/600 = 2/3 より 2/3 = 1/[1+(0.511/2Ep)] EP = 0.511 となる。
γ線エネルギースペクトル測定
放射能を測定する場合、測定されたγ線エネルギースペクトル中の全吸収ピークに着目する方法が一般的である。2本のγ線[γ1,γ2]がピコ秒程度の遷移時間でカスケードに放出される 60Co のような核種の測定では2つの出力信号が同時事象として検出される。このためそれぞれの全吸収ピークの割合は減少し、両者の波高値の合計に対応する サムピークと呼ばれるピークを作る。このピークの計数効率は γ1 , γ2 とエネルギーが等しい単独のγ線に対する全吸収ピーク効率を ε1 , ε2 で表すと、ε1・ε2 で与えられる。また γ1 , γ2 とエネルギーが等しい単独のγ線に対する全計数効率をそれぞれ ε1t , ε2t とすると、γ1 の全吸収ピーク効率は ε1・(1-ε2t) となる。この効果を小さくするためには線源ー検出器間の 距離を増加させるなどの工夫が必要となる。
γ線のエネルギースペクトルを測定する場合、検出器の材質として原子番号が大きいことが望ましい。これは原子番号が大きいと光電効果、電子対生成効果の作用が高くなり全吸収ピークを形成する確率が高くなるからである。そのため、γ線のエネルギースペクトルの測定にはNaI(Tl)シンチレーション検出器 は大型のものが得やすく、価格も比較的安価であるが、そのエネルギー分解能はGe半導体検出器と比較して大幅に劣る。そのほかCsI(Tl)シンチレーション検出器が用いられることがあるが、この場合、潮解性の影響が少ない利点がある。Si表面障壁型半導体検出器は有感体積を大きくしにくく原子番号が小さいので、γ線エネルギースペクトルに 用いることはほとんどない。
γ線スペクトロメトリー②
γ線スペクトロメトリにおいては、スペクトロメータのγ線検出部の物質とγ線がどのように相互作用するかによって色々なパルス波高スペクトルが得られる。γ線が検出部に入射すると、電子、陽電子、コンプトン散乱γ線、あるいは陽電子消滅に伴う光子などが放出される。γ線の全エネルギーが検出部に付与されると、パルス波高スペクトル上に全吸収ピークとして計数される。生成された高エネルギーの荷電粒子や、その 制動放射で生じた光子が検出部外に逃れた場合にはコンプトン効果の場合に限らず全吸収ピークから低いエネルギー側にずれて計数されることがある。光電効果が起きると原子の電子軌道に空席が生じるが、この空席が電子で埋められる際にオージエ電子又は特性X線が放出される。これらのうち、 前者は直接電離により検出部にエネルギーを付与する。一方後者は前者に比べて検出部の外に逃れやすいため、スペクトル上にエスケープピークが生じる場合がある。この現象は検出器の物質に原子番号が高く、検出部の厚みが薄い場合に生じやすい。コンプトン効果ではパルス波高スペクトルは連続分布となる。しかし、コンプトン散乱γ線が検出部内で再度コンプトン効果 を起こした後、光電効果により検出部にエネルギーを与えると全吸収ピークが形成される。電子対生成では、この相互作用が起きるために必要なしきいエネルギーを差し引いた後、残りのエネルギーを電子と陽電子が分け合う。この際陽電子消滅が要因となり、放出される光子の検出過程により2つのエスケープピークが生じる。以上の要因の他、核種の壊変において複数の γ線が短時間に引き続いて放出される場合には、それらのγ線の相互に組み合わせに対応したサムピークが形成されることがある。
放射性核種 46Sc の点線源(壊変率:n0)をGe検出器の近傍に置き、γ線のパルス波高スペクトルを測定した。この 46Sc は次のように壊変する。0.889 MeV のエネルギー準位の半減期は 4ps であり、十分短く放出される2つのγ線(γ1線とγ2線)の放出は同時事象とみなすことができる。このためγ1線とγ2線について
γ1線のピーク効率を ε1
γ2線のピーク効率を ε2
γ1線の全計数効率を εT1
γ2線の全計数効率を εT2
また、γ1線の正味のピーク計数率を n1
γ2線の正味のピーク計数率を n2
サムピークの全計数効率を n12 で表すと、
n1 = n0(1-εT2)ε1
n2 = n0(1-εT1)ε2
n12 = n0ε1ε2
さらにγ1線とγ2線を合わせた全スペクトルの正味の計数率(nT)は、nT = n0(εT1 + εT2 – εT1εT2)で与えられるので、この線源の壊変率(n0)は n0 = nT + (n1n2)/n12 で求めることができる。この方法はγ線のパルス波高スペクトルに着目した比較的簡便な放射能測定でありサムピーク法と呼ばれる。
γ線やX線を使用する作業場での外部被ばく線量モニタリングについての記述
Ⅰ
作業場の線量モニタリングに使用される放射線測定器は、固定して使用するエリアモニタと持ち運びが容易なサーベイメータの2種類に大別される。これらの検出器としては、主に、空気電離箱、GM計数管及びNaI(Tl)シンチレーション検出器の3種類が用いられる。 この3種類のうち、空気電離箱では、検出したγ線やX線の数ではなく、γ線やX線で生じる電離電荷を測定して線量を得る。一方、GM計数管では、放電現象に基づいて出力パルスが得られるため電子回路が簡単である反面、不感時間が大きく、 高線量率の場では窒息現象に注意する必要がある。また、NaI(Tl)シンチレーション検出器では、蛍光を光電子増倍管により電気信号に換えて線量を測定するが、プラスチックシンチレーション検出器に比べて、シンチレータの密度や 実行原子番号が大きいため検出効率が高い。しかし、測定範囲の低エネルギー領域ではγ線やX線の相互作用として光電効果の寄与の割合が大きく、空気電離箱に比べてエネルギー依存性が大きくなる。
Ⅱ
外部被ばく線量の個人モニタリングにおいては、人体に装着して一定時間の被ばく線量を評価するため、一般的に小型で積分型の線量計が用いられる。これらの線量計には測定原理の違いにより、以下のように様々な特性がある。蛍光ガラス線量計は、γ線やX線で生じた 蛍光中心に紫外線レーザーをパルス照射することにより、被ばく線量の情報を繰り返し読み取ることができる。この線量計は、熱アニーリングにより情報を消去して、再使用が可能である。 OSL 線量計では、酸化アルミニウムを素子の主材料とし、 可視光を照射して生じる輝尽発光を読み取ることにより線量を測定する。これらの線量計は、従来用いられてきた臭化銀の感光作用を利用したフィルムバッチに比べ、退行現象が極めて起こりにくい。 TLD は、硫酸カルシウム、フッ化リチウム などを素子の主材料とし、素子を加熱することで生じる蛍光を読み取ることにより、線量を測定する線量計である。一方、電子式ポケット線量計は、小型のGM計数管やSi半導体検出器を検出部に用い、上記の線量計と異なり直読式の線量計として便利であるが、定期的に電池を充電・交換することなどが必要となる。
また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。
第1種放射線取扱主任者まとめ集