電離箱

放射線計測に際して重要な検出器の一つに電離箱がある。これは基本的には二つの電極の間に空気等の気体を充填したもので、電極構造として同軸状、平行平板状のものが一般的である。これらの電離箱を電流モード、または電荷モードで動作させる場合の基本を理解するために、最初図1に示すように平行平板型電離箱にアルゴンガスのような電子付着係数の小さい気体が充填され、電圧印加電極にプラスの高電圧 VB (数百V程度)が印加されている場合を考えてみよう。 この場合、電離で生じた電子はほぼ消失することなく電極間を移動し続ける。極板間距離を d とすると、電極の端の部分を除いて電極間空間の電界の強さ E はほぼ一様に E = VB/d となる。電極間に入射した荷電粒子は、電極間空間に充填された気体を電離し、その飛跡に沿って多数の電子・陽イオン対を生成する。電圧印加電極にプラス電圧を印加した場合、熱運動による拡散 を伴いながらも生成した電子は電界に逆行して全体として電圧印加電極の方へ、陽イオンは電界に沿って集電極の方向に移動していく。その際、電子が電圧印加電極に向かって移動しても、陽イオンが集電極に向かって移動しても、いずれも集電極に正の電荷が誘起される。こうした電荷の誘起は、電子が電圧印加電極に、陽イオンが集電極に到達するまで続く。 誘起される電荷は直ちに高抵抗 R を通じて大地(アース)に流れ、電離電流として観測される。しかし、電子の移動速度と陽イオンの移動速度とは、おおよそ千倍の違いがあり、陽イオンは電子に比べて大幅に遅い。そのため電子の移動による電流がマイクロ秒のオーダーで流れ、その後も陽イオンの移動による弱い電流がミリ秒のオーダーで持続する。この時電子が電圧印加電極までに誘起された電荷 q1 と陽イオンが集電極到達までに誘起された電荷 q2 との比 q1/q2 はイオン対 の発生位置に依存するが、それぞれの寄与の和(q1+q2)は電離位置に依存しない。以上は電子付着係数の小さいアルゴンガスを例にとって説明したが、空気の場合電子付着係数の大きい酸素が主要構成成分の一つとなっている。この場合、電離直後の初期の段階で電子は酸素分子と結合し陰イオンを生成する。陰イオンは 電子と同じく電圧印加電極に向かって移動するが、この陰イオンの移動度は電子の場合と比較してはるかに小さいので、アルゴンガスの場合でみられた速い電流成分の形成はほとんどみられなくなるが、この陰イオンもミリ秒オーダーの時間で電圧印加電極に到達し、この時点までの誘導電荷を積算すれば、これは電子の移動による誘導電荷の積算値と同じになる。したがって電子付着によって中性分子 が陰イオンになっても電離箱を電流モードまたは電荷モードで使用する限り、誘導電荷量や電離電流にほとんど影響を与えない。一方、例えば電界が弱い場合、電離によって生成された電子(または陰イオン)と陽イオンとが結合して中性の分子になると、その分だけ誘導電荷や電流が減少する。これを再結合損失という。この現象を軽減、回避するためには、電極に十分な電圧をかけ、電極間の電界の強さを充分大きくすることが必要である。 なお、α線の場合のように飛跡に沿って電離密度が部分的に高い場合や大強度の放射線を測定する場合にこの現象は顕著となる。電離箱は色々な用途に用いられるが、重要な用途の一つはX・γ線による周辺線量当量の測定である。この目的のためにはもっぱら同軸状の電極構造が採用されるが、この場合、電極間空間の気体(主に空気)を電離させるのは、X線・γ線との相互作用によって主に外側の電極 から放出させる二次電子である。したがって、この種の測定器のエネルギー特性は外側の電極の材料によって変わるが、1 cm 線量当量のサーベイにはその材料としてアルミニウムやグラファイトのような低原子番号の材料を用いると二次電子の主な成分はコンプトン電子となりエネルギー 特性の比較的平坦な特性が得られる。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

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