放射性壊変に伴って生成されるヘリウム、アルゴン、ラドンに関する記述

水素の放射性同位体であるトリチウム(3H) は、6Li(n,α)3H 反応で製造され、半減期 12.3 年で β- 壊変して 3He になる。したがって、精製した 3H(2) ガス 1.0 g を密閉容器に入れて 24.6 年間保管すると、その中に 3He が 0.75 g 生成する。一方、大気中のヘリウムは大部分が 4He であり、これは地殻中にあるウランやトリウム及びそれらの娘核種が放射壊変するときに放出される α線が起源である。

 

地殻中のカリウムの中には同位体存在度 0.0117 % で放射性核種 40K が存在する。40K は分岐壊変し、部分半減期 1.43 × 10^9 年で β- 壊変して 40Ca になり、あるいは部分半減期 1.22 × 10^10 年で EC 壊変して 40Ar になる。したがって、これらを合わせて 40K の半減期は 1.28 × 10^9 年となり、また β- 壊変と EC 壊変の分岐比はおよそ 9 : 1 となる。大気中に 1 % 存在するアルゴンのほとんどは、40K から EC 壊変して生成した 40Ar である。塩化カリウム(KCl:式量 74.6)の 746 g を容器内に密封し 12.2 年間放置した場合、この容器中でカリウムから新たに生成するアルゴンは 8.1 × 10^(-13) mol である。

 

40K:半減期は 1.277 × 10^9 年、カリウムの中に 0.00117 % 存在する。β-(89%)、EC(10.7%)の分岐壊変を行い、40Ca(安定)と40Ar(安定)にそれぞれ壊変する。40K は岩石などの年代測定に利用している。40K が壊変すると 40Ar が生成するため、この 40Ar と 40K の存在量から年代を知ることができるからである(カリウムーアルゴン法という)。
枝分かれする壊変を分岐壊変と呼び、その割合を分岐比という。分岐した壊変については、それぞれ壊変式が成り立つので、i 番目の壊変に着目すると次のように表せる。
dN/dt = -λ(i)N、T(1/2)i = ln2/λi
このように定義した半減期を部分半減期という。ここで、この親核種に注目すると、その壊変定数 λ は次のように表される。
λ = λ1 + λ2 + ・・・・・ + λi + ・・・・ + λn
この間では、40K の壊変定数を λ とすると、λ = λ(β-) + λ(EC) となる。したがって、40K の半減期を T、β- 壊変と EC 壊変の半減期をそれぞれ T(β-)、T(EC)とすると、
ln2/T = ln2/T(β-) + ln2/T(EC)
1/T = 1/T(β-) + 1/T(EC) = 1/(1.43×10^9) + 1/(1.22×10^10)
よって、 T = 1.28 × 10^9 年
β- 壊変と EC 壊変の分岐比は、
λ(β-) : λ(EC) = ln2/T(β-) : ln2/T(EC) = T(EC):T(β-) = 1.22×10^10:1.43×10^9 = 8.5:1 となる。
N(40Ar) = 0.00117 × 6.0 × 10^23 × 0.693 × (12.2/1.22×10^10)
アルゴンのモル数 M は、M = N(40Ar)/(6.0×10^23) = 8.1×10^(-13) [mol] となる。

 

大気中に存在するラドンには、ウラン系列に属し半減期 3.8 日(3.3×10^5秒)でα壊変する 222Rn と、トリウム系列に属し半減期 56 秒でα壊変する 220Rn がある。これらのラドン及びラドン娘核種からの放射線の寄与が、人が自然から受ける放射線被ばく量の中で最も大きい。222Rn は 226Ra(半減期 1.6 × 10^3年:5.0 × 10^10秒)のα壊変で生成するので、密封容器に封入した 226Ra の 226 mg と永続平衡にある 226Rn の量の 量は 6.6 × 10^(-9) mol である。この容器内のラドンをいったん除去すると、それから 3.8 日後における 222Rn の量は 3.3 × 10^(-9) mol となり、その放射能は 4.2 × 10^9 Bq である。

 

補足

大気中に存在する天然起源の放射性同位体として、ウランおよびトリウム系列の壊変生成物である Rn や Pb、Bi、Po の同位体が存在する。地殻中に存在する 226Rn と 224Rn はそれぞれ壊変する際に、娘核種である 222Rn “Rn(ラドン)” および 220Rn “Tn(トロン)” として大気中に一部放出される。岩石、建材、化石燃料などに含まれるウラン系列の 226Ra からの 222Rn の放出量が問題となる場合もある。

解説

222Rn は永続平衡が成立していることで、226Ra と共によく知られている。

永続平衡(親核種 1 の半減期が娘核種 2 に対して非常に長い:λ1 << λ2)が成立する場合は親核種 1 と娘核種 2 は次の関係となる。 N1λ1 = N2λ2。したがって、N1/T1 = N2/T2、求める 222Rn の量を M [mol] とすると、
(226×10^(-3))/226 × (6.0×10^23)/(5.0×10^10) = M × 6.0 × 10^23/(3.3×10^5)
M = 1.0 × 10^(-3) × 3.3 × 10^5/(5.0×10^10) = 6.6 × 10^(-9) [mol] となる。
また、容器内のラドンをいったん除去すると、再び蓄積する 222Rn の量は
M = M(0)・{1-(1/2)^(t/T)} より、
M = 6.6 × 10^(-9) × {1-(1/2)^(3.8/3.8)} = 3.3 × 10^(-9)
求める放射能を A とすると、
A = λN = (0.693/3.3×10^5) × 3.3 × 10^(-9) × 6.0 × 10^23 = 4.2 × 10^9 となる。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

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