前置増幅器について

前置増幅器からの出力信号は、増幅度可変の主増幅器に送られる。また、主増幅器には積分回路と微分回路とからなるパルス整形回路が組み込まれ、多くの場合、パルス幅の短縮、パルス波形の適正化、積分作用によるノイズ成分の軽減化がはかられる。ここでパルス幅、特にテールの部分が長いと後続パルスが重畳する確率が大きくなり、パイルアップ が生じやすくなる。一方パルス整形回路の時定数が短いと検出器からの電荷の収集が不完全となり、エネルギー分解能が悪くなる。特に大型の Ge 検出器を用いたシステムの場合電荷の収集時間が長くなり、そのため時定数は長めに設定せざるを得ないが、そうするとパイルアップの影響を受けやすくな理、高計数率測定に際して不利となる。また、 主増幅器には、パルスのアンダーシュートあるいはオーバーシュートを軽減、消滅するためのポールゼロ補償回路や直流分の変動を補償するためのベースラインレストアラなどが組み込まれている場合が多い。

前置増幅器(プリアンプ)の時定数は一般に長いため(数十μs)、毎秒数千カウント以上の場合の出力波形は図1の実線のようになる。パルスが重なったっ部分では、パルスの高さは直前のパルスの裾の高さに依存するため、適切な波高分析ができない。そこで主増幅器では微分回路と積分回路を組み合わせることにより、図2のようにされぞれのパルス波高情報を保ったまま、波高分析に的するように波形整形したパルスを出力する。前置増幅器のパルスの立ち上がり時間は 検出器では長くなる傾向がある。波形整形の積分時間は、この立ち上がり時間に比べて十分長く設定しないと電荷の収集が不完全になる。また積分することにより早い周期のノイズ成分は平均化されて影響は小さくなり、分解能が向上する。したがって一般に積分時間を長くするとエネルギー分解能は向上する。一方長い積分時間では、波形整形したパルス幅が広がるため主増幅器の出力パルスの時間幅内に次のパルスが来るような高い放射線場ではパルスが重なり パイルアップが発生し、適切な波高分析ができなくなる。したがって測定する対象に応じて回路の時定数を適切に選択する必要がある。

前置増幅器の時定数に対して、主増幅器回路が適切でない場合、出力パルスの裾が伸び、プラスやマイナスに振れることがある。この裾に次のパルスが乗ると正しい波高分析ができなくなる。図3のアンダーシュートの場合、全吸収ピークは最高値に対して左右対称にならず、低い方に裾を引くようになる。これを防ぐため回路を適切に調整してポールゼロ補償をする必要がある。交流結合回路では直流成分は流れないため、 プラスのパルスが出力されると等しい面積でベースラインはマイナスにシフトする。パルスがランダムにやってくる放射線測定では、シフトの大きさは一定ではないため正しい波高分析ができなくなる。そのためベースラインシフトを防ぐ回路ベースラインレストアラ、ベースライン再生が必要になる。

波高分析器

この主増幅器の出力をマルチチャネル波高分析器により波高分析する。これは ADC(アナログーデジタル変換器)によりパルスの波高値を最大 1 K から 16 K チャネルのデジタル量に変換したのち分類、蓄積するもので、測定時間内に到来したパルスの波高値のヒストグラムが得られる。ADC の方式によっては処理に時間がかかり、しかも、それはパルス波高に依存するのでデッドタイムによる計数損失を補正するのに面倒である。 この難点を改善するため装置が生きている時間だけクロックタイムを動作させ、装置力が生きている時間だけ測って、これを計測時間とし、デッドタイムによる計数損失を実質的に補償できるようにもなっている。これをライブタイム方式という。なお最近は前置増幅器からの出力波形の全部分を超高速ADCを用いて直ちにデジタル量に変換したのち、デジタル 信号プロセッサにより自動的に最適条件を乱しつつ全ての信号処理を行う方式も用いられるようになってきた。以上述べた波高分布スペクトルは検出器の有効体積中で吸収された放射線のエネルギースペクトルであって、必ずしも放射線のエネルギースペクトルそのものを示すものではない。

放射線エネルギースペクトルの測定手法

放射線エネルギースペクトルの測定手法として、半導体検出器やシンチレーション検出器などからパルス信号の波高分布を測定する手法が一般的である。半導体検出器においては、電離作用に基づいて生じた電子と正孔が電場中でドリフトする際に電極に誘起される微小な電荷をパルス信号として取り出す。一般に半導体検出器自体は電子増倍をしないので出力信号は微弱であり、これを利用するためにはエレクトロニクス技術の活用が 不可欠である。半導体検出器からの微弱な電荷信号は、通常電荷有感型の前置増幅器により電圧パルスに変換される。電荷有感型とは、高いゲインを持つ増幅器のフィードバック回路に静電容量の小さなキャパシタを接続したもので、入力端からの電荷はフィードバック回路に接続されたキャパシタに全部送りこまれ、 このキャパシタ両端の電圧が出力として現れる。半導体検出器自体の静電容量は数十pFから数百pFにも達するのに対して、この方式ではフィードバック回路に接続された 1 pF から数pFのキャパシタに検出器からの電荷が送り込まれることとなり、感度が著しく改善される。このようにして得られた電圧パルスを出力ケーブルの特性インピーダンスにみあった低インピーダンス状態で信号として 取り出す。半導体検出器の空乏層の厚さは印加電圧によって変わるので、それに伴って検出器自体の静電容量も印加電圧に依存するが、電荷有感型の前置増幅器を用いると、パルス信号は検出器自体の静電容量や入力部の浮遊容量の影響をほとんど受けない。検出器からの微弱な電気信号を主増幅器に送るため、検出器にほぼ密着して信号を変換する前置増幅器が使われる。主増幅器と接続する ケーブルのインピーダンスは通常 50 Ω から 100 Ω であり、前置増幅器の出力インピーダンスは十分低くなければならない。前置増幅器には電圧型と電荷型の2種類あり、半導体検出器には電荷有感型が使われる。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

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