問1

次の標識化合物のうち、陽電子放射断層装置(PET)検査に用いられるものの正しい組み合わせはどれか。

A [13N]アンモニア

B [18F]フルオロデオキシグルコース

C [67Ga]クエン酸ガリウム

D [99mTc]過テクネチウム酸ナトリウム

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 1

A 正 13N は半減期 10 分の陽電子放出核種。虚血性心疾患の診断に用いられる。

B 正 18F は半減期 110 分の陽電子放出核種。がん診断に用いられる。

C 誤 67Ga は半減期 3.26 日で、壊変様式は軌道電子捕獲。ガリウムシンチグラフィは、がんや炎症性病変に用いられる。

D 誤 99mTc は半減期 6 時間で β壊変し、143 keV のγ線を放出する。

問2

次の核種のうち、ミクロオートラジオグラフィーに最も適しているものはどれか。

1 3H

2 32P

3 35S

4 45Ca

5 90Sr

解答 1

オートラジオグラフィについての記述を下記に示す。

オートラジオグラフィ

オートラジオグラフィとは放射性同位元素が発する放射線(β線)により、標識された部位の近傍の感光乳剤が感光する。 これを現像すると、標識された部位に銀が偏析する。 この試料を透過電子顕微鏡で観察すると、銀の局在位置から、標識された組織や細胞の位置を特定することができる。

ミクロオートラジオグラフィ対応核種・・・3H、14C、35S

マクロオートラジオグラフィ対応核種・・・14C、35S、59Fe、32P

問3

放射線照射によって生じる活性種に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 水和電子は DNA に対して強い酸化剤として作用する。

B 水素ラジカルは生体分子からの水素を引き抜き反応を起こす。

C 間接作用による DNA 損傷には、ヒドロキシラジカルの寄与が最も大きい。

D スーパーオキシドラジカルの寿命はヒドロキシラジカルの寿命より短い。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 3

フリーラジカルについての記述を下記に示す。

フリーラジカルの生成

励起・・・H2O → H*(還元性) + OH*(酸化性)

電離・・・H2O → H2O+ + e- 、H2O+ → H+ + OH* もしくは H2O+ + H2O → H3O+ + OH*

H3O+ + e- → H* + H2O

電子の周りには水分子が集まり水和電子が生成される。e- + nH2O → e(aq)-[還元性]

e(aq)- + H2O → OH- + H* もしくは、e(aq)- + H+ → H*、e(aq)- + O2 → O2*-(スーパーオキシドラジカル)

H* + OH* → H2O となり、H*は生体分子の水素を引き抜いて反応を起こし、10^(-10)秒の寿命をもつ。

還元性を示す分子・・・H*、e(aq)-、H2

酸化性を示す分子・・・OH*、H2O2

A 誤 放射線照射により生成された電子は多数の水分子と反応し、まわりに水分子の正電荷部分が囲むように配列した水和電子が生成される。還元剤として働く。

B 正 水素ラジカルは別の水素ラジカルと反応し水素分子を形成する(OH ラジカルと結合し、水分子となる反応もある。)

C 正 ヒドロキシラジカルは OH(水酸化)ラジカルである。

D 誤 ヒドロキシラジカルの方がスーパーオキシドラジカルよりも反応性が高い。反応性が高いことを寿命も短いということになる。

問4

放射線による DNA 損傷に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A X 線による DNA 損傷は紫外線による DNA 損傷と変わらない。

B γ線による 2 本鎖切断の収率は 1 本鎖切断の収率の約 2 倍である。

C 放射線に特異的な DNA 損傷はない。

D 塩基損傷は発がんの原因となる。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 5

A 誤 紫外線では鎖切断は起こらないが、X 線(電離放射線)では鎖切断が起こる。

B 誤 2 本鎖切断の方が生じにくい。

C 正

D 正 塩基損傷も誤修復が起これば突然変異となり、発がんの原因となる。

問5

酸素効果に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 酸素効果は主に直接作用を修復する。

B 酸素効果の機序の一つに酸素による損傷の固定化がある。

C 照射後酸素濃度上昇により大きな酸素効果が得られる。

D グルタチオンは酸素効果に影響を与える。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 4

A 誤 水分子から生じたラジカルが酸素(O2)と反応し、さらに有害なラジカルを生成する。ラジカルが増強されるので、間接作用が修飾される。

B 正 損傷部が酸素と反応して修復されにくくなる。

C 誤 ラジカルの反応(化学的作用)は 10^(-6) 秒程度で終了するので、照射時の酸素濃度により酸素効果は決まる。

D 正 グルタチオンはラジカルを除去する働きをもつ。

問6

放射線の直接作用と間接作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 低 LET 放射線による DNA 損傷は主に直接作用による。

B 試料を凍結すると間接作用の比率が小さくなる。

C 直接作用の一つに、DNA の共有結合の解離によるラジカルの発生がある。

D 低 LET 放射線によって生じた二次電子が標的分子に与える影響は間接作用である。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 3

A 誤 低 LET 放射線では、直接作用と間接作用の比は 1:2 とされている。

B 正 凍結するとラジカルの移動が制限されるため間接作用の比率が小さくなる。

C 正 共有結合を作っている 2 個の電子が解離し、それぞれラジカルを生成する。

D 誤 γ線の物質との相互作用は、そもそも光子のエネルギーが電子に置きかわって起こっている。

問7

γ線の細胞致死に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 細胞周期の G1 – S 移行期の方が S 期後半よりも感受性が高い。

B 一般に同一の生存率を与える吸収線量は、低線量率の方が高線量率よりも大きい。

C リンパ球は好中球に比べて放射線感受性が高い。

D コロニー形成法では間期死を定量できる。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 1

A 正 S 期後半は細胞周期の中で最も感受性が低い。

B 正 線量率効果が認められる。

C 正 リンパ球は成熟しても感受性は高い。

D 誤 コロニーは細胞分裂した結果として生じる。分裂死の判定方法である。

問8

γ線による生殖細胞の致死と突然変異に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 精原細胞は精子より致死感受性が高い。

B 精原細胞は間質細胞より致死感受性が高い。

C 男性の場合、一時的不妊からの回復には被ばく線量が高いほど時間がかかる。

D 突然変異の中には、受精卵からの発生過程で淘汰されるものがある。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 5

A 正 致死感受性は、精母細胞 > 精原細胞 = 精細胞 > 精子 の順である。

B 正 臓器の機能を果たす細胞が実質細胞であり、それ以外の支持細胞などが間質細胞である。精原細胞は細胞再生系に含まれる幹細胞であり、感受性は高い。

C 正 線量が高くなれば重篤度が増す。

D 正 突然変異の程度により、たとえ受精しても発生が継続できず、胚死亡に至るものがある。

問9

培養細胞における放射線による HPRT 遺伝子突然変異に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 突然変異の検出には、突然変異を誘発した細胞のみが選択培地で増殖できるようになることを利用する。

B 高 LET 放射線の場合、γ線に比べて吸収線量当たりの突然変異誘発率が高い。

C X 線による突然変異頻度と吸収線量の関係は、直線 – 2次曲線モデルに当てはまる。

D 一般に、γ線では高線量率に比べ低線量率の方が突然変異誘発率が高い。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 2

A 正 培養細胞を用いる遺伝子突然変異試験は、突然変異により遺伝子機能が欠損し、その結果、ある毒物に対して細胞が耐性(増殖できる)となることを利用する。HPRT遺伝子の場合、6 – チオグアニンに対して耐性をもつ。

B 正 一般に高 LET 放射線の方が影響は大きい。

C 誤 線量と突然変異頻度の関係は直線的とされている。

D 誤 低線量率では修復が期待できるため、突然変異誘発率は低くなる。

問10

放射線によって誘発される染色体異常に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 血液中のリンパ球を培養して検査することができる。

B 構造の異常を分子生物学的手法で検出することができる。

C 小核形成細胞の出現頻度からは被ばく線量の推定はできない。

D 培養細胞では直接被ばくしていない細胞に観察されることがある。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 2

A 正 培養するのは、染色体が存在する細胞分裂期に持っていくためである。

B 正 分子生物学的手法の例として、マルチカラー FISH 法、蛍光染色などがある。

C 誤 赤血球の小核試験では、脱核の際に末端欠失の断片が細胞内の残ったものを観察する。バイオドジメトリにも応用することができる。

D 正 バイスタンダー効果と言われる現象である。

バイスタンダー効果とは・・・低線量発がんのリスク評価のことをいう。

放射線の影響は、線量が低くなればなるほど他の要因による影響と区別がつけられなくなるため、現状では比較的高い線量域で得られている結果を外挿して、低線量域においても同様に直線性を示すと仮定しています(LNT仮説)。このLNT仮説を否定する仮説がバイスタンダー効果という。放射線誘発バイスタンダー効果とは 放射線を照射した細胞が近傍に存在する細胞に様々な生物学的影響を引き起こす現象をいう。この現象はLNT仮説が低線量の影響を過小評価している可能性を支持する生物の細胞応答です。 バイスタンダー効果は照射された細胞から放出された一酸化窒素や活性酸素種、様々なサイトカインなど多数のシグナル分子によって伝達されると考えられている。また、ゲノム(個々の生物が持つ遺伝子・染色体全体)不安定性を引き起こす効果がある。なお、ギャップジャンクション(ギャップ結合)は細胞の結合形態の1つであり、環状のタンパク質が隣接する(少し隙間があるのでギャップ)細胞をつないでいる。

例えば隣り合っている細胞同士を結ぶ小さなトンネル(ギャップ・ジャンクション)を閉じる薬剤や、培養液に分泌された活性酸素種を捕捉、中和する薬剤を添加するとバイズタンダー効果は抑制される。

問11

X 線による 4 Gy の急性全身被ばく後の末梢血液に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A リンパ球数は、被ばく後 1 日以内に一過性に増加する。

B 血小板数は、被ばく後 20 日以降に最低値を示す。

C 赤血球数は、被ばく後 25 日以降に最低値を示す。

D 好中球数は、被ばく後 1 日以内に最低値を示す。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 4 下記に抹消血液の寿命を示す。

A 誤 被ばく直後に一過性の増加が認められるのは白血球である。

B 正

C 正

D 誤 好中球は 2 週間程度で最低値を示す。

問12

γ線による急性全身被ばく後の骨髄死に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 被ばく後 3 日以内に起きる。

B 血小板減少は、骨髄死の原因の一つである。

C LD(50/60) の放射線量を被ばくしたときの主な死因である。

D 5 Gy 以下の被ばくではサイトカイン治療は必要ない。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 3

A 誤 ヒトでは 20 ~ 60 日で起こるとされている。

B 正 血小板の減少は、出血傾向の原因となる。

C 正 LD(50/60) は 60 日間で 50 % が死亡する線量を表しており、骨髄死の発生する期間に着目している。

D 誤 サイトカイン治療のひとつに、G – CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)骨髄増殖因子の投与がある。半致死線量程度の 5 Gy 以下の被ばくで治療効果が期待できる。

問13

次の放射線障害のうち、幹細胞の障害が関与するものとして正しいものの組み合わせは、次のうちどれか。

A 中枢神経死

B 腸死

C 骨髄死

D 男性不妊

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 4

A 誤 (成人の)中枢神経はすでに分化しており、細胞分裂は行われていない。

B 正 幹細胞はクリプト細胞。

C 正 幹細胞は骨髄間葉細胞。

D 正 幹細胞は精原細胞。

問14

γ線による急性被ばく後の障害と、障害を受けた臓器・組織におけるしきい線量の関係として、正しいものの組み合わせはどれか。

A 白内障(視力低下) ー 15 ~ 20 Gy(眼)

B 女性の永久不妊 ー 2.5 ~ 6.0 Gy(卵巣)

C 男性の一時的不妊 ー 1.0 ~ 1.5 Gy(精巣)

D 男性の永久不妊 ー 3.5 ~ 6.0 Gy(精巣)

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 4

A 誤 白内障のしきい値は近年引き下げられ 0.5 Gy とされた。

B 正

C 誤 男性の一時的不妊のしきい値は 0.1 ~ 0.15 Gy である。

D 正

問15

臓器全体が X 線に急性被ばくした場合に最も低い線量で起こるものは、次のうちどれか。

1 病的骨折(肋骨)

2 放射線肺炎(肺)

3 脳壊死(大脳)

4 失明(網膜)

5 直腸穿孔(直腸)

解答 2 全肺照射の場合、放射線肺炎のしきい線量は 6 ~ 8 Gy である。そのほかの症状は 10 Gy 以上である。

問16

職業被ばく及び医療被ばくに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A ウラン鉱夫において、肺がんの増加が見られた。

B 胸部X線透視を行った結核患者において、乳がんの増加が見られた。

C トロトラストを用いた血管造影を行った患者において、白血病の増加が見られた。

D ラジウム時計文字盤工において、骨腫瘍の増加が見られた。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 5

ウラン鉱夫の肺がん、胸部X線透視の乳がん、ラジウム文字盤工の骨腫瘍は、被ばくした部位とがんが発症した臓器が一致している。トロトラストは二酸化トリウムを主たる成分とする造影剤であり、肝臓に蓄積し肝臓がんの増加が見られたほか、白血病の増加も確認されている。

問17

原爆被爆者の疫学調査で、統計的に有意なリスクの上昇が認められている疾患の組み合わせは、次のうちどれか。

A 急性骨髄性白血病

B 急性リンパ性白血病

C 慢性骨髄性白血病

D 成人T細胞白血病

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 1

原爆被爆生存者の疫学調査で増加が確認されている白血病は急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病の 3 種類であり、慢性リンパ性白血病の増加は確認されていない。成人T細胞白血病は、腫瘍ウイルスである HTLV – 1 感染を原因とする白血病である。

問18

原爆被爆者におけるがんの相対リスクと絶対リスクに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 相対リスクと過剰相対リスクの差は常に一定である。

B 過剰絶対リスクと過剰相対リスクの大小は常に一致する。

C 白血病の過剰絶対リスクは胃がんの過剰絶対リスクより大きい。

D 白血病の過剰相対リスクは全固形がんの過剰相対リスクより大きい。

E 全固形がんの相対リスクは 1 Gy において約 0.5 Gy である。

1 AとB 2 AとD 3 BとE 4 CとD 5 CとE

解答 2

リスク予測モデル

発がんによる生涯リスクの推定で将来の発生数を現時点での発生数から予測するための発現分布モデル。

リスク係数

単位線量あたりのがん発生率。リスク係数を算定する場合、全てのガンに直線モデルを適用して高線量・高線量域からずれを補正するために線量・線量率効果係数(DDREF)として 2 を採用している。この線量・線量率効果係数(DDREF)は高線量・高線量率データを低線量・低線量率に外挿するための係数。

絶対リスク予測モデル

線量あたりどれだけ影響が発生するかという評価法。自然発生が少ない白血病が適合。絶対リスクの臓器間の大小は単位線量当たりの発生数として表すことができる。年齢にかかわらず一定で、年齢が関わるのは相対リスク。

相対リスク予測モデル

線量あたり自然発生率の何倍の影響が発生するという評価法。自然発生が多い固形がんが適用。相対リスクの大小は自然発生が多いものは小さくなり、自然発生が少ないものは大きくなる。 日本人では白血病の自然発生は少なく、胃がんは多い。2012年に発表された寿命調査第14報では、全固形がんの過剰相対リスクは 1 Gy あたり 0.42 とされている。したがって相対リスクは 1.42 となる。

補足

相対リスクは自然発生の何倍かを考えており、過剰相対リスクは自然発生分の 1 を引いた値である。したがって相対リスクと過剰相対リスクの差は常に 1 である。また相対リスクは白血病が最も高くなる。 相対リスクの大小関係は自然発生が多いものは小さく、少ないものは大きい。

 

原爆被爆者の疫学調査

① 発がんの増加が認められる臓器・・・胃、肺、白血病、肝、乳房。認められていない臓器・・・膵、直腸、胆、子宮。前立腺、腎、喉頭。

② ヒトでは遺伝的影響の増加は有意ではない。

③ 組織荷重係数の大きさはガンの感受性を表している。

④ 組織荷重係数は低線量被ばくによる確率的影響を評価する。

⑤ 器官形成期の被ばくの影響で小頭症が胎児奇形で唯一確認されている。その他に精神発達遅滞、低身長もあげられる。

白血病と固形ガンの特徴

白血病

① 造血細胞由来の腫瘍

② 原爆被ばく後最小潜伏期間 2年、ピーク 6 ~ 7年

③ 白血病では潜伏期間は被ばく線量が大きい程短い

④ 被ばく時の年齢が若い程、潜伏期間が短い

⑤ LQ(直線-2次曲線)モデルがよく適合する・・・低LET放射線の場合、被ばく線量と不安定型染色体異常の頻度の関係はLQモデルに当てはまる。

⑥ 絶対リスク予測モデルが適合

固形ガン

① 最少潜伏期間は 10 年

② 潜伏期間は年齢によって複雑

③ 若年被ばくの方が潜伏期間が短い

④ 直線モデル(Lモデル)が適合・・・X線による線量の突然変異頻度と吸収線量との関係は直線的とされている。

⑤ 相対リスク予測モデルが適合

問19

確率的影響に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 早期反応に確率的影響はない。

B 晩発影響はすべて確率的影響である。

C 体内被ばくでは確率的影響は生じない。

D 確率的影響の重篤度は線量に依存しない。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 ADのみ 4 BCのみ 5 BCDのみ

解答 3

A 正 がん、遺伝的影響はどちらも晩発影響に分類される。

B 誤 晩発影響で確定的影響の例として、白内障がある。

C 誤 体内被ばく(着床前期、期間形成期、胎児期)に確率的影響のリスクがある。

D 正 確率的影響で線量の増加に伴い増加するのは、影響の発生頻度である。

問20

ICRP 2007 年勧告における確率的影響の名目リスク係数に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A がんの名目リスク係数は、遺伝的影響の名目リスク係数より大きい。

B 遺伝的影響の名目リスク係数は、1990 年勧告より大きい。

C 全年齢集団の名目リスク係数は、就労年齢集団(18 ~ 64 歳)の名目リスク係数より大きい。

D 線量・線量率効果係数(DDRFE)として 1/2 を採用している。

1 ABDのみ 2 ACのみ 3 BCのみ 4 BDのみ 5 ACDのみ

解答 2

ICRP2007年勧告における確率的影響の名目リスク係数

① 全年齢集団の名目リスク係数はがんで 5.5 × 10^(-2)/SV、遺伝的影響で 0.2 × 10^(-2)/SV

② 遺伝的影響名目リスク係数1990年勧告では、1.3 × 10^(-2)/SV、2007年勧告では、0.2 × 10^(-2)/SV

③ 就労年齢集団リスク係数(18 ~ 64歳)、がん 4.1 × 10^(-2)/SV、遺伝的 0.1 × 10^(-2)/SV

リスク係数

単位線量あたりのがん発生率。リスク係数を算定する場合、全てのガンに直線モデルを適用して高線量・高線量域からずれを補正するために線量・線量率効果係数(DDREF)として 2 を採用している。この線量・線量率効果係数(DDREF)は高線量・高線量率データを低線量・低線量率に外挿するための係数。

問21

日本における自然放射線による被ばくに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 経口摂取による内部被ばくに対する寄与はカリウム 40 が最も大きい。

B ラドン、トロン及びその子孫核種による被ばく線量は日本平均より世界平均が高い。

C 吸入摂取による内部被ばくに対する寄与はトロン及びその子孫核種が最も大きい。

D 年間被ばく線量は約 2.1 mSv である。

1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD

解答 5

A 誤 魚に含まれる鉛 214、ポロニウム 214 からの寄与が大きい。

B 正 世界平均 1.26 mSv/年、日本平均 0.48 mSv/年という評価値がある。

C 誤 ラドン 222 とその子孫核種の方が大きい。

D 正 おおよそ 2.4 mSV/年である。

問22

日本における人工放射線による一般公衆の被ばくに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 原子力発電所による寄与が最も大きい。

B 核実験における集団実効線量預託への寄与では炭素 14 が最も大きい。

C CT 検査 1 回当たりの平均実効線量は約 2 ~ 13 mSv である。

D 医療被ばく線量は約 0.4 mSv/年 である。

1 AとC 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 3

A 誤 医療被ばく(診断)の寄与が最も大きい。

B 正 現在も残存する核種は、14C、137Cs、90Sr、 3H の 4 種類であり、半減期の長い 14C の寄与が最大である。

C 正 部位によっても異なるが、胸部 CT スキャンで 6.9 mSv という評価がある。

D 誤 医療被ばく(診断)は 3.87 mSv/年という評価がある。

問23

原爆被爆者の疫学調査で有意な増加が観察された胎内被ばく影響として、正しいものの組み合わせはどれか。

A 精神遅滞

B 低身長

C 小頭症

D 四肢の奇形

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 1

A 正 8 ~ 25 週での被ばくの影響。

B 正 胎児期の被ばくの影響。

C 正 器官形成期の被ばくの影響。小頭症は胎児奇形で唯一確認された影響である。

D 誤 胎児奇形で唯一確認された影響は小頭症である。

問24

遺伝的影響に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 自然発生突然変異率を 2 倍にするのに要する線量を倍加線量と呼ぶ。

B 遺伝的リスクの推定に用いられる倍加線量法は直接法とも呼ばれる。

C 2001 年 UNSCEAR 報告では倍加線量を 1 Gy としている。

D 原爆被爆者では被ばくによる遺伝的影響が有意に増加した。

1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD

解答 2

遺伝的影響の発生確率の推定(直接法)

突然変異率から遺伝的影響の発生率を直接推定する方法で、突然変異率を動物実験により求め、線量率効果、動物種差、1形質から全優性遺伝への換算、表現型の重篤度などの要因により補正・外挿し、遺伝的影響の発生率を算定する。

遺伝的影響の発生確率の推定(間接法)

自然発生の突然変異率を 2 倍にするのに必要な線量を倍加線量というが、ヒトの遺伝的疾患の自然発生率と動物実験による倍加線量を比較して推定する方法をいう。倍加線量として 1 Gy の値が示されている。(ヒトの場合0.2 ~ 2.5 Gy と幅がある。)

倍加線量

① 倍加線量は自然発生と同じだけの影響を起こすのに必要な線量であり、倍加線量が大きいということは、一定の影響を起こすために大きな線量が必要であるということを示すので、感受性が低いことを意味する。したがって、倍加線量が大きいほど遺伝的影響は起こりにくいということを意味する。
② 倍加線量の逆数は単位線量あたりの相対突然変異リスクを表す。
③ 誘発突然変異率 = 自然突然変異率 × (被ばく線量/倍加線量)。線量率を下げれば突然変異率は減少する。また点突然変異は1箇所の変化に基づくため線量に比例する。

A 正 倍加線量の定義である。

B 誤 倍加線量は間接法である。

C 正

D 誤 原爆被爆者では遺伝的影響の増加は認められていない。

問25

低 LET 放射線と比較した高 LET 放射線の細胞致死作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A ラジカルスカベンジャーによる防護効果が小さい。

B 間接作用の寄与が大きい。

C 線量率効果が小さい。

D 同じ程度の致死作用を得るのに必要な吸収線量が小さい。

1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて

解答 5

低LET放射線では間接作用の寄与が大きいが、高LET放射線では間接作用の寄与が小さくなる。

間接作用の修飾要因

① 希釈効果

希釈効果とは、溶液を照射する場合に溶質の濃度が低い方が高い時よりも溶質に対する放射線の影響の割合が大きくなることをいう。主に酵素濃度が減少する。 ① 溶質として存在する酵素などの生体高分子数の不活化を指揮とした場合吸収線量が一定であれば不活性化した分子数は濃度によらず一定 → 同じ条件での不活性化率は濃度の増加に伴い低下する。

② 酸素効果

組織内の酸素分圧が放射線効果に影響を与えることを酸素効果という。酸素存在下での放射線効果は、無酸素下での放射線効果に比べて大きい。これは酸素分子が電子親和性が大きく、 電子を取り込んでスーパーオキシドという反応性に富むラジカルを産生するためである。また、照射後に酸素濃度を高めたとしても酸素効果は見られない。同じ生物学的効果を 得るのに必要な無酸素下での線量と酸素存在下での線量の比を酸素増感比(OER)という。

OER = (無酸素下である効果を得るのに必要な線量)/(酸素存在下で同じ効果を得るのに必要な線量)

OERは酸素分圧の上昇につれて大きくなるが、酸素分圧が 20 mmHg を越えるとほぼ一定となる。低LET(線エネルギー付与)放射線ではOERは 2.5 ~ 3 程度であるが、 高LET放射線では酸素効果は小さい。

③ 保護効果

ラジカルと反応しやすい物質が照射野に存在すれば、生じたラジカルは除去されるので放射線の効果は減少する。これを保護効果といい、このような働きを持つ物質を放射線防護剤あるいは単に防護剤という。 SH化合物などのラジカルスカベンジャーはその一例である。SH基にはシステイン、システアミン、グルタチオン、シスタミンがある。またOH基も還元作用があることから、 アルコール、グリセリン、ポリエチレングリコールなども同様に保護効果を持つ。

④ 温度効果

温度が低下した状態では放射線効果は減少する。これを温度効果という。ラジカルの拡散が低温により妨げられるためだと考えられている。

問26

放射線荷重係数に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 放射線の種類によっては、そのエネルギーにより値が異なる場合がある。

B 確定的影響を評価するための係数である。

C 線量率が高くなるとその値は大きくなる。

D 外部被ばく及び内部被ばくいずれの評価にも考慮されている。

1 ABCのみ 2 ABのみ 3 ADのみ 4 CDのみ 5 BCDのみ

解答 3

A 正 中性子はエネルギーによって値が異なる。

B 誤 確率的影響を評価するための係数である。

C 誤 確定的影響を考慮しなくてよい線量範囲であれば、線量率だけでなく被ばく条件にかかわらず適用することができる。

D 正

問27

ICRP 2007 年勧告における放射線荷重係数に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A すべてのエネルギーの光子に対して 1 が与えられている。

B すべてのエネルギーの電子に対して 2 が与えられている。

C すべてのエネルギーの陽子に対して 2 が与えられている。

D すべてのエネルギーの中性子に対して 10 が与えられている。

E すべてのエネルギーのα粒子に対して 20 が与えられている。

1 ABCのみ 2 ACEのみ 3 ADEのみ 4 BCDのみ 5 BDEのみ

解答  ICRP 2007 年勧告における放射線荷重係数についての表を下記に示す。

問28

細胞致死作用を指標とした RBE に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 照射時の酸素分圧の違いによらず一定である。

B 中性子線ではエネルギーの違いによらず一定である。

C LET の違いによって異なる。

D 線量率の違いによって異なる。

1 ABCのみ 2 ABのみ 3 ADのみ 4 CDのみ 5 BCDのみ

解答 4

A 誤 酸素存在下で放射線影響は増強されるので、酸素分圧により RBE は変化する。

B 誤 中性子はエネルギーによって影響の度合いが変化する。

C 正 一般に、RBE は LET の関数として表される。

D 正 線量率効果がある。

問29

悪性腫瘍の放射線治療において、治療成績に影響を与える要因として正しいものの組み合わせはどれか。

A 腫瘍細胞の放射線感受性

B 腫瘍周囲の正常細胞の放射線感受性

C 腫瘍細胞の増殖速度

D 腫瘍細胞の酸素分圧

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 5

A 正 腫瘍細胞の放射線感受性が高ければ治療効果を上げやすい。

B 正 腫瘍細胞の正常細胞の放射線感受性が高ければ、照射すべき線量を腫瘍細胞に照射することの妨げとなる場合がある。

C 正 増殖速度は、照射の分割回数や照射する期間に影響を与える。

D 正 低酸素細胞の放射線感受性は低くなる。

問30

組織荷重係数に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。

A 確率的影響を評価するための係数である。

B 臓器・組織の等価線量にこの係数を乗じ、全身にわたって積算することによって実効線量が与えられる。

C 線量率の高低によらず、臓器・組織ごとに一定の値が与えられている。

D 年齢によらず、臓器・組織ごとに一定の値が与えられている。

1 ABCのみ 2 ABDのみ 3 ACDのみ 4 BCDのみ 5 ABCDすべて

解答 5

A 正 確率的影響の臓器ごとの感受性を考慮した係数である。

B 正 この問いは実効線量の定義である。

C 正 確定的影響を考慮しなくてよい線量範囲であれば、線量率だけでなく被ばく条件にかかわらず適用することができる。

D 正 男女両方についても区別なく適用できる。

DNAの構成

放射線の生物作用を理解する上で重要なDNAはデオキシリボースとリン酸と塩基から構成される。デオキシリボースとリン酸は交互に並んで結合し、主鎖を形成する。この鎖が2本、互いに逆向きに並んで二重らせん構造を形成する。塩基にはアデニン(A)、 シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4種類があり、向かい合った鎖の A と T、G と C が互いに水素結合で結合している。 A と T の間の水素結合の数は2個であり、G と C との間の水素結合 の数は3個である。正常ヒト2倍体細胞1個のDNAでは、A と T の対、G と C の対が合計で約6 × 10^9 個並んでいる。

ヒトのゲノムは30億塩基対とされており、ここでは2倍体について聞かれているので 6 × 10^9 個となる。通常正常ヒト2倍体細胞は1個当たり46本の染色体があり、6 × 10^9 個の塩基対がある。

電離放射線によって引き起こされるDNA損傷には、塩基損傷、塩基遊離、架橋形成、1本鎖切断、2本鎖切断などがある。正常ヒト2倍体細胞に 1Gy の X線を照射すると、細胞1個当たりDNA鎖切断は約1000個、DNA2本鎖切断は約40個生成する。

補足

2009年米国放射線防護学会では、1 mGy で 1 細胞当たり 1 本鎖切断は 1 個、2 本鎖切断は 0.04 個という報告がある。

DNA2本鎖切断が起こると、その近傍において、ヒストンを構成する H2A の一種である H2AX がリン酸化を受けγ-H2AXが生成する。そのため、放射線照射した細胞をγ-H2AXに対する蛍光標識抗体を 用いて染色し、蛍光顕微鏡で観察すると、ドット状に見える。これをγ-H2AXのフォーカスという。このフォーカスを数えることによりDNA2本鎖切断の生成や修復を調べることができる。例えば、DNA2本鎖切断修復酵素の一つであるDNAリガーゼⅣを欠損する細胞に 2 Gy のX線を照射し、2時間後に残っている γ-H2AXのフォーカスを数えると。正常細胞に同様の処置を施した時よりも多い。

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

https://www.radiologist-study.org

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