問1
標識化合物の利用法に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A [3H]ヒスチジンを用いて、タンパク質合成量を調べる。
B [51Cr]クロム酸ナトリウムを用いて、赤血球の寿命を調べる。
C [125I]抗インスリン抗体を用いて、インスリン量を調べる。
D [125I]ヨードウリジンを用いて、タンパク質合成量を調べる。
1 ABCのみ 2 ABのみ 3 ADのみ 4 ADのみ 5 BCDのみ
解答 3
くすり | 剤形 | 検査目的 | 保険適用 |
---|---|---|---|
18F – フルオロデオキシグルコース(FDG) | 注射剤 | 悪性腫瘍、てんかん、虚血性心疾患の検査 | 有 |
15O – 酸素ガス | 吸入剤 | 脳酸素消費量の検査 | 有 |
15O – 一酸化炭素ガス | 吸入剤 | 脳血流量の検査 | 有 |
15O – 二酸化炭素ガス | 吸入剤 | 脳血流量の検査 | 有 |
15O – 水 | 注射剤 | 脳、心筋血流の検査 | 無 |
11C – メチオニン | 注射剤 | 腫瘍検査 | 無 |
11C – 酢酸 | 注射剤 | 腫瘍検査、心筋機能検査 | 無 |
11C – コリン | 注射剤 | 腫瘍検査 | 無 |
11C – ラクロプライド | 注射剤 | 脳ドーパミン神経機能の検査 | 無 |
11C – フルマゼニル | 注射剤 | てんかん、脳神経細胞障害の検査 | 無 |
13N – アンモニア | 注射剤 | 心筋血流量の検査 | 無 |
18F – フッ化ナトリウム | 注射剤 | 骨疾患の検査 | 無 |
A 正 ヒスチジンはアミノ酸であり、タンパク合成量の測定に用いられる。
B 正 赤血球寿命測定の他、循環血液量の測定にも用いられる。
C 正 125I 標識抗体は、ラジオイムノアッセイに用いられ、生体内生理活性物質など微量な分子の定量に用いる。
D 誤 ウリジンは、核酸構成塩基の一つとして RNA に取り込まれるため、その標識体は RNA 合成量の測定に用いられる。
問2
心機能・血流量を調べるのに用いられる放射性核種として、正しいものの組み合わせはどれか。
A 59Fe
B 99mTc
C 198Au
D 201Tl
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 4
問3
γ線による間接作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 主として水の電離又は励起によって生じるフリーラジカルの作用である。
B 凍結状態で照射すると大きくなる。
C グルタチオンなど SH 基を持つ物質を添加することにより、低減することができる。
D 酸素分圧を低下させることで、低減することができる。
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 1
間接作用の修飾要因
① 希釈効果
希釈効果とは、溶液を照射する場合に溶質の濃度が低い方が高い時よりも溶質に対する放射線の影響の割合が大きくなることをいう。主に酵素濃度が減少する。 ① 溶質として存在する酵素などの生体高分子数の不活化を指揮とした場合吸収線量が一定であれば不活性化した分子数は濃度によらず一定 → 同じ条件での不活性化率は濃度の増加に伴い低下する。
② 酸素効果
組織内の酸素分圧が放射線効果に影響を与えることを酸素効果という。酸素存在下での放射線効果は、無酸素下での放射線効果に比べて大きい。これは酸素分子が電子親和性が大きく、 電子を取り込んでスーパーオキシドという反応性に富むラジカルを産生するためである。また、照射後に酸素濃度を高めたとしても酸素効果は見られない。同じ生物学的効果を 得るのに必要な無酸素下での線量と酸素存在下での線量の比を酸素増感比(OER)という。
OER = (無酸素下である効果を得るのに必要な線量)/(酸素存在下で同じ効果を得るのに必要な線量)
OERは酸素分圧の上昇につれて大きくなるが、酸素分圧が 20 mmHg を越えるとほぼ一定となる。低LET(線エネルギー付与)放射線ではOERは 2.5 ~ 3 程度であるが、 高LET放射線では酸素効果は小さい。
③ 保護効果
ラジカルと反応しやすい物質が照射野に存在すれば、生じたラジカルは除去されるので放射線の効果は減少する。これを保護効果といい、このような働きを持つ物質を放射線防護剤あるいは単に防護剤という。 SH化合物などのラジカルスカベンジャーはその一例である。SH基にはシステイン、システアミン、グルタチオン、シスタミンがある。またOH基も還元作用があることから、 アルコール、グリセリン、ポリエチレングリコールなども同様に保護効果を持つ。
④ 温度効果
温度が低下した状態では放射線効果は減少する。これを温度効果という。ラジカルの拡散が低温により妨げられるためだと考えられている。
フリーラジカルの生成
励起・・・H2O → H*(還元性) + OH*(酸化性)
電離・・・H2O → H2O+ + e- 、H2O+ → H+ + OH* もしくは H2O+ + H2O → H3O+ + OH*
H3O+ + e- → H* + H2O
電子の周りには水分子が集まり水和電子が生成される。e- + nH2O → e(aq)-[還元性]
e(aq)- + H2O → OH- + H* もしくは、e(aq)- + H+ → H*、e(aq)- + O2 → O2*-(スーパーオキシドラジカル)
H* + OH* → H2O となり、H*は生体分子の水素を引き抜いて反応を起こし、10^(-10)秒の寿命をもつ。
還元性を示す分子・・・H*、e(aq)-、H2
酸化性を示す分子・・・OH*、H2O2
ラジカルの再結合
生成されたH*やOH*といったラジカルは拡散し広がっていくが、その過程でラジカル同士再結合するのもある。ラジカルの再結合はラジカル同士の距離が近いと起きやすい。ラジカルの生成密度は、低LET放射線では 疎で高LET放射線では密であることから、低LET放射線では間接作用の寄与が大きいが、高LET放射線では間接作用の寄与が小さくなる。
A 正 特に、OH ラジカル(ヒドロキシラジカル)の影響が大きい。
B 誤 凍結状態ではラジカルの核酸が抑制されるため影響は小さくなる。
C 正 ラジカルスカベンジャーによる保護効果という。グルタチオンの他、システイン、システアミンなども同様な効果を持つ。
D 正 酸素分圧が 20 mmHg 以下になると、影響が低下する。
問4
酸素効果に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A γ線は速中性子線よりも酸素効果が小さい。
B 照射後に酸素分圧を高めても酸素効果はみられない。
C 腫瘍細胞にみられ、正常細胞ではみられない。
D 培養細胞だけでなく、細菌でも酸素効果がみられる。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 4
A 誤 間接効果はラジカルの作用であるので、一般に高 LET 放射線の方が効果が少ない。
B 正 照射時に酸素があることが必要である。
C 誤 腫瘍細胞は低酸素細胞なので感受性が低く、正常細胞は血管から酸素が供給され酸素濃度が高い。放射線によるがん治療において、このがんの低酸素細胞を効率的に死滅させる方法の研究が進められている。
D 正 酸素は増感剤であり、細菌においても酸素効果はみられる。
問5
放射線による DNA 損傷とその修復に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 架橋は放射線に特異的な損傷である。
B X線とγ線では、DNA 損傷の種類は同じである。
C 1 本鎖切断より 2 本鎖切断が生じやすい。
D 非相同末端結合修復は 2 本鎖切断を修復する。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 4
A 正 化学物質でも生じる。
B 誤 X線とγ線は同じ光子であり、生じる DNA 損傷に差はない。
C 正 2本鎖切断は1本鎖切断 よりも生じにくく、10 倍以上のエネルギーを必要とする。
D 誤 主に G1 期に発現する 2 本鎖切断修復機構である。
問6
次の遺伝性疾患由来の細胞のうち、放射線に対して高い致死感受性を示すものの組み合わせはどれか。
A 色素性乾皮症
B レッシュ・ナイハン症候群
C フェニルケトン症候群
D 毛細血管拡張性運動失調症
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 4
A 誤 色素性乾皮症は紫外線によるチミジンダイマーの形成が起きて起こる。
B 誤 レッシュ・ナイハン症候群は伴性劣性遺伝で、男子に限って発症する先天性プリン代謝異常で、放射線とは無関係である。
C 誤 フェニルケトン症候群はフェニルアラニン(アミノ酸)が代謝されず、体内にたまる常染色体劣性遺伝病。フェニルアラニンが体内にたまると、フェニルケトンという物質が尿に排泄されるため、この病名がついている。放射線とは無関係である。
D 正 毛細血管拡張性運動失調症は常染色体劣性遺伝形式をとり、運動失調と毛細血管拡張、細胞性免疫不全を呈する疾患である。これは、ATM遺伝子の異常により、細胞周期の進行が止まらなくなることが原因であり、免疫グロブリンAやEの欠失、Tリンパ球の欠失などがみられる。毛細血管拡張性運動失調症はチェックポイントを欠き、DNA損傷を修復できないため、高率に発がんする。また放射線に対して高感受性を示す。
問7
放射線による細胞の増殖死に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 照射された後に分裂を経ないで起こる細胞死を増殖死という。
B 増殖死はコロニー形成法で調べることができる。
C 増殖死に伴い、しばしば巨細胞が観察される。
D アポトーシスは増殖死の一つである。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 3
A 誤 分裂を経ずに死に至るのは間期死である。
B 正 増殖してできたコロニーの割合から生存率を調べる。
C 正 増殖死に至るまで数回の分裂が起こるが、この際にうまく分かれないと巨細胞が生じる。
D 誤 アポトーシスは、高感受性の間期死である。
問8
X線による突然変異に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 点突然変異は遺伝性疾患の原因となる。
B 自然突然変異に比べて欠失型が少ない。
C 培養細胞では HPRT 遺伝子の変異が検出によく用いられる。
D α線による突然変異に比べて単位吸収線量当たりの誘発率が高い。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 2
A 正 点突然変異は遺伝性疾患の原因となる。
B 誤 欠失が生じるには 2 本鎖切断が生じる必要があり、放射線で誘発される割合が多い。
C 正 HAT 培地(ヒポキサチン、アミノプテリン、チミジンを含む)において、野生株はヒポキサチンを HPRT によってイノシン酸に変換できるため致死的とならないが、HPRT の欠損株では致死的になる。この性質を利用して、HPRT 遺伝子の変異を調べる。
D 誤 α線の方が高 LET であり、同一線量の場合、密に損傷が起こるため、修復されにくく、突然変異となりやすい。
問9
放射線による染色体異常に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A G0 期リンパ球の被ばくでは染色分体型異常が主に生じる。
B 末梢血リンパ球の染色体異常の出現頻度から被ばく線量が推定できる。
C 二動原体は発がんの主な原因である。
D 転座や逆位は安定型異常である。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 4
A 誤 G0 期は G1 期が長く続く状態をいい、G1 期に被ばくすると、S 期に異常がそのまま合成されるので、染色体型の異常となる。
B 正 主に二動原体染色体を観察することにより生物学的線量評価を行う。
C 誤 二動原体染色体は不安定型の異常で長く残らないので、がんの主な原因とならない。
D 正 転座、逆位、欠失は安定型で、二動原体染色体、環状型は不安定型である。
問10
低 LET 放射線被ばくにおける致死感受性に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 細胞周期の中で G1 期前半が最も感受性が高い。
B 一般に、同一線量を低線量率で照射すると致死感受性が低下する。
C 水晶体上皮細胞は心筋細胞に比べて致死感受性が高い。
D ラジカルスカベンジャーは致死感受性を高める。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 3
A 誤 G2 期後半から M 期の感受性が最も高い。
B 正 亜致死損傷(SLD)からの回復があるため、感受性は低下する。
C 正 心筋は筋肉細胞であり、放射線感受性はかなり低い。
D 誤 ラジカルスカベンジャーはラジカルを除去するので、感受性を低くする。
問11
6 Gy のγ線急性被ばくにおいて被ばく者の半数以上で認められる前駆症状のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 嘔吐
B 呼吸障害
C 意識障害
D 発熱
1 AとC 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 2
6 Gy の被ばくによる急性放射線障害の症状として、発熱、下痢・嘔吐、めまい、血圧低下などがみられる。
問12
γ線全身被ばくによる急性放射線症に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 前駆期、発症期、回復期/死亡の3つの時期に分けられる。
B ヒトの半致死線量は 3.5 ~ 4.5 Gy である。
C 4 Gy の被ばく後 24 時間以内に末梢血中の顆粒球数が上昇する。
D 末梢血中のリンパ球の減少は 1 Gy 未満の被ばくでは認められない。
E 20 Gy の被ばくでは消化管障害が主な死因となる。
1 ABDのみ 2 ABEのみ 3 ACDのみ 4 BCEのみ 5 CDEのみ
解答 4
A 誤 前駆期、潜伏期、発症期、回復期/死亡の 4 期に分けられる。
B 正 ヒトの半致死線量(LD(50/60))は 3 ~ 5 Gy とされている。
C 正 幼若な顆粒球が血液プールから放出され、初期白血球増加がみられることがある。
D 誤 末梢リンパ球減少のしきい線量は 0.25 ~ 0.5 Gy である。
E 正 この線量を超えると中枢神経障害がみられる。
問13
次の放射線障害のうち、8 Gy のγ線急性局所被ばくで認められるものの組み合わせはどれか。
A 男性の永久不妊
B 女性の永久不妊
C 一時的脱毛
D 皮膚の潰瘍
1 ABCのみ 2 ABのみ 3 ADのみ 4 CDのみ 5 BCDのみ
解答 1
A 正 男性の永久不妊・・・しきい線量は 3.5 Gy ~ 6 Gy
B 正 女性の永久不妊・・・しきい線量は 2.5 ~ 6 Gy
C 正 一時的脱毛・・・しきい線量は 3 Gy 以上
D 誤 皮膚の潰瘍・・・しきい線量は潰瘍で 10 Gy 以上。難治性潰瘍では 20 Gy 以上
問14
放射線被ばくによる白内障に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 潜伏期は線量が大きくなると短くなる。
B 3 Gy の X線被ばくでは、被ばく後 1 ヵ月以内に生じる。
C 線量率が低下するとしきい線量は低下する。
D 進行した放射線白内障では、他の原因による白内障と区別できない。
1 AとC 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 2
A 正 潜伏期間は線量が大きい方が一時的に短くなる。
B 誤 白内障は代表的な晩発性影響である。
C 誤 線量率が低くなると影響は小さくなるので、しきい線量は大きくなる。
D 正 放射線誘発の白内障と老人性白内障の区別はできない。
問15
生殖腺の放射線障害に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 成人女性では年齢を増すと少ない線量で永久不妊になる。
B 男性ホルモン産生に関係する間質細胞は、精原細胞よりも放射線致死感受性が高い。
C 精子は精原細胞よりも放射線致死感受性が高い。
D 一時的不妊のしきい線量は女性よりも男性で低い
1 AとC 2 AとD 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 2
A 正 20 歳代では 7 ~ 8 Gy、40歳代では 3 Gy 程度である。
B 誤 一時的不妊のしきい線量が低いことから分かるように、精原細胞の感受性は高い。
C 誤 致死感受性は分化が進む、つまり成熟するほど低くなる。
D 正 一時的不妊のしきい線量は、男性で 0.15 Gy、女性では 0.65 ~ 1.5 Gy
問16
X線による皮膚障害に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 被ばくしてすぐに痛みを感じる。
B 同程度の障害を起こすのに必要なエネルギーは熱傷の場合よりも大きい。
C 同一吸収線量を分割して被ばくした場合は、1回で被ばくした場合に比べてしきい線量が高くなる。
D 初期紅斑のしきい線量はおおよそ 2 Gy である。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 5
A 誤 初期に痛みがないため、どの部位が被ばくしたかを早く把握することが重要となる。
B 誤 同じ障害を起こすのに必要な放射線のエネルギーは 1/40 程度である。
C 正 分割被ばくの場合は、修復があるため、症状は軽くなる。
D 正 初期紅斑のしきい線量は一般に 3 Gy とされているが、2 Gy という資料もあるため、A、B の選択肢が明らかに誤りなためこの解は正とする。
問17
γ線で唾液腺が 8 Gy 急性被ばくして 48 時間以内に認められるものとして、正しいものの組み合わせはどれか。
A 血液中へのアミラーゼの逸脱
B 唾液腺の腫脹
C 唾液腺の痛み
D 唾液腺からの出血
1 ABCのみ 2 ABのみ 3 ADのみ 4 CDのみ 5 BCDのみ
解答 1
本問は唾液腺の被ばくという設問であるが、全身急性放射線症の診断として、唾液腺の腫脹と唾液腺の痛み(疼痛・圧痛)は、前駆症状として、診断上重要な項目とされている。さらに血中アミラーゼの逸脱(上昇)も被ばく 2 ~ 3 日間に観察される。血清アミラーゼの上昇は唾液腺障害の指標となる。
問18
放射性ヨウ素の急性摂取による内部被ばくに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 10 Gy の被ばくで甲状腺機能低下症になる。
B 1 mGy の被ばくで甲状腺機能亢進症になる。
C 吸入により体内に摂取された放射性ヨウ素は主に尿により体外に排泄される。
D 放射性ヨウ素吸入摂取の 24 時間後に安定ヨウ素剤を利用すれば、放射性ヨウ素の甲状腺への集積はほぼ完全に抑制される。
1 ABDのみ 2 ABのみ 3 ACのみ 4 CDのみ 5 BCDのみ
解答 3
A 正 甲状腺機能低下症のしきい線量は 5 Gy。
B 誤 甲状腺機能亢進症の治療のために、放射性ヨウ素を用いることはあるが、放射線被ばくで亢進症は起こらない。
C 正 ヨウ素は尿から排泄される。
D 誤 安定ヨウ素剤は、放射性ヨウ素の吸入の可能性のある 24 時間前に服用するのがよく、吸入後でも 2 時間までなら甲状腺への集積の低減に有効である。
問19
X線被ばくによる放射線肺炎に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 放射線肺炎では呼吸困難が起きない。
B 全身被ばくでは骨髄障害よりも高い線量で起こる。
C 一般に、肺の一部が被ばくしても肺全体に炎症が生じる。
D 高線量では放射線肺炎が発生した後に肺線維症が生じる。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 4
A 誤 炎症が起こるので、呼吸困難を伴う。
B 正 放射線肺炎のしきい線量は 6 ~ 8 Gy。骨髄障害は 0.5 Gy 程度。
C 誤 肺の部分被ばくの場合は、全照射野の時に比べてしきい線量は高くなる。障害が起こるのは照射を受けた部分である。
D 正 急性の放射線肺炎(炎症)の後、線維化が始まる。
問20
放射線被ばくによる乳がんの発生に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせは、次のうちどれか。
A 自然発生した乳がんと異なる病理学的特徴を持つ。
B 被ばく後約 30 年してから増加する。
C 被ばく時年齢が低いほど発生の過剰相対リスクが高い。
D 女性ホルモンが影響する。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 5
A 誤 他のがんと同様に、放射線誘発であることの特徴はない。
B 誤 被ばく時年齢を固定すると、ERR は到達年齢または被ばくからの経過時間のどちらにも関連しない傾向を示す。つまり、潜伏期間は 30 年とは言えない。
C 正 被ばく時年齢が低いほど過剰相対リスクが高い。
D 正 放射線関連の乳がんは一般の年齢別集団の発生率に密接に関連している(例えば、出産歴の有無など)ということから、女性ホルモンとの関連がある。
問21
次のうち、原爆被爆者におけるがんの発生の過剰相対リスクが高い組織・臓器の組み合わせはどれか。
A 肺
B 子宮
C 膵臓
D 腎臓
E 骨髄(赤色)
1 AとB 2 AとE 3 BとC 4 CとD 5 DとE
解答 2
相対リスクとは、自然発生数の何倍に増えるかという考え方で、過剰がつく場合は自然発生数をのぞいて考える。
問22
原爆被爆者における放射線誘発がんに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 被ばく線量と白血病の過剰絶対リスクの関係は、直線ー2次曲線(LQ)モデルによくあてはまる。
B 被ばく線量と固形がんの過剰相対リスクの関係は、直線(L)モデルによくあてはまる。
C 最も潜伏期の短いのは、白血病である。
D 固形がんの過剰相対リスクは、被爆時年齢が若手の方が恒例の場合よりも高い。
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
解答 5
リスク予測モデル
発がんによる生涯リスクの推定で将来の発生数を現時点での発生数から予測するための発現分布モデル。
リスク係数
単位線量あたりのがん発生率。リスク係数を算定する場合、全てのガンに直線モデルを適用して高線量・高線量域からずれを補正するために線量・線量率効果係数(DDREF)として 2 を採用している。この線量・線量率効果係数(DDREF)は高線量・高線量率データを低線量・低線量率に外挿するための係数。
絶対リスク予測モデル
線量あたりどれだけ影響が発生するかという評価法。自然発生が少ない白血病が適合。絶対リスクの臓器間の大小は単位線量当たりの発生数として表すことができる。年齢にかかわらず一定で、年齢が関わるのは相対リスク。
相対リスク予測モデル
線量あたり自然発生率の何倍の影響が発生するという評価法。自然発生が多い固形がんが適用。相対リスクの大小は自然発生が多いものは小さくなり、自然発生が少ないものは大きくなる。 日本人では白血病の自然発生は少なく、胃がんは多い。2012年に発表された寿命調査第14報では、全固形がんの過剰相対リスクは 1 Gy あたり 0.42 とされている。したがって相対リスクは 1.42 となる。
補足
相対リスクは自然発生の何倍かを考えており、過剰相対リスクは自然発生分の 1 を引いた値である。したがって相対リスクと過剰相対リスクの差は常に 1 である。また相対リスクは白血病が最も高くなる。 相対リスクの大小関係は自然発生が多いものは小さく、少ないものは大きい。
原爆被爆者の疫学調査
① 発がんの増加が認められる臓器・・・胃、肺、白血病、肝、乳房。認められていない臓器・・・膵、直腸、胆、子宮。前立腺、腎、喉頭。
② ヒトでは遺伝的影響の増加は有意ではない。
③ 組織荷重係数の大きさはガンの感受性を表している。
④ 組織荷重係数は低線量被ばくによる確率的影響を評価する。
⑤ 器官形成期の被ばくの影響で小頭症が胎児奇形で唯一確認されている。その他に精神発達遅滞、低身長もあげられる。
白血病と固形ガンの特徴
白血病
① 造血細胞由来の腫瘍
② 原爆被ばく後最小潜伏期間 2年、ピーク 6 ~ 7年
③ 白血病では潜伏期間は被ばく線量が大きい程短い
④ 被ばく時の年齢が若い程、潜伏期間が短い
⑤ LQ(直線-2次曲線)モデルがよく適合する・・・低LET放射線の場合、被ばく線量と不安定型染色体異常の頻度の関係はLQモデルに当てはまる。
⑥ 絶対リスク予測モデルが適合
固形ガン
① 最少潜伏期間は 10 年
② 潜伏期間は年齢によって複雑
③ 若年被ばくの方が潜伏期間が短い
④ 直線モデル(Lモデル)が適合・・・X線による線量の突然変異頻度と吸収線量との関係は直線的とされている。
⑤ 相対リスク予測モデルが適合
A 正 白血病の過剰絶対リスク(EAR)の線量ー反応関係は、下に凸の曲線(直線ー2次関数フィット型)を示す。
B 正 固形がん死亡率の過剰相対リスク(ERR)は、線量範囲 0 ~ 3 Sv で直線を示す。
C 正 白血病の最小潜伏期間は 2 年とされている。固形がんは 10 年。
D 正 相対リスクであるため、がんの発症時の年齢における自然発生率と関係する。高齢になれば、自然発生率が増えるため、相対リスクとしては大きくなりにくい。また、高齢での被ばくでは、がんの潜伏期が長いため、他の原因で死亡してしまうという要因もある。
問23
次の放射性核種と主な分布臓器の組み合わせで正しいものはどれか。
A 32P – 脳
B 90Sr – 骨
C 137Cs – 全身
D 222Rn – 骨
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 3
放射性核種の臓器親和性を下の表に示す。
放射性核種の臓器親和性
核種 | 臓器親和性 |
---|---|
32P , 45Ca , 65Zn , 90Sr , 226Ra , 232Th , 238U , 239Pu , 241Am | 骨 |
40K , 137Cs | 筋肉 |
222Rn , 232Th , 238U , 239Pu | 肺 |
53Fe , 59Fe | 骨髄 |
3H , 14C , 24Na , 40K , 137Cs | 全身 |
59Fe , 60Co , 65Zn , 232Th , 239Pu | 肝臓 |
131I | 甲状腺 |
59Fe | 脾臓 |
問24
内部被ばくに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 放射性核種の摂取経路として、経皮(創傷を含む)、経気道(吸入)および経口である。
B 主として遺伝的影響をもたらす。
C 生物学的半減期が影響する。
D 飛程の短い放射線の影響は小さい。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 2
A 正
B 誤 摂取後は臓器親和性に従い蓄積するので、生殖腺の被ばくが大きいということはない。
C 正 同じ生物学的半減期で、同じエネルギーを放出する核種であれば、生物学的半減期が短い核種の方が内部被ばく線量は小さくなる。
D 誤 1 壊変あたり同じエネルギーを放出するとすれば、飛程の短いα線はすべてのエネルギーを体内に落とすが、γ線であれば体外に飛び出していくものもある。
問25
預託実効線量に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 成人の場合、組織・臓器が受ける吸収線量率を 50 年にわたって積算した線量である。
B 単位はシーベルトである。
C 預託等価線量とその組織・臓器の組織荷重係数との積の総和として求められる。
D 長期にわたる外部被ばくを評価するために用いられる。
1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD
解答 4
A 誤 預託実効線量は体内に取り込まれた放射性物質による内部被ばくの実効線量をおよそ一生分について積算した値。成人では摂取後 50 年間、子供は 70 歳になるまでの年数で計算する。
B 正
C 正
D 誤 預託線量は、内部被ばく線量の概念である。
問26
器官形成期における胎内被ばくに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 胎児に奇形が発生する可能性が妊娠期間中で最も高い。
B 出生前死亡の頻度が高くなる。
C 発がんリスクは増加しない。
D 精神遅滞は起こらない。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 1
胎児期の放射線影響を下の表に示す。
胎児期の放射線影響
胎児期の区分 | 期間 | 発生する影響 | しきい線量(Gy) |
---|---|---|---|
着床前期 | 受精 8 日まで | 胚死亡 | 0.1 |
器官形成期 | 受精 9 日 ~ 受精 8 週 | 奇形 | 0.15 |
胎児期 | 受精 8 週 ~ 受精 25 週 | 精神発達遅滞 | 0.2 ~ 0.4 |
受精 8 週 ~ 受精 40 週 | 発育遅延 | 0.5 ~ 1.0 | |
全期間 | – | 発がんと遺伝的影響 | – |
A 正
B 正 奇形の発生が起こるため、その結果として出生前死亡の頻度が高くなる。
C 誤 胎生期の全期間を通じて、発がん(確率的影響)のリスクは存在する。
D 誤 精神発達遅滞は 受精 8 週 ~ 受精 25 週 の被ばくにより起こると考えられている。
問27
器官形成期の胎児がγ線全身被ばくした場合に、奇形発生のしきい線量[Gy]として適切なものはどれか。
1 0.01
2 0.03
3 0.1
4 0.5
5 1
解答 3
胎児期の放射線影響
胎児期の区分 | 期間 | 発生する影響 | しきい線量(Gy) |
---|---|---|---|
着床前期 | 受精 8 日まで | 胚死亡 | 0.1 |
器官形成期 | 受精 9 日 ~ 受精 8 週 | 奇形 | 0.15 |
胎児期 | 受精 8 週 ~ 受精 25 週 | 精神発達遅滞 | 0.2 ~ 0.4 |
受精 8 週 ~ 受精 40 週 | 発育遅延 | 0.5 ~ 1.0 | |
全期間 | – | 発がんと遺伝的影響 | – |
問28
放射線荷重係数に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 電子線の場合はエネルギーもよって値が異なる。
B 確定的影響を評価するための係数である。
C 線量率に関わらず同一の値が与えられている。
D X線とγ線については同一の値が与えられている。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 5
放射線荷重係数を下に示す。
放射線荷重係数 ICRP 1990
光子 | 放射線荷重係数 |
---|---|
光子(X線、γ線) | 1 |
電子、β線、μ粒子 | 1 |
中性子(10 keV 未満) | 5 |
中性子(10 keV ~ 100 keV まで) | 10 |
中性子(100 keVを超え ~ 2 MeV まで) | 20 |
中性子(2 MeV ~ 20 MeV まで) | 10 |
中性子(20 MeV 未満) | 5 |
陽子線(2 MeVを越える) | 5 |
陽子線 | 2 |
α粒子、核分裂片、重原子 | 20 |
放射線荷重係数 ICRP 2007
光子 | 放射線荷重係数 |
---|---|
光子(X線、γ線) | 1 |
電子、β線、μ粒子 | 1 |
中性子(エネルギーの連続関数で設定) | 2.5 ~ 20 |
陽子線 | 2 |
α粒子、核分裂片、重原子 | 20 |
下の表に詳しく示す。
A 誤 エネルギーによって値が変化するのは中性子だけである。
B 誤 確率的影響を評価するための実効線量を評価するための係数。
C 正 線量率については、線量・線量率効果係数(DDREF)で考慮している。
D 正 ICRP pub.103 では、光子としてX線もγ線も 1 が与えられている。
問29
RBEに関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A 基準放射線としては、一般に 200 kV ~ 250 kV の X線が用いられる。
B 細胞致死、突然変異誘発、発がんなど指標によって値が異なる。
C 照射時の酸素濃度が変化してもその値は変わらない。
D 線量率が変化してもその値は変わらない。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 1
A 正 200 ~ 250 kV とあるように、管電圧であることに注意。
B 正 生物作用ごとに、基準放射線との影響の大きさ(違い)を見るための指標。
C 誤 照射条件が変われば影響の大きさは変わるので、RBE の値は変化する。
D 誤 線量率も変われば RBE の値は変化する。
問30
γ線と比べた速中性子の生物作用の特徴として、正しいものの組み合わせはどれか。
A 致死作用の細胞周期依存性が大きい。
B 間接作用の割合が大きい。
C 修復されにくい DNA 損傷を引き起こす。
D 細胞生存率曲線において肩が小さい。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
解答 5
A 誤 高 LET 放射線の方が間接作用の修飾をはじめ、さまざまな影響の修飾は小さい。
B 誤 高 LET 放射線では、直接作用の割合が大きくなる。
C 正 RBE が大きいため、2 本鎖切断などより重大な損傷を引き起こす。
D 正 亜致死損傷が少ないため、生存率曲線の肩は小さくなる。
放射線被ばくによる急性障害と晩発影響についての記述
Ⅰ
高線量放射線を一度に全身被ばくしたような場合、数週間以内に現れる障害を急性障害という。占領によって症状は異なるが、典型的な経過は以下の 4 つの病期に分けられる。被ばく直後から数時間以内に悪心、嘔吐、発熱など非特異的な症状が現れる前駆期、これらの症状が一時的に消失する潜伏期、骨髄や消化管障害、脱水など多彩な症状が現れる発症期、その後回復期あるいは死亡の 4 期である。障害の現れ方やその時期は、線量及び臓器・組織によって異なる。例えば、ヒトが高線量のγ線を全身被ばくしても医療処置がなされないと、3 ~ 10 Gy では 3 ~ 4 週間程度で骨髄の障害により、10 ~ 20 Gy では、1 ~ 2 週間程度で腸管の障害により死亡する危険性が高い。
解説
Ⅰ は急性放射線症についての出題である。前駆期は被ばく後 48 時間以内を指し、悪心、嘔吐、下痢、発熱、頭痛、意識障害等の症状が現れる。唾液腺の腫脹、圧痛および口腔粘膜の毛細血管拡張などが診察時の留意点と言われている。
Ⅱ
臓器や組織の急性障害は、主に臓器・組織の実質細胞の死によって起こると考えられる。臓器や組織によって実質細胞の放射線感受性が違うために、障害を認めるようになるしきい線量も臓器や組織によって異なる。一般に、現れる障害の重篤度は、被ばくした線量が大きいと高い。1 回のγ線による被ばくでは、抹消血中のリンパ球数の減少は 0.5 Gy 以上の被ばくによって起こる。女性の永久不妊は 6 Gy 以上の生殖腺被ばくによって起こり、男性の永久不妊は 6 Gy 以上の生殖腺被ばくによって起こる。又、男性の一時的不妊のしきい線量は 0.15 Gy で、女性の一時的不妊が起こる線量は男性に比べて高い。
Ⅲ
晩発影響としては、発がん、白内障、遺伝的影響などが挙げられる。発がんと遺伝的影響は、確率的影響と考えられている。一般に、被ばくしてから発がんまでの期間は固形がんでは白血病に比べて長い。白内障は確定的影響に分類され、水晶体の混濁による。遺伝的影響は放射線に被ばくした生殖細胞に遺伝子の突然変異や染色体異常が起こることによる。遺伝的影響のリスクの推定には倍加線量法と、線量効果関係を動物実験によって求め、 これをヒトに適用して行う直接法とがある。遺伝的影響のリスクは、倍加線量が大きいほど低く、一般的に線量率が低いほど低い。UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会) 2001 年報告では倍加線量を 1 Gy と見積もっている。
また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。
https://www.radiologist-study.org