水中や組織等価物質中の吸収線量の測定に関する記述
Ⅰ
水中や組織等価物質中の吸収線量の測定は、放射線治療や放射線防護にとって基本となる事柄の一つといえる。吸収線量の測定法として熱量計法は定義に沿ったものであるが、測定感度は低い。通常はブラッグ・グレイの空洞原理をよりどころとした空洞電離箱法が用いられることが多い。この方法においては、物質中の小さい空洞の存在が二次電子の粒子束に大きく影響しない条件が必要であり、そのためには、空洞の体積は 小さい方がよい。では、X、γ線による水中や組織等価物質中の吸収線量を空洞電離箱法により測定する場合を考えてみよう。まず、水中や組織等価物質中に小さい空洞電離箱を挿入する。この場合、空洞電離箱の空洞気体として空気が用いられることが多い。壁物質としてグラファイトやアルミニウムなど、原子番号の低い物質が用いられるが、内壁面にカーボンなどを薄く塗布して表面に導電性を付与したプラスチックなどが用い られることもある。空洞の中心にはステムと呼ばれる細い電極を設け、この電極と壁との間に電圧をかけ、電離電荷もしくは電離電流を読み出す。X、γ線を照射して電離電荷 Q[C] を得たとすれば、空洞気体に生じたイオン対の数は N = Q/e である。ここで、e は電荷素量で、 1.6 × 10^(-19) [C] である。この N に1イオン対を生成するのに必要なエネルギー、すなわち W 値 w[eV] を乗ずれば、空洞気体中での吸収エネルギーが eV 単位で求められる。二次電子の吸収エネルギーを J 単位に換算するためには、これに換算係数 1.6 × 10^(-19) [J/eV] を乗ずる。結局、空洞電離箱の内容積が V[m^3]、空洞気体の密度が ρ [kg/m^3]の場合、空洞気体における吸収線量 Dg[Gy] は次式で与えられることとなる。
Dg = 1.6 × 10^(-19) [(Q・W)/(e・V・ρ)]
なお、電子線に対する空気の W 値は約 34 [eV] である。壁物質の吸収線量 Dw[Gy]は、
Dw = Dg・(a/b)
として求める。ここで a は二次電子に対する、壁物質の平均質量阻止能であり、b は空洞気体の平均質量阻止能である。
例えば 60Co γ線照射による吸収線量を空洞気体が空気、壁物質がグラファイトの空洞電離箱を用いて即テウする場合、a/b の値は約 1.01、壁物質がアルミニウムの場合は約 0.88 である。壁物質の厚さは二次電子の飛程よりも厚く、電子平衡が成り立つことが必要である。空洞の大きさは充分に小さいことが望まれるが、壁物質と空洞気体の原子組成が類似であれば、空洞の大きさに対する制限が軽減される。次に空洞電離の周辺の物質(水や組織等価物質など)の 吸収線量について考えよう。X。γ線の照射野が十分広く、空洞電離箱周辺のエネルギーフルエンスが均一と見做すことができる場合には、この壁物質の吸収線量 Dw [Gy] の値を用いて、空洞電離箱の周辺の物質の吸収線量 Dw[Gy] を
Dm = Dw・(c/d)
として間接的に求めることができる。ここで、c はX、γ線に対する周辺の物質の質量エネルギー吸収係数であり、d は壁物質の質量エネルギー吸収係数である。ただし、電離箱壁の材質の平均原子番号と周辺の物質の平均原子番号が大きく異なるときは、周辺物質と電離箱壁物質の境界近傍において、 電子平衡が成立しないので、注意が必要である。
補足
放射線から与えられるエネルギーを直接熱量として測定する方法を熱量計(カロリーメータ)という。例えばアルミニウムが 1Gy の線量を受けても、温度上昇は約 0.001 度であり、非常に感度が低い。
また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。