個体レベルの確定的影響

全身あるいは身体のかなり広い範囲が、大量の放射線を短時間に被ばくした場合に生じる一連の症状を急性放射線症という。急性放射線症は被ばくした線量レベルによって、主たる症状を呈する臓器・組織と潜伏期 が異なることが特徴である。被ばくした固体の半数が一定期間内に死亡する線量を半致死線量といい、LD50(30)と表す。( )内は被ばくしてからの観察期間である。LD50(30)は、動物種間での放射線感受性の比較によく用いられるが、 ヒトの場合は骨髄死を起こす期間が動物より若干長いことから監察機関を 60 日として LD50(30) を用いることが多い。さらに、被ばくした固体全体が死亡する線量を全致死線量といい、監察機関に応じ LD100(80) あるいは LD100(30) と表す。

骨髄死

骨髄機能低下は 0.5 Gy 程度で起こる。また、1 Gy の被ばくを受けると 10% 程度の人に悪心、嘔吐などが現れる。同時に食欲不振、全身倦怠感、めまいなどの症状が現れることから、放射線宿酔と呼ばれる。 1.5 Gy が死亡のしきい線量であり、 造血臓器の症状で死亡するため、骨髄死あるいは造血死と呼ばれる。3 ~ 5 Gy では被ばくした半数が死亡し、これを俗に半致死線量という。7 ~ 10 Gy では被ばくした人のほぼ全数が死亡する。これを全致死線量という。ヒトではこの値だが、マウスの半致死線量はヒトよりも高く 5.6 ~ 7.0 Gy とされている。

腸死

5~ 15 Gy の被ばく線量域では、小腸の症状が主となる。小腸クリプト細胞の細胞死により吸収上皮細胞の供給が絶たれ、その結果として粘膜剥離が起こり、脱水症状。電解質平衡の失調、腸内細菌への感染が生じ死亡に至る。 消化管、特に小腸の障害が原因で死亡するため、腸死と呼ばれる。平均生存期間は 10 ~ 20 日間である。これは、吸収上皮細胞の寿命が尽きるまでの期間に対応しており、 5~ 15 Gy の線量域内では線量によらず一定となる。

中枢神経死

15 Gy を超えて高い線量を被ばくすると、神経系の損傷が主な症状となる。この場合でも神経細胞の放射線感受性は極めて低いため、神経細胞自体の細胞死は起こらず、血管系および細胞膜の損傷が主要な役割を果たす。 50 Gy 以上の被ばくでは全身けいれんの症状が特徴的で、ショックなどにより 1 ~ 5 日後に死亡する。中枢神経の障害が原因で死亡するため、中枢神経死と呼ばれる。

放射線感受性臓器

十二指腸 ー 小腸 ー 大腸 ー 肝 ー 胃 ー 食道・口腔

 

急性障害・晩発障害

X線やγ線による高線量急性被ばくでは、全身被ばくする場合と局所被ばくする場合で様相が異なる。全身被ばくでは致死が問題となり、局所被ばくでは高線量を被ばくしても致死とはならず、被ばくした組織や臓器の障害が問題となることが多い。組織や臓器の放射線障害では、被ばくした直後から数週間以内に起こる障害を急性障害と呼び、 数ヶ月から数年後以降に起こる障害を晩期障害と呼ぶ。臓器にはそれぞれ特徴的な晩期障害が存在する。脳では脳壊死、脊髄神経では脊髄神経麻痺、腸管では穿孔・狭窄が晩期障害として重要である。これらの晩期障害は 主に血管の閉塞が原因であると考えられる。ただし、全ての晩期障害が血管の閉塞ではなく、肺の晩期障害として重要である放射線肺線維症では肺胞細胞の障害などが原因として考えられている。消化管に関しては、 放射線障害による小腸上皮の喪失を原因とする体液漏出や感染が原因となる。中枢神経障害による死亡は被ばく線量が 50 ~ 100 Gy を越える場合に起こり、脳浮腫による頭蓋内圧亢進が主な原因の1つと考えられている。LD 50/60 程度以上の線量を 全身被ばくした場合には肺では 30 日以内に放射線肺炎が生じる。特に肺でウイルス感染が高頻度に生じる点に注意が必要である。

補足

① 血管の閉塞では主に放射線脊髄炎(脊髄神経麻痺)、消化管穿孔、心筋症が起こる。② 肺、特に全肺照射の場合 10 Gy を下回る線量でも重篤な影響が現れる。 ③ 放射線肺炎のしきい線量は 6 ~ 8 Gy。肺は肺胞上皮細胞と血管内皮細胞の放射線感受性が高く、フリーラジカル 産生、透過性亢進、サイトカインの誘導を経て、間質の浮腫が原因である。

 

放射線被ばくによる急性障害と晩発影響についての記述

高線量放射線を一度に全身被ばくしたような場合、数週間以内に現れる障害を急性障害という。占領によって症状は異なるが、典型的な経過は以下の 4 つの病期に分けられる。被ばく直後から数時間以内に悪心、嘔吐、発熱など非特異的な症状が現れる前駆期、これらの症状が一時的に消失する潜伏期、骨髄や消化管障害、脱水など多彩な症状が現れる発症期、その後回復期あるいは死亡の 4 期である。障害の現れ方やその時期は、線量及び臓器・組織によって異なる。例えば、ヒトが高線量のγ線を全身被ばくしても医療処置がなされないと、3 ~ 10 Gy では 3 ~ 4 週間程度で骨髄の障害により、10 ~ 20 Gy では、1 ~ 2 週間程度で腸管の障害により死亡する危険性が高い。

 

解説

Ⅰ は急性放射線症についての出題である。前駆期は被ばく後 48 時間以内を指し、悪心、嘔吐、下痢、発熱、頭痛、意識障害等の症状が現れる。唾液腺の腫脹、圧痛および口腔粘膜の毛細血管拡張などが診察時の留意点と言われている。

 

臓器や組織の急性障害は、主に臓器・組織の実質細胞の死によって起こると考えられる。臓器や組織によって実質細胞の放射線感受性が違うために、障害を認めるようになるしきい線量も臓器や組織によって異なる。一般に、現れる障害の重篤度は、被ばくした線量が大きいと高い。1 回のγ線による被ばくでは、抹消血中のリンパ球数の減少は 0.5 Gy 以上の被ばくによって起こる。女性の永久不妊は 6 Gy 以上の生殖腺被ばくによって起こり、男性の永久不妊は 6 Gy 以上の生殖腺被ばくによって起こる。又、男性の一時的不妊のしきい線量は 0.15 Gy で、女性の一時的不妊が起こる線量は男性に比べて高い。

 

晩発影響としては、発がん、白内障、遺伝的影響などが挙げられる。発がんと遺伝的影響は、確率的影響と考えられている。一般に、被ばくしてから発がんまでの期間は固形がんでは白血病に比べて長い。白内障は確定的影響に分類され、水晶体の混濁による。遺伝的影響は放射線に被ばくした生殖細胞に遺伝子の突然変異や染色体異常が起こることによる。遺伝的影響のリスクの推定には倍加線量法と、線量効果関係を動物実験によって求め、 これをヒトに適用して行う直接法とがある。遺伝的影響のリスクは、倍加線量が大きいほど低く、一般的に線量率が低いほど低い。UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会) 2001 年報告では倍加線量を 1 Gy と見積もっている。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

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